臨床でよくみる皮 膚 疾 患 と そ の 対 応 アトピー性皮膚炎 はじめに 片 山 一 朗 本稿では、われわれが通常行っている治療を中 る。このようにADは多様性に富み、また医療サ この場合、常に脂漏性皮膚炎との異同が問題とな 診る機会は小児科に比し少ないと考えられるが、 治療法も必然的に異なってくる。幼少児の患者を が多いが 、 症 例 ご と に そ の 病 態 、 病 型 が 異 な り 、 においては、比較的成人型のADを診察する機会 変化が見られ、基本的に接触皮膚炎、貨幣状湿疹 いる。これらの病変部皮膚においては、湿疹性の 苔癬化局面、結節性の痒疹様病変などが知られて 病巣、慢性期に見られる皮膚の肥厚を主体とする >8風o葵営と呼ばれる乾燥性の皮膚、急性湿疹性 程度共通して見られる皮膚症状として、いわゆる よく知られているように、ADにおいて、ある アトピー性皮膚炎の臨床像 心に述べさせていただく。 イドから見ても、その診断、治療方針に統一的な などとの差はない。ADにおいては、このような その増加が問題となっている。皮膚科の日常診療 アトピー性皮膚炎︵以下ADと略す︶は近年、 難なものにしている一つの理由となっている。 ものがなく、このことが難治性のADの治療を困 CLIINICIAN,93No.42066 特集・実地医家がよく遭遇する皮膚疾患 四肢にも湿疹病変が見られること、高率にアトピ らの検討によれば、乳児ADはSDに比し、体幹、 性皮膚炎︵SD︶との異 同 が 問 題 と な る が 、 向 井 られる顔面、頭部に見られる皮膚炎は、乳児脂漏 なり、各時期に特徴的な分布を示す。乳児期に見 先に述べた臨床症状、 好 発 部 位 は 年 齢 に よ り 異 つ長期間持続することが最大の特徴とされる。 湿疹反応の原因ないし増悪因子が多様であり、か られている。 される弾力線維の変性によって起こるものと考え は、ステロイド外用剤の長期使用により生じると 例して重症化する傾向が見られる。これらの所見 長い症例に見られ、ステロイド外用の使用量に比 などと呼ばれる。両者とも、ADとしての病歴が その形態により、ポイキロデルマ様皮疹、∪嘗昌器畠 り、汚い黄褐色の痂皮を付着する。後者の皮疹は げられる。前者は顔面全 体 が 著 明 に 発 赤 し 、 赤 鬼 は、顔面の酒厳様の皮膚炎と頸部の色素沈着が挙 成人型ADで問題となっている皮膚症状として が 推 定 される。 特定の一群は、成人期にまで及ぶADをもつこと かとなり 、 少 な く と も 乳 児 期 に 湿 疹 病 変 を 有 す る 親の第11番目の染色体により遺伝することが明ら とを挙げている。さらに最近、アトピー素因が母 ST陽性が多いこと、五年後の非軽快率が高いこ するまでは、その是非を問うのは困難である。診 り、ADの概念、病型分類とその治療指針が確立 Dに対する考え方により多様な治療が行われてお るが、日常診療においては、それぞれの医師のA 以下に外来で行っている治療法を簡単に紹介す 作療法などが主体となる。 よる内服療法、副腎皮質ホルモン外用療法、減感 スキンケア、抗ヒスタミン薬、抗アレルギー薬に 表①に示すように、アトピー性皮膚炎の治療は、 アトピー性皮膚炎の治療 ー素因を認めること、血清19Eの高値、卵白RA 様の顔貌を呈する。急性期には滲出液が著明とな (413) 67CLINICIAN,93No.420 B.光線療法 サイクロスポリン 外用PUVA療法 プリムローズ油 UVA、UVB照射療法 (ガンマリノレイン酸〉 、 PDE阻害剤 C.内服療法 、 合成ダニ抗原による内服 抗ヒスタミン剤 減感作療法 抗アレルギー剤 、 抗原除去食など 漢方療法 D.免疫療法 特異的減感作療法 非特異的減感作療法 自家細菌ワクチン ω乳児ないし小児期および軽症のAD の治療 原則的にステロイド外用は行わず、白 色ワセリン単独ないしボチの重層を行う。 頭部の痂皮などに対してはオリーブ油を、 乾燥皮膚に対してはスキンケアローショ ンなどを使用する。