診察法、検査法 1 薬学部 臨床医学(大講座) 病態解析学 中村正彦 臨床医学概論 1 診断、治療における検査法の 立場 • 診察の補助としての役割 • 数字を直すのではなく、あくまで Kranke(患者様)の自覚症状を主体と した症状の改善をめざすべき 臨床医学概論 1 臨床検査とEBM (Evidence-based medicine) 臨床でのevidenceには2つある.1つは患者についての evidenceであり,そして検査成績データのevidenceであ る. 臨床EBMの第一歩は患者についてのevidenceを正確に集 め,提示し,考察し,次のプランを立てることである. これが臨床診察の基本であり,臨床の技量である. 検査結果のEBMは比較的理解しやすいといえる.それは 数字で表されるものが多いからである. どのような検査をオーダーするか? なぜか? その根拠 は? どのような結果がどの程度の確率で予測されるか? その理由は? その根拠は? どのような科学的根拠が あるのか? その根拠となる文献の確かさはどうか? Evidence-biased Medicine? 臨床医学概論 1 データ判読の基礎 1 ●生体変化はファジーなもの 臨床検査の対象となる生体の変化はファジー(fuzzy)なものであ り,無生物の剛体を計測するのとは根本的に異なる. 生体の特徴は,ホメオスタシスとゆらぎの二面を兼ね備えている ことにある.すなわち,生体は常にゆらいでいるが,そのゆらぎ は一定範囲内にあり恒常性を維持している.すなわち,生きたヒ ヨコの体長を計測するのにたとえることができる.ヒヨコの体は 常に動いているので,1mm単位まで測ることは困難で,目盛りの 粗い物差しで迅速に測らなければならない.また,豊富な羽毛で 覆われているので,どこまでが「真の体」なのか定かではない し,そよぐ風によっても羽毛が動いている.しかし,死体につい て羽毛を剥ぎとってみると「実体」は存在し,体の大きさがより 正確に計測できる. 臨床医学概論 1 データ判読の基礎 2 • 臨床検査はさまざまなところで行われている ので,臨床検査結果を判読するには,その検 査結果がどこで得られたかを確認する必要が ある.その検査結果について最も詳しい説明 ができるのは,その結果を出した検査部であ る.それだけではなく,検査結果の正しさ (精確さ, accuracy)は, • 真度(trueness, 正確度とも呼ばれる)と • 再現性(reproducibility, 精密度precisionとも 呼ばれる)からなり,それらは同一の検査項目 であっても検査の種類によって異なることが ある. 臨床医学概論 1 基準値、基準範囲について 正常域(または正常範囲,正常値)という用語は,健常者から得られ た検査値の範囲として1つの“物差し”を示すものとして定義づけ られ,利用されてきた.そして,臨床化学の領域では,計測値 が定量的に取り扱われる機会が多いことから,健常群と疾患群 を区別する値として理解され利用されてきた. しかし,病態を把握し,意思決定として診断または治療を行うに は,短絡的な正常域の利用ではなく,いくつかの成分を組み合 わせるとか, 形態学的な情報を組み合わせるとか,病気か病気でない かを確率的に推定するとか,単なる数値の比較以外の過程を踏 むことが要求されている. それぞれの検査結果は,適切な基準値と対比してはじめて臨床的 判断が可能である.すなわち,検査結果の臨床的判断に必要な 指標となる数値を基準値 (reference values)といい,検査結果の 判読にきわめて重要である.近年,世界的に,正常値,正常範 囲という言葉に代わって,基準値,基準範囲が使われている. 臨床医学概論 1 診察法、検査法 概説 1. 尿、便、血液(生化学1) 2. 血液 (生化学2、内分泌、血液・凝 固・線溶系、腫瘍マーカー ) 3. 放射線(胸部X-P、腹部X-P, Echo, CT, MRI) 4. 内視鏡、胃液検査、細胞診、穿刺液 etc 臨床医学概論 1 尿の検査項目 1.尿沈渣 2.尿比重 3.尿蛋白、潜血、糖、ビリルビン、 ウロビリノーゲン、ケトン体 4. α1ミクログロブリン、β2ミクログロブリン 5.微量アルブミン 6. 尿クレアチニン 7. 尿クレアチン 8. 尿ポルフィリン体 臨床医学概論 1 尿検査正常値 検 査 項 目 正常(基準)範囲(値) 異常値で疑われる主な病気 尿たん白 尿糖 陰性(−) 腎炎、ネフローゼなど腎臓 の障害、尿路系の異常。 糖尿病、腎性糖尿病など。 尿潜血反応 胱など尿路 陰性(−) 尿ウロビリノーゲン 害、黄疸な 尿量 尿比重 陰性(−) 腎臓、尿道、膀 系の炎症や悪性腫瘍。 疑陽性( )、弱陽性(+) 主に肝臓の障 1日 600 1,600ml 1.020 1.030 ど 腎不全など主に腎臓の障 害 主に腎臓の障害 臨床医学概論 1 尿沈渣 Sediment 1 臨床的意義 尿沈渣は,尿中の有形成分(細胞,細菌,結晶など)を顕微鏡下で観察する形態検査である. これらの成分の質的・量的変化を観察して,腎・泌尿・尿路系疾患,系統的疾患の補助診 断,病態把握,フォローなどに利用される.肉眼的観察所見,試験紙法の結果を得て進め られるルーチン検査である. [ 基準範囲 ] 正常における尿沈渣成分(HPF;強拡大視野) HPF-high power field (1)赤血球:1/HPF以下(月経の混入に注意). (2)白血球:1/HPF以下(男性),5/HPF以下(女性). (3)上皮細胞:5/HPF以下. (4)円柱:5/全視野以下(硝子円柱のみ). (5)通常結晶:尿酸,リン酸,シュウ酸塩など.これらの出現は健常者で認める. (6)細菌,真菌,原虫,寄生虫:検出されず. 臨床医学概論 1 尿沈渣 2 尿沈渣成分 異常レベル 関連疾患 赤血球 5/HPF以上 糸球体腎炎,腫瘍, 炎症,結石,出血凝固異 常など 白血球 5/HPF以上 尿路感染症 結晶 1個でも存在 シスチン,ロイシン,チ ロシンは異常 ほかの結 晶は臨床的意義低い 円柱 1個でも存在 硝子円柱以外のすべて 細菌 陽性(+)以上 陽性(+)以上 尿路感染症の疑い 汚染,長時間放置との鑑 別必要 トリコモナス、カンジ ダ 1個でも存在 生体抵抗性の低下 臨床医学概論 1 臨床医学概論 1 尿沈渣 3 赤血球 臨床医学概論 1 尿沈渣 4 扁平上皮 臨床医学概論 1 尿沈渣 5 臨床医学概論 1 顆粒円柱 臨床医学概論 1 尿沈渣 6 測定法 新鮮尿を1500cpmで5分遠心して上清を除去し,撹拌した沈渣 15μlをスライドグラスにとりカバーグラスをかける.