放射性廃棄物固化用ガラスの溶解反応 -低模擬廃液とガラスビーズの溶融とその構造評価- ○渡邉圭太 1,矢野哲司 1,竹下健二 1,稲垣彰 2,越智英治 2 (東京工業大学 1,日本原燃㈱2) 1.はじめに ガラス固化による放射性廃棄物の安定な処分技術を確立することは,核燃料サイクルの効率 的な運用にあたり必要不可欠である。ガラス固化プロセスにおいて高レベル廃棄物とガラスビーズ との反応が進行する「仮焼層」と呼ばれる層の形成は,ガラス溶融炉全体の挙動に影響を与える重 要な現象であり,その物理的・化学的理解を深めることが必須である。 本研究では,仮焼層を擬似的に再現するために製作した温度勾配観察炉を用い,低模擬廃液 とガラスビーズによる仮焼層の形成を行った。さらに内部組織を観察するために,急冷固化して得 たバルク体を X 線 CT スキャナにかけることで,固化体組織を三次元的にとらえた。X 線 CT スキャ ナで得られた情報は冷却された構造についてのもので,高温状態のものではないが,それを踏ま えた上で,発生気体の流路,泡層,空隙の形成などについての情報を得て,仮焼層の構造モデル を構築するための基礎資料とする。 2.実験 上部の低温域から下部の高温域まで温度勾配を持たせる ことができる仮焼層溶解反応観察のための電気炉(Fig.1)を 用いて,ホウ珪酸塩ガラスビーズを 1.0 g/min~3.0 g/min の 範囲で,同時に低模擬廃液を 2.7 mL/min~8.3 mL/min の 範囲で供給量を変えて滴下し,溶融を行った。るつぼにはシ リカガラスセル(30mm×30mm×300mm)を用い,供給ととも に 1.5 mm/min の速度で電気炉下部の高温域へ降下させて いった。 溶融終了後,直ちにセルを電気炉から取り出し,急冷(放 冷)して内容物を固化させた。得られた試料の構造は,マイク ロフォーカス X 線 CT スキャナ装置を用いて二次元データ, 三次元データとして取得して,構造解析を行い評価した。 Fig.1 仮焼層形成のための温度勾配炉 3.結果と考察 ガラスビーズ投下速度 1.3g/min,低模擬廃液滴下速度 3.6 mL/min で得られたバルク体を,マ イクロフォーカス X 線 CT スキャナ装置を用いて撮影した結果を Fig.2 に示す。電子密度が高いも のほど X 線が透過されず白く映し出される。明るく見えているのが石英セルおよびガラス体であり, 内部の気泡,クラックは暗く表わされ,その状態が確認できる。上部(①)では,ガラスビーズは溶け ておらず,その球形状の有無が見てとれる。下部に行くにしたがって白い連続した部分と球状に見 える部分とが混在した状態へと変化し,その最下部では球形状の暗い部分は消失している。一方, 中央部(②)に大きな空隙が存在するが,この空隙は,低模擬廃液の代わりに水を滴下した場合に 観察された構造には見られなかったものである[1]。これは,溶融時にガラスと硝酸塩の反応により ガスが発生し,泡を多く含む構造が形成されていたと考えられる。冷却後に測定したものなので, その構造は消えているが,一端が③の領域に見受けられた。下部(③~④)に見られるメニスカス は,中央部と同様に,冷却した際の収縮により形成されたものである。 Fig.2 ガラス固化体の X 線 CT 画像 温度勾配炉を用いた仮焼層の擬似形成を行い,冷却固化体の X 線 CT スキャン測定により,仮 焼層の溶解状態やビーズ間の空隙,ガラス内部に閉じ込められた気泡がどのように分布している のか,などの情報を得ることができた。ガラスビーズおよび低模擬廃液の供給速度やセルの降下速 度,温度勾配の条件により,得られる固化体の構造,できる空隙の大きさは異なっており,高温時 に形成されていた仮焼層を推定する資料となることがわかった。気泡や空隙の形成がどのようにし て行われていくのかを理解することで,ガラス溶融炉における仮焼層の影響を明らかにすることが できるものと期待される。 参考文献 [1] 渡邉圭太,矢野哲司,竹下健二,稲垣彰,越智英治,第 51 回ガラスおよびフォトニクス材料討 論会要旨集,p.90-91,(2010) 本報告は,経済産業省の補助により日本原燃㈱が実施している「使用済燃料再処理事業高度 化補助事業」で得られた成果の一部である。
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