リサーチ TODAY 2016 年 2 月 17 日 米国大幅下方修正、世界バランスシート調整第4局面不安 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 みずほ総合研究所は四半期毎に改訂している『内外経済見通し』を発表した1。2015年までの基本シナリ オは、新興国が減速を続けるものの、先進国は緩やかな回復に向かい、なかでも米国に期待がかかる米 国機関車論であった。ただし、世界経済の長期に亘るバランスシート調整の第3局面として新興国問題を 抱える局面にあるため、その下振れには留意すべしとの認識であった。今回の見通しの特徴は、第一に、 新興国の減速が中国中心に予想以上に深刻で、一段の資源安を見込んだこと。第二に、さらに決定的な 転換は、米国への見方を大幅に下方修正したことである。その結果、米国の金融政策についても年内は 利上げなしとの判断に至り、為替が円高に大きく振れる可能性が高まったことから、日本の成長率も大きく 下方修正した。昨年までのシナリオは、過去10年の新興国主導の経済から先進国の回復へのバトンタッチ、 世界経済のけん引役が代わる端境期シナリオであったが、今後はバトンが落ちる可能性が生じている。金 融市場の年初来の大幅変動はこうした可能性への不安を反映したものだ。それ故当面は従来のリスクシナ リオをメインに据えざるを得ないとの判断に至った。 ■図表:みずほ総合研究所の世界経済予測総括表(2016年2月) (前年比、%) 暦年 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年 (実績) (実績) (予測) (予測) (予測) (前年比、%) 2015年 2016年 (12月予測) 3.3 3.5 3.2 3.1 3.6 3.3 3.6 日米ユーロ圏 0.8 1.5 1.8 1.4 1.7 1.8 1.9 米国 1.5 2.4 2.4 1.8 2.3 2.4 2.5 ▲ 0.3 0.9 1.5 1.2 1.4 1.5 1.4 1.4 ▲ 0.0 0.4 0.5 0.6 0.6 1.0 6.4 6.3 6.1 6.0 6.0 6.2 6.1 中国 7.7 7.3 6.9 6.6 6.5 7.0 6.7 NIEs 2.9 3.4 2.0 1.9 2.1 2.0 2.4 ASEAN5 5.1 4.6 4.7 4.4 4.5 4.6 4.4 インド 6.3 7.0 7.3 7.6 7.5 7.4 7.7 オーストラリア 2.0 2.6 2.3 2.5 2.5 2.3 2.6 ブラジル 3.0 0.1 ▲ 3.8 ▲ 3.5 0.0 ▲ 3.7 ▲ 2.5 ロシア 1.3 0.7 ▲ 3.7 ▲ 3.3 0.5 ▲ 4.1 ▲ 0.4 日本(年度) 2.0 ▲ 1.0 0.7 0.9 0.3 1.0 1.5 原油価格(WTI,$/bbl) 98 93 49 29 30 49 52 予測対象地域計 ユーロ圏 日本 アジア (注)予測対象地域計は IMF による 2013 年 GDP シェア(PPP)により計算。 (資料)IMF、みずほ総合研究所 1 リサ サーチTODA AY 2016 年 2 月 17 日 昨年末以 以来、みずほ ほ総合研究所 所の抱いてき きた基本シナ ナリオは、世界 界経済が20000年代以降の長期に亘 亘 るバランスシ シート調整の の「第3局面」、 、すなわち新 新興国問題を を抱える局面 面にあるとの認 認識である。新興国が下 下 振れリスクを を内包するが が、先進国に には緩やかな な改善が見込 込まれる。バラ ランスシート調 調整のこれま までの3局面 面 の展開は、下記の図表 表にまとめられ れる。第1局面 面は、2000年 年代以降の先 先進国の民間 間セクターで での過度な信 信 反動が、20077年のサブプ プライム危機、 、2008年リー ーマン・ショックにつながっ ったときまでである。第2 2 用拡張の反 局面は、第1局面の危機 機に対処する るための財政 政拡大により、2009年以降 降政府債務 務問題が生じた たところであ あ る。第3局面 面は、先進国 国のバランスシ シート調整が が自らの財政 政政策だけで では収まらず ず、新興国の信用拡張に に よって支えら られてきた時 時期だ。この第 第3局面では は新興国が新 新たにバラン ンスシート調整 整を迎え、世 世界のバラン ン スシート調整 整が新たな局 局面に入った た。それ故第 第3局面は「端 端境期」であ あり、けん引役 役の交代、つ つまり新興国 国 が減速し先 先進国が回復 復するとのシナ ナリオを取っ ってきた。しか かし、今回の見通しでは世 世界のバラン ンスシート調 調 整局面がさ さらに大きく転 転換して「第4 4局面」に入 入り、新興国が が深刻なバラ ランスシート調 調整にあるな なか、先進国 国 でもバランス スシート調整 整が長引き、世 世界同時不 不況に陥る可能性が生じて ていると考え えた。唯一の のけん引役で で ある米国も利 利上げによっ って失速し、世界にけん ん引役が不在 在となる「世界 界水没」不安 安、極端に言えば世界連 連 鎖不況再来 来の不安であ ある。このシナ ナリオは既に に、2016年初来リスクシナ ナリオとしてき きたものであっ ったが、今で で は当面、メイ インとして想定 定すべきシナ ナリオとなった た。本年初来 来の世界的な な株安は、こ こうした悲観シ シナリオが顕 顕 現化したこと とによる面が が大きい。その の結果、新年 年度を展望し した運用計画 画や事業計画 画は、従来とは は一転して、 慎重な姿勢 勢にすべきとい いうことになる る。 ■図表:世 世界経済のバランスシー ート調整の4 局面概念図 図 (資料)みず ずほ総合研究所 所作成 今回の見 見通しの特徴 徴は、米国の見 見通しを大き きく引き下げたことに代表 表されるが、中 中国を中心と とした新興国 国 では従来通 通り、大きな不 不安を抱えた たままである。 。事実、その の不安はより深 深刻になって ている。今後の世界経済 済 の課題は、不安の震源地である米国 国と中国の不 不安を政策的 的に除去でき きるかだ。米国 国については は、先月来、 筆者が議論 論してきた利上 上げ休止宣 宣言で、安心感 感を醸成させ せることが求められる。一 一方中国につ ついては、人 人 民元の切り下げ不安を封印させ景気 気対策を示 すことが必要 要だ。逆に、こうした対応 応が不在だと世界経済の の 不安定性が がより増してい いくという、危 危機シナリオも も懸念される る状態だ。 1 「2015・16・117 年度内外経 経済見通し」(みずほ総合研究所 所 『内外経済見通し』 2016 年 2 月 16 日) 当レポートは情報 報提供のみを目的と として作成されたもの のであり、商品の勧誘 誘を目的としたもので ではありません。本資 資料は、当社が信頼 頼できると判断した各 各種データに基づき 作成されておりま ますが、その正確性、 、確実性を保証する るものではありません ん。また、本資料に記 記載された内容は予 予告なしに変更される ることもあります。 2
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