弱拡大( 100;LPF)で一通り観察し,強拡大( 400;HPF)で細かに有形成分 を観察する.毎視野(E),数視野(F)(HPF),全視野(LPF)ごとの数 で表す. サンプリング 尿成分の安定性の高い早朝第1尿が最適.中間尿を採取する.採取 と同時にできるだけ短時間で観察する(遅くとも2 3時間以内). 月経時の採尿は避ける.その他,腟分泌物,外陰部分泌物,剥離細 胞の混在を避ける.激しい運動,薬剤投与の有無も一過性の異常を 示すので,検査の際は確認のこと. 偽陰陽性 尿のアルカリ化は赤血球や沈渣成分の溶解をきたしやすい. 喫煙者はしばしば血尿を示す. 臨床医学概論 1 尿比重,尿浸透圧 1 臨床的意義 尿比重は尿中に溶解している全溶質の濃度を示す指標 であり,純水との重量比と言い換えられる.尿浸透 圧は溶質の粒子数であり,いずれも尿量と溶質量あ るいは溶質の分子量により決定される.尿比重,尿 浸透圧の測定は,腎髄質集合管における濃縮希釈能 を評価する検査である.正確性からは浸透圧測定が 勝るが,通常は尿比重で代用される.尿量と常に対 比して検査を進めることが大切である. [ 基準範囲 ] 尿比重:1.006 1.030(通常1.010 尿浸透圧:50 1.025) 1300mOsm/kg・H2O 臨床医学概論 1 尿比重,尿浸透圧 2 尿比重が異常値を示す疾患 尿比重増加(> 1.020) 減少(<1.009) 固定(1.010) 水分摂取制限 水分過剰摂取 慢性腎不全 脱水症(嘔吐、下痢) 腎盂腎炎 糖尿病 膀胱尿細管逆流 蛋白尿 尿崩症 ADH分泌過剰 造影剤使用 臨床医学概論 1 尿蛋白 Proteinuria, Eiweiss1 臨床的意義 尿総蛋白の排泄増加を指標に,主に腎機能異常を知る検査.試 験紙法および蛋白定量検査からなり,前者はアルブミンのみを 検出し,後者は総蛋白を測定している. [ 基準範囲 ] 試験紙法:(−) ( ) 尿蛋白排泄量:100mg/日以下 * 健常青年の 0.95% に無症候性蛋白尿を認めたとの報告もある 生理的蛋白尿は、3%といわれる。 臨床医学概論 1 尿蛋白 2 LMP:低分子蛋白 (骨髄腫など) 臨床医学概論 1 蛋白尿 3 [ 腎前性 ] 尿細管の再吸収能を超える負荷:単球性白血病(リゾチーム),溶血(ヘモグ ロビン;Hb),横紋筋融解(ミオグロビン;Mb),骨髄腫(Bence Jones蛋 白),膵炎(アミラーゼ). [ 腎糸球体性 ] 濾過能の低下による血漿蛋白の漏出(総蛋白量は1g/日を超える.アルブ ミンの増加が主体で試験紙法で検出可能):糸球体腎炎,ネフローゼ症候 群,糖尿病性腎症,ループス腎炎,運動,起立性蛋白尿. [ 腎尿細管性 ] 蛋白の再吸収,異化の低下:重金属中毒(Cd,Hg),アミノ糖などの抗生物 質,薬剤,先天性(Fanconi症候群,Wilson病),移植拒否反応. [ 腎後性 ] 尿のうっ滞,感染症などによる腎の傷害:結石,腫瘍,前立腺肥大,膀胱 尿管逆流症,感染症. 臨床医学概論 1 蛋白尿 4 測定法 [ 試験紙法 ] 試験紙にあらかじめ浸したpH指示薬に尿中アルブミンが結合すること により指示薬が変化することを利用.アルブミン量が多ければ多いほ ど,アルカリへの傾きが大きい(蛋白誤差反応). [ 定量法(ピロガロールレッド法;比濁法) ] サンプリング 採尿後,ただちに検査することが望ましい.また,薬物など偽陽性,偽 陰性の原因になる物質の混入にも注意を払う. 偽陰陽性 [ 試験紙法 ] 偽陽性,偽陰性:尿pHがアルカリ性.指示薬の誤作動.Bence Jones蛋 白,Hbなどアルブミン以外は検出能が低いことに注意. 尿細管障害においても陰性,( )になることも少なくない. 臨床医学概論 1 無症候性蛋白尿の取り扱い • 無症候性蛋白尿のなかでも、約60%の例では、臥床時(早朝尿)に は蛋白尿はなく、起立時(随時尿)にのみ蛋白尿を認め、「起立性 蛋白尿」とよばれています。起立性蛋白尿の方が、そうでない場合 よりも、予后がよいとされています。実際、腎生検という腎臓の組 織を採取して顕微鏡で調べるという検査を実施した場合、起立性蛋 白尿症例では、30%が正常所見であり、残りの70%も軽度の異常所 見のみであり、はっきりとした病的異常が認められた例はなかった が、起立性でない無症候性蛋白尿症例では、13%が正常、67%が軽 度異常であり,15% にはっきりとした病的異常が認められたとの報告 があります。無症候性蛋白尿の予后は良好とされています。経過を 観察していると、自然になくなる例がかなりあります。 • しかしながら、蛋白尿が1年以上継続し、一日蛋白排泄量が 1 から 2 g/日以上の例では、診断を確定するために、腎生検検査をした方 がよいとする、専門家もいます。無症候性蛋白尿がある種の疾患の 初期症状である場合があるからです。そのような疾患として、膜性 腎症、巣状糸球体硬化症、IgA腎症、アミロイドーシス、本態性高血 圧、糖尿病性腎症などがあります。 臨床医学概論 1 尿潜血 Hematurie, Okkulte1 臨床的意義 尿潜血は尿中の赤血球,ヘモグロビン(Hb)を検出して,腎尿 路泌尿器系の出血性の疾患,系統的疾患をスクリーニングす る検査.測定原理上,ミオグロビン(Mb)も検出されるので 鑑別を要する. [ 基準範囲 ] 検出されず.Hb量で150 200mg/dl以下,赤血球5個/毎視 野以下では検出されない. 臨床医学概論 1 尿 潜 血 2 臨床医学概論 1 尿潜血 3 測定法 [ 試験紙法 ] Hbのペルオキシダーゼ様活性により生じた活性酸素の酸化作用 を利用.赤血球を溶血させて反応するため赤血球は点状に,Hb は均一な発色を呈する.ただし,Mbも同様な作用を有するた め,本検査だけではHbと確定はできない. サンプリング 採尿後ただちに検査のこと.Hbは比較的短時間に空気中の酸素 と結合,変性しやすい. 