資料PDF(基礎講座)

ASRIN 肩関節基礎講座
2010/6/27
はじめに
impingement
~肩峰下インピンジメント~
てっく訪問看護ステーション
作業療法士 石田匡章
肩関節において可動域制限・痛みの
訴えの中で肩峰下インピンジメントが
原因の場合が多い。
今回基本的な解剖の理解を深めつつ、
治療への解釈を報告する。
応用講義の準備として聞いていただ
きたい。
本日の流れ
✾肩関節の解剖
肩関節の解剖
✾肩関節の運動の理解
✾インピンジメントについて
✾評価・痛みの解釈
✾アプローチ方法の考え方
肩関節の構造
文献12より 山本伸一:上肢機能
棘上筋
関節包靭帯
棘上筋
肩甲下筋
棘下筋
三角筋
AIGHL
A:肩峰
LHB:上腕二頭筋長頭
CHL:鳥口上腕靭帯
SGHL:上関節上腕靭帯
C:烏口突起
MGHL:中関節上腕靭帯
AIGHL:前下関節上腕靭帯
PIGHL:後下関節上腕靭帯
●股関節と比べ関節窩が浅く、安定した運動性が優先された関節
●骨格筋の連結・関節包・靭帯によって安定
※関節包・靭帯が機能的に肩関節を安定させるためには、肩甲骨が外転・軽度
上方回旋し、関節窩がやや前上方を向いた状態が良い
PIGHL
AIGHL+PIGHL=IGHLC
下関節上腕靭帯複合体(inferior glenohumeral ligament complex)
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関節包靭帯
省略英単語の覚え方
MGHL :中関節上腕靭帯
AI GHL:前下関節上腕靭帯
PI GHL:後下関節上腕靭帯
上関節上腕靭帯
SGHL
中関節上腕靭帯
MGHL
glenohumeral ligament
関節上腕靭帯(GHL)
上:superior
中:middle
下:inferior
前:anterior
後:posterior
下関節上腕靭帯
IGHL
肩峰下滑液包
( subacromial bursa )
肩峰下滑液包
肩関節の運動の理解
三角筋下滑液包
人体50の滑液包の中で最大
棘上筋の滑り機能を円滑化
機械的炎症を起こしやすい!→痛みの誘発
解剖学的肩の屈曲運動の軌跡
0度
解剖学的肩の屈曲運動の軌跡
30-60度
腱板筋群(特に棘上筋)が上腕骨頭を肩甲骨関節窩に安定させる
ように働き、上腕二頭筋の長頭筋腱は骨頭の上方化を防ぎながら
三角筋前部線維や烏口腕筋、大胸筋鎖骨部線維の活動で運動が
始まる。
肩甲上腕リズムを保ちながら、屈曲開始後すぐ僧帽筋中部、下部
線維、前鋸筋による肩甲骨を安定させる筋の活動が加わる。
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2010/6/27
解剖学的肩の屈曲運動の軌跡
解剖学的肩の屈曲運動の軌跡
120度
90度
90度付近では肩峰下に大結節が入り込む。
(インピンジメント症状が出現する場所)
屈曲120度以降では体幹が伸展、脊柱起立群の活動が加わる。
片側だけでの肩屈曲では、体幹の側屈・回旋も生じる。
解剖学的肩の屈曲運動の軌跡
180度
インピンジメントについて
最終屈曲位では骨盤が前傾し、さらに体幹の伸展が加わる
インピンジメント
インピンジメント症候群の3つの病期
Stage Ⅰ
インピンジメントとは?
病態
“衝突”という意味があり、肩峰・鳥口肩峰靭帯・烏口突起・ある
いは肩鎖関節が、その下を通る腱板ならびに肩峰下滑液包に
ぶつかる現象
機械的な侵害刺激が慢性的に続くことによって痛みが発生
インピンジメント症候群
好発年齢
Stage Ⅲ
浮腫と出血(滑
液包)
線維化(滑液包)
腱板炎
腱板の断裂
25歳以下
25~40歳
40歳以上
活動により反復
進行性
肩関節拘縮
石灰沈着
頚部神経根症
腫瘍
難治なら烏口肩峰靭帯切
離、滑液包切除を考慮
前肩峰形成術
腱板修復術
可逆性
臨床経過
特に注意すべ 肩関節亜脱臼
き鑑別診断 肩鎖関節障害
治療方針
Stage Ⅱ
ーNeerー
保存的治療
重度
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肩の痛みの原因と特徴
肩に痛みが生じた場合、どのような痛みかを知らないといけない!
