なざなざなざりっく! プロインパクト ︻注意事項︼ このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP DF化したものです。 小説の作者、 ﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作 品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁 じます。 ︻あらすじ︼ ユグドラシルサービス終了時に起きた、もしかしたら有り得たかも しれない世界の話。 この話は制作者のオリジナル展開も多少入ってます。 その場のノリなどで書いてますので定期更新ではありませんが、ど しどし書いていきますのでお相手お願いします。 目 次 ︶会、お茶会、撮影会 ││││││││││││││ 始まりと再会 │││││││││││││││││││││ 女子︵ ぷらねっとうぉっちんぐ │││││││││││││││││ ナザリック大会議∼至高の方々による至高なる会議∼ ││││ ナザリック大会議∼守護者によるナザリックの為の会議∼ ││ 師弟の稽古 │││││││││││││││││││││││ へいわのひとこま ││││││││││││││││││││ はじめてのおつかい │││││││││││││││││││ 正義の味方∼カルネ村編∼1 │││││││││││││││ 女教師怒りの鉄拳∼カルネ村編∼2 ││││││││││││ おっちょこちょい∼カルネ村編∼3 ││││││││││││ ガゼフ・ストロノーフ∼カルネ村編∼4 ││││││││││ メンバーチェンジ∼カルネ村編∼5 ││││││││││││ 戦いの終わり∼カルネ村編∼6 ││││││││││││││ ナザリックの忙しい一日 │││││││││││││││││ おいでよ、ナザリック城 │││││││││││││││││ どきっ、女だらけのイベント回︵異業種含む︶ │││││││ つかの間の平穏 │││││││││││││││││││││ 1 5 10 15 20 25 30 36 42 47 50 55 60 63 68 75 82 87 ? 始まりと再会 オンラインゲーム︻ユグドラシル︼サービス終了当日、10分前。 ギルド︻アインズ・ウール・ゴウン︼の本拠地、ナザリック第十階 層にある玉座の間に、二人の姿があった。 そのうちの一人。ギルド長であるモモンガは、守護者の一人である アルベドの設定を見て、一人絶句していた。 ﹁設定魔なのは知っていたけど、タブラさん設定凝りすぎだろこれ⋮﹂ そんな呟きが、モモンガがいる玉座の間にぽつりと広がる。傍らで モモンガに向かって微笑んでいるアルベドだが、そのキャラクター設 定は膨大な量の文章で記されていた。 電化製品の取り扱い説明書のような文章量に、モモンガが飛ばし気 味で設定画面をスクロールしていくと、最後の一文に目が止まった。 ⋮⋮ビッチ であるタブラの性格︵性癖とも言える︶を思い出して頭を抱えた。 一度やると決めたら徹底的にやり込む、そしてギャップ萌え。アル ベドのキャラクター設定を見たら分かる通り、かなりの凝り性なの だ。 因みに、アルベドには他にもニグレド、ルベドという姉妹がいる設 定もある。 ﹁女の子なのに、流石にこれは可哀想だ⋮⋮﹂ 設定画面を開いたまま、う∼むと唸るモモンガ。その姿はアンデッ ドのオーバロードの物なので、骸骨が悩む姿はかなりシュールな画に なっている。 最後の日だし、皆も許してくれるだろ。 ギルドを象徴するギルド武器︽スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ ゴウン︾を使用して、設定の改竄を行う。〝ちなみにビッチである〟 1 ピッチ ? ちなみにビッチである ビッチ ? 時が止まったように少しの間手が止まるモモンガだったが、製作者 ? という行を消して、モモンガは肘を付いてふと考える。 ﹁え、うーん⋮⋮、良いのかなぁ⋮⋮。ま、いっか、どうせ最後だし﹂ 決断したなら、後は実行有るのみ。と、ノリノリで残った行に文字 を入力していく。 モモンガを愛している ﹁おぅっふ﹂ 想像以上の気恥ずかしさに、思わず出したこともない声が吹き出し た。こんな美人が俺の事を愛してくれたらなぁ⋮⋮。と。 そして、そんなモモンガを見つめる目線が3つ。 の姿がそこにあった。 声に合わせて敬礼した彼は、ニカッと笑って言った。 ﹁今日が最終日だって言うし、来たんですよ。正直、ギルドが残ってい るとは知らなかったですけどね、今日までありがとうございます﹂ あぁ⋮⋮、懐かしい。 目の前のるし★ふぁーに対して抱いた感想はそれだった。ギルド 一の問題児として大変だった彼だが、その問題行為も今では良い思い 出になっている。 2 ﹂ ﹁みーちゃった、みーちゃった。せーんせーにゆーたーろ♪﹂ ﹁ く。 ﹂ ﹁ギリギリだけど、おひさーです ﹁るし★ふぁーさん⋮⋮ ! アインズ・ウール・ゴウンが誇るギルド一の問題児、るし★ふぁー ? ﹂ 自分が座る玉座の背から聞こえた声に、思わずモモンガは振り向 ?! モモンガが感傷に浸っていると、るし★ふぁーが言った。 ﹁ま、僕だけでなく他の人も居るんですけどねー。ほら、あの人も﹂ るし★ふぁーが、モモンガの座る玉座の前に向かって指を指した。 ﹁タブラさんもね﹂ ﹁お久しぶりです。モモンガさん﹂ そこには、タブラ・スマラグティナの姿があった。その姿を見て更 ﹂ に興奮し、思わず泣きそうになるモモンガに向かって、タブラは続け た。 ﹁いや、この場合は義息子の方が良いのかな 骸骨の身体なのに、全身に冷や水をぶっかけられた様な感覚がモモ ンガを襲った。それと同時に、スゥ、と緑の回復エフェクトの様な物 が身体を包み、先ほどの緊張感が消えてしまった。 それを見て頭に﹃あれ、こんなエフェクトあったっけ﹄と疑問符を これはまさ 浮かべるモモンガとるし★ふぁーだったが、こちらへと近付いてくる タブラの重圧感に押し潰されそうになる。 ﹂ ﹁いいや、同僚に守護者を取られたのだから⋮⋮寝とり かNTR、寝とりなのか ? ﹂ たことの重大性を知った。そりゃそうだ、怒るさ、と超位魔法の一発 タブラ・スマラグティナ様、どうか御許し下さい でもくらう覚悟を決めたが。 ﹁お待ち下さい ! 3 ? 興奮気味に此方へと近付いてくるタブラに、モモンガは自分が行っ ?! 突然動き出したアルベドによって、3人の思考がストップした。 ! ﹁やっぱり怒ってますよね ﹂ ﹂ 4 ﹁大丈夫ですよ、NTR展開とか最高じゃないですか ﹁あー、この人やっぱアレだわ﹂ ! ? 女子︵ ︶会、お茶会、撮影会 ナザリック第六階層、豊かな自然が広がっている大森林の中にある 巨大樹。その中には、5つの人影が見えていた。︵人影と言っても、頭 に異形種の、が付くが。︶ ﹁それにしても、まさかナザリックの中でリアルに過ごす日が来ると はねぇ﹂ ﹂ ﹁本当ですよねー。まぁ、ご飯も美味しいし、施設も最高だし、元現実 とは天と地の差ですけど﹂ ﹁最初はボクもビックリしましたけど、今では結構慣れた⋮⋮かな ﹂ かなり短めのスカートの裾をギュッと握り、ダークエルフ独特の浅 のドレスなどが有るし、キグルミなども用意している。 くぶく茶釜の趣味だ。他にも部屋の隅にあるタンスの中には数種類 アウラがこのような格好をしているのは、簡単に言ってしまえばぶ い。 を見せている。はっきり言って破壊的な可愛さだった、一枚撮りた 普段の快活なキャラは引っ込み、年頃の少女のような初々しい様子 すれば﹁誰だコイツ﹂みたいな感想を抱かせた。 顔を赤らめながら言うアウラの言葉は、普段の彼女を知るユリから の⋮⋮、少し恥ずかしいというか、なんというか﹂ ﹁い、いえ、申し訳ありません。普段はこのような服は着ないため、そ たフリフリのドレスを着ていた。 ウラの服装は普段の動きやすそうな服装とは違い、ピンクを基調とし ぶくぶく茶釜は膝の上でモゾモゾしているアウラに問い掛ける、ア ﹁ま、確かに最初はテンパったけどねー、ってアウラ、どうかしたの オーラ、やまいこの脇に控えているメイドのユリ・アルファがいる。 だ。他にはぶくぶく茶釜の膝に乗っけられているアウラ・ベラ・フィ もっちもち、やまいこのアインズ・ウール・ゴウン女性メンバー3人 丸形のテーブルに集まって話しているのは、ぶくぶく茶釜、餡ころ ? ? 黒い顔を真っ赤にして俯くアウラを見て、ぶくぶく茶釜は無い表情を 5 ? 愉悦に歪ませた。 ﹁ふっふっふ、やはりこのぶくぶく茶釜の感性は間違っていなかった ようだよ、餡ころさん﹂ ﹁本当です最高です撮ります﹂ 何処からともなくカメラを取り出した餡ころもっちもち、アウラは 二人から漂うイヤな空気に身体を凍らせる。 ﹁え、ちょ、ま、待ってください‼御慈悲を、御慈悲をぉぉぉ‼﹂ ﹁ダーメ♪茶釜さん、エロいの行きましょう、エロいの﹂ ﹁合点承知﹂ 言うが早いか、ぶくぶく茶釜の身体の一部が変形し、アウラの手足 を拘束する、立場的にも実力的にも格上の二人からは、今のアウラで は逃げ切れなかった。 ﹂ でもせめて、せめてもの慈悲をもう二人残っているやまいことユリ に求め、すがるように視線を向ける。 い﹂ ⋮⋮お褒めの言葉、大変嬉しく御座います﹂ ﹁ありがとう、ユリみたいなメイドを持って幸せだよ﹂ ﹁っ ﹁薄情者ぉ‼﹂と心のなかで叫んだ。 ◆ ﹁うぅ⋮⋮﹂ 疲れた⋮⋮、精神的にも肉体的にも。 次はこの衣装、次はこれ。そんな感じに着せ替え人形と化していた 6 ﹁うん。このケーキ初めて食べたけど好きな味だな﹂ ﹂ ﹁お口に合ったようで幸いです、お飲み物は如何しますか ﹁んーと、ロイヤルミルクティーとか有るかな ? ﹁畏まりました。すぐに用意致しますね。その間、此方をお食べ下さ ? こっちの事なんかガン無視でお茶してやがった二人に、アウラは ! アウラは、ひとしきり撮影が終わると解放された。普段着ている服装 に着替えると、部屋に備え付けられている椅子に腰掛けた。 ﹁やー。お疲れ様ー﹂ ﹁っぁ、申し訳ありません‼﹂ 手を軽く振りながら現れた餡ころもっちもちに、アウラはすぐさま 立ち上がって頭を垂れる。疑問そうにこちらを見る彼女にアウラは 口早に謝罪を述べる。 ﹁至高の御方を前にして不敬な態度、申し訳ありません‼﹂ 普段通りの服装に身を包んだ今となっては、先ほどの様な真似は出 来ない、いや、してはいけない。という気迫が、アウラから漂ってい る。 文句なしの姿勢で謝罪するアウラを見て、餡ころもっちもちは会長 の前でだらけた社員みたいなものかなー。と他人事の様に思ってい た。 ﹂ 二人の会話を聞いて、アウラは口を開く。 ﹂ ﹁至高の御方であるお二人の前で、失礼な態度は取れませんので﹂ 軽く頭を下げ、敬礼しているアウラ。そんな彼女に、ぶくぶく茶釜 は言った。 ﹁それは守護者としてのアウラの役割でしょ。