偽陰陽性 [ 偽陽性 ] 次亜塩素酸などの酸化剤の混入,細菌尿(ペルオキシダーゼの放 出). [ 偽陰性 ] ビタミンCなどの還元剤の混入. 臨床医学概論 1 無症候性血尿の取り扱い • 自覚症状がなく、診察および検査所見からも全身性疾患を示唆 する所見のない者を「無症候性血尿」と呼んでいます。これら の症例の予后は良好とされており、50%以上の症例で5年以内 に自然に血尿が消失するとの報告があります。しかしながら、 稀に腎機能が低下し、腎不全となり症例がみとめられるので、 注意が必要です。腎生検という腎臓の組織を採取し、顕微鏡で しらべる検査を無症候性血尿の患者に実施した報告では、組織 像が正常であったものが 5% から15%、軽度の異常所見のみで あったものが 30%から 50%、のこりの 20% から 50% では はっきりとした異常所見が認められたとのことです。 • したがって、無症候性血尿の約半分の症例は、軽症ではあって も、なんらかの基礎疾患をもつものと考えられます。これらの 基礎疾患としては、IgA 腎症、Alport 症候群、thin basement membrane 病、Fabry 病、良性家族性血尿、loin painhematuria 症候群などがあります。 臨床医学概論 1 尿糖 sugar, Zucker 1 臨床的意義 尿糖の測定は真性糖尿病,二次性糖尿病のスクリーニング 検査,およびその治療効果,経過観察,予防,とりわけ 自己健康管理などに重要な検査である.糖尿は通常ブド ウ糖の正常域を超えた排泄量の増加を指すが,まれにブ ドウ糖以外の糖が排泄される病態,疾患もある. [ 基準範囲 ] 正常:陰性 定量値:10 20mg/dl 臨床医学概論 1 尿糖 2 異常値を示す疾患・病態 (1)血糖が高値(180 200mg/dl以上)の結果,腎での再吸収機 能を上回る場合(腎前性の負荷):真性糖尿病,二次性糖尿病,膵 炎,膵癌,甲状腺機能亢進症,下垂体機能亢進,副腎機能亢 進,ステロイドの投与,胃切除,肝炎,肝硬変,炭水化物の過 食,ストレス,絶食. (2)腎糸球体における透過性の亢進(腎糸球体性):糖尿病の初期, 妊娠,ステロイドの投与. (3)腎臓尿細管の異常により糖が再吸収されない(腎尿細管 性):Fanconi症候群などの先天性の再吸収障害,重金属中毒. 臨床医学概論 1 尿糖 3 測定法 [ 酵素法 ] ブドウ糖と酵素(ブドウ糖酸化酵素)とが反応して発色する.試験紙による定性法 と,同様の原理で定量法とがある. [ 還元法 ] アルカリの条件で糖(ブドウ糖,乳糖,果糖,ガラクトースなど)の金属還元作用 による発色を利用したもの. サンプリング 新鮮尿で2時間以内に検査.不可能なときは凍結保存.糖尿病のスクリーニング としては食後2時間後の採取が適当. 偽陰陽性 (1)試験紙法はブドウ糖のみを検出し,ほかの種類の糖は検出できない. (2)高比重は呈色反応を抑制,低比重は促進しやすい. (3)尿中にアスコルビン酸(ビタミンC)などの還元物質が多く存在すれば,偽陰性 となりやすい. (4)還元法では還元作用を示す以下のような物質,薬剤は偽陽性の原因となる. ビタミンC,大黄,センナ,サリチル酸,抗生物質などの薬剤(酸化防止剤として ビタミンCを使用). 臨床医学概論 1 尿ケトン体 Keton 1 臨床的意義 尿ケトン体の測定は糖尿病性ケトアシドーシス,ケ トン血症のスクリーニング検査である. 糖尿病や栄養状態の低下で体内に炭水化物が不足す ると,脂肪酸が代償エネルギーとして動員され,肝 における脂肪酸の酸化によりケトン体が血中に増加 し,腎より濾過され尿中に出現増加する .ケトン体 はβ-ヒドロキシ酪酸(β-OHBA),アセト酢酸,アセ トンから成る. [ 基準範囲 ] 試験紙法:陰性. 臨床医学概論 1 尿ケトン体 2 異常値を示す疾患・病態 [ 摂取カロリー不全 ] 絶食,嘔吐,飢餓. [ ストレス ] 熱発,疼痛,外傷などショック. [ 麻酔手術後 ] [ 脂肪の過食 ] [ 糖代謝異常 ] 糖尿病ケトアシドーシス,糖尿病コントロール不良. [ 内分泌疾患 ] 甲状腺機能亢進症,Cushing症候群,グルカゴノーマ,褐色細胞 腫. 臨床医学概論 1 尿ケトン体 3 測定法 [ 試験紙法(ニトロプルシド法) ] アルカリ条件でニトロプルシドナトリウムとアセトン,アセト 酢酸と結合して紫色の化合物を形成することを利用 . サンプリング 随時尿,採尿後ただちに検査のこと.アセト酢酸は容易にアセ トンに変化し,アセトンはさらに揮発性で失われやすい. 偽陰陽性 [ 偽陽性 ] L-ドーパ,PSP,BSPの使用. [ 偽陰性 ] 試験紙法では,測定原理上OHBAが検出できず,OHBAの比率の 高い一部糖尿病ケトアシドーシスでは分析結果が陰性か,わず かに陽性を示すにすぎないこともあるので,最終的には血中ケ トン体の測定により確認が必要となる. 臨床医学概論 1 尿ビリルビン,ウロビリノゲン 代謝経 路 臨床医学概論 1 尿ビリルビンBil,ウロビリノゲンUro 1 臨床的意義 肝胆道系の閉塞性疾患のスクリーニング検査. 間接型ビリルビンが肝でグルクロン酸抱合体(直接型ビリル ビン)となり,胆汁として排泄され小腸に至ると,ここで腸内細 菌叢によりウロビリノゲンに分解される.ウロビリノゲンは腸管 から吸収されてほとんどが肝に還流されるが(腸肝循環),ごく一 部は尿として体外に排泄される . 胆汁うっ滞をきたす疾患や肝細胞の急激な破壊が起こるとビリル ビンの胆汁への排泄が減少し,直接型ビリルビンは血中に増加 し,この結果,尿中にも出現増加がみられる.一方,ウロビリノ ゲンは,胆道系の完全閉塞においては腸管での産生がないため尿 中への排泄はみられない。これに対して肝前性の間接型ビリルビ ンの増加は,最終的にウロビリノゲンの排泄を招く. [ 基準範囲 ] ビリルビン:陰性 ウロビリノゲン:( ) 臨床医学概論 1 尿ビリルビン,ウロビリノゲン 2 異常値を示す疾患・病態 (1)肝の実質障害 両者の増加(急性肝炎,慢性肝炎の急性悪化,肝硬変). (2)閉塞性黄疸 ビリルビンの陽性化が主,完全閉塞でウロビリノーゲン陰性 化(膵頭部癌,胆嚢癌,転移性肝癌,Dubin-Johnson症候群 など). (3)溶血性貧血 ウロビリノゲンの増加が主体. (4)Gilbert症候群,肝炎後高ビリルビン血症 両者陰性. 