肩関節の評価・痛み
評価





痛みの本質(どのような?)
痛みの正確な解剖学的位置(どこ?)
痛みの持続時間・期間(いつから?)
痛みの起こる運動の体の位置(どうゆうふうにすると?)
痛みの強度(どのくらい? )
どのように患者さんが表現するのか見ることが大切!
肩の痛みの原因と特徴
Finger sign
その部位に問題
圧痛所見あり
烏口突起炎や上腕二頭筋炎
インピンジメント
肩の痛みの原因と特徴
palm sign
放散痛・関連痛
肩外側部のpalm sign
上外側上腕皮神経
(腋窩神経の枝)
QLS・関節包下部→腋窩神経へ影響
肩の痛み評価
肩関節を挙上させていくとき、どのタイミングで痛いのか知っておくことが大切
挙げ始め
Activeのみ疼痛あり:棘上筋・三角筋前部繊維の問題
Passiveでも疼痛あり:関節の問題
QLS
Quadrilateral Space
90度付近
前上方に疼痛あり:インピンジメント
130度以上
肩外側に疼痛あり:腋窩神経に由来する疼痛
肩後方に疼痛あり:小円筋・大円筋・広背筋の筋伸長不足
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インピンジメントテスト
Neer検査
Hawkins検査
インピンジメントの評価
上肢を内旋位から屈曲すること
により、大結節が肩峰前下部で
衝突し疼痛が再現される
屈曲90度から他動的に内旋を起
こし、大結節が烏口肩峰靭帯下に
入っていくか検査
インピンジメントテスト
Painful arc sign
肩峰下腔の狭小化
インピンジメント注入テスト
腱板機能不全
インピンジメントの原因
上肢を下垂した状態から前方な 局所麻酔薬を肩峰下滑液包に注
いし側方に挙上、あるいは挙上し 入してインピンジメント徴候が消え
た位置から下ろしてくるとき、
るか否かをみる手技
60~120度で痛みが生じる現象
肩峰下腔の狭小化
後方関節包の短縮
IST muscleの機能不全
肩峰下腔の狭小化
肩峰下滑液包
肩峰
烏口肩峰靭帯
烏口突起
棘上筋
肩峰前下縁の骨棘
肩峰の形状(彎曲または角状)
Supraspinatus outlet
棘上筋は Supraspinatus outlet を走行おり、構造上に障害
を受けやすいため、肩峰下滑液包に守られている。
肩峰の傾斜(平坦化)
肩鎖関節下面の膨隆
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肩峰下腔の狭小化
腱板機能不全
Force couple 作用
肩峰内側付着部
肩峰内側付着部
SAB内側端腱板付着部
関節窩
大結節
下垂位時
正常
挙上時
SAB内側端は、上腕骨が挙上されていくと、腱板への付着部が腱板とともに
内側へ移動する。最大挙上では腱板付着部は肩峰より内側に出てくる。
後方関節包の短縮
※後方関節包が硬直していると・・・
インピンジメント
棘上筋が正常なとき起こる
肩関節の挙上
棘上筋の機能不全により上
腕骨頭の上方変位が生じイ
ンピンジメントを生じる。
後方関節包の短縮
文献17 林典雄:後方腱板(棘下筋・小円筋)と肩関節包との結合様式について
小円筋
棘下筋
小円筋と後方関節包の間
には直接付着する所見あり
C:関節包
正常
インピンジメント
なぜ後方の関節包を伸ばすと良い?
↓
後面のゆとりができ、骨頭が上方に変位することを少なくする!
小円筋の機能:
大結節へと停止する繊維群による支点形成機能
関節包側の筋線維群による肩関節外旋運動時の挟み込みの防止
肩関節挙上時における静的支持機構の保持機能
肩甲骨運動方向
IST muscleの機能不全
前額面
IST muscleとは?