今は、私の娘としての アウラで居てよ﹂ 7 いつまでも何も言わない彼女に、アウラが不安気に少し顔を上げ る。そんなアウラを見て、餡ころもっちもちは笑った。 ﹁あははは、大丈夫大丈夫。怒ってなんかないよ、楽にして ﹁ハッ﹂ ﹁いや、普通に座ってほしいんだけど⋮⋮﹂ ﹁ただいまー⋮⋮、何の状況 もれる。そんなことをしていると、ぶくぶく茶釜が戻ってきた。 その場で手を後ろに組んで待機をしだしたアウラに、思わず苦笑が ? その言葉を聞いてぶくぶく茶釜は軽くため息を漏らした。そんな ﹁またですか﹂ ﹁いやね、アウラがまた真面目ちゃんに戻っちゃって﹂ ? ﹁そーだそーだ﹂ ケラケラと笑って追撃する餡ころもっちもち。 ﹁で、ですが、それは至高の御方への侮辱に﹂ ﹂ ﹁あぁーもぅー﹂ ﹁ぁぅっ 本日何度目かの拘束を受け、アウラの身体はぶくぶく茶釜へと運ば れる。膝の上にアウラを乗せたぶくぶく茶釜は、彼女の頭を優しく撫 でていった。 ﹁その至高の御方で、アウラの親である私が言ってるんだから良いの。 もし文句を誰かから言われたらソイツ連れてきなさい、お話をするか ら﹂ ﹁ナニをするんですかねぇ﹂ ﹁ナニでしょ﹂ ﹁﹁イェーイ﹂﹂ ベチン、という低めのハイタッチ音が響く。ぽかんと口を開けてい るアウラに、餡ころもっちもちは言った。 ﹁そんな恐ろしいお母さん﹁オイ﹂違った、美少女なお母さんなんだか ﹂ ﹂ ? ? ら、大丈夫だよ。何かあったら、私ややまいこさんにも相談しなよ ﹂ ﹂ ﹁うん。気軽に頼ってくれると、ボクも嬉しいかな。ユリもだよ ﹁は、ハイ ﹁ありがとうございます ﹂ 再び団欒が始まった時、そういえば、とアウラが口を開く。 あぁ⋮⋮﹂ ﹁先ほど、お二人はどちらに行かれてたのですか ﹁ぅん ﹁第九階層の、写真屋﹂ ? 8 ?! 神にも等しい方々からの言葉に、二人は涙目で返事をした。 ! ! カチャリ、と二人はティーカップを置いて ? ﹁ディーフェンス‼ディーフェンス‼﹂ ﹁と、通 し て 下 さ い ‼ ア レ だ け は、ア レ だ け は 現 像 を 阻 止 し な け れ ばぁぁあああ‼﹂ ﹁ディーフェンス‼ディーフェンス‼﹂ ﹁ちょ、お二人共、本当に御慈悲をぉぉぉ‼﹂ やいのやいのとドタバタしだした三人を見て、やまいことユリは苦 笑いをしていた。 ﹁でも、こういうのも好きだなぁ﹂ ﹁⋮⋮はい﹂ やまいこの言葉に、ユリは優しく微笑んだ。 後日、ナザリック内部にて、ダークエルフの少女のコスプレ画像︵ギ リギリ︶が極秘に流通するが、それはまた別のお話。 9 ぷらねっとうぉっちんぐ ﹁ふぅ、こんなものかなぁ﹂ 第六階層の大森林、木々が生い茂るその中に、マーレ・ベロ・フィ オーレの姿はあった。 何処から見ても少女、という姿であったが、その実、男の子である。 否、男の娘である。 ドルイドである彼は、その能力を使用して、森の調整を行っていた。 ﹂ 邪魔な雑草を枯らせたり、木々に水を上げたり、様々だ。 ﹁⋮⋮ 次はどうしようか。とマーレが考えていると、彼の索敵に引っ掛 かった反応があった。大きさ的には姉が飼っている魔獣だろうか、と 彼は考える。 この森には姉であるアウラ・ベラ・フィオーラの使役獣のフェンリ ル等が放し飼いされている。特別襲い掛かってはこないのだが、見た 目はかなり怖い。 それだったらどうしようかなー、怖いなー。と思っていたが、目に ﹂ 入ったソレを見てそんな考えは全て吹き飛んだ。 ﹁ぶ、ブループラネット様⋮⋮っ い ﹂ ﹁急に来て悪かったね。少し、この辺りでゆっくり出来る所はないか 言った。 姿を確認してすぐ、跪く。そんなマーレを見てブループラネットは ?! そちらにご案内します﹂ ﹁うん、宜しく頼むよ﹂ ﹁あぁ、そこまでされなくても、命令してくだされば充分です ﹂ ペコリと軽く頭を下げたブループラネットに、マーレは慌てて上げ ! 10 ? ﹁は、はい。それでしたら、この先に開けた場所が有りますので、そ、 ? るように促す。至高の御方である方からならば、どんな命令でも遂行 するのが当たり前であり、また命令されるのは褒美と一緒だからだ。 ﹁︵ぜ、絶対に粗相の無いようにしなきゃ⋮⋮︶﹂ 若干カチコチと動きがぎこちなくなっていたが、マーレは目的地へ とブループラネットを案内した。 ◆ 正直叫びだしたかった。 ブループラネットは、先頭を行くマーレに付いて行きながら、そん な衝動にウズウズしていた。 彼は自然を超が付くほど愛している男である、特に星空が好きで、 素材と金を用意さえすればほぼ何でも作れるユグドラシルは、彼の趣 11 味を更に暴走させた。 ﹁︵うっはーぁ⋮⋮、本ッ当に最高だ︶﹂ 深呼吸をして感じる、マイナスイオンたっぷりの空気。森林浴とい う現実では一生出来なかった事を、彼は堪能しまくっていた。 ﹁︵そして、空を見上げれば満天の星空⋮⋮、此方に来れて良かったぁ ⋮⋮︶﹂ 自身が作り上げた最高傑作とも言える、第六階層の星空、現実では 汚染されきった雲で覆われていたため、見るのは生涯初めてである。 ﹁はぁー⋮⋮﹂ こっちに来て涙は出ない身体になっていたが、人間のままであった ﹂ らマジ泣きしていただろうと感じた。 ﹁な、何か不備が御座いましたか ﹁いいや、あまりにもここの環境が良くてね、私は自然が大好きだから 言った。 さっきのため息が原因だろうと理解したブループラネットは笑って 前 を 歩 い て い た マ ー レ が、び く び く し な が ら 此 方 へ と 振 り 返 る。 ? 堪能していたんだ。勘違いをさせて済まなかったな﹂ ﹂ 此方の管理をさせて頂いている身からすれば光栄 ありがとうございます ﹁あ、いえいえ です ﹁⋮⋮ぅん ﹂ ﹁ブループラネット様は、本当に自然が好きなんだなぁ⋮⋮﹂ プラネットからすれば、それだけで充分すぎる物だった。 人生を掛けて想像し、創造した夢が目の前に広がっている。ブルー ブループラネットはゆっくりと目を瞑った。 ナザリックのシモベ全員が許可しないであろうことを考えながら、 ﹁︵⋮⋮ここに住むのも良いなぁ︶﹂ しておく。 作にそれを放った。後ろでマーレが何やら言っているが、この際無視 空間から敷くためのマットを取り出したブループラネットは、無造 ﹁よ、っと﹂ 間にハンモックが通してあり、充分過ごしやすいと言える。 案内されたのは、森のなかにある少し開けた場所。大きめの木々の ﹁いいや、私にはこれで完璧さ﹂ まだ不充分なのですが⋮⋮﹂ ﹁こ、此方で御座います。申し訳ありません、至高の御方が過ごすには ◆ まま他愛ないことを言い合いながら、進んでいく。 不安気な顔から溢れんばかりの笑顔に変わったマーレ、二人はその ! ! ﹁いや、こちらこそ済まない。どれ、少し冷えただろう温かい飲み物で 土下座でも始めそうなマーレに、ブループラネットは手を降る。 ﹁も、申し訳ありません‼睡眠の邪魔をしてしまいまして‼﹂ と控えていたらしいマーレが、ビクリと跳ね上がった。 どのくらい時間がたったのか、気付けば寝ていたらしい。側でずっ ? 12 ! も出そう﹂ 空 間 か ら ポ ッ ト や ら 何 や ら 取 り 出 し て 準 備 し だ し た ブ ル ー プ ラ ネットに、マーレが慌てる。 でも、もう準備は終わったから、出来れば飲んでほしいだ ﹁い、いえ‼別に問題ありませんので、そんなことしていただなくとも ⋮⋮っ﹂ ﹁そうかい が⋮⋮﹂ ホ コ ホ コ と 湯 気 が 上 が っ て い る マ グ カ ッ プ を 二 つ 用 意 し て い る。 その一つをマーレの方に差しだして、ブループラネットは言った。 ﹁私はね、幼い頃に見た本にあった星空に、心を奪われてしまってね。 それ以来、自然や星空に対しての興味が尽きないんだ﹂ ﹁ブループラネット様の幼少期ですか⋮⋮気になります﹂ ﹁はは、普通の子供さ﹂ 自分達からすれば神にも等しい方の幼少期、普通じゃないだろ。と 言いたくなるが、楽しげに話すブループラネットを見て、マーレはた だ笑った。 ﹁そ、そういえば、モモンガ様が外の世界の星空も素晴らしいと称賛さ れていました﹂ まぁ、ブループラネット様の作った物とは比べ物にはなりません お待ち下さい‼﹂ た、確かに。見落としていたな⋮⋮、よし、行こう﹂ が、と続けようとしたが。 ﹁外 ﹁え。ぶ、ブループラネット様 ザリック内が大慌てで捜索、捕獲部隊を編成︵守護者主導︶したのは 13 ? 単身星空を見ようと外に飛び出したブループラネットのせいで、ナ ?! ?! 後の話。 14 ナザリック大会議∼至高の方々による至高なる会議 ∼ ︻ウルベルト・アレイン・オードルと、たっち・みーの仲は悪い︼ それはナザリックに居る者ならば、誰でも知っている常識だった。 ギルド内にて魔法職最強であるウルベルトと、戦士職最強である たっち、その元々の職の違いや性格の違いが衝突の原因である。 狩りにいくモンスターで対立、善行か悪行かでの対立、正義の味方 を良しとするタッチとは違い、悪であることを極めたいウルベルト、 互いが互いに気に入らない存在であった。 例えば、こんな具合に。 ﹁││さて、それでは会議を始めましょうか﹂ モモンガの言葉に、円卓の間にて集まっていたプレイヤー、ペロロ ンチーノ、るし★ふぁー、タブラ、ぶくぶく茶釜、餡ころもっちもち、 やまいこ、ブループラネット、ヘロヘロ、武人建御雷、たっち・みー、 ウルベルトのユグドラシルプレイヤー11人が椅子へと座る。 ﹁︵懐かしいなぁ⋮⋮︶﹂ 和気藹々と座って話している姿を見て、モモンガは目を細めた。 ギルド全盛期とまでは行かないが、それでも主要なメンバーが揃っ ているのだ、これ以上を望むのはワガママとも言える。 ﹁︵とはいえ、他のギルメンも居るかもしれないし、これから頑張らな いとな︶﹂ 誰にも見えないテーブルの下で、モモンガはグッと拳を握った。 会議のお題は、 ︻これからこの世界どう進んでいくか︼という事から 15 始まった。 ﹁皆さん、何か提案はありますか の様な物でも良いですよ﹂ ﹂ 具体的でなくとも、漠然とした夢 やーっぱりウルベルトさん、話が分かるぅ し★ふぁーが歓喜の声を上げる。 ﹁でしょでしょ ﹂ ! そう口に出したのは、ウルベルトだった。ウルベルトの言葉に、る ﹁私も良いと思いますけどね、世界征服﹂ 書き記したモモンガは、視界の端で挙がっている手に気づいた。 可決はされないだろうが、取り敢えず世界征服と手持ちのノートに ンバーからは否定的な意見が出ていた。 るし★ふぁーの言葉にやっぱりか、という空気が漂う。特に女性メ ﹁だよねー﹂ ﹁言うと思った﹂ ﹁却下﹂ ﹁やっぱり世界征服でしょ たのは何時もの問題児であった。 モモンガの言葉に、うーむと悩み出すギルメン、そんな中口を開い ? るでしょうし﹂ ﹁アレとは何ですか、ウルベルトさん﹂ 盛り上がっている二人に、モモンガは問う。聞かれたかった事柄な のだろう、ウルベルトは得意気に語りだした。 