標準理学療法研修会2 運動器疾患における理学療法

標準理学療法研修会2
運動器疾患における理学療法
八尾総合病院
舟坂 浩史
運動器のリハビリテーション
対象患者
•上、下肢の複合損傷、脊椎損傷による四肢
麻痺その他の急性発症した運動器疾患又は
その手術後の患者
•関節の変性疾患、関節の炎症性疾患その他
の慢性の運動器疾患により、一定程度以上
の運動機能及び日常生活能力の低下を来し
ている患者
理学療法診療ガイドライン
• 16 領域の理学療法診療ガイドライン
• 理学療法介入の推奨グレードとエビデンス
レベル
• 理学療法評価(指標)の推奨グレード
• 膨大かつ詳細なアブストラクトを網羅
(1200ページ)
リハビリの流れ
評価
目標・ゴール設定
理学療法
効果判定
評価
•
•
•
情報収集
問診
理学所見
社会的情報
家屋情報
受傷前生活
他部門情報
画像所見
各種検査結果
評価
•
•
•
情報収集
問診
理学所見
主訴
ニード
デマンド
経過、状況
クリニカルリーズニング
評価
•
•
•
情報収集
問診
理学所見
視診、触診
圧痛
ROM
MMT
徒手検査
姿勢、アライメント
動作観察
ADL
画像所見
•
•
•
•
•
レントゲン
MRI
CT
エコー
その他
レントゲン
•
•
•
•
•
骨折、骨転位の程度をみる。
経過観察(仮骨)をみる。
受傷機転を考える。
軟部組織の損傷を考える。
アライメントをみる。
整形の先生は・・・
PTは・・・
的確な治療法を選択
(保存or手術)
軟部組織の損傷程度
を推察する
その1
受傷機転から
軟部組織の損傷を考える
例えば、レントゲン上は
橈骨頚部骨折が認められる。
体の重さ
受傷機転
手をついて、外へ倒れた。
手をついた反力
橈骨頚部骨折
MCL損傷
or
内側上顆骨折
Lauge-Hansen分類
足関節骨折の分類
足部の肢位+下腿に対する距骨の動き
•Spination external rotation(SER)
•Spination adaction(SA)
•Pronation external rotation(PER)
•Pronation abdaction (PA)
右腓骨遠位端骨折、右外果骨折
その2
骨アライメントから
可動域を考える
その他
レントゲンから
推察できること
評価
•
•
•
情報収集
問診
理学所見
主訴
ニード
デマンド
経過、状況
クリニカルリーズニング
問診
•
•
•
•
主訴
Need(必要とする)
Demand(要求する)
クリニカルリーズニング
• 主訴
⇒最も強く訴える症状のこと
• Need
⇒患者における客観的必要性
• Demand
⇒患者の主観的要求、要望
クリニカルリーズニング
• 対象者の訴えや症状から病態を推測し、
仮説に基づき適切な検査法を選択して対
象者に最も適した介入を決定していく一
連の心理的過程を指す。
主訴
・疼痛だけか?
・他部位にも症状を伴うか
・運動障害があるか
etc
問診
状況聴取によりある程度疾患を絞り込み
評価の参考にする
評価
・坐位や立位時など姿勢によるアライメントの変化
・圧痛、各種テスト、ROM、MMT
etc
治療
問診の進め方
痛みについての問診
どこにどんな痛みがあるか確認
・部位
・疼痛の種類
示し方はone point indicationか広範囲か確認する
・one point indicationであればその部位に原因があることが多い
・広範囲であれば関連痛である可能性を視野に
疼痛の再現性を確認
・条件変化による疼痛の増減
・運動による疼痛の増減
痛みの表し方
• One point sign:指1本で示す。
⇒そこに問題が!
• Palmar sign:手のひらでさするように示す。
⇒関連痛、放散痛
• Radiculopathy sign:全体的に。
⇒神経叢
関連痛について
村上ら;肩関節包の神経支配と疼痛発生機序、関節外科、1997
関節包下部の
侵害刺激
中枢へ
誤認?