臨床医学概論 1 測定法 尿ビリルビン,ウロビリノゲン 3 [ 試験紙法 ] ビリルビン:試験紙に含まれるジアゾニウム塩と結合して赤色のアゾ色素を形成す ることを利用. ウロビリノゲン:試験紙に含まれるp-ジメチルアミノベンズアルデヒドと反応して 赤色を呈することを利用. サンプリング 採取後ただちに検査のこと.ビリルビンは光に当たると変性しやすいため,必要に 応じて遮光し,−20℃に保存する.ウロビリノゲンも光に感受性が高いため,同 様な条件で採取,保存のこと.日内変動やばらつきがあり,午後2 4時に採取す るのが理想的. 偽陰陽性 [ ビリルビン ] フェナゾピリジン,セレン,局所麻酔薬の代謝産物は赤色を呈して判定を隠蔽し, またアスコルビン酸は偽陰性の原因となる. [ ウロビリノゲン ] 抗生物質の使用により腸内細菌叢の抑制によりウロビリノゲンは低下する. ポルホビリノゲンは偽陽性となる. 臨床医学概論 1 微量アルブミン尿 Microalbumin(-uria) 1 臨床的意義 血中アルブミンは,腎糸球体の機能変化・異常を反映して,早 期に漏出してくる. そこで,高感度測定法により尿中アルブミンの微量増加を検出 し,特に糖尿病性腎症の早期発見,治療・予防に役立てる目的 で利用される.最近では,高血圧などにおいて微量アルブミン が存在すると,脳血管障害,心筋梗塞の合併頻度が高いとさ れ,予後因子としても注目されている. 同時に尿細管マーカー蛋白であるα1ミクログロブリンを測定す ると,糸球体,尿細管病変の鑑別診断,合併の有無も確認でき る [ 基準範囲 ] 微量アルブミン尿は30 300mg/日と定義され る.したがって,基準範囲は30mg/日以下となる.随時尿でも おおよそ20 30mg/Lとみてよい. 臨床医学概論 1 微量アルブミン 2 • 糸球体の軽度の機能変化,異常を示す病態 マーカーである.運動,ストレス,発熱や, 糖尿病,SLE,高血圧など数多い.もっと も,測定の適応となるのは糖尿病性腎症であ る • IDDM(1型糖尿病)では,微量アルブミンの 時期を過ぎると,顕性蛋白尿の時期を経て急 速に腎機能の低下をきたす.微量アルブミン 尿が最後の警鐘であり,この時期に血糖・血 圧のコントロールを行い,治療回復,進展の 予防を図らなければならない. 臨床医学概論 1 α1ミクログロブリン 1 臨床的意義 α1ミクログロブリン(α1m)は分子量約3万の低分子 蛋白で,肝で産生されて血中に分泌され,短時間に 腎糸球体基底膜を通過して近位尿細管より再吸収・ 異化され,正常ではほとんど尿中には排泄されな い.したがって,尿を測定対象としてβ2ミクログロ ブリン(β2m)とともに尿細管機能障害の指標として 用いられる. 血中α1mは腎糸球体濾過値(GFR)の低下により上昇 し,クレアチニン,β2mと高い相関性を有し,クレ アチニンクリアランスが100L/日以下になるとクレ アチニンやβ2mの上昇に先行した変化がみられる. [ 基準範囲 ] 血中:10 30mg/dl,尿中:5mg/日以下. 男性>女性.老人,小児>成人.立位>臥位. 臨床医学概論 1 α1ミクログロブリン 2 異常値を示す疾患・病態 [ 血清上昇 ] 腎疾患(GFRの低下). [ 血清低下 ] 肝疾患(産生の低下). [ 尿上昇 ] 尿細管障害・機能低下(カドミウム中毒,移植腎,骨髄腫 腎,火傷,Fanconi症候群,アミノグリコシド投与). 臨床医学概論 1 尿クレアチニン Cr CRTNN 1 臨床的意義 クレアチニン(Cr)の測定自体は意義が少ないが,Crクリアランスの算定,24時間 蓄尿の正確さのチェック,部分尿採取サンプルの成分の濃度補正などに広く利 用されている. Crは筋肉中のクレアチンが脱水,還元して生成され,一定の割合で血中に分泌さ れると,ただちに腎糸球体を通過して尿細管において再吸収,異化されること なく,またここから分泌されることもほとんどなく,体外に尿として直接排泄 される. したがって,1日の尿中排泄量は腎糸球体に血流により運ばれ濾過された量と同 一であると考えてよく,血中Cr値で除せば,腎全体での糸球体の濾過能を示す ことになる.これをCrクリアランス(Ccr)と呼ぶ.個人による筋肉量の違いを補 正するために,標準体表面積との比較で補正する. [ Crクリアランス(Ccr)の算定法 ] Ccr(L/日またはml/分)=(尿中Cr濃度/血漿Cr濃度)(尿量){1.48(標準体表面積)/ 体表面積*} *個々の体表面積は,身長,体重かノモグラムで求める. [ 基準範囲 ] Cr尿中排泄量:成人男性 1 2g/日,成人女性 0.8 1.8g/日 Crクリアランス:70 130ml/分 GFR glomerular filtration rate 糸球体濾過率 臨床医学概論 1 尿クレアチニン 2 [ Cr尿中排泄量 ] 低栄養状態,筋細胞の広範な破壊壊死で低下. 蓄尿が不完全なとき. [ Crクリアランス ] 低下:糸球体腎炎,糖尿病性腎症,全身性エリテマトーデ ス(SLE),腎不全,加齢,筋肉の萎縮など. 増加:運動,妊娠,大量利尿,糖尿病の初期. 臨床医学概論 1 尿クレアチン CRTN1 臨床的意義 腎で合成されたグアニド酢酸が肝に運ばれ,ここでクレアチンが合 成される.さらにクレアチンは筋肉に運ばれ,クレアチンリン酸と してATPの産生源となる.生体内では95%が筋肉に存在する . 尿中クレアチンの動態は主に骨格筋,一部肝・腎機能変化,異常を 反映する.ほとんどが筋関連病態と考えてよい. クレアチンは筋細胞の変性,融解,壊死に伴い血中に放出される が,小分子であるため腎を通過して尿中に増加排泄される.軽微な 変化ではクレアチンキナーゼ(CK)などの筋由来の酵素が血中で捉 えられないものでも,尿中増加を示すケースがあり,これが測定の 適応となる. [ 基準範囲 ] 次第に酵素法が普及してきているが,種々の異なる原理の測定法が あり,基準範囲も異なるので注意を要する. 酵素法:男性0.20g/日以下,女性0.43g/日以下. 