それを真似て作った物ですよ﹂ ﹁ワールドアイテムの中に、悪魔を大量発生させる物があったでしょ う か ﹂ 召喚するの ﹁まだ試作品段階ですけどね、試そうとは思ってたんですよ。どうで すモモンガさん、3大国のいずれかで試してみませんか は中級がメインですから、特に危険はありません﹂ ﹁んー、そうですねぇ﹂ ? 16 ! ﹁えぇ、ユグドラシル時代では結局試さなかったアレを試す機会にな ? ﹁あー、そういえば作りたいって言ってましたね。完成してたんです ? ? アンデッドの身体になって、人間に対する情がかなり薄くなってい るせいか、どうでもいいと考えているモモンガ、それを知ってか知ら ずか、己の計画を練っていくウルベルトだったが、 ﹁却下です﹂ ﹂ 正義の味方が、黙ってはいなかった。 ﹁⋮⋮何か意見でも、たっちさん ﹁大国の一つで実験する そんなふざけた事が通るわけないだろう。 やめてよホントに、と。 またかコイツら、と。 二人のそのやり取りに、その場に居た全員の意見が重なった。 ﹁あぁ、ウルベルトさんの計画には反対です﹂ ? この世界に来てからは感じ方に違いがあるのは皆一緒です﹂ と言い出し ? ﹂ したい ﹂ ﹁うんうん、元の世界よりは綺麗な自然だし、ピクニックみたいなのも ﹁そうだよねー、私も色んな所行ってみたいな﹂ が、今は救いの手になっていた。 普段なら空気も読まずに何言ってんだ、とツッコまれる所だろう ﹁﹁﹁︵やまいこさんナイス‼︶﹂﹂﹂ す ﹁ぼ、ボク、せっかくこの世界に来たんだから、冒険とかしてみたいで ﹁ど、どうされました、やまいこさん﹂ てきたころ、一人の手がおずおずと上がった。 徐々に白熱してきた二人の言い合いに、皆がどうする ﹁だからといって、罪の無い人々を殺していい理由にはならない‼﹂ か ﹁別に問題はないでしょう。人が死んだからって、貴方は悲しめます そこに住む住人を虐殺するつもりですか﹂ ? ガシリとペロロンチーノの腕を掴んだぶくぶく茶釜は、指輪の力を ﹁え、ちょ﹂ ﹁おい、表出ろ弟﹂ ﹁姉ちゃん、その見た目でそれはちょっとキツイわ﹂ ! 17 ? ! 起動して転移した。 ちょっとぉ 事の元凶は何処行った‼﹂ 皆好きにヤりすぎィ‼⋮⋮ぉっふ﹂ ﹁ギルドチョー、茶釜さんとペロロンさんがどっか行きましたー﹂ ﹁えぇ ﹁あ、賢者タイム﹂ ︻自由︼ こうして幕を閉じた。 ﹂ ナザリック第一回会議の結果は、 ﹁⋮⋮そうしましょうか﹂ ﹁俺、今までの分まずはゆっくりしたいです﹂ その意味を理解したヘロヘロは言った。 目が合い、数秒間言葉もなく見つめ会う二人。 ゆっくりとヘロヘロに顔を向けた。 何かを我慢するように少しの間頭に手を当てていたモモンガだが、 そして逃げたるし★ふぁー 何処かに行ったぶくぶく茶釜とペロロンチーノ 口喧嘩をしているタッチとウルベルト うんうん、とブループラネットが相づちを打つ。 ﹁こそこそ出ていってたなぁ﹂ ﹁彼なら先ほど、こっそりと出ていきました﹂ に居た建御雷が口を開いた。 側に座っていたヘロヘロと共にるし★ふぁーを探していると、近く ﹁って、るし★ふぁーさんは ?! ﹁因みに何をしてるんです ? 18 ?! ?! ﹁今はお風呂にハマってますね∼。風呂は命の洗濯とはよく言ったも のですよ♪﹂ ﹁風呂入れるんだ⋮⋮﹂ 19 ナザリック大会議∼守護者によるナザリックの為の 会議∼ 第六階層、アンフイテアトルムには、守護者であるアルベド、デミ ﹂ ウルゴス、アウラ、マーレ、コキュートス、シャルティアの他、執事 頭であるセバスの総勢7名が集まっていた。 ﹁それで、アタシ達はどうすれば良いの、アルベド アウラの言葉に、全員の目がアルベドへと向かう。 ﹁モモンガ様が言うには、ナザリックの幹部としての連携を取りやす くする為、簡単な会議をしておけとの事よ。議題については受け取っ てあるわ﹂ アルベドが見せた封筒には、まだ封がされていた。全員が揃ってか ら開くのだろう、と察する。 ﹂ アルベドが封を開くと、中には一枚の書類が入っていた。 ﹁どれどれ⋮⋮、ッ ﹂ 応した守護者達は、アルベドに駆け寄る。 ﹁どうしたのアルベド ◆ ? 全員がうーむと悩む中、じれったく感じたアウラが言う。彼女も決 ﹁それで、何か欲しいものは出来たの ﹂ それを見た全員が、歓喜の声を上げた。 とめておくように 守護者各員、及び執事頭に褒美を与えるので、それぞれ話し合いま うに広げた、そこには。 シャルティアがアルベドの手から取り上げると、全員に見やすいよ ﹁あぁ、もう。とっとと見せなんし‼﹂ ﹁その書類に、何か問題でもあったのかね﹂ ?! 20 ? 書類に目を通した瞬間、アルベドの顔が驚愕に変わった。それに反 ?! まってはなかったが、他の者の意見を採り入れようとしていた。 ﹁マダ決マラナイナ﹂ ﹁必要な物は全て頂いているからね⋮⋮。特に欲しいものは無いな﹂ 全員が円形になって顔を向き合わせていると、空間に歪みが生じ、 二つの影が現れた。それに気付いたアウラが振り向くと、目を見開い た。 ﹂﹂﹂﹂ ﹁ぶ、ぶくぶく茶釜様、ペロロンチーノ様‼﹂ ﹁﹁﹁﹁ッ ﹁やっほー、ちょーっと隅の方借りるよ﹂ ﹁ちょ、やめ、姉ちゃん、タンマタンマ、悪かったって‼﹂ ﹂ 連れる、というよりは引き摺るという表現が正しい光景に、守護者 各員が慌てて声を掛けた。 ﹂ ﹁ぶくぶく茶釜様、何があったかは存じませんが、お気を確かに ﹁御姉弟デ喧嘩ナド、得ヲスルコトナドアリマセンゾ ! かお願いいたします ﹂ ﹁そうで御座います。どうか気を和らげ、話し合いによる解決を、どう ! か、姉上﹂ ﹂ ﹁ふんっ‼﹂ ﹁ボヘェッ ﹁あぁっ、ペロロンチーノ様 ﹂ ﹁ほ、ほら。皆がこう言っているのだし、もう許しては貰えないだろう じたペロロンチーノが言う。 全員の必死な引き止めに考える所があったのか、力が緩んだのを感 末をよく知る者からすれば、優先して止めるべき案件であった。 ぶくぶく茶釜とペロロンチーノ、この二人の︵一方的な︶喧嘩の結 ! ﹂ ? ﹁あー、うん。楽にしてね、これ命令﹂ 会議をしておりました‼﹂ ﹁ハッ、モモンガ様より、守護者各員と執事頭で会議をせよとの事で、 ﹁それで、何の集まりなの、これは チーノ。シャルティアが慌てて駆け寄った。 掴んでいた腕を主軸に、そのまま地面に叩き付けられたペロロン ! ?! 21 ?! とは、心の中での 自分に対して畏まる態度に、うんざりしたように言うぶくぶく茶 釜。 ていうか、こっちの方が会議らしい会議してね 呟きである 話しかけた。 ﹁そういえば、ぶくぶく茶釜様。会議の方はよろしいのですか ﹂ ﹂ あぁ、なーんか面倒になってさぁ。暇潰しに此方来たの﹂ ? ﹁な、何があったのですか 大事な会議を離れるなど⋮⋮﹂ アがオロオロしながら必死に慰めていた。 落ち込んで暗いオーラを放つペロロンチーノ、近くではシャルティ ﹁無いです⋮⋮﹂ ﹁そうだよ。文句ある ﹁お、俺は暇潰しに連れられたのか ﹁んー ﹂ 怒りが静まったのを感じて、デミウルゴスが場の空気を変えようと ? ﹁それで、此方はどんな感じなの ﹂ 全員が納得したのを確認して、今度はぶくぶく茶釜が質問した。 では常識である。 たっち・みーとウルベルト、この二人が犬猿の仲なのはナザリック ぶくぶく茶釜のその言葉に、﹁あぁ⋮⋮﹂と全員が声を漏らした。 してね﹂ ﹁るし★ふぁーさんを起爆剤に、たっちさんとウルベルトさんが喧嘩 ? ﹁不快に感じたのなら謝罪いたします‼﹂ 事﹂ ﹁至高ノ御身ニ頂イタコノ機会ニ、何カナザリックノ為ニト思ッテノ ﹁も、申し訳ありません‼﹂ め息をついた。 不甲斐なく思っている、と表現しているその姿に、ぶくぶく茶釜はた 折角機会を作って貰ったにも関わらず、中々に決まらない自分達を 代表として答えるアルベドの声が、どんどん萎んでいく。 ですが、どうにも決まらず⋮⋮﹂ ﹁モモンガ様から、私どもの望むものを褒美として与える、と承ったの ? 22 ? ? ? ﹁いや、そうじゃないけどさ⋮⋮﹂ どうしたものかと、ぶくぶく茶釜が悩んでいると、不意にいつの間 ﹂ にか隣に居たペロロンチーノが口を開いた。 ﹁お前たち個人が必要な物はないのか ﹂ 方々に対するものでもよろしいでしょうか﹂ ? な物でございます ﹂ ﹁いえ、そうではありません。ですがこれからのナザリックの為、必要 ﹁⋮⋮。要するに、私たちをパシりにしたいって事 ﹂ ﹁無礼を承知で申し上げます。〝私どもの欲する物〟、それは至高の すと、アルベドは頭を垂れて言った。 その真剣そのものの顔に、ペロロンチーノがハンドサインで先を促 アルベドが神妙な顔をして手を挙げる。 え、マジで。他にどうすりゃええねん。そう二人が悩んでいると、 ﹁そうだよ、気持ちは充分伝わったから、ありがとう﹂ ﹁あぁ、いや、そう畏まるな﹂ ⋮⋮、ご、ごめんなさい ﹁ご、娯楽の施設についても、全て僕たちには充分足りていますから ります。もうこれ以上望むものは⋮⋮、今のところ御座いません﹂ ﹁私どもは、至高の方々から頂いた装備品など、有り余る物に溢れてお た。 ペロロンチーノのその言葉に、守護者達は顔を見合わせた後言っ ? ﹂ ヒロイン︵として最悪な︶スマイルだった。 ◆ ﹁⋮⋮で、それがこれですか はよ開けろ。とワクワク感MAXでこちらを見るぶくぶく茶釜と だろう、と考える。 ていた、話の流れだとこれに守護者達の欲しいものが書かれているの 円卓の間にあるテーブル。モモンガの前には、一通の手紙が置かれ ﹁うん。すぐに皆で話し合って出してきた﹂ ? 23 ! そう言って上げたアルベドの顔は、今まで見たことがないくらいの ! ペロロンチーノ、ヘロヘロの視線に押されるように、手紙を開封する。 そこには 至高の方々の御世継ぎ と書かれていた。 ﹁﹁﹁﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮。﹂﹂﹂﹂ 無言で手紙を元に戻し、ふぅ、とため息をつく。 ﹁却下で﹂ ﹁﹁﹁そうですね﹂﹂﹂ 何事もなかったかのように、声を合わせて賛同する一同。 こんな風に、次回の会議では一致団結したいなぁと思ったモモンガ 24 だった。 ﹂ ﹁子作りって⋮⋮。付いてないんですけど﹂ ﹁僕なんか全身スライムですよ⋮⋮﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮結局、一生童て﹂ ﹁それ以上は言うな﹂ ﹁まぁ、何だ。今から呑みにでも行く ﹁﹁﹁﹁賛成﹂﹂﹂﹂ ? 師弟の稽古 第六階層、アンフイテアトルム。 そこは大きな闘技場であり、コロッセオのような造形をしている。 侵入者が入ってきたとき、ここで迎え撃つ役割を持っている場所で もある。 さて、そんな闘技場で、二つの影が戦闘をしていた。 片方は四本の手足にそれぞれ武器を持ち、隙無く構えたまま、相手 の様子を伺っている。コキュートスだ。 ﹁︵ココマデ、差ガアルカ⋮⋮︶﹂ 細 く 息 を 出 し な が ら、相 手、武 人 建 御 雷 の 様 子 を 伺 う。彼 は コ キュートスとは違い、二本の腕で、一本の竹刀を持っていた。 挟撃、剛撃、その全てを一本の竹刀で受け流していく建御雷に、コ キュートスは攻めあぐねていた。 横から槍で斬りかかれば、懐に入り込んで胴に竹刀を叩き込まれ 刀で斬りかかれば、手元の柄を弾かれ攻められない そして、向こうが攻めるのを待てば全くと言っていいほど攻めてこ ない ジリジリと間合いを図る自分に対し、死んでいるのではないかと思 うほどにピクリともしない建御雷。 しばらくどう攻めるかイメージしてみたが、どう打っても見える敗 北に、コキュートスはその場に膝をついた。 ﹁マイリマシタ⋮⋮。完敗デ御座イマス﹂ ﹁む⋮⋮。分かった﹂ そう言うと、ふぅ、と大きく息を吐いた建御雷は、膝をついたまま のコキュートスの近くへと腰を下ろした。 ﹁マダマダ、精進ガ足リナイノデショウカ﹂ 25 昆虫型の特徴でもあるアゴをガチガチと鳴らしながら、コキュート スは建御雷へと訊ねた。 ナザリックにおいて武器を使用しての武装戦で、守護者の中では自 分の右に出るものは居ない、とコキュートスは自負している。 それは周囲も認めており、戦争にでもなったら主力となるのはコ キュートスの部隊だろう。 だからこそ、そのトップとしての誇りと重圧が、コキュートスには 掛かっていた。 ﹂ ﹁建御雷様ノ武器デアル︻斬神刀皇︼ヲ受ケ継イダモノノ、ソレデハマ ダ不足ナノデショウカ﹂ ﹁それは⋮⋮、他の武器が良かったということか ﹁イイエ‼﹂ 建御雷を不快に思わせてしまったかと、コキュートスは大きな声で 否定する。その声は少し離れた所にいたシモベが何事かと振り向く ほどだった。 ﹁落ち着け、コキュートス﹂ ﹁⋮⋮申シ訳アリマセン﹂ そのまましょんぼりと、コキュートスは肩を落としたまま無言でい た。先ほどまでの言葉も、答は特に無いのだろう。そう、建御雷は感 じた。 ﹂ 答えの見つからない疑問。それがコキュートスの中でモヤモヤと わだかまっている物だった。 ﹁コキュートス、一つ話を聞いてくれないか ﹁ナンナリト、御話下サイ﹂ ﹁お前が俺の事をどう感じているか、それははっきり言って分からな 26 ? コキュートスの返答に、ありがとうと言ってから、建御雷は話す。 ? い。だが、一つだけ言えることがある﹂ ﹁⋮⋮ナンデショウカ﹂ ﹁俺やたっちさん、弐式炎雷さん達は、別に特別だから強いという事で はない﹂ 建御雷のその言葉に、コキュートスが正直に思ったのは、何言って んだ、ということだった。 自分達ナザリックに属する者からすれば、創造主たる41人のプレ イヤーは、神にも等しい存在だ。それが特別ではないはずがない。 それにたっち・みーにおいては︻ワールドチャンピオン︼の職種を 所有している。それのどこが特別ではないのか。 コキュートスの考えていることが分かったのか、建御雷は笑って 言った。 ﹁強い者はな、皆大なり小なり臆病なものなんだ﹂ 建御雷のその言葉を、コキュートスは一瞬理解できなかった。 ﹁臆病な者は、自らの身を守るのに必死な為、周囲の事を良く観察して いる。一歩退いて周囲を観察すれば余裕が出来、どのような状況でも 対処出来るからだ﹂ 例えば、と続ける。 ﹁先ほどの手合わせでもそうだ。お前の使用する武器は柄が長いもの や棒状の物が多かった、それならば、斬撃のスピードが乗る前に、力 の弱いところで押さえてしまえばダメージは免れるし、最小限の動き や疲労で済む﹂ そう言われて、コキュートスは先ほどの手合わせを思い出した。確 かに、建御雷からの攻めは少なく、カウンターの技が多かった。 ﹁まぁ、コキュートスはもう充分強いから、こんなことを言っても分か らないだろう、だから﹂ 一呼吸おいて、建御雷は言う。 ﹁お前にとって譲れないものを守ると良い﹂ そう言って、建御雷は笑みを浮かべた。 ﹁⋮⋮不甲斐ナイ自分メノ為ニ、感謝ノ意ガ尽キマセン。武人建御雷 27 様、アリガトウゴザイマス﹂ ﹁なに、大事な守護者の為だ。大した事ではない﹂ 建御雷とそう会話をしながら、コキュートスは思う。自分の譲れな いものとは何かと。 ナザリック、ひいては至高の方々の為ならば死ぬのも惜しくはない ﹂ が、この問題の答えはそういうことではないだろう。 ﹁建御雷様、お疲れ様です﹂ ﹁お疲れ様です、御二人で稽古ですか ﹂ に、アウラとマーレの二人はそう訊ねた。 ﹁イヤ、何デモナイ。ソレヨリ、本来ノ用事ハ良イノカ ﹂ ナザリックに比べれば軽いものだが、出来るならば⋮⋮。 た。 楽しそうに笑う二人を見て、コキュートスの中で一つの思いが出 ﹁あぁ、ありがとう﹂ ﹁な、何かありましたら、気軽にお申し付け下さいね、建御雷様﹂ でしょ、お世話してからいくわよ﹂ ﹁建御雷様がいらっしゃるのに、他の事に手を出すわけにはいかない ? じっと見ていたのを疑問に思ったのだろう、コキュートスの視線 ﹁ぼ、ぼくたち、何か変ですか ﹁⋮⋮えと、どうしたのコキュートス﹂ 層の手入れにでも来たのだろう。 声に振り向くと、アウラとマーレがこちらに近づいていた。第六階 ? こうしてある今の平穏を、皆が笑って過ごせる日常を、変わらない よう守りたい。 そう、感じていた。 28 ? ﹂ ﹁⋮⋮もぅ、何よコキュートス。さっきからジロジロと⋮⋮、もしかし てアンタ、ロリコンだったの ﹁バカナ事ヲ言ウナ。アウラノ身体ニ興奮スル要素ハナイ﹂ ﹁ちょっ⋮⋮、何よその言い方は‼﹂ ﹁え、えと、どうしましょうか。建御雷様﹂ ﹁好きにさせなさい﹂ 29 ? へいわのひとこま 第九階層、円卓の間︵臨時会議室︶には、11人からなる日本人の 男女が集まっていた。 それぞれは全員が若く、二十∼三十代がほとんどだろうという見た 目だ。 ﹁││さて、第二回目の会議ですが、始めに言っておくことが幾つか﹂ リーダーらしき男の言葉に、全員が声の方を向く。 ﹁一つ目、喧嘩をするなとは言いません、出来るだけ冷静に、議論とい う形でお願いします﹂ ﹁異論はありません﹂ ﹁私もありません﹂ 男の言葉に反応した二人が、心当たりがあるのだろう、口々に謝っ 30 た。 喧嘩は何も生まない、会議では冷静に議論を交わすべきだ。 ﹁二つ目、姉弟喧嘩はこの場で行ってください。勝手に会議室から離 れないように﹂ ﹁異 論 無 し。そ の 代 わ り 血 が 飛 ぶ か も し れ な い の で 先 に 謝 っ と き ま す﹂ ﹁ちょっと待って、ねぇちゃん。それは姉弟喧嘩の領域を越えてる﹂ ﹂ ﹁許可⋮⋮しましょう﹂ ﹁しないで ﹁異議有りぃ‼﹂ ﹁三つ目、るし★ふぁーさん、喋るな﹂ 冷や汗が止まらないが、決してびびっているからではない がその女性を大切な仲間だと思っているからこその肯定だ。 男が女性の言葉を肯定したのは決して怖かったからではない。彼 姉弟なのだろう、男の言葉に反応した二人は、そう会話していた。 ?! ﹁異議を却下します﹂ ﹁﹁﹁異論無し﹂﹂﹂ ﹂ ﹂ 当然の結果だ、とでも言いたげな空気に、るし★ふぁーと呼ばれた 男はテーブルに手をついて立ち上がった。 ﹂ ﹁ちょっと、モモンガさん。それはあんまりでしょ ﹂ ﹁本気で言ってるんですか ﹁へ ﹁本気で言ってるんですか ﹂ ! ﹁え、早⋮⋮。し、しばし待て ﹂ ﹁モモンガ様。お食事の用意が出来ました。﹂ してから口を開こうしたその時。 モモンガと呼ばれた男が、皆が意識をこちらに向けているのを確認 た。 何か思い当たる節があるのか、るし★ふぁーは静かに椅子へと座っ ︵NPC︶も居るので、ほどほどにお願いします﹂ ﹁まぁ、喋るなは冗談ですが⋮⋮。僕たちの発言で過剰に反応する者 ﹁本気で、言ってるんですか ﹁⋮⋮⋮⋮﹂ ? ? だろう。 ? ﹁いやー、ゴミレアがこんな所で役に立つとは、人生何があるか分から リと姿が歪み、元の異形の姿へと戻った。 各々が、手首に装着している腕輪のような物を取り外すと、グニャ ﹁りょうかーい﹂ ﹁兎に角、さっさと変化を解除しましょう﹂ ﹁そうですね。会議の後に届くと思ったんだけどなぁ﹂ ﹁料理頼んだのって10分くらい前じゃなかった ﹂ 他にも複数の気配がすることから、他のメイドも連れてきているの ヴァシリッサ・ゼータの声だった。 豪勢な作りの扉から聞こえたのは、プレアデスの一人、エントマ・ ! 31 ? ? ないなぁ﹂ ﹁元人ですけどね、俺達﹂ ﹂ そんなことを言いながら、課金アイテムであるそれを懐へとしま う。皆が落ち着いた所で、外へと声を掛けた。 ◆ ﹁お飲み物はどうされますか、ワイン等をお持ちしましょうか ﹁いいや、水で充分だ。酒は夜に楽しむとしよう﹂ ﹁かしこまりました﹂ 問題がないか確かめるだけなので、酒は必要ない。 ﹁⋮⋮ねぇ、ユリ。この料理とかは10分くらいで出来たの ﹂ ナザリックの酒にも興味があるが、変化で人に化けた場合の飲食に プシロンがモモンガへと訊ねていた。 料理が次々と運ばれる中で、プレアデスの一人、ソリュシャン・イ ? ﹁料理関連に関しては料理長と副料理長がほとんどを担当しておりま ﹂ ﹁⋮⋮ そ う っ す か 女っすねェッ ﹂ い や ー、至 高 の 御 身 に 愛 さ れ る だ な ん て 罪 な ﹂ 32 ? すので分かりませんが、料理長はやけに張りきって料理しておりまし た﹂ ﹁そ、そうなんだ⋮⋮﹂ ﹂ ﹁⋮⋮申し訳ありません。何か不備が御座いましたか ﹁え、いやいや。大丈夫大丈夫 ? ﹁いつも通りで良いよ。ルプーちゃんのキャラ好きな方だし﹂ ﹁かしこまりました、ぶくぶく茶釜様﹂ ﹁ルプーちゃーん。果実水ちょーだい﹂ ! ﹁ルプスレギナ、無駄口叩いてないで御奉仕しなきゃ駄目でしょ ? ﹁い、痛いっす。ユリ姉ぇ⋮⋮﹂ ? ?! ﹁ナーベラル、この料理はどんなものだ 不味いだろう。 ﹂ ﹂ 人間の姿をしていては、余計な混乱を招きそうだ。 ? すれば、こういう庶民料理の方が美味しく感じるのだ。 ナザリック特製の料理も美味しいのだが、舌が肥えていない身から 口の中に広がる旨味を感じながら、ゆっくりと味わう。 野菜や肉がふんだんに入っているスープを一口食べる。じわりと 胃にピッタリなんだよなぁ︶﹂ ﹁︵俺的には、ナザリックの豪勢な料理より、こんな感じの料理の方が ミウルゴスを納得させた理由だった。 それが、人間の料理を食べようとすることを否定的なアルベドやデ にする。 の主な物流や食の文化を学び、いち早く人間の生活に溶け込めるよう まずはこの世界の人間が食べている物を理解することで、この周辺 た情報を元に作った料理だ。 今回ここに並べたものは、外の世界で執事頭のセバスが仕入れてき ﹁そうですね、たっちさん。それでは皆さん、食べましょうか﹂ ﹁モモンガさん。冷めるのも勿体ないし、食べませんか ﹂ ンスターか立っていたので、変化したあとに派手に騒ぎを起こすのは ただ、閉じていく扉の端に、コキュートスの配下である昆虫型のモ バーは円卓の間を去って行った。 