上腕外側部痛
評価
•
•
•
情報収集
問診
理学所見
視診、触診
圧痛
ROM
MMT
徒手検査
姿勢、アライメント
動作観察
ADL
骨 bone
制限因子
の鑑別
筋肉 muscle
皮膚 skin
関節が動かない
靭帯 ligament
浮腫 edema
痛みの解釈
関節包 capsul
筋肉の伸張性低下
• 短縮
• 癒着
• 攣縮
• 防御性収縮
• 筋緊張 など
不動による筋の変化
不動による筋内膜の変化
固定1週後
固定4週後
不動時間が長くなると
コラーゲンの網目構造が変化する
【拘縮の予防と治療】
短縮
ラットの実験より
•1週間短縮位で固定して11%短縮した。
•1週間短縮位で固定して質重量は44%減
少した。
•フィラメントの配列の乱れ、Z帯の断裂・
蛇行などの退行性変化を認めた。
拘縮の予防と治療 医学書院
毛細
筋肉内の血管について
正常な毛細血管
短縮位
伸張位
固定期間の違い
4w固定
8w固定
12w固定
筋肉の短縮
• 筋肉内には毛細血管が存在する。筋が短
縮すると当然、筋肉内に存在する毛細血
管も短縮する。つまり短縮した筋肉を伸
張させようとすると 筋肉内に存在する毛
細血管も損傷する危険がある。
長期に及ぶ可動域制限は運動に伴う血管の形態的
変化を生じている可能性が高い。安易な筋ストレッチ
は血管損傷を引き起こす。「引っ張る事と緩める事」
を反復して行うことが必要。
非可動中の筋紡錘
短縮位をとった筋肉中の筋紡錘の応答は伸び
感受性に変化はないが動的感度は高まった。
ラットの実験では固定後4日目で認められた。
つまり、
固定された(不動であった)関節を動かすとき、
動的感度が高まった筋紡錘によって伸張反射が
生じやすい状態であるため、可動域運動を行う際は
ゆっくり愛護的に行うべきである。
癒着
癒着
Proximal Amplitudeの破綻
筋収縮による張力が癒着部より遠位に伝わらない
癒着
Distal Excursionの破綻
遠位部での引っ張り張力が癒着部より近位に伝わらない
腱の癒着(滑走障害)
佐藤ら;早期運動が手指屈筋腱癒着形成に及ぼす影響
関節外科 1997
1w
2w
3w
筋肉の伸張性低下
• 短縮
• 癒着
• 攣縮
• 防御性収縮
• 筋緊張 など
攣縮(スパズム)その1
関節包への
侵害刺激
↓
脊髄反射
↓
筋攣縮
↓
運動制限
村上ら;肩関節包の神経支配と疼痛発生機序、関節外科、1997
股関節関節包と神経
•
•
•
•
前面:大腿神経:大腿四頭筋 腸腰筋
内側:閉鎖神経:内転筋群 外閉鎖筋
外側:上殿神経:小・中殿筋 大腿筋膜張筋
後面:坐骨神経:ハムストリングス
-ヒルトンの法則関節に分布する神経は、その関節を動かす筋肉
に加えて、その筋肉の関節付着点を覆う皮膚に
も分布している。
プロメテウス解剖学アトラス
膝関節包の神経支配
①伏在神経膝蓋下枝 ⇒ 内側~前面後面
②脛骨神経関節枝 ⇒ 後面
③総腓骨神経関節枝 ⇒ 後面及び外側
④総腓骨神経関節枝 ⇒ 外側~前面
⑤閉鎖神経皮枝 ⇒ 上内側面
⑥大腿神経の小関節枝 ⇒ 前面上部
⑦脛骨神経の小関節枝 ⇒ 関節包後面
Spasmに対するアプローチ
• 神経に刺激を入れる。
• 神経学的抑制
‐Ia抑制
‐Ib抑制
‐相反抑制
• 筋紡錘は長さ、速さに反応する。
攣縮(スパズム)その2
村上ら;肩関節包の神経支配と疼痛発生機序 関節外科 1997
関節内に生理食塩水・炎症物質
(ブラジキニン)を注入し筋電図をとる。
攣縮(スパズム)その2
村上ら;肩関節包の神経支配と疼痛発生機序 関節外科 1997
関節内に生理食塩水・炎症物質
(ブラジキニン)を注入し筋電図をとる。
関節内炎症による拘縮発生のメカニズム
関節内で炎症(+)
脊髄反射によるInner muscleの攣縮
関節の痛み + 運動障害
関節拘縮
炎症に伴う攣縮に対して
薬
安静
炎症
アイシング
短縮・攣縮
鑑別方法
攣 縮
spasm
短 縮
shortening
圧痛所見(+)
圧痛所見(ー)
伸張位緊張(高)
伸張位緊張(高)
弛緩位緊張(高)
弛緩位緊張(低)
神経筋反射障害
筋実質の伸張障害
治療はrelaxation
治療はstretching
緊張低下に伴う伸張性増大
筋節増加に伴う伸張性増大
防御性収縮・緊張
•
•
•
•
精神的
痛み
代償
中枢
股関節可動域
歩行に必要な関節角度
屈曲30度
内転5度
内旋4度
伸展10度
外転10度
外旋4度
*骨盤の代償ない状態で!