臨床医学概論 1 尿クレアチン 2 [ 異常高値 ] (1)神経筋疾患:筋ジストロフィー,多発筋炎/皮膚筋炎,ステロ イドミオパチー(早期の段階)など. (2)非神経筋疾患:心筋梗塞,ステロイド筋炎(早期の段階),甲状 腺疾患. (3)その他:妊娠,飢餓,悪性腫瘍など. [ 異常低値 ](測定の意義は低い) 肝疾患,甲状腺機能低下など. 臨床医学概論 1 便検査 • 便潜血反応 • 寄生虫卵検査、原虫検査 • HpSA (Helicobacter pylori stool antigen) 臨床医学概論 1 便検査正常値 検査項目 正常(基準)範囲(値) 異常値で疑われる主な 病気 便潜血反応 陰性(−) 主に胃腸など消化管の 潰瘍や悪性腫瘍など 寄生虫卵検査 陰性(−) 回虫症、蟯虫症、鉤 虫症などの寄生虫の 感染 臨床医学概論 1 便潜血反応 1 臨床的意義 • 大便中に微量に含まれる血液を,ヘモグロビン (Hb)のもつ化学作用または抗原性を利用し,これを 検出することにより,消化管出血の有無を知る検査 が便潜血反応(便潜血検査,便ヘモグロビン検査とも いう)である.今世紀初頭より用いられてきたグア ヤック法などの化学法(触媒法ともいう)は,簡単に 実施できるものの,検査3日前から肉類を含む食品を 摂ってはならない,鉄剤やアスコルビン酸を服用し てはならないといった被検者にとって煩しい制約が 必要であった. • 1980年代に入り,抗原抗体反応を利用した免疫法 が開発され,ヒトHbに特異性が高いこと,検査前の 制約が不要なことなどから脚光を浴びた.現在,大 病院で依頼される比率は化学法:免疫法≒5:95であ り,免疫法が広く普及している. 臨床医学概論 1 便潜血反応 2 まず化学法と免疫法で検出できる疾患が異なることを認識しな ければならない.すなわち,化学法は食道から肛門に至るま での全消化管での出血で陽性を示すが,免疫法は原則的に下 部消化管出血で陽性を示すという点である. 免疫法はヒト成人Hbの90%を占めるHbAoを抗原として他動 物(ウサギ,マウスなど)に免疫して得た抗体を用い,検体と 抗原抗体反応を行わせ,便中Hbの存在を知る方法である. したがって,免疫法では検体中のHbが抗原性を維持した状 態でなければならない.Hb蛋白は酸,消化酵素(特にプロテ アーゼ)により容易に変性し,抗原性を失う.すなわち食道 や胃,小腸出血では,たとえ測定感度以上の出血(Hb量)が あったとしても検出できないことがあるので注意を要する. 臨床医学概論 1 便潜血反応 3 陽性になる疾患 食道 食道静脈瘤破裂,食道炎,食道癌 胃十二指腸 胃炎,消化性潰瘍,胃癌 小腸 Crohn病,腸結核,悪性腫瘍 大腸 急性大腸炎,潰瘍性大腸炎,大腸憩室,過敏性大腸症候群,大腸ポ リープ,大腸癌,イレウス,寄生虫感染,細菌性大腸炎(赤痢,カ ンピロバクター,病原性大腸菌など),原虫感染(アメーバ赤痢な ど),痔疾 その他 慢性肝障害,出血性素因,白血病,歯齦出血,鼻出血,月経血の混 入 臨床医学概論 1 便寄生虫検査 1 回虫 アニサキス 虫) 蟯虫 幼虫形成卵の経口 幼虫の経口(海産魚類の生食) 胃腸急性腹症 幼虫形成卵の経口 肛囲のそう痒感 胃カメラ (幼 肛囲より 虫卵(虫体)の検出 鉤虫 幼虫の経口,経皮 小腸 貧血,皮膚のかぶれ 東洋毛様線虫 幼虫の経口感染 小腸上部 貧血,消化器症状 鞭虫 幼虫形成卵の経口 盲腸,大腸 腹痛, 下痢 糞線虫 幼虫の経皮感染 小腸上部 粘膜びらん,潰瘍 有棘顎口虫 幼虫の経口(淡水魚の生食) 皮下組織 皮膚爬行症 糸状虫 カによる刺咬 リンパ節 発熱,乳び 尿, 象皮病 臨床医学概論 1 便寄生虫検査 2 • • • • • • 広節裂頭条虫 有鉤条虫 心,貧血 無鉤条虫 エキノコックス サケ,マスの生食 小腸 感染ブタの生食,虫卵の経口 糞便(片節) 感染ウシの生食 小腸 虫卵の経口感染 主に肝 腹痛,貧血 小腸,筋肉,脳 小形条虫 縮小条虫 摘出虫体 虫卵の経口感染 小腸 腹痛,貧血 小昆虫からの感染 小腸 腹痛,貧血 糞便 腹痛,悪 腹痛,貧血 糞便(片節) 組織を圧迫,アレルギー 臨床医学概論 1 糞便 糞便 便寄生虫検査 3 1.日和見感染症 AIDSなど免疫能低下による感染で,原虫症ではニューモシスチス・カ リニ肺炎,クリプトスポリジウム症,トキソプラズマ症,ランブル鞭 毛虫症,赤痢アメーバ症があり,蠕虫症では糞線虫症などがある. 2.輸入寄生虫感染症 海外から持ち込まれる寄生虫症で,その代表はマラリアであり,東南ア ジア,アフリカ,中南米などではいまなお健在である.地球の温暖化 が叫ばれる今日,これが進めばわが国でもマラリアが現在のアフリカ 並みに流行する可能性があるという説がある.赤痢アメーバ,ランブ ル鞭毛虫,有鉤条虫,無鉤条虫などが海外からの帰国者に散見され る. 3.食物由来感染症 日本人が好んで食するサバ,ニシン,タラ,イカなどから感染するアニ サキス症,クマの刺身からは旋毛虫症,マスの生食による広節裂頭条 虫症,ドジョウの生食による有棘顎口虫症,アユの刺身による横川吸 虫症,そのほか無鉤条虫症などがある.食物からの感染は最近のグル メ嗜好を反映し,感染の機会は着実に増加している. B.診断法 寄生虫感染症の診断には,糞便,尿,血液などからその虫体,虫卵など を肉眼的,顕微鏡的あるいは内視鏡的に直接検出する方法と,血清抗 体検査など免疫反応その他を利用して間接的に証明する方法がある. 原虫検査については顕微鏡的観察法が主体であるが,最近はPCR法など 遺伝子検索も行われるようになった. 臨床医学概論 1 便寄生虫検査 4 臨床医学概論 1 血液生化学検査 • • • • • • • 血清蛋白分析 アミノ酸、含窒素化合物 酵素 脂質 糖質 ビタミン 電解質、金属 臨床医学概論 1 血液生化学検査基準値 1 検査項目 基準範囲(値) 異常値で疑われる主な病気 GOT (AST) 8 33KU/ml 主に肝臓の障害。 GPT (ALT) 3 30KU/ml 主に肝臓の障害。 LDH 200 470単位 ガン、肝臓病、心 臓病、血液疾患など。 ALP 70 270KA単位 肝臓病、胆道の閉 塞疾患、骨腫瘍など。 γ−GTP 4 50単位 肝臓 病、特にアルコール性肝障害、胆道疾患など。 ChE(コリンエステラーゼ) 3,800 7,800単位 肝臓病、ネフローゼ症候群、甲状腺機能亢 進症など。 