各々の好みや、必要な料理の配膳を終えると、プレアデスのメン ﹁ありがとうございます。料理長にも、そのように伝えておきます﹂ ﹁あぁ、いや。美味しそうだと思ってな。楽しみだ﹂ ﹁カレー⋮⋮、で、ございますか ﹁ふむ、カレーに似た香りがするな﹂ 浸してお召し上がりいただくよう、料理長から聞いております﹂ ﹁はっ。此方はこのスープに、ライスか今からお持ちするパン生地を ? ﹁︵さて、これが終われば次は情報収集の段取りか⋮⋮︶﹂ 33 ? は っ き り 言 っ て こ の 世 界 は 未 知 数 だ。他 の ユ グ ド ラ シ ル プ レ イ ヤーがいるかもしれないし、居たら居たで戦闘になるようなことには したくない。 ﹁︵まぁでも、まずはゆっくり味わうかな。こんな人数で食事するなん て、本当に久方ぶりだ︶﹂ 顔を上げて食卓を見渡せば、ギルドメンバーの皆が和気藹々として 食事をしている。 普段は一人で味気ないご飯を食べることが多かった身からすれば、 こんなに楽しい食事はそれこそ初めてかもしれない これから起こる苦労や楽しみはそれこそ無限大。 だが、今はその事には考えず、この楽しい食事を楽しもうと考えた モモンガだった。 分からないけど、凄そうね﹂ 34 ﹁あ。料理長さーん。至高の方々、料理大絶賛してましたよ﹂ ﹁∼∼ッ‼﹂ ﹁⋮⋮おぉ。なんかすごいっす、作業のスピードが速くなってるっす ﹂ ﹂ ? ﹁へぇ、食材を食べ頃にまで一瞬で煮込める魔法の圧力鍋⋮⋮。よく ﹁⋮⋮。﹂ うだけど、どうやって作ったの ﹁気持ちは充分に分かるわ。⋮⋮ところで、料理の時間が早かったよ ! ﹁⋮⋮本格的に家事スキルでも手にいれようかしら﹂ ﹁ユリ姉ぇはクソ真面目っすね⋮⋮﹂ 35 はじめてのおつかい 都市エ・ランテル リ・エスティーゼ王国の国王直轄地でもあるそこは、都市としても 優れており、年中冒険者や商人が行き来する町として活気に溢れてい る。 その都市の中央広場、多くの露店商が開かれている場所に、複数の 男女が歩いていた。 ﹁人が多いですねぇ、ももさん﹂ ﹁そうですねぇ、ペロさん﹂ その中の男性二人は、他人事のように歩きながら話していた。 人間を連れ帰って憂さ晴らししましょう﹂ ﹂ ﹂ 36 その表情はどこか諦めたような、まるで﹁どうしてこうなった﹂と でも言いたげな表情だ。 ﹁周りの人、めちゃくちゃ注目してますよ﹂ ﹁大人気じゃないですか、特に男に。手でも振ったらどうです ﹁血の雨が降りそうなんで遠慮しときます﹂ わ、私たちの勝手な行動で至高の方々に泥を塗る気 ﹁よしなさいナーベ。モモンガ様達は穏便に行動を取ると言っていた キリするか﹂ ﹁下等な虫けら風情がジロジロと⋮⋮。皆殺しにしたらどれだけスッ いる者が多い。 特に男からの視線が多く、こちらをじっくりとなめ回すように見て ど、こちらを眺めていた。 その集団が通る度に、その通りに居る者はほぼ全てといっていいほ ? ﹁お互い様よ。もし我慢できなくなったら言ってちょうだい。適当な ﹁⋮⋮。少し落ち着いたわ、ありがと、ソリュシャン﹂ ? ﹁良い案ね。それで行きましょう﹂ 視線を集めている元凶の会話を聞いて、今度こそモモンガとペロロ ンチーノは頭を抱えた。 視察の為に二人で行こうとしたのだが、当然の様に︵有無も言わさ ず︶着いてきた二人は、さっきから目立ちまくっていた。 顔立ちが超が付くほどの美形である二人は、メイド服という服装も 相まって、かなりの視線を集めている。 ﹂ このままでは、近いうちに何か問題が起きそうだ。 ﹁二人とも、ちょーっとこっちに来なさい 事態を危うく感じたモモンガがついに動いた。 二人の腕を掴み、人気の無さそうな路地へと連れていく。 ﹂ 特に抵抗することもなくついてきた二人にモモンガは言った。 ﹁良いか。今回私たちがここまで来た理由を知っているか ? 誰が言った、そんなこと ましたが﹂ ﹁え、何それは﹂ そんなことは言った覚えがない。 ﹂ だが、デミウルゴスがよくする何時もの深読みが出たのだと、モモ ンガは自分に納得させた。 ﹁今回俺達がここまで来たのは、人間達の勢力を調べるためでもある が、文化や常識を調べるためだ﹂ モモンガの代わりに、近くにいたペロロンチーノが答える。 37 ! ﹁来たる世界侵略の日に備えて、人間達の勢力を調べに来たと﹂ ﹁違う ! ﹁デミウルゴス様から、至高の方々は世界征服を計画していると聞き ! この世界で生きていくためには︵別に今のままでも良いが︶、何時何 が起こるか分からない、それに備えてこの世界の常識やルールを調べ ようというのが、先日の会議で決まった。 ﹁人間を嫌うなとは言わんが、俺達に迷惑を掛けたくないのであれば、 それに応じた態度や言葉遣いをしろ﹂ ﹁も、申し訳ありません‼﹂ ﹁出過ぎた真似を、どうか御許し下さい‼﹂ 先ほどの騒ぎを思い出したのだろう、顔を青くさせた二人は、モモ ンガ達に向かって頭を下げた。 別にそこまで怒ってなかったモモンガは、すぐに頭を上げさせる。 ﹁⋮⋮さて、それでは書物を扱っている場所があるかな﹂ ﹁文化や歴史などであれば、書物でまとめている場合が多いですから ね。期待できますよ﹂ ﹂ ﹂ 38 ﹁えぇ、それでは行きましょうか﹂ 不安しかない一行の旅は、都市の中心へと足を運んだ。 ◆ ドアを開けて入って来た集団を見たとき、その女性店員は目を見開 いた。 まず視界に入ったのは二人のメイド服を着た黒髪と金髪の女性、ど ちらも気風が違うが、誰もが目を引く美形だった。 その後から入ってきたのは、二人の男性、服装からみて、権力はそ ﹂ れなりというところか、その辺にいる小金持ちくらいだろうか。 ﹁いらっしゃいませ、本日はどのような物をお探しで ﹁こちらに来れば、大抵の物は手にはいると聞いてきたのですが﹂ 集団の中の一人の男性が、こちらに笑顔で近づいてきた。 店員の本分を思いだし、お手本のように頭を下げる。 ? ﹁えぇ、あまりに高価な物になると難しいですが⋮⋮。例えば、どのよ うな物を ? ﹁広い分布で分かる地図と、この辺りの歴史や、文化が分かる本はあり ますか ? 男の話した内容を聞いて、店員の脳裏に幾つかの物がピックアップ された。だが、数が多い。 ﹂ ﹁あるには有りますが、少々数が御座います。裏の倉庫で、お選びにな られますか えぇ﹂ ﹂ ? ﹂ ? ﹁⋮⋮、それでは足りないか ﹂ 初めて見たその美しさに、店員は数秒我を忘れて見入っていた。 金細工だと素人目にも理解できた。 手に取ると、細い造りながらもしっかりとした重みがあり、本物の しらわれている。 細いチェーン状に細工され、数珠繋ぎの様に色とりどりの宝石があ た。 そう言いながら差し出された物は、一つの金で出来た首飾りだっ くれ﹂ ﹁宝石の類いなんだがな。それがダメならこの辺りの質屋を紹介して ﹁物⋮⋮ですか ﹂ ﹁あぁ⋮⋮。申し訳ない、出来れば金ではなく、物で払っても良いかな 正直、この男に出せるとは思えない。 年収の数年分はあるだろう。 金貨10枚というと、ポンと出せるような代物ではない。世帯平均 ﹁全てですと、金貨10枚相当で御座います。﹂ の値段を思い出しながら、手元にあるそろばんを弾いた。 何かおかしな事でも言ったか、と男の顔に不安が浮かぶ。店員は本 ﹁ ﹁⋮⋮全て、ですか ﹁いや、それぞれ有るぶん全て下さい﹂ ? 数ですので、少々お待ちいただけますでしょうか﹂ ﹁ご無礼を御許し下さい。今すぐ商品の方をお持ちいたします、数が の上に置き、頭を下げる。 慌てて体勢を直すと、首飾りを丁寧にカウンターから取り出した布 返答が遅いことを不安に思ったのか、男が探るように聞いてきた。 ? 39 ? ? ﹁大丈夫だ。こちらもいきなりですまなかったな、焦らず、ゆっくりと 用意してくれ﹂ ﹁はい、失礼します﹂ そう言うと、店員は奥の方へと引っ込んで行った。店員と話してい た男は、笑顔を引っ込めるとため息を一つ吐いた。 ﹁さて、本を受け取り次第、ナザリックへと帰還するとしよう﹂ 男のその言葉に、後ろにいた数人は頷いた。 こうして、異世界に転移したモモンガの初めてのおつかいは幕を閉 じた。 ◆ ﹁⋮⋮文字が分からんですねぇ﹂ ペラペラとページを捲りながら、餡ころもっちもちは呟いた。 40 近くで魔道具のメガネを着用しているモモンガへと声を掛ける。 ﹁魔道具の類いで理解出来るくらいですね。時間はまだまだ掛かりま すが﹂ ﹁仕方ありません、数が少ないですから﹂ ﹁ユグドラシル時代ではゴミだと思っていたアイテムが、まさかここ まで必要な物になるとは⋮⋮﹂ この場で本を読んでいるのは、ブループラネット、たっち・みー、モ モンガ、ウルベルト、建御雷の5人だ。 他の者は持っていなかった為、交代で読もうということで決定した のだった。 どのような物です、ウルベルトさん﹂ ﹁しかし、ユグドラシルプレイヤーの匂いを感じる文書もありますね﹂ ﹁何 を伸ばした。その時、 そのやり取りに微笑ましく思いながらも、モモンガは次の本へと手 ている。 普段は仲が悪いウルベルトとたっちの二人も、興味津々で本を捲っ ﹁ほら、この辺りとか⋮⋮﹂ ? どうしました ﹂ ﹁モモンガさん、私私。通じてる ﹁茶釜さん これ﹂ ? ぶっつけ本番 というところへ向かわれました﹂ ﹁やまいこ様、ぶくぶく茶釜様両名が、 ︻ゲート︼を使用し、カルネ村 大きく息を吸って、メイドは一口で言った。 ﹁はい⋮⋮っはぁ﹂ ﹁どうした。落ち着いて話せ﹂ ﹁と、ッ突然の入室、申し訳、ありません﹂ 嫌な予感しかしないが、なるべく冷静に、メイドの言葉を待つ。 メイドのその緊迫した表情に、その場に居た誰もが緊張する。 ンガへと近づいていく。 何事かと全員が目を向けると、息を切らしたメイドの一人が、モモ れた。 ぶくぶく茶釜の話を遮るように、円卓の間の扉が、音を立てて開か ﹁モモンガ様ぁ‼ 大変です‼﹂ ﹁単刀直入に言うとさ、やまいこさんが﹂ を頭へと添える。 脳裏に走る声に、 ︻メッセージ︼を受信したと感じて、モモンガは手 ? この世界での物語は、無情にも進んでいく。 41 ? 正義の味方∼カルネ村編∼1 でもやり方としては近いかも ﹁おぉっと、こ、こうですかね﹂ ﹁あ、惜しい ﹂ で、出来ましたよ 達はいたって真面目である。 ﹁お、ぉぉお ﹁スゴいじゃんやまいこさん そのまま一時間。 ﹂ ﹂ ると回したり⋮⋮。一見パントマイムをしているかのようだが、本人 1メートル程の鏡に向かって、手を縦横にスライドしたり、ぐるぐ 鏡︼の操作に夢中になって取り組んでいた。 第九階層にある執務室では、やまいことぶくぶく茶釜が︻遠隔視の ? 茶のティーポットが乗ったカートがある。 作業が一段落行ったから、休憩でもどう ﹂ ? ﹁私レモンティーに蜂蜜たっぷり垂らしたのお願い﹂ ﹁ロイヤルミルクティー頼めるかな と言いたいのだろう。 