- 1 - 学 校図 書選 定 児童 図書 ど根性 中岸おさむ土方半生記 第二章 刊 改訂 版電子書籍 よしい ふみと 作 【平成二 十六年 山の辺書房かしはら出版編集室 - 2 - こんじよう さんけ いどう ぶたい せかいいさん き い さ ん ち と う ろく この児童図書「ど根 性」の舞台は、平成十六年『紀伊山地 れい じ よう さ いげ つ の霊 場と参 詣 道』としてユネスコ世界遺産に登 録さ れ たところであ る。 む かし した さん け い た おと ず 登録から、ひと 昔 の歳 月がながれたが、今なお世界 かくち よみがえ せいち しんこう 各地から、この地を 慕 って参 詣者が絶えることなく 訪 さと く ま の れている。 ゆうげん 幽 玄の 郷 熊野は 人 [ 生 蘇 りの 聖 地 と ] して 広 く信 仰 を集めてい る。 ぜ つぱ ん 本書は、平 成元年初版本 を全国発売 したあと、自 費出 せ いや く た かい て いば ん 版という制 約のもと、やむなく絶 版となったが、その こうど く じゅどうてきしこうかいろ 後も購 読希望者が後を絶たず、このたび改 訂 版電子書 籍とし て出版するこ とになった 。 へんせん せつなてき しげき 時代の変 遷とはいえ現在人は受動的思考回路のみに しゅうし 終 始し、刹那的な刺激のみを追い求めている。結果、 ここじん ほうかい き ゆう ぞ う 個 々人 の意識 レベル低下 、人間本来が もっている はずの の う ど う て き し こ う か い ろ げんすい 能動的思考回路減 衰によるイメージ力崩 壊が急 増。 き ぐ じごくへん れ んそ う 危惧 される社会 となっている 。そのさま は、あたかも 、 し んき よ く ダンテの神 曲「地獄篇 」を連 想させ る。 - 3 - ひげき カ ーライルは 「人生はそれ を歩む者に とっては悲劇 で きげき あり、そ れを考える 者にとっては 喜劇である 」という。 う び よう し や ど くしやそ う し かし、この世 に生を享け た以上、生き なければな ら ない。 しつぴつ 本書執 筆には、イメージ描 写を心がけ、読 者 層も 小学校高 学年から読ん でもらえるよ うにした。 とくていちいき その かいあって か、特定地域 学校では学校 図書に選定 してもらっ た。 じごくへん どん底・地獄篇で叫び続ける多くの人々が本書に接 こう じ ん し、少しでも、希望と勇気を感じていただければ幸 甚 です。 か つか い 物語の最後に、各 界からお寄せ頂いた感想文の一部 らん を追加 しました。ぜ ひご 覧 ください。 【 巻末に、本 書内の方言解 説を掲載。 参考にしてく ださ い。なお 、読後感想 などありまし たら、山の 辺書房ホー 初秋 ふ みと ム ページのメー ル受付にご 投稿いただけ れば大変う れし く思いま す】 平成 二十六年 よしい - 4 - 【コ メント】 平成元年、 ベストセラー 自伝となっ た話 題作をぜ ひ再出版を というご要望 にお応えし て、電子書 ) 籍 として出版し ました。 内(容 昭 和三十一年、 今は世界遺産 の地となっ た熊野本宮に 生まれ、 幾度も涙しな がら限りなき 貧しさに立 ち向かっ た日々 そ(の様は名作「おしん」の男版と評された 。) 小学六年で 真夜中の土 方仕事を体験 。加えて、学 校で の無 視、登校拒否 。そんなな か、中学にな っても真夜中 の土方はつ づいた。…夜 通し土方し た朝、母が運 んでく れた朝 飯の茶粥を 学校の始業時 間を気にし ながらかきこ んだ音無川の 河原。暗く 寂しい孤独の 谷間で主人 公を迎 えてく れた運命の扉 とは……。 各 地で学校図 書になった実 録読物です 。また、ドラ マ の背景が 高度成長期 のため、団塊 世代の方々 にも共感し て いただけるも のと思いま す。 特に、教 育関係者から ご評価をい ただき、その 現場に おい ても参考に なるのではと 考えます。 核家族化、若 者 の自殺等、 閉塞感ただ よう現在社会 において、 人間の原 点と は何かを再考 していただ ける作品です 。 - 5 - 七 も くじ 母のぞうり 二六 第 二 章 真夜中のじゃり持ち 七七 六一 主人公プロ フィール 七八 孤独へ の入 口 主人公からの メッセージ 各界からお寄せ頂いた書評の抜粋 平 ( 成元年一月から三 八一 九二 ) 本 書内の方言解 説 九四 月まで 紀南新聞掲載 奥付 - 6 - 母 のぞ う り 一 あと数日で夏休みという日、おさむが学校を終えて うち 家の前まで来ると、 家 のなかから、母の泣き叫ぶ声が ち よ つか ん 聞こえ てきた。同時 に、物のぶ つかる音もす る。 かあ … …けんかし とるな。 とお 父 や んと 母 やん、とう とう始めたと 直 感。 松 一は、めずら しく長い間 、仕事にあぶ れていた。 か めつた いもく山 仕事がないら しい。夏場 は毎年そうだ ったが、 し ゆう じ つ い っせ ん こん どのように 仕事のきれる ことも、滅 多になかった 。 