夏期には、発汗、表 在性の細菌感染が増悪因子として作用す ることが多いため、積極的にシャワーな どを使わせる。掻破痕が目立つときには、 爪を切ることを励行させ、抗ヒスタミン 剤の内服を行う。 食事制限は、因果関係の明らかな場合 を除き行わない。現在、小児科などで乳 産生への影響が検討されているが、皮膚 児期の卵白制限による小児期のダニ抗体 (414) テロイド治療の適応、食事制限の功罪などを十分 F.新しい治療法 スキンケアー用品など ガンマインターフェロン 療に当たって心掛けている点としては、接触皮膚 亜鉛華軟膏など 、 に説明すること、極力ステロイド外用を控えるこ 非ステロイド軟膏 クリーンルーム 炎などの除外診断を確実に行うこと、患者ないし ステロイド軟膏 食事制限法 となどである。 A.外用療法 E.その他 保護者に 予 後 、 増 悪 因 子 、 ス キ ン ケ ア の 方 法 、 ス ①アトピー性皮膚炎の治療 CLINICIAN,93No.42068 ②ステロイド全身外用が顔面皮疹に影響したと思われる成人の アトピー性皮膚炎 n︾ 抗生剤 0 ︻91︻ρn︾︻σ 〔躯幹・四肢〕 〔顔〕 I ステロイド軟膏(g)/日 20.♀ 20 ↓パーマ ↓発汗 ↓発汗 顔面皮疹 10 (スコアー) 0 H.3.6 抗生剤 ∩︾ 〔顔〕 0 H.3.12 H.5./ H.4.7 ︻QI︻00︻り 〔躯幹・四肢〕 ー ステロイド軟膏(g)/日 28.♀ 20 ↓発汗 顔面皮疹 (スコアー) 10 0 H.3,46 H.4./ H.5./ 6 8 ステロイド軟膏(g)/目 42.♂ 〔躯幹・四肢〕 〔顔〕 抗生剤 20 ↓初診 ↓リバウンド ↓発汗 顔面皮疹 10 (スコアー) 0 H.3.6 10 H.4. 69CLINICIAN,93No。420 6 H.5。 (415) る。この他、思春期の手の皮膚炎はシャンプー時 できるの は 限 ら れ た 施 設 で あ り 、 カ ー ペ ッ ト の 除 ニクリー ン ル ー ム は 有 用 と の 報 告 が 多 い が 、 実 施 科医との連携による長期的な検討が望まれる。ダ 顔面、頸部の皮膚炎は持続し、発汗、パーマなど 週間程度の入院にて、急性の病変は軽快したが、 顔面、頸部の皮膚炎を認めている。三例ともに二 た症例であり、初診時、全身の湿疹病変に加え、 以上顔面を含む全身にステロイド外用を行ってい の刺激で、容易に急性増悪が見られている。多く 去、フロアリング、掃除の励行などを指導してい に手袋を使用させることが有効である。 の場合、顔面の増悪に引き続き全身の湿疹病変が に見られ、外来治療に抵抗性を示すものと、先に この場合、重症とは、難治性の湿疹病変が全身 イドの全身投与が顔面皮疹の発現にも何らかの影 作の減少などの改善傾向が見られており、ステロ 外用を使用することにより、顔面皮疹の軽快、発 ン単独ないし一“五程度に希釈したステロイドの 増悪している。ただ全身の外用にも、白色ワセリ 述べた酒敲様皮膚炎ないし赤鬼様顔貌といわれる 響を与えている可能性も考えられ、今後検討して ②成人ないし重症ADの治療 キロデルマ様皮疹と呼ばれる萎縮、色素沈着をき いきたいと考えている。 顔面の著明な発赤、色素沈着、および頸部のポイ たす症例の二つに大きく分けられる。成人におい 容易である。問題となるのは、後者の場合である。 することが多く、退院後のコントロールも比較的 部の皮膚症状を欠く場合は、短期間の入院で軽快 ︵東京医科歯科大学 助教授 皮膚科学︶ だいた。 以上、ADの診療につき簡単に述べさせていた おわりに ては、通 常 両 者 が 混 在 し て 見 ら れ る が 、 顔 面 、 頸 図②に三例の治療経過を示す。いずれも一〇年 CLINICIAN,93No.42070 (416)
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