パチパチと軽めの拍手と共に現れたのはセバスだった。後ろに紅 ﹁やっほー﹂ ﹁あ、セバス﹂ ﹁おめでとうございます。やまいこ様、ぶくぶく茶釜様﹂ う。 その姿が異形の者でなかったなら、きっと微笑ましくあっただろ キャッキャとはしゃいでいた。 視点の移動、引いたり、拡大したり等のコツを掴んだ女子二人は、 ! ! ? 42 ! ?! ﹁かしこまりました。すぐに準備致します﹂ 綺麗に一礼し、カチャカチャと紅茶の準備を始めたセバスを眺めて ﹂ いると、︻遠隔視の鏡︼で遊んでいたぶくぶく茶釜が声を上げた。 ﹁どうかしたんですか ﹁いや、これ⋮⋮﹂ ぶくぶく茶釜が指を指した方には、鎧を着た兵士が、村の中で人を 追い回している光景だった。 何かの祭かと思ったが、兵士が持っているその武器と、血だらけで 倒れている人を見て、その考えも吹っ飛んだ。 ﹁⋮⋮何でかな。普通なら気分が悪くなりそうなのに、全然なんとも ない﹂ ﹁私もだよ。⋮⋮多分、この身体になった影響じゃないかな﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮異形種、か﹂ そのまま眺めていると、一人の男性が、娘であろう女の子二人を 庇って兵士へと組み付いた。 だが、特に時間を稼げる訳でもなく、すぐに切り殺されてしまった。 ﹃││││‼﹄ ﹁ぁ⋮⋮﹂ かろうじて逃げた女の子二人も、すぐさま追い付かれる、姉であろ う女の子が、必死の形相で兵士のヘルムを殴り飛ばした。 ﹁あ、ヤバい。この女の子殺される﹂ 隣で見ていたぶくぶく茶釜がそう声を上げた。見れば、背中から切 りつけられ、今まさにとどめの一刺しが入れられる寸前だった。 待って‼﹂ なりません、お待ち下さい‼﹂ ?! 43 ? ﹁え、ちょ、やまいこさん ﹁やまいこ様 ?! ﹁︻ゲート︼起動﹂ 後ろで何か言っているのが聞こえたが、やまいこにとってはそれど ころではなかった。 空間に︻ゲート︼の発動に生じる歪みができ、迷うことなくその中 に足を踏み入れる。 やまいこの尊敬する一人の人物の言葉が、心の中で響いていた。 自分の所属するギルド︻アインズ・ウール・ゴウン︼の創設理由の 一つ。 〝困っている人が居れば、助けるのは当たり前〟 それを、この世界でも証明してみせる。 ユグドラシルプレイヤー、やまいこ 彼女の生涯初めての実践が、始まる。 ◆ はっきり言って、自分の身に何が起きているのか、私、エンリ・エ モットは理解できて居なかった。 突然村に来た兵士に襲われ、母が剣で斬られるのを何も出来ず、た だ見ていることしか出来なかった。 ﹁エンリ、ネムを連れて逃げろ‼﹂ 父にそう怒鳴られた時、初めて身体が自由に動いた。震えている妹 のネムを連れて、村の外れまで逃げだした。 だが、ネムはまだ幼い。ある程度は距離を稼げたが、特に意味も出 せず、すぐに追い付かれた。 ﹁ったく、手こずらせやがって、このガキ﹂ ﹁さっさと殺せよ。殺害人数で負けてんぞ。俺たち﹂ ﹁そうだな。っと、まずはちいせぇのから殺そうぜ、また逃げられたら 厄介だ﹂ 44 ちいせぇの。という声に、ネムの事だとすぐに分かった。 私の中の警鐘が鳴り響く、それを行うには、何の躊躇いもなかった。 ﹂ ﹁アアァァア‼﹂ ﹁ぐぅっ 今まで一度も出したことない声を上げて、私はネムの腕を掴んでい る兵士の頭を殴り飛ばした。 頭と言っても、防具であるヘルムを殴り飛ばしたくらいだ。それど ころか、手がぐしゃぐしゃになったのが分かる。 痛みはない。それよりも頭が沸騰したようにグラグラとしており、 自分がどうにかなりそうだった。 ﹁このガキぃ‼﹂ ﹁ははっ、だっせぇ。⋮⋮さっさと行こうぜ、隊長がお呼びだ﹂ ﹁そうだな⋮⋮、死ね、ガキ﹂ 背中を数度切りつけられ、地面へと蹴り転がされた。 兵士は剣を構えて、こちらへと向かってくる。 ﹁お、おねぇちゃん⋮⋮﹂ ﹁大丈夫だよ、ネム。⋮⋮もう一度、私がアイツらを押さえるから、そ の隙に逃げて﹂ ﹁い、嫌だよ‼ おねぇちゃんが居ないと嫌だ‼﹂ 恐怖から泣き出した妹を守るため、庇うようにして身を丸める。 すぐにでも痛みがくると思ったのに、いつまでたっても来なかっ た。 ﹁な、何だ。ありゃあ⋮⋮﹂ ﹁し、知らん。⋮⋮、何か来るぞ﹂ 45 ?! 顔を上げると、兵士が得体の知れない物を見る目で、私の後ろを指 差していた。 ゆっくりと振り返ると、何もない空間に、ぽっかりと黒い穴が開い ている。 その穴の中から、人影が一つ、ゆっくりと出てきた。 黒い髪をした、この辺りでは見たことない風体。そして、見たこと もないくらいの美人だった。 ﹁間に合ったようだね。良かった⋮⋮﹂ 穴から出てきた彼女は、私の事を確認すると近寄ってきた。親し気 な雰囲気に、何処かで出会ったかと記憶を辿る。 ﹁もう大丈夫だよ。安心して、アナタ達のことは、私が守るから﹂ 笑顔でそう言った女性を見て、胸の中に何かがストンと落ちて、次 第に落ち着きだした自分がいた。 ズキズキと痛みだした背中の傷のせいか、自然と涙が溢れだした。 慌てて手で顔を覆うが、嗚咽も出てきて、自分が今情けない顔をして いるのが分かる。 ﹁こんな無抵抗の子供二人に、大の大人が二人掛かりで殺そうとする なんて⋮⋮﹂ 女性はそう言ってゆっくりと立ち上がり、兵士の方へと向くと言っ た。 ﹁道徳は担当外の教科なんだけど﹂ ﹁おいで、特別授業してあげる﹂ その目は、はっきりと怒りで染まっていた。 46 女教師怒りの鉄拳∼カルネ村編∼2 ボクは、教師という職に就いていることに充実していた。 確かに、授業を聞かない反抗期真っ盛りの子供や、 問題児ならぬ問題親、モンスターペアレントだっている。 日々ストレスとの戦いで、元々言いたいこともはっきりと言えない 性格も相まって、イライラを溜め込むこともあった。 だが、それでも子供と接することは楽しかったし、やりがいもあっ た。 怖いもの知らずで、言いたいことをズケズケ言ったりする子供も好 きだ。 反抗期の子供だって、大人になるための自立する用意だとも言え る。 47 モンスターペアレントと呼ばれる人たちも、自分の子供なんだ、大 切にするに決まってる。 だから、そんな子供達が大人になっていく段階を見ていける教師と いう仕事に、ボクは誇りを持っていた。 だからこそ、今ボクがこうして彼女達をを庇っているのも、ボクは ﹂ 間違っているとは少しも思っていないし、言わせない。 ◆ ﹁ひ、怯むな、ぶっ殺せ ││そう、思っていた。 見た目が異様だから多少怯みはしたが、所詮は女、すぐに片はつく。 隣に居た相棒が、剣を振り上げて黒髪の女に突撃した。 ! ゴパッ、という音と共に、何かが俺の隣を目にも止まらぬスピード で通過した。 視線を送ると、遥か数十メートル先で、見覚えある鎧を着たナニカ が、グシャグシャになりながらバウンドし、更に吹っ飛んでいたとこ ろだった。 ﹁⋮⋮ステータスが結構下がるから、割りと本気で殴ったけど⋮⋮。 まぁ、別に良いか﹂ 拳をグーパーしながらブツブツ呟いていた女が、俺の方を見た。 それだけで、身体に冷や水をぶっかけられたみたいに冷え上がる、 足の感覚が希薄になり、自分が今立っているかどうか、それすらも確 認できないくらい震えていた。 ﹁さて、次は君の番だね﹂ 48 ﹂ 女が、この場の空気に合わない笑みを浮かべながら、こちらへと ゆっくり近付いてくる。 ﹁た、頼む⋮⋮っ、見逃してくれ‼﹂ 女は一瞬きょとんとした顔をした後、軽く笑って言った。 ﹁君は、そう言って助けを求める人に、少しでも慈悲を与えたかな ﹁そ、そうだ。与えた、与えたとも‼﹂ ﹁や、やめ││﹂ 行しよう﹂ ﹁〝郷に入りては郷に従え〟ボクの国の言葉なんだけどね、それを実 兵士の心境が分かったのか、女はにこりと微笑んで言った。 自分達の行いが知られ、兵士は後がなくなったことを理解した。 ならさ⋮⋮﹂ ﹁へぇ、ヘラヘラ笑いながら殺してたのは、慈悲を掛けた結果なんだ。 ? 言葉はそこまでしか語られず、腹部に絶命の一撃を受けて、兵士の 身体はゴムボールのように吹き飛んだ。 ﹁まだまだスッキリしないけど⋮⋮。まぁ、取り敢えずは良いか﹂ 鉄拳制裁。 体罰教育という、PTAやら教育委員会が物申しそうな特別授業 は、彼女、やまいこの鉄拳で幕を閉じた。 49 おっちょこちょい∼カルネ村編∼3 ﹁あ、ぁぁあ。どうしよぅ⋮⋮﹂ 先ほどまでの剣幕はどこに行ったか、エンリとネムは目の前でオロ オロとするやまいこをただ見ていた。 ﹂ 兵士との戦闘を終え、一段落してふと我に帰ったやまいこは、重大 なミスに気付いた。 ﹁︻無限の背負い袋︼持ってきてない⋮⋮ッ そう、助けに来たのに丸腰だったのだ。 そして、それが無い以上︻ポーション︼などで傷の手当ても出来な い。 ﹂ これ以上ない間抜けな惨状に、やまいこはただオロオロと右往左往 するしかなかった。 ﹁お嬢ちゃん、お探しの物はこれかい ト︼を起動させようとすると、横から声を掛けられた。 声と共にやまいこに差し出されたのは、紛れもなく彼女の︻無限の 背負い袋︼だった。 おぉ、と歓喜するやまいこだったが、差出人の顔を見て真っ青に染 まった。 ﹂ ﹁ぶっ、ぶくぶく茶釜さん⋮⋮﹂ ﹁言いたいこと、分かるかな 50 ?! いっそナザリックに二人とも連れていこう、そうしよう。と︻ゲー ? にこにこと笑顔で対応したのは、 ︻変化の腕輪︼で変身したぶくぶく ? 茶釜の姿だった。 突然現れたもう一人の女性に、エンリとネムは﹁誰だろう﹂程度の ﹂ ﹂ 認識だったが、やまいこは違った。 ﹂ ﹁あ、あのぅ。⋮⋮怒ってます ﹁あぁん ﹁ひぃぃ か ﹂ ﹁あの、村の方にも他の兵士が居ると思うんです。助けてくれません 言った。 一通りお礼も言って、安心したのも束の間、エンリは失礼を承知で 傷が治ったのを確認すると、やまいこはエンリとネムに微笑んだ。 ﹁⋮⋮うん、大丈夫そうだね﹂ が、助けてくれた恩人︵の仲間︶から貰ったのだ、意を決して飲んだ。 始めてみる赤い色のポーションに、エンリは一瞬飲むのを躊躇った ﹁は、はい﹂ ﹁はい。これで充分治るから、使って﹂ そのままエンリへと近付くと、一本の︻ポーション︼を差し出す。 ある程度捏ねると、気がすんだのかぶくぶく茶釜は手を離した。 ﹁問答無用ぉ‼﹂ ﹁で、でも、それじゃ間に合わな││﹂ ﹁あの時、私は、待ってって、言ったでしょ‼﹂ 捏ねまくる。 まいこの顔をガシリと掴むと、そのまま頬っぺたをムニムニと力強く ドスの効いた声と共に、ぶくぶく茶釜の態度が一変した。両手でや ? ﹁そうだね。モモンガさんにも連絡入れてるし、多分こっちの様子見 てると思うよ﹂ 51 ?! ?! ﹁良いよ、元からそのつもりだしね。良いでしょ、茶釜さん﹂ ? そう言ってぶくぶく茶釜は視線を空へと送る。エンリも同じよう ﹂ に見上げたが、特に変わったものは無かった。 ﹁さて、それじゃ村の方へと案内してくれる ぶくぶく茶釜のその言葉に、エンリは頷いた。 ◆ ﹁⋮⋮良かった。無事なようだな﹂ 第9階層、執務室。そこには部屋の広さに比べて、かなりの人数が 入っていた。 ﹁モモンガ様、すぐにでも私ども守護者を送り込み、御二方に帰還して 貰うべきでございます﹂ モモンガに対してそう言ったのはデミウルゴスだ。冷静なように 見えるが、 ︻遠隔視の鏡︼に写る兵士へと、分かりやすい敵意を放って いる。 デミウルゴスのその言葉に、同席している他の守護者も頷いた。二 人を連れ戻し、代わりに自分を行かせろと、態度が語っている。 ﹂ ﹁先ほど、茶釜さんから連絡があった。村の方へと赴き、問題解決まで 滞在するようだ﹂ ﹁そのようなこと││﹂ ﹁なら、お前にあの二人を止められるか トが、そう言った。 何かを迷うような態度のデミウルゴスに、続けて言う。 ﹁あの二人ならば大丈夫だ。茶釜さんは防御特化、やまいこさんは突 破力も充分ある。それに、こうして観測もしている。事が動けば、お 前達を送り込むとしよう﹂ 52 ? デミウルゴスが言う前に、椅子に座って腕組みをしているウルベル ? それまで待て。とウルベルトは締めた。その言葉に守護者は納得 できていないのも居るが、頭を下げ了解の意を取る。 ﹁それにしても、あの兵士達の出所は何処なんですかね﹂ ﹁この辺りの三大国のいずれかでしょうけど⋮⋮。正直、この村を襲 うメリットが無いですからね﹂ ﹁ふむ。これからの出方次第ということですか﹂ ﹁そうですね。⋮⋮ペロロンチーノさん、タブラさん、たっちさん、ウ ルベルトさん。もしもの為に、戦闘準備しといて貰って良いですか ﹂ モモンガの言葉に、呼ばれた数人が頷いた。 ﹂ 呼ばれなかった者の一人、ブループラネットが手を上げた。 ﹁私たちはどうすれば ますか﹂ ﹁分かりました。⋮⋮ギミックはどうします ﹂ 者と連携して、防衛レベルを最大限に上げておく段取りをしてもらえ ﹁この村からナザリックは近いので、もしもの時のために各階層守護 ? ﹁黒幕かな﹂ が、村の様子を覗くように森に隠れていた。 モモンガが操作すると、鎧と法衣を合わせたかのような装備の集団 ︻遠隔視の鏡︼を覗いていたタブラが、一点に指差して言った。 ﹁⋮⋮おや、村の外に怪しげな集団が﹂ まぁ、資源がバカにならないという理由が主なのだが。 ク組み込んだにも関わらず、わざわざ出向いて相手することが多い。 貧乏性が多い︻アインズ・ウール・ゴウン︼は、折角各階層にギミッ 分かりました。とブループラネット他、数名が声を上げた。 る筈です﹂ ﹁それは相手の実力次第で決めましょう。先ほど程度なら、充分勝て ? 53 ? ﹂ ﹁うーん、兵士達の装備と全く違うけどなぁ﹂ ﹁偽装の線もありますよ﹂ ﹂ ﹁あ、そっか。ならそうなのか ﹁俺が狙撃しましょうか ﹁﹁﹁﹁﹁ ﹂﹂﹂﹂﹂ ﹂ ﹁そうですね。少し弄れば充分使えると思います。皆美男美女だし﹂ ﹁⋮⋮変化の見た目、ナザリックの者から選びましょうか﹂ ﹁茶釜さんはルプスレギナかな ﹁ていうか、やまいこさんの人間の姿。ユリにそっくりですね﹂ 作した。 仲間の安全を確実な物にするため、モモンガは︻遠隔視の鏡︼を操 さて、次はどうでる ﹁了解でーす﹂ ﹁待ちましょう。まだ不安要素が多いですから﹂ 早すぎる。 弓での攻撃を得意とする彼なら造作もないことだが、それは決断が イタズラするノリで、ペロロンチーノがそう言った。 ? ? その情報に、ナザリックで仁義無き戦いが勃発するが、また別の話。 54 ? ? 至高の方々に自分の容姿を使ってもらえる。 ?! ガゼフ・ストロノーフ∼カルネ村編∼4 ﹁││先ほどの失礼な物言い、誠に申し訳ない﹂ 王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフは、目の前の女性、やまいこと ぶくぶく茶釜に頭を下げた。 ﹁い、いえ。仕方ないと思いますし、お互い様ですよ﹂ ﹂ ﹁まぁ、大きな問題にもならなかったし、特に問題ないなら終わりにし ませんか 気にしてない。と言外に言っている二人に、ガゼフは更に頭を低く した。 ││数時間前。 村に到着したやまいことぶくぶく茶釜は、エンリとネムを安全な場 所へと隠し、索敵に出た。 そこで出くわしたのがガゼフの一団だ。 黒髪の、見たこともない風体の美女二人組。 襲われていた村の襲撃犯だと疑うのは仕方のないことかもしれな い。 反対に、やまいこと茶釜の二人も、ガゼフ一団を犯人と勘違い。 ﹂となった。 開戦前に一言あるか、とお互いに問いただした結果、 ﹁あれ、コイツ ら違うんじゃね 遅くなりましたが、とガゼフは言って ﹁⋮⋮素晴らしい人格者ですね﹂ ﹁いいえ、困っている者を助けるのは、当たり前のことですから﹂ ﹁改めて、村の者を守っていただき、ありがとうございました﹂ ルネ村の村長、ガゼフ、ぶくぶく茶釜で簡単な会議をする。 隠していたエンリとネムを、やまいこが迎えに行っている間に、カ したと反省していた。 王国での戦士長の地位に就いているガゼフは、罪の無い女性を糾弾 ? 55 ? ﹂ ﹁ガゼフ・ストロノーフ、リ・エスティーゼ王国にて戦士長をしており ます。⋮⋮失礼ですが、そちらは ﹂ ﹂ 開いた。 ﹁どうしたの ﹂ 話の流れから大体読めてきた茶釜が口を開こうとしたとき、ドアが ﹁戦士長⋮⋮﹂ ﹁スレイン法国という国です。やはりな⋮⋮﹂ ﹁法国 兵士の報告に、茶釜がぽつりと言った。 そらくですが法国の手先かと‼﹂ ﹁はい。村の外部にて、こちらへと向かう集団を発見したとの報告、お ﹁どうした、敵襲か﹂ ﹁戦士長、報告です‼﹂ できた。 どうしようかと悩んでいると、ドアを開けて一人の兵士が飛び込ん やっぱり来た。と茶釜は心のなかで舌打ちする。 らから ﹁茶釜さんに、やまいこさん⋮⋮。この辺りの人とは思えないが、どち す﹂ ﹁あ、えっと⋮⋮。茶釜と呼んでください。もう一人は、やまいこで ? ﹂ ? ﹂ ? ガゼフは話した。おそらくであろう今回の事件の狙い。 ﹁⋮⋮あぁ。お話ししましょう﹂ と、話して貰えますか ﹁ガゼフさん、あなたが分かったこと、これからしようと思っているこ ﹁⋮⋮詳しく聞いて良いですか ﹁ちょうど良かった。やまいこさん、今回の黒幕のお出ましだよ﹂ ナイスタイミング、と茶釜はやまいこへ言った。 気遣うように聞いてくる。 上機嫌で入ってきたやまいこは、何かを感じたのだろう、こちらを ? 56 ? ? 自身、ガゼフ・ストロノーフの殺害。 一通り話したあと、ガゼフは村長へと頭を下げた。 ﹁本当に申し訳ない⋮⋮。せめて、すぐにでも村を出よう。外の連中 も、まとめて引き受ける﹂ ﹂ 椅子から立ち上がり、道具を纏めるガゼフに、声を掛ける存在が あった。 やまいこだ。 ﹁ガゼフさん、少し良いですか 意識しているのかどうかは分からないが、軽い上目遣いでそう訊ね るやまいこにガゼフは苦笑した。 美人は得をするというが、本当だな 良いですよ、と返事をした自分に対して、輝くような笑みを浮かべ たやまいこを見て、ガゼフはそう思っていた。 ◆ ﹂ ﹁お初にお目にかかる。リ・エスティーゼ王国、戦士長のガゼフ・スト ロノーフで間違いないかな あっていた。 ﹁そうだが。そちらは う﹂ ﹂ 男はニヤリと笑い、その場にいる者全てに聞こえるよう大きな声で 言った。 ﹂ ﹁私はスレイン法国、陽光聖典隊長、ニグン・グリッド・ルーインだ。 ガゼフ戦士長 ス レ イ ン 法 国 の 誇 る 武 力 の 一 つ。六 色 聖 典 に そ れ に 近 い 存 在 が あった。 だが、それは存在しないということに、表向きではなっている。 ﹁お前達が、最近この近辺の村落を襲撃して回っている者達、というこ 57 ? 夕暮れかかった時刻、村の外部の平原地帯では、二つの部隊が睨み ? ﹁これから死ぬお前には名乗る必要も無いのだが⋮⋮。ま、良いだろ ? 陽光聖典、という言葉に、ガゼフ達一団はざわついた。 ? とで、間違いないか ﹂ ﹁おや、要らぬ疑惑を持たれているようだが、何か確証が ﹂ あからさまな態度に、ガゼフの部下が沸き立った。すぐにでも戦闘 を始めようとする部下を手で制し、ガゼフは言う。 ﹁お前達が俺の抹殺を狙い、村落を襲撃していたのはもう分かってい る。それを自白し、こちらに投降するのであれば粗雑には扱うまいと は思ったが⋮⋮﹂ 腰につけた鞘から剣を抜き放ち、ニグン、陽光聖典へと向ける。 ⋮⋮やれ﹂ ﹁お前達のその命、ここで散ると思え﹂ ﹁言いたいことはそれだけかな ﹂ るはずものなく、ガゼフ部隊は次々に撃破されていった。 天才と呼ばれる魔術師にしか呼び出せない存在を兵士が知ってい と呼ばれる。第三、第四位階魔法で召喚される天使。 ︻監視の権天使︼ ︻炎の上位天使︼ 陽光聖典がいる上空数メートル付近に、それらは居た。 馬の駆ける音に混じって、誰かがそう言う声が聞こえた。 ﹁何だ、あれ⋮⋮﹂ ││そうなるはずだった。 ある程度持ち込める。 彼らが得意なのは白兵戦だ。魔法を使うのだとしても、接近戦には く。 ガゼフの号令に、騎馬に乗った兵士達は陽光聖典へと進軍してい ﹁進めぇ‼﹂ ニグンのその言葉が合図となった。 ? ﹁通常の武器ではダメか、ならば ︻戦気梱封︼ ! 58 ? ? ︻急所感知︼ ︻流水加速︼ 三つの武技を発動させる。 なるべく大技、隙を作る技は使わず、一撃で倒すことを念頭におく。 ﹁はぁっ‼﹂ 一体。 ﹁せぃっ‼﹂ もう一体。 ﹁︻四光連斬︼、︻即応反射︼﹂ 囲んできた天使を四体。 王国で支給されている普通の武器の切れ味の悪さに、ガゼフは舌打 ちをついた。 ﹁︵ここで決着を付けなければ⋮⋮︶﹂ 先ほど村でやまいこに言われたことを思いだし、ガゼフは身体に活 を入れる。 ﹃もし、ダメだと判断したら、私たちの魔法で乱入します﹄ 女を戦場に立たせてたまるか。 ﹁まだまだァァア‼﹂ 意地と誇りとプライドを爆発させて、ガゼフは咆哮と共に大地を踏 みしめた。 59 メンバーチェンジ∼カルネ村編∼5 ﹁先ほどまでの威勢はどうしたのかな、戦士長﹂ 夕日が沈みかけ、もう薄暗いとさえ思える時間帯、カルネ村付近の 平原では、一つの戦場に決着がつこうとしていた。 倒れているのは皆、ガゼフが率いる兵士達のみ。ニグン率いる陽光 聖典は、誰も倒れてすらいない。 ﹁我らが使役する︻炎の上位天使︼と、 ︻監視の権天使︼の力はどうか ね。まだ隠している力があるのなら、出しても良いぞ﹂ ﹁⋮⋮これだけは、したくなかったのだが﹂ 疲労困狽のガゼフが力なく笑う。 突如変わったその態度に、ニグンは頭のネジでも外れたか、と疑問 に思ったが、そうではなかった。 60 ﹁女を戦場に出すなど、戦士として最低だ﹂ そう言葉を残して、ガゼフが突然消えた。 ﹂ ガゼフだけではない、その部下達も、突然にだ。 ﹁なっ⋮⋮、何処に消えた、何をした 部下の数名が色めき立つが、ニグンは言った。 言えるほどの女性だった。 フレンドリーに、笑顔でそう挨拶したのは、どちらも絶世の美女と ﹁ども、茶釜です﹂ ﹁初めまして、陽光聖典のみなさん。