水平面
上方回旋・挙上
Inter Scapulo-Thoracic muscles(肩甲胸廓間の筋)
肩甲骨の固定は筋に由来
IST muscleの機能不全
肩関節を屈曲・外転
重さ
肩甲骨<上腕
前傾
挙上
上方回旋
上方挙上・外転
内転
腱板断裂患者の上肢挙上に関する考察 文献18)
碧南市民病院 浅野 昭裕
10ヶ月挙上不可能患者 → IST muscle機能改善
初回時に145度ほぼ全可動域獲得
外転
下方回旋・内転
後傾
肩甲骨が早期に・挙上
正常な肩甲上腕リズムが破綻
肩関節の制限因子
【挙上可能になった理由】
筋肥大、筋力増強は否定的。健常な肩と同様にinner
muscle, outer muscle, IST muscleはバランスよく収
縮し肩甲骨上方回旋機能が向上した結果、上肢挙上
は容易に獲得された。
下方回旋
下制
下方回旋・下制
挙上
僧帽筋上部・肩甲挙筋
下制
僧帽筋下部・小胸筋・広背筋
内転
僧帽筋中部・大、小菱形筋
外転
前鋸筋・小胸筋
上方回旋
僧帽筋上中下部、前鋸筋
下方回旋
肩甲挙筋・大・小菱形筋・小胸筋
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IST muscleの機能不全
簡易的な IST muscle の機能測定
可動域制限の要因
1stの外旋を実施
このとき肩甲骨の翼状肩甲が見られたら、 IST muscle の機能低下が考えられる
外旋→肩甲骨を固定→固定力不足→肩甲骨外転方向へ→翼状肩甲
145度の壁
肩関節内外旋の制限因子
flexion lagがないかどうかcheck
外旋
内旋
1st 鳥口上腕靭帯の短縮
大胸筋(鎖骨部と胸骨部)の短縮
肩甲下筋上方繊維の短縮
関節包上前部の短縮
2nd 中・下臼蓋上腕靭帯の短縮
肩甲下筋の下部繊維の短縮
大胸筋(肋骨部繊維と下部繊維)
の短縮
3rd (大円筋の短縮)
棘下筋上部繊維の短縮
後上方関節包の短縮
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
10.
11.
12.
13.
14.
15.
16.
17.
18.
IN
T
passiveで広がった角度は出来るだけ早くactiveでも使える
ことが必要
IGHLCを中心とした下方支持組織の伸張性不十分
小円筋の短縮
棘下筋下部繊維の短縮
関節包下方部全体の伸張性の欠如
IGHLCの拡大には、骨頭をglidingさせるように、AIGHLや
PIGHLに適度な緊張を与えた状態から、tractionを加える
上方支持組織の癒着
subacromial spaceのなかで、骨頭が後方に回転できなくなって
いる事が多い。Bursaと腱板の癒着だけでなくBursaから
subdeltiod Bursaにかけてのキャタピラ機構の破綻が実はかな
り大きくROMに関与
参考文献
1.
2.
PO
信原克哉:肩ーその機能と臨床:医学書院.第3版第1刷.2001
昭和病院大学藤が丘リハビリテーション病院偏:肩の診かた治しかた:株式会社メジカルビュー
社.第一版第一刷.2004
林典雄:機能解剖学的触診技術 上肢:メジカルビュー社:2006
寺山和雄:肩の痛み:南江道:1998
David C.Saidoff:理学療法のクリティカルパス 上巻:エルゼビア・ジャパン株式会社 2004
田中幸彦:肩関節周囲炎に続発する夜間痛に対する理学療法と臨床成績:整形外科リハビリ
テーション研究会誌.2005
田中幸彦:高齢者の上腕骨近位端3part骨折を経験して:愛知県理学療法協会冊子:2004
有川功:テープ療法に対する質疑応答集 有川整形外科医院付属整形医学研究所
河上敬介:骨格筋の形と触察法:大峰閣:2002
松井宣夫編:整形外科画像診断マニュアル上肢:株式会社メジカルビュー社:2000
Shirley A.Sahrmann:運動機能障害症候群のマネジメント:医歯薬出版:193-259
山本伸一:上肢機能 そのポジショニング管理から徒手的誘導までの整合性について:2004
活動分析研究会:479-482
山本昌樹:拘縮肩の疼痛の解釈と治療:整形外科リハビリテーション研究会誌.2005
石黒隆:上腕骨近位3/4part骨折の機能的治療:MB Orthop.15:35-43:2003
林典雄: Quadrilateral Space Syndromeを合併した腱板損傷の一例:理学療法学 第18巻第
2号:1991
林典雄:肩関節拘縮の機能解剖学的特性:理学療法 21巻2号 2004
林典雄:後方腱板(棘下筋・小円筋)と肩関節包との結合様式について:理学療法学 23巻8号
浅野 昭裕:腱板断裂患者の上肢挙上に関する考察:整形外科リハビリテーション研究会
誌.2004