ビリルビン(総ビリルビン) 0.2 1.2mg/dl 肝臓病、溶血性貧血、胆道系のガン、黄疸 血清総たん白 6.5 8.0g・dl 肝臓病、脱水症、栄養障害、ネフローゼ、 炎症性疾患など。 たん白分画 アルブミン 59.0 72.0% α1グロブリン 1.7 3.3% α2グロブリン 4.2 9.5% βグロブリン 8.4 12.0% γグロブリン 10.0 20.5% TTT 0 5単位 肝臓病、高脂血症、膠原病 ZTT 4 12単位 肝臓病、膠原病、ガンなど。 臨床医学概論 1 血液生化学検査基準値 2 検査項目 病気 基準範囲(値) 異常値で疑われる主な 総コレステロール 130 230mg/dl 高脂血症、動脈硬化、糖尿病、ネフ ローゼ、肝硬変 HDLコレステロール 40 70mg/dl LDLコレステロール 80 140mg/dl 中性脂肪 60 130mg/dl 肥満、糖尿病、甲状腺機 能低下症、アルコール性脂 肪肝 血糖(空腹時) (糖負荷試験) 直前値 60 110mg/dl 2時間値 110mg/dl以下 主に糖尿病、腎性糖尿 病、膵炎、クッシング症候群 尿素窒素 8 20mg/dl 腎機能低下、尿路閉塞性 疾患、腸管出血、肝硬変 クレアチニン 男性 0.7 1.5mg/dl 女性 0.5 1.2mg/dl 主 に腎臓病。 尿酸 男性 3.0 7.0mg/dl 女性 2.0 6.0mg/dl 主 に痛風。 アミラーゼ 50 240単位 膵炎、膵ガ ン、胆石症、耳下腺炎、 腹膜炎 臨床医学概論 1 血清総蛋白 1 臨床的意義 ヒト血清中には多くの蛋白が存在し,膠質浸透圧の 維持,物質の担体(キャリア蛋白),酵素活性,ホル モン活性,凝固能,抗体活性など,種々の機能を果 たしている.血清総蛋白(TP)の増減を決定するのは 60%を占めるアルブミン(Alb)と,20%を占めるγ グロブリン(γ-G)で,両者の合成と異化のバランス により濃度が決定される. [ 基準範囲 ] 6.5 8.0g/dl,65 80g/L 立位>臥位,乳児>成人,静脈血>動脈血,冬> 夏. 臨床医学概論 1 血清総蛋白 2 異常値を示す疾患・病態 [ 上昇 ] (1)血液濃縮:脱水. (2)γグロブリンの上昇:単クローン性(骨髄腫,原発性マクログロブリン血症),多クローン 性(膠原病,慢性感染症,慢性肝疾患). [ 低下 ] (1)血液希釈:水血症,妊娠. (2)蛋白摂取・吸収不全:栄養不良,悪液質,吸収不良症候群. (3)アルブミン合成低下:重症肝硬変,劇症肝炎. (4)アルブミン漏出:ネフローゼ症候群,蛋白漏出性胃腸症,火傷. (5)蛋白異化亢進:甲状腺機能亢進症,慢性消耗性疾患. 臨床医学概論 1 血清総蛋白3 測定法・サンプリング・偽陰陽性 測定法 Biuret法:呈色液として硫酸銅を用い,蛋白のペプチドとCu2+がキレート結合し た紫紅色を540 560nmで測定する. サンプリング 血漿>血清(血漿ではフィブリノゲン分だけ高値).溶血で高値(赤血球のヘモグロ ビン量を測り込む).安定であるが濃縮に注意. 偽陰陽性 [ 高値 ] (1)測定系への影響:デキストラン,高脂血症,抗生物質(ペニシリン,セフェム 系),BSP,ICG,PSPなどの色素,アセチルサリチル酸. (2)アルブミン合成亢進:蛋白同化ホルモン,成長ホルモン,男性ホルモン,イン スリン. [ 低値 ] γグロブリン合成抑制:抗腫瘍薬,免疫抑制薬,副腎皮質ステロイド. 臨床医学概論 1 血清蛋白分画 1 蛋白は,血清の電気泳動により荷電状態に応じて,陽極側からアルブミン(Alb), グロブリン(α1-G,α2-G,β-G,γ-G)の5つに分画され,各分画の増減から 病態の推定が可能である. [ 表1 ]血清蛋白分画の基準範囲 分画 分画濃度比(%) 分画濃度(g/dl) Alb 56.8 70.1 4.13 5.08 α1-G 2.2 3.5 0.16 0.25 α2-G 6.2 10.2 0.44 0.75 β-G 6.1 11.0 0.44 0.81 γ-G 11.5 23.1 0.80 1.75 用いる支持体により分画濃度比は若干異なる. 臨床医学概論 1 血清蛋白分画 2 臨床医学概論 1 血清蛋白分画 3 異常値を示す疾患・病態 [ 量的異常 ] 評価は分画濃度比(%)ではなく,濃度(g/dl)(=TP %)で行う.各分画 に影響を与える主な蛋白は次のとおり. (1)アルブミン分画:アルブミン. (2)α1グロブリン分画:α1アンチトリプシン. (3)α2グロブリン分画:α2マクログロブリン,ハプトグロビン,リポ 蛋白. (4)βグロブリン:トランスフェリン,補体第3成分. (5)γグロブリン:IgG,IgA,IgM. [ 質的異常 ] (1)β-γ bridging:βとγの谷が浅くなる.IgAの増加を反映する. (2)monoclonal peak:モノクローナルな免疫グロブリンの産生による. 他のγグロブリンの抑制(+)→多発性骨髄腫型 他のγグロブリンの抑制(−)→良性M蛋白型 臨床医学概論 1 血清蛋白分画 4 血清蛋白分画の泳動像とデンシトメトリー 臨床医学概論 1 チモール混濁試験TTT,亜鉛混濁試験ZTT 1 血清に何らかの試薬を加えて生じた濁りの程度から疾患の有無を推 定する検査として血清膠質反応試験がある.多数の測定法が提唱さ れているが,現在日常検査で利用されるのはチモール混濁試験 (TTT)と亜鉛混濁試験(ZTT)の2つである. TTTの混濁度の増加は,血清中のγグロブリン(特にIgM,IgG),脂質 やリポ蛋白の増加とアルブミンの減少による.ZTTの混濁度の増加 は血清中のγグロブリン(特にIgG)の増加による.なお,血清蛋白 分画電気泳動法や免疫グロブリンの定量が容易に行えるようにな り,本法の測定意義は減じつつある. [ 基準範囲 ] TTT 0 5 Kunkel U,ZTT 4 12 Kunkel U 施設,測定機器により基準範囲は異なる.乳幼児<成人<高齢者. 臨床医学概論 1 IgG, IgA, IgM, IgD 1 臨床的意義 免疫グロブリン(immunoglobulin;Ig)の多クローン性の 増加は,感染症などの抗原刺激による抗体産生の亢 進,自己免疫疾患での自己抗体の産生,慢性肝疾患で の産生亢進などによる.