ペリー:歩行分析 正常歩行と異常歩行
股関節伸展
• 基本軸:体幹と平行な線
• 移動軸:大腿骨
• 参考可動域:15度
• トーマステスト
股関節伸展
歩行に重要!
•歩行時に必要な角度10度
寝るためにも重要!!
•臥床に必要な角度?
•早期に獲得が必要
股関節伸展制限
腰椎前彎 強
骨盤前傾 強
健常者
股関節伸展制限
股関節伸展制限で背臥位になると
重
力
腰椎前弯
腰痛
股関節伸展制限で背臥位
• 股関節屈曲位
• 膝関節屈曲位
• 股関節外旋位
内旋位
中間位
プロメテウス解剖学アトラス
トーマステスト
• 股関節の屈曲拘縮の有無を調べるテストで
ある。一般に股関節に屈曲拘縮がある例が
仰臥位になると、骨盤を前傾させる代償肢
位をとり膝を床上に接地させる。トーマス
テストは骨盤の代償性の前傾をなくさせる
手技であり、健側の下肢を最大屈曲させる
ことにより骨盤の代償性の前傾をとり患側
の股関節を最大伸展させる。屈曲拘縮があ
れば患肢は伸展位をとることが不能となり
浮き上がってくる。
プロメテウス解剖学アトラス
トーマステストの原理
①反対側股関節を屈曲させる
②骨盤を後傾させる
トーマステストの原理
③股関節が伸展位となる
股関節前面の軟部組織の
伸張性が低下していると
股関節が屈曲してくる。
トーマステスト時の注意点
• 反対側股関節の屈曲可動域
• 骨盤・腰椎の可動性
• 股関節前面の伸張性
*最大屈曲でも陰性であれば伸展20度あり
ちなみに
抵抗感なく125度屈曲で
きれば直筋OK
目標(ゴール)設定
• 短期目標
数週間で達成可能な目標、長くとも2ヵ月後のもの。短期目標は
長期目標への経過を示すもので治療計画に包含される
• 長期目標
作業(理学)療法終了時の目標、長くとも6ヵ月後のもの。
• リハビリテーションゴール
本人及びリハビリテーションチーム全体で目指す到達可能な最終目標。
作業療法ガイドライン実践指針より引用
目標設定(例)
• 短期目標
歩行自立し病室での排泄動作が自立する
• 長期目標
独歩で移動しADL自立し自宅へ退院する
• リハビリテーションゴール
痛みなく歩行可能となり(受傷前より趣味
であった)畑仕事、旅行へ出かけられるよ
うになる
平均寿命と健康寿命
• 健康寿命とは、健康上の問題がない状態
で日常生活を送れる期間のことです。平
均寿命から健康寿命を引くと、男性は約9
年、女性は約12年となります。
健康増進
<厚労省>
プラス10分
<富山市>
プラス1000歩
700m位です。
症例提示
実際の患者さんは…
•
•
•
•
•
•
痛い
歩きにくい
寝たきりになりたくない
正座したい
畑仕事がつらい
手術やだ
階段降りる
ときに痛い
膝の内側
が痛い
膝の外側が
痛い
ずーっと
座っている
と痛い
膝の辺りが
じわーっと
痛い
正座でき
ない
症例1
S)階段降りるときに痛い
O)階段降段時に膝蓋骨下部に疼痛
ROM 膝関節:-5~110度
足関節背屈:5度
圧痛 膝蓋骨下部
後脛骨筋 内果後下方
長腓骨筋 停止部
D‐point
大工谷:足関節捻挫後の背屈運動の異常への対応
とくにDpointについて
D1:距骨下関節上(内)
D2:屈筋支帯
D3:長腓骨筋
D3’:小趾外転筋
D4:腓骨筋支帯
D5:距骨下関節上(外)
Sportsmedicine 2012 より引用
なぜ背屈制限で痛い?
階段降段時の足関節
荷重下でも背屈角度のチェックを!
なぜ背屈制限で膝に痛み?