ひま どかた それで、例 によって、 終 日納屋にこ もって一 銭 にもな さいく しょうきぼ らな い細工ものに 暇 を つぶしていた 。 て ま ち ん 村のなかに は、その気が あれば、小 規模の土方仕 事や まき 薪 つくりなどの手間賃かせぎは少なからずあったが、 松一は、ガン として行こ うとしなかっ た。それで 、数日 あんのじようふうふげんか さいちゆう 前から夫婦の間で、こぜりあいがつづいていたのである。 うち 家 の な か で は 、 案 の 定 夫 婦 喧 嘩 の真 っ 最 中 。 父 松 一 かべ は、奥の四畳半に追い詰められ、 壁 を背にして目をむ - 7 - しだい つか いている。母は、気が狂ったように、手あたり次第物を 掴 ず じ ょう ふ す ん ぜん んでは、 父に投げつ ける。おさむ が家に入っ た時も、土 げ た 間の下駄を頭 上に振りかざし、まさに投げる寸 前だっ た。 かぁ 「 母 やん 、やめてくれ !」 ぼん 盆 のこしらえも出来ん おさむは 、母の腕を押 さえた。 「とーやんのかいしょ無し! わだよ」 もと ゑは、おさむ の腕にすが りついて泣い た。 「なにも、おれゃ、働かんいうてないぞ、山仕事切れて、 さそ 仕 事さえあっ たら 、 だれも 誘 いにきてくれんさか、しかたないんじゃい。 おれが悪いんとちがうぞ、アホめ! いくらでも、するんじゃい。山仕事ないさか悪いんじゃ。 ・ ・ ・ ・ ・ そ れもわから んのか、くそ たれゃ!」 い くに ち 松一は、 おさむのお かげで、物が 飛んでこな くなった ど な の をいいことに 、奥の部屋 で怒鳴り返す 。 せい たしかに松一のいう通り、彼は山仕事があれば、幾 日 じようきげん でも上 機 嫌で 精 をだした。なまけて仕事をしないので ゆ う ずう はなかったが、山以外は、ほとんど融 通がきかない性 格だ った。 - 8 - も とゑも、そ んな松一の性 格は長年連 れ添って分か っ ていた。だが、現実問題として手元に現金がなくなると、 せりふ つ い「この、か いしょ無し 」の台詞が口 をついてし まう のだ。 くちげんか い つもは、口喧 嘩程度でおさ まるのだが 、きょうはす とお こし様子 が違うとおさ むは感じた。 だいぶ長時 間戦った けはい よう な気配があ る。 父 やんも相当頭 にきている 。 「おまえみ たいな、も のわかり悪い やつは、どこ へでも うせ ろ!」 おさ おさむが、止めにはいったぐらいでは、いっこうに、収 もう だれ だれが、こんな家帰るもんか。誰 出て行ってもええんか! まりそ うもない。 もとゑも負け ていない。 「ええんか! ・ ・ ・ ・ ・ こんさ かいにのお! いつしよ そん な男おったら 、お目にか かりたいわ そ 、働き者の 男みつけて一 緒になるさ かいにのお」 「なにお っ! い 。自分の顔よ う見てみい 、いなかババ アが」 「そんな ら、出ていく さかのお! 」 もと ゑは、いう がはやいか、 玄関を飛び 出した。おさ むは、ただ ごとではな いと思った。 だが、父も 母も、完 全に 頭に血がのぼ っている。 手のほどこし ようがない 。 - 9 - か も とゑは、後 も見ず石段を 駆けおりて いった。 とぉ 「 父 やん!」 お さむは父を見 た。 あぐら 「ほっと け、ほっとけ 」 かまど 松 一は 、 竈 の 口 で胡 坐を かい て、キセ ルに粉 のよう になった タバコの葉を 詰めて吸い始 めた。 おさ むには、母 の行き先が分 かっていた。 父も知って いた。それで、その点については心配はしなかった。が、 母が 家に居ないと やはり不自 由であった。 しばらくし て、中学の要 、それに祥 子と公が学校 から 帰 って きた 。おさ むが 訳を 話すと要 は、「ま たか」と い って顔をしか めた。松一 は、知らん顔 でキセルを ふかし ている 。 「 母やん、ま た、村岡のお ばさんとこ 行ったんか」 話を聞い ていた祥子 がいった。 「 あした、学校 の帰り、遊 びに行こか」 公が祥子 にいう。 もと ゑは、この ようなかたち で、家をあ けるのが、今 度で三度め 。それで、 公も母の家出 先を知って いて、母 こも がそ こに 籠 ると遊びに 行っていた。 - 10 - 児 童図書 ど根 性 ) 第二章 改訂版電子書籍 として出版 中 岸お さ む、 土 方 半生 記 平成 二十六年九月 定価、三五 〇円 税 (込 者、よしい ふみと http://www8.ocn.ne.jp/~yamanobe 発行者、向井 靖徳 著 ー のりこ fax.0744-46-9973 ISBN978-4-902941 、奈良県橿原 市畝傍町四一ー 一〇 0065 発行 所、山の辺書房 かしはら出版編 集室、 話、 〒 電 正、貴村 岩崎政 文 fumito yoshii 2014 Printed in Japan 下川殖久 、 0744-46-9832 校 字 表紙デ ザイン、挿絵 題 ○C - 11 - 634 - 12 -
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