抗体産生細胞の腫瘍性増殖で は単クローン性の増生を示し,血清蛋白分画電気泳動 では鋭いM-ピークを示す.低下の場合は免疫システム の機能低下や血漿蛋白の全般的な喪失を示す. [ 基準範囲 ] IgG:870 1700mg/dl,IgA:110 410mg/dl, IgM:35 220 mg/dl,IgD:9mg/dl以下. 測定方法,標準物質などにより施設ごとに若干異なっ ている.新生児<成人.IgMでは男性<女性. 電気泳動免疫固定法immunofixation electrophoresis 臨床医学概論 1 IgG, IgA, IgM, IgD 2 異常値を示す疾患・病態 [ 多クローン性上昇 ] 自己免疫疾患,慢性肝疾患,慢性感染症,悪性腫瘍. [ 単クローン性上昇 ] 多発性骨髄腫(IgG,IgA,まれにIgD,IgE),原発性マクログロブリン血 症(IgM),良性M蛋白血症(慢性感染症,悪性腫瘍などに続発). [ 特定の免疫グロブリンの上昇 ] IgA:IgA腎症,Wiskott-Aldrich症候群,肝硬変(特にアルコール性). IgM:A型急性肝炎,原発性胆汁性肝硬変,原発性免疫不全症の一部. IgD:Behcet病,原発性免疫不全症の一部. [ 低下 ] 原発性免疫不全症,ネフローゼ症候群. IgA:選択的IgA欠損症,ataxia telangiectasia(小脳失調と毛細血管拡張 を伴う免疫不全症),フェニトイン投与. 臨床医学概論 1 IgE • 臨床的意義 • IgE抗体は肥満細胞や好塩基球の表面に結合して存在するが, これに特異アレルゲン(スギ,ハウスダストなど)が反応する と,肥満細胞や好塩基球からヒスタミン,ロイコトリエンなど が放出され即時型アレルギー(アトピー)を引き起こす. • また,IgE抗体は寄生虫の防御に大きな役割を果たしている. • 血中IgE抗体の増加はアトピー性疾患,寄生虫感染を示唆する. 総IgEの測定は抗体特異性とは関係なく,蛋白量としてのIgEを 定量している(RIST). • 一方,特異アレルゲンに対する抗体を測定する方法がRASTで ある. • [ 基準範囲 ] • 40 360IU/ml,96 864μg/L,乳幼児<小児<成人. 臨床医学概論 1 C反応性蛋白 CRP 1 臨床的意義 急性炎症や組織崩壊が起こると血中に急性相反応物質が増加す る.これにはC反応性蛋白(CRP),血清アミロイドA,α1酸性 糖蛋白,α1アンチトリプシン,ハプトグロビン,フィブリノ ゲン,補体などがあり,いずれもマクロファージから放出され たサイトカインが肝細胞に作用して合成される. CRPは急性炎症刺激が起こって2 3時間以内に急激に上昇し,2 3日で最高に達し,速やかに減少する.上昇の程度と持続期 間は組織障害の程度を反映する. [ 基準範囲 ] CRP:0.05 0.15mg/dl,50 150μg/dl,0.5 1.5mg/L CRPは臍帯血では極めて低値(2 5μg/dl)を示すが,生後急速 に上昇し2 3日後には成人値より高値(300 400μg/dl)を示 し,それ以後徐々に低下する(生後5日以降:10 100μg/dl). 臨床医学概論 1 C反応性蛋白 CRP 2 程度 値(mg/dl) 頻度の高い疾患 方針 異常高値 10.0以上 重症細菌感染症を疑い血液培養 重症細菌感染症, 敗血症 重症急性 膵炎 中等度高値2.0 10.0感染症,炎症,組織破壊をチェック 細菌感染症,膠原 病活動期, 心筋梗塞,外傷, 外科手術後, 急性膵炎, 悪性腫瘍 軽度高値 0.2 2.0 ウイルス感染症,真菌感染症, 臨床医学概論 1 臨床的意義 赤血球沈降速度 1 赤血球沈降速度(赤沈または血沈,ESR,BSG)は,血漿中の赤血球が重力 により沈降してくる速度を測定する古典的な検査で,多数の要因を反 映する非特異的反応である.ESRに影響を及ぼす因子は,赤血球が連 銭形成し凝集塊を形成するのに影響を与える要素で,赤血球の量・形 態(貧血の有無,球状化など)および血漿蛋白濃度(フィブリノゲン,グ ロブリン,アルブミン,CRP,シアル酸など)が重要である.そのほか に,測定温度,抗凝固剤の濃度・混合化,沈降管の口径・傾き,検体 のヘマトクリット値も測定結果に影響する. [ 基準範囲 ](国際標準化委員会) 成人男性:2 10mm/L時間値. 成人女性:3 15mm/L時間値. 性・年齢により変動がみられる.妊娠により赤沈促進がみられる. • 赤沈とCRPは通常同時に測定される.CRPは発症後6時間程度後 に増加しはじめ,回復後も速やかに正常化するのに対し,赤沈 は,遅れて亢進し,正常化も遅い. 臨床医学概論 1 赤血球沈降速度 2 異常値を示す疾患・病態 [ 促進 ] (1)感染症や自己免疫性疾患などの炎症性疾患や漿膜の滲出性病変. (2)悪性腫瘍,心筋梗塞,熱傷,脳軟化などの細胞組織の崩壊性病変. (3)鉄欠乏性・再生不良性・巨赤芽球性貧血,急性白血病などの貧血症. (4)多発性骨髄腫,良性単クローン性γグロブリン血症,原発性マクログロ ブリン血症,寒冷凝集素症,クリオグロブリン血症,肝硬変症,ネフロー ゼ症候群,免疫芽球性リンパ腫などの血漿蛋白質の異常症. [ 遅延 ] (1)真性赤血球増加症(真性多血症),うっ血性心不全,脱水症,高地居住, 鎌状赤血球症,遺伝性球状赤血球症などの赤血球増加および形態異常をき たす病態. (2)播種性血管内血液凝固(DIC),線溶亢進,先天性無フィブリノゲン血症, 重症肝障害,L-アスパラギナーゼ投与などの低フィブリノゲン血症をきた す病態. 臨床医学概論 1 尿素窒素 BUN 1 臨床的意義 血中尿素中の窒素量(BUN)を表す.測定はN量として表される が,生理的には尿素と同義である.尿素は蛋白の代謝産物と して体内に蓄積するアンモニアから,肝の尿素回路により合 成される.血中に放出された尿素は腎糸球体で濾過され,一 部が尿細管で再吸収され,残りが尿中に排泄される(20 35g/日).腎機能(糸球体濾過値)の指標のみでなく蛋白異化 の影響を受けるため,クレアチニン(Cr)との比較が必要であ る [ 基準範囲 ] 8 20mg/dl,2.9 7.1mmol/L(urea) 男性>女性,妊娠で低下.