なぎさ 通 信 葛西臨海水族園 周辺の海から 第 19 号 June 2007 「西なぎさ」は、もう一つの水族園 葛西臨海水族園では、「西なぎさ」を利用して、 に職員の解説に聞き入っていました。一方、地曵網 観察会など東京湾奥の生物を知ってもらう機会を設 ツアーは、生物調査用の小型の地曵網を曳いて、 「西 けています。この春も2つのイベントを行いました。 なぎさ」の水中には、どんな生き物がいるのか皆さ 一つ目は、今年の新しい取り組みとして 4 月 30 日(月 んにお見せするものです。ハゼの仲間のビリンゴや ・祝)と 5 月 4 日(金・祝)に行った「西なぎさ水族館」 エビの仲間のイサザアミなど、たくさんの生物がア です。「東なぎさ」寄りの砂浜の一角に仮設テント ミに入ると 200 人以上の参加者の中から歓声が上が を張り、テーブルの上に小さな水槽や顕微鏡を並べ、 っていました。 周辺で見られる生き物の紹介をしました。ここでの 5 月 19 日(土)と 20 日(日)には、事前応募制 目玉は、干潟の生き物を観察するミニツアーと地曵 による「干潟の観察会」を行いました。こちらは例 網ツアーです。ミニツアーは、11 時と 12 時の2回、 年行っているもので、19 日はお天気が心配される 参加希望の人たちを 30 分ほど水族園職員が干潟に 中、参加した皆さんは、干潟に生息するカニ類を観 案内して、コメツキガニなどを観察するものです。 察したり、最後はマテガイの観察転じてマテガイ掘 1回あたり 20 〜 50 人の参加者があり、皆さん熱心 りに夢中になっていました。 (調査係 池田正人) トビハゼ通信⑤ 江戸川のトビハゼ護岸 「トビハゼ護岸」という言葉を聞 の水分が含まれた「柔らかい泥」の いたことありますか? 治水のほか 上です。蛇カゴは、 この「柔らかい泥」 トビハゼの保護も目的とした護岸で、 が波や流れによって流されないため 1992 年に市川市妙典周辺の江戸川放 のものなのです。 水路に作られました。 「トビハゼ護岸」は、土木や生物の 1990 年、台風 19 号の影響で江戸 専門家、そして地元住民の連携によっ 川放水路の堤防が一部沈下し、洪水 を防ぐため護岸の改修工事が必要と なりました。ところがここの干潟に は、日本最北限で繁殖するトビハゼ がすんでいます。このため、コンク リートで岸を覆う一般的な工法では なく、たくさんの生き物が生息でき る「多自然型工法」によって完成し たのが「トビハゼ護岸」なのです。 この護岸の特徴は,川岸とその沖 の部分にあります。川岸はコンクリー トで覆わずに土砂を盛り、その上に 蛇カゴの設置されたトビハゼ護岸 蛇カゴの設置されたトビハゼ護岸 て実現しました。これからも、改修 植物のアシを植えています。アシが 工事などが行われる際は、そこにす 根を伸ばすことで土砂の流出を防ぎ、 む生き物とその生息環境に配慮して, その根元は多くの生き物のすみ家に 人間との共存を目指してほしいもの なるのです。また、岸から 15m 程の (飼育展示係 田辺信吾) です。 ところには、 「泥」の流出を防ぐため、 小石を詰めた蛇カゴ(じゃかご)を 設置しました。干潟の生き物にとっ て、生活の場となる「泥」は必要不 可欠。それも、泥の粒の細かさや水 分等の好みは生き物によって異なり、 トビハゼがくらすのは細かくて適度 江戸川のトビハゼ なぎさの小さなサカナ便り⑧ ハゼの稚魚たち 春の「西なぎさ」で小型の 地曵網を曵くと,毎年きまっ てたくさんのハゼの稚魚たち が網に入ってきます。マハゼ, エドハゼ,アシシロハゼ,ビ リンゴ,ウキゴリなど…。 ハゼの稚魚はみなよく似た 姿かたちをしているのです が,よく見るとそれぞれ特徴 があって見分けることができ ます。また,マハゼの稚魚は 水深10m くらいのところの 巣穴から出てくるとか,ウキ ゴリは川で生まれてすぐ海に 流されてくるなど,それぞれ に生まれた場所が異なってい るようです。 これらのハゼの稚魚たち は,卵からかえってしばらく は水中を漂いながら泳ぎ,成 長に伴って海底で生活するよ うになります。そして,「西 なぎさ」のような干潟で成長 し,数 cm まで大きくなると, マハゼは川や河口に,ウキゴ リは川へ,エドハゼは砂の穴 の中にとそれぞれの生息場所 へ帰っていきます。 どるまで,鳥やスズキやカレイ, アナゴなどの魚に食べられてし まうことも多いはずです。海の 中には,「食べる,食べられる」 というきびしい関係があります。 残酷なようですが,大量に発生 するハゼの稚魚たちは,他の魚 に食べられることで,東京湾の 豊かな海をささえているといっ ても良いのでしょう。 (飼育展示係 江川紳一郎) エドハゼ 入口 しかし,このようなハゼた ちの成長過程は、安全なとこ ろばかりではありません。特 に、生まれてすぐの水中を漂 う時期や,干潟での生活,そ してそれぞれの生息場所にも ビリンゴ 初夏の水族園周辺生き物マップ ● 三日月干潟 水上バス 発着所 このあたりでマテガイを 獲っている人も多い。 晴れた日の干潮時には、 このあたり一面でコメツ キガニが見られる。 浅瀬にはハゼ類の稚魚が多く、コアジサシが 水面にダイビングしてこれを捕まえている。 夜になると大きな ヒキガエルが歩い ている。 「トビハゼ護岸」があるのは、 江戸川放水路の市川市妙典付近。 ●●●初夏の西なぎさ●●● 人工海岸である西なぎさができて約20年、干潟にはたくさんの海の生物が戻ってきました。なかには食べ られる貝も多く、この季節には潮干狩りを楽しむ人たちがやって来ます。ここで獲れる貝はマテガイやシオ フキが中心ですが、シオフキは砂出しが難しく、料理には少し手間がかかるようです。 初夏の干潟で食物を探すのは人間だけではありません。遠浅になった海の中にはハゼなどの稚魚が集まり、 白くスマートなコアジサシがこれを狙って海に飛び込んでいます。砂の上を歩きながらゴカイやカニを探し ていたハマシギは、そろそろシベリアへ出発し、少なくなりました。 編集後記: 「西なぎさ」だけではなく、水族園のある葛西臨海公園も埋め立てられた人工の土地です。今の季節、公園内では、ヒキガエルが歩いていたり、 アマガエルの声も聞こえます。きっと、新たな土地にやってきたカエルたちの、何代目かの子孫なのでしょう。 なぎさ通信 第 19 号(2007 年 6 月 5 日発行) 編集・発行 / 東京都葛西臨海水族園 & ㈶東京動物園協会 /03(3869)5152
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