スクワット動作
大腿四頭筋
負担大きい
スクワット動作
股関節
屈曲制限
足関節
背屈制限
骨盤
後傾
背屈制限を足部の外転で代償
Knee in toe out
理学療法
後脛骨筋・長腓骨筋
超音波
超音波前後
前
後
症例2
S)膝の辺りがじわーっと痛い
何をするわけでもないけどなんか痛い
O)膝関節の周囲疼痛
座位姿勢:骨盤後傾 膝伸展
エリーテスト:陽性
圧痛 大腿直筋
膝蓋骨下部
梨状筋
ROM:股関節屈曲最終域で前面に詰まり感
股関節の屈曲と骨盤
骨盤
中間
骨盤
後傾
股関節屈曲角度
股関節屈曲角度約90度
吉尾 2005
片麻痺患者の股関節屈曲に
伴う骨盤の始動が遅れると
股関節前面痛が生じる
吉尾 2007
股関節屈曲制限因子
佐藤:健常人における股関節外旋筋群が股関節屈曲に及ぼす影響 2008
20
股関節屈曲の制限因子
佐藤ら(理学療法学.2008 )
健常人における股関節外旋筋が股関節屈曲に及ぼす影響について
*新鮮遺体にて股関節後面各筋を切離するごとに股関節屈曲角度を測定。
梨状筋と内閉鎖筋
を切離後に著明に
屈曲角度が増加
外旋筋の伸張性の低下は
屈曲可動域の制限になる!
疼痛発生メカニズム
梨状筋伸張性低下
直筋優位・緊張
股関節屈曲制限
直筋スパズム
座位骨盤後傾
付着部炎
膝の辺りがじわーっと痛い
症例供覧
症例:60歳女性
職業:スーパーレジ
診断名:左肩関節周囲炎
既往歴:変形性腰椎症、変形性膝関節症
(腰痛で物療実施している)
• 現病歴:朝起きると肩が痛い
•
•
•
•
評価
• 主訴:朝起きたら肩が痛くて動かせない。
日中は大丈夫
• 疼痛:朝起きたら肩全体が痛い
• ROM:屈曲140度 水平内転110度
1st外旋50度 内旋30度
PTプログラム
水平内転可動域の獲得
•肩関節後下方組織の柔軟性獲得
‐棘下筋
‐小円筋
‐上腕三頭筋
‐後方関節包ストレッチ
実技
後方組織のアプローチ
肩関節後方組織について
• 肩関節後下方関節包
• 小円筋
• 上腕三頭筋
小円筋と関節包
外旋時の巻き
小円筋と 込み防止
の連結
挙上時の支点
形成力up
PIGHLの伸張性低下
PIGHLは腋窩神経支配
小円筋も腋窩神経支配
小円筋は関節包下部へ
PIGHLに侵害刺激あると小円筋に攣縮
↓
関節包下部を引っ張る
↓
相対的に伸張性不足
肩関節挙上制限
関節後下方の伸張性
• 小円筋、棘下筋下部線維が重要視されている。
もうひとつ、
• 上腕三頭筋長頭も後方の伸張性に大きな影響
を及ぼす。
見逃されやすい
三頭筋長頭が硬いと…
※上腕の屈曲や水
平内転で後方線維
は緊張する
三頭筋長頭後方線維による牽引力で関節下後
方に骨棘を生じやすい(Bennett骨棘)
⇒三頭筋長頭後方線維付着部の直上にある小
円筋が上方に押し上げられる
⇒小円筋を中心に慢性炎症が生じやすくなる
⇒後方tightness
まとめ
• 肩関節後下方関節包
⇒腋窩神経支配
• 小円筋(腋窩神経支配)
⇒関節包に付着
*小円筋の緊張が関節包へ
• 上腕三頭筋
⇒小円筋を下方から圧迫
運動療法の順番
①上腕三頭筋のリラクゼーション
⇒小円筋への圧迫除去
②小円筋のリラクゼーション
⇒関節包への緊張除去
③関節包のストレッチ
⇒関節包の伸張性獲得
中間評価
S)痛みはあまり変わらない
再評価
姿勢チェック
臥位姿勢
左肩が下??
なぜ左側臥位?
右側臥位
右側臥位では骨盤を
自ら下制させないと腰が痛い。
側臥位での股関節内転
左股関節内転制限
背臥位は?
トーマステスト
両股関節伸展制限
PTプログラム追加
• 股関節伸展・内転可動域向上
股関節前方・外側組織の柔軟性獲得
‐腸腰筋
‐大腿筋膜張筋
‐中殿筋
肩関節痛の軽減
メカニズム
股関節伸展制限
左側臥位で就寝
背臥位困難
左肩関節内転強制
左股関節内転制限
左肩関節後方組織
伸張ストレス
右側臥位困難
疼痛