日内変動あり(昼高夜低). 臨床医学概論 1 尿素窒素 BUN 2 異常値を示す疾患・病態 [ 上昇 ] (1)尿素の排泄障害. 糸球体濾過値低下:腎不全. 腎血流量低下:脱水症,ショック. 尿路閉塞:尿路系の癌,結石. (2)尿素の過剰産生. 高蛋白食. 異化亢進:絶食,発熱,感染症,癌,手術後. [ 低下 ] (1)尿素の産生低下. 重症肝障害:劇症肝炎,肝硬変. 尿素回路酵素欠損:オルニチントランスカルバミラーゼ欠損など. 低蛋白食. 異化減少:蛋白同化ホルモン,成長ホルモン. (2)尿素の過剰排泄. マニトール利尿,尿崩症. 臨床医学概論 1 尿酸 1 臨床的意義 ヒポキサンチン,グアニンなどのプリン塩基はDNA,RNAの構成 要素で,肝,骨髄,筋肉で合成されるほか,食事中の核蛋白の分 解・吸収,体内臓器組織の核酸の分解によっても産生される.尿 酸(UA)はプリン体の分解産物で,1/3は胆汁中に移行し,2/3は 糸球体より濾過され,尿細管による再吸収,分泌を受け尿中に排 泄される.高尿酸血症による過剰な(7.0mg/dl以上)尿酸塩の結 晶化,沈着が痛風である. [ 基準範囲 ] 男性:4.0 7.0mg/dl,238 416μmol/L 女性:3.0 327μmol/L 5.5mg/dl,178 男性>女性,新生児<成人.妊娠で上昇.日内変動あり(昼高夜 低). 臨床医学概論 1 尿酸 2 7mg/dl以上:高尿酸血症と定義. 7 7.9mg/dl:要観察. 8mg/dl以上:合併症,痛風の家族歴を有する場合は要治療. 9mg/dl以上:合併症,痛風の家族歴を有しない症例も要治療.6mg/dl以下を治療目 標値 異常値を示す疾患・病態 [ 上昇 ] (1)産生過剰. プリン合成酵素活性亢進. 核酸のターンオーバー亢進:白血病,骨髄腫,多血症,悪性貧血,乾癬,火傷. ATPのターンオーバー亢進:アルコール摂取,過激な運動,糖原病(筋原性). (2)排泄低下. 原発性(痛風の大部分). 腎障害:慢性腎炎,鉛中毒,多発性嚢胞腎. 高乳酸血症:妊娠中毒症,過激な運動. ケトーシス:飢餓,過剰脂肪摂取.肥満,高血圧,高脂血症,Down症候群. (3)分布の異常(細胞内→細胞外). 重症溶血性疾患,横紋筋融解,腫瘍細胞崩壊. [ 低下 ] (1)産生低下:キサンチン尿症,プリン合成酵素活性低下,重症肝障害. (2)排泄増加:特発性腎性低尿酸血症,尿細管性アシドーシス,癌(肺癌など). 臨床医学概論 1 偽陰陽性 尿酸 3 [ 高値 ] 高度溶血,黄疸,食事,アルコール摂取,運動, ストレス,薬剤投与(サイアザイド系降圧薬,フロ セミド,エタンブトール,抗腫瘍薬). [ 低値 ] 薬剤投与(抗痛風薬,イオパノ酸,イオポダートナ トリウム,イオベンザム酸),アミノ酸輸液. 臨床医学概論 1 クレアチニン 1 臨床的意義 筋肉細胞内でクレアチンはクレアチンキナーゼ(CK)によりクレアチンリン酸 と平衡を保ち,筋収縮時のエネルギー源としてのATPの供給を行ってい る.クレアチンの2%程度は1分子のH2Oがとれて不可逆的にクレアチニン (Cr)となる.Crは血中に流出し,腎糸球体で濾過され,尿中に排泄される (1 1.5g/日).したがって血中Cr濃度は腎糸球体濾過値(GFR)に大きく影 響されるが,GFRが正常値の80 50%では糸球体予備能により腎機能は代 償されて血清Crの上昇はあまりみられず,50%以下となってはじめて異常 値を示す.100/血清Cr(mg/dl)−10でGFRを推定できる.筋肉量も血清Cr 濃度に影響を与える.尿中Cr排泄量は同一個人については一定した値とな るため,蓄尿が正しく行われたかのチェックや,他の尿中物質濃度の補正 (Cr補正)に用いられる. [ 基準範囲 ] 0.5 1.2mg/dl,44 106μmol/L(酵素法) 測定方法により基準範囲はやや異なる. 男性>女性,小児<成人.日内変動あり(昼高夜低). 臨床医学概論 1 クレアチニン 2 異常値を示す疾患・病態 [ 上昇 ] (1)GFRの低下. 腎前性:脱水,心不全,ショック. 腎性:糸球体腎炎,間質性腎炎,尿細管壊死. 腎後性:尿管閉塞,前立腺肥大. (2)筋肉量増加 (3)先端巨大症,蛋白同化ホルモン投与. [ 低下 ] (1)尿中排泄の増加:尿崩症,妊娠. (2)筋萎縮:筋ジストロフィー,長期臥床. 臨床医学概論 1 アミラーゼ 1 アミラーゼ(AMY)には膵型(P型)と唾液腺型(S型)の2種類のアイソ ザイムがあり,それぞれ主に膵と唾液腺の外分泌細胞(腺房細 胞)で産生されるが,微量ながら肝,腎,肺,卵管,骨格筋,乳腺,甲 状腺にも存在する.分子量は54000 64000であり尿中に速やかに排泄 される. 血清アミラーゼの上昇は,(1)産生臓器の傷害による血中への逸脱,(2)腎か らの排泄障害,(3)腸管粘膜よりの吸収などによる.主として膵疾患のスク リーニング検査として行われる. [ 基準範囲 ] 血清総活性:50 160IU/L,0.83 2.67μkat/L 尿総活性:10 50IU/h(酵素法) アイソザイム:P型 17 59%,S型 41 測定方法や用いる基質により異なる. 83% 臨床医学概論 1 (1)P型優位 アミラーゼ 2 膵疾患:急性膵炎,慢性膵炎(初期は食後に一過性上昇,末期は低下),膵癌 (特に膵頭部癌),薬剤性膵炎. 胆道疾患:胆管結石,乳頭部癌. 消化管穿孔,イレウス,腹膜炎,慢性腎不全. (2)S型優位 耳下腺疾患:流行性耳下腺炎,唾液腺炎. 手術後ショック,火傷,肺炎,胃潰瘍,心筋梗塞. アミラーゼ産生腫瘍(肺,大腸,卵巣). [ 低下 ] 慢性膵炎末期,膵全摘後. 臨床医学概論 1 アミラーゼ 3 膵炎を誘発する可能性のある薬剤 消炎,鎮痛,解熱薬 アスピリン,フェンタニール,ヒスタミン,インドメタ シン 免疫抑制薬,抗腫瘍薬 アザチオプリン,メルカプトプリン,L-アスパラギナー ゼ 降圧利尿薬 フロセミド,サイアザイド,エタクリン酸 副腎皮質ステロイド アルコール 抗生物質 イソニアジド,リファンピシン,サルファ剤,テトラサ イクリン 臨床医学概論 1 抗不整脈薬 プロカインアミド
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