ボクはやまいこと申します﹂ すると、ガゼフが先ほどまでいた位置に、二つの人影が現れた。 見たこともない現象に、ニグンは思わず辺りを見渡す。 ?! ﹁それで、貴女方は、何かようですか ﹁ふざけるな‼﹂ ﹂ ﹂ ﹂ ﹁私たちは世界の救済を願うもの、その行いに口を出す気か ﹁ガゼフが死ぬことが救済なのだ、邪魔をするな ! ﹂ ? ? 必要があるの﹂ ﹁そこに住んでる人も居るんだよ どうして関係の無い人まで殺す ﹁意味など無い。強いて言えば、ガゼフを呼び出すための餌だ﹂ ﹁⋮⋮そうやって村を襲撃することに、何の意味があるの ﹂ その言葉に、目の前の女性二人、特にやまいこが反応する。 ﹁手始めにそこの村を焼いてやれば、奴もすぐにでも顔を出すだろう﹂ ニグンはニヤリと笑って、二人の背後を指差した。 だ。そうだなぁ⋮⋮﹂ ﹁知れたこと、奴等が穴蔵から出てくるまで、また村落を襲撃するだけ 白々しいその言葉に、ニグンは舌打ち混じりに返した。 ﹁そのガゼフさん、もう居ないよね。どうするの ニグンがそう言うと、茶釜がでもさぁ、と返す。 が我らの使命、それを邪魔しないでほしい﹂ ﹁皆、よく言ってくれた。聞いただろう、お嬢さん、ガゼフを殺すこと ! ﹂ 軽い調子で言う茶釜の言葉に、ニグン達陽光聖典は口々に言う。 でしょ、止めない ﹁あぁ、そうそう。さっきまでの戦い全部見ててさぁ、もう決着ついた ? れが普通なのだから﹂ はあるだろ、それに対してもお前は憤るか 憤ることはあるまい。そ ﹁お前の言っていることはただの偽善だろう。今まで肉を食ったこと それに、とニグンは続ける。 よって生じる損害など、仕方のないことだ﹂ ﹁それをすることが、世界の為、人類の平和のためだとすれば、それに ? ? 61 ? ﹁それと同じだ。我らは必要だから人を殺す、それに対するお前の怒 りは、ただの身勝手な我が儘というものだ﹂ 瞬間感じる、上空からの殺意に、ニグンは全身に冷や汗をかいた。 呪いの類いかと周囲を探っていると、黙っていたやまいこが言っ た。 ﹁そうだね。確かにそれは我が儘だ。でもね⋮⋮﹂ その女性から沸き立つ、見えないなにかに、陽光聖典の呼び出した 天使達が異常に反応する。 ﹁我が儘だろうが身勝手だろうが、構わない。ボクは、ボクの意地を通 す‼﹂ ﹁よく言ったね、やまいこさん。次は私も混ざるから、お互いにサポー トよろしく﹂ ﹁⋮⋮後で泣き言言っても遅いぞ、異端者がぁ‼﹂ 第二ラウンド。カルネ村での戦いは、終焉へと向かう。 62 戦いの終わり∼カルネ村編∼6 ニグン達陽光聖典は、殲滅戦術を得意とする一団だった。 隊員の使役する︻炎の上位天使︼と ニグンが使役する︻監視の権天使︼、またニグン自体の特異な能力 ︵タレント︶によって、天使のステータスは強化される。 天使達一団の人海戦術と、隊員が使える魔法での後援によって、ニ グン達陽光聖典は数々の勝利を手にしていた。 今回の任務でも、ガゼフ・ストロノーフ一団を殺害という、いつも ﹂ 通りに任務をこなすだけだったが││ ﹁││これで全部 女、やまいこが上体を戻して言う、彼女が向き合っていた地面には、 潰れた︻炎の上位天使︼が光を放ちながら霧散していくところだった。 ﹂ ﹁大したことないなぁ。王国最強らしいのガゼフさんが追い詰められ るくらいだから、手こずるかと思ったけど﹂ ﹁まぁ、第三位階程度の魔法だし、こんなもんじゃない 揺する。 ﹁第三位階⋮⋮〝程度〟 ﹂ 隣に来たぶくぶく茶釜がそう言うと、その言葉に陽光聖典一同が動 ? ﹂ 魔法も使わず、武技を使用した様子もない。己の身体能力のみで打 その第三位階の天使を、コイツらは軽く倒した。 分かっている。 ているのか、えぇ ﹁第三位階程度とはどういうことだ、貴様等、その言葉を理解して言っ とはどういうことだ。 第三位階は、選ばれた人間のみが到達出来る領域の魔法。〝程度〟 誰が発したか、その言葉を理解し、ニグンは激昂した。 ? 63 ? ?! 倒したのだ。 ﹂ ﹁最高位天使を召喚する、援護しろ﹂ ﹁ハッ ニグンはそう言うと、懐から一つの水晶体を取り出した。子供の頭 一つ分くらいありそうなそれを見て、茶釜が言う。 ﹁あ れ、︻魔 封 じ の 水 晶︼だ ね。超 位 魔 法 以 外 を 取 り 込 め る 物 だ け ど ⋮⋮。あの言葉を聞く限り、︻熾天使︼でも入れてんのかね﹂ ﹁だとすると厄介ですね。⋮⋮流石にワールドエネミークラスはない でしょうけど﹂ 様子の変わった二人に、ニグンは勝機を見たりと笑う。 ﹂ 召喚準備の整った水晶を掲げ、高らかに言った。 ﹁見よ、この尊き姿を。そして恐怖し、ひれ伏せ た。 ﹁どうだ。この姿を見ても先ほどの余裕が言えるか 今すぐそこ 過去に魔神の一体を倒したとされるそれを仰ぎ見て、ニグンは言っ それが、︻魔封じの水晶︼に封じられていた最高位の天使だった。 ︻威光の主天使︼ つ清浄な気配に、陽光聖典の兵士は感嘆の声を上げる。 闇に包まれたはずの平原を、その神々しい光で照らす、その光の持 神々しい光を放ちながら、一体の天使が出現した。 ! うに︻威光の主天使︼を見上げているだけだった。 何か言いたげな雰囲気に、ニグンは問いただす。 ﹁何だね、言いたいことがあるのなら聞いてやるが それを聞いて、一拍置いてから茶釜が言う。 ﹂ ニグンのその言葉を聞いても、やまいこと茶釜はポカンと呆けたよ ぞ﹂ に這いつくばり、命乞いをするのであれば、考えてやらんこともない ? ? 64 ! ﹁いや、〝最高位〟の天使 これが ﹂ ? ﹁⋮⋮ な ら ば 受 け て み ろ。魔 神 を も 滅 ぼ し た 一 撃 を ﹂ ︻善 な る 極 撃︼ 隣に立つやまいこも、これはちょっと⋮⋮。と言いたげだ。 マジか、お前。という顔で見ている。 ? ﹂ ﹁そ、そんな⋮⋮。ま、まさかお前達、神の血を継ぐ〝覚醒者〟⋮⋮っ 光聖典は今度こそ絶句した。 そんな軽い調子で︻善なる極撃︼から出てきた二人に、ニグン達陽 ﹁な、なんかピリピリくる⋮⋮﹂ ﹁ちょ、熱っ﹂ 想だったと知る。 手応えあり、まともに直撃したとニグンは感じたがすぐにそれは幻 る。 天から降り注ぐ聖なる光の柱が、やまいことぶくぶく茶釜に直撃す ! ﹁⋮⋮はい。あ、そうするんですか。⋮⋮ま、良いでしょ。了解でー す。はい。﹂ ぶくぶく茶釜が︻メッセージ︼を終えると、やまいこへと伝える。 ﹁情報取りたいから、アイツらはナザリックに連れていくってさ、だか ら私たちはこれにて帰還だって﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮分かりました。﹂ もう安全だって﹂ 不満。そう顔に出しているやまいこに、ぶくぶく茶釜は苦笑を浮か べた。 ﹁カルネ村に戻って、エンリちゃん達に報告しよう ? 65 ! ?! ﹁⋮⋮そうですね ﹂ 機嫌が戻ったやまいこに、内心ガッツポーズしながら、二人は転移 で村へと移動した。 陽光聖典をナザリックへと連行する捕縛部隊が登場したのは、すぐ 後の事であった。 ◆ ﹁︻魔封じの水晶︼が出てきたから警戒しましたけど、普通にクリアで きましたね﹂ 次々と捕縛される陽光聖典の姿を︻遠隔視の鏡︼で眺めながら、モ モンガはそう呟いた。 あのニグンとかいう男の物言いには腹立ったが、無事に終わったの で不問としよう。 ﹁それにしても、気になるワードが有りましたね。神の血を継ぐ〝覚 醒者〟⋮⋮、だっけ﹂ ⋮⋮牽 ﹁血を継ぐってことは実在の人物ということでしょうか。あの二人と 同等ということは、プレイヤーの可能性もあります﹂ ﹂ ﹁なら、そのスレイン法国にはプレイヤーが居るんですかね 制含めて攻撃でもしてみます ? ﹁えぇ ここは﹃そうだな﹄、とか言うところでしょ﹂ ﹁モモンガさん、台詞が臭い﹂ その言葉に、その場に居たプレイヤーは静かに笑みを浮かべた。 恐れることはありません﹂ ﹁ここにいる全員ならば、どんな奴が攻めてきても勝てますからね。 それに⋮⋮。と続け、モモンガは周囲に居る者達に視線を向ける。 ん﹂ ﹁よしましょう。下手につついて要らない問題を作る必要もありませ ? 二人が帰ってきたら一言注意しないと、と思いながら、モモンガは 66 ! 再び賑やかになる一同に、場が暖まる。 ?! ︻遠隔視の鏡︼を仕舞った。 67 ナザリックの忙しい一日 その日、ナザリックは喧騒に包まれていた。 ﹂ ﹂ 普段は静寂に包まれ、廊下を歩く足音しか響くことはない廊下を、 数人のメイドやシモベが走り回る。 ﹁││急ぎなさい、資材の搬入はまだですか ﹁シャルティア様からのシモベの伝令によるとまだのようです いつもは冷静なデミウルゴスですら、その日は焦っていた。 そのデミウルゴスの言葉に、走り回っていたシモベの一人、サキュ バスがまだ届いていないことを伝える。 普段であれば叱責の対象であるその態度も、今はどうでもいいとさ え思えていた。 ﹁くそ、ここで何としても手柄を立てなくては⋮⋮﹂ デミウルゴスのその言葉は、廊下の喧騒に消えていった。 ◆ ﹂ 円卓の間。普段は会議で使用するその場所は、今は男性プレイヤー しか居なかった。 ﹁それで、どうします す。 その言葉に反応するように、隣に座っていたたっち・みーが言う。 ﹁ですから私たちは、自分の守護者の姿を使いますよ﹂ ﹁えぇ﹂ ﹁えー⋮⋮﹂ 同意するように頷いたウルベルトを見て、モモンガは分かりやすい 不満を口に出した。 ︻変化の腕輪︼の変化対象。 それが急務での議題だった。 68 ! ?! 重苦しい空気の中、取り敢えずジャブでモモンガが会話を繰り出 ? ことの始まりは昨日。 ﹁││やまいこ様、ぶくぶく茶釜様両名。御帰還されました﹂ ﹁御無事の生還で何よりでございます﹂ 守護者、シモベ、メイド⋮⋮、ナザリックに存在する全てのシモベ が、二人に向かって頭を垂れる。 困惑するやまいこと違い、ヒラヒラと適当に対応したぶくぶく茶釜 は、モモンガの元へと来ると言った。 ﹁ただいま。心配かけてすみませんでした、モモンガさん﹂ ﹁あ、す、すみませんでした﹂ ﹁いえ、二人が無事で何よりですよ﹂ 本心からの言葉に、やまいことぶくぶく茶釜は胸を降ろす。 会話が終わったのを感じてか、執事のセバスと、守護者のデミウル ゴスが三人に近付く。 ﹁失礼を承知で申し上げます。あのような状況では、シモベの数名を 引き連れて行くべきだと思われます﹂ ﹁セバスに同意でこざいます。お二人は他の至高の方々と同じくナザ リック、いや、この世において頂点に位置する御方。勝手な行動をさ れて、心配する者が居ると意識なさって下さい。﹂ デミウルゴスの言葉に反応するように、アウラ、マーレ、ユリが立 ち上がり深く頭を下げた。 ﹁⋮⋮うん。ごめんね﹂ ﹁次からは気を付けるから﹂ 自分の子供ともいえる者からの心配に、二人も頭を下げた。また過 剰に反応されても困るので、後で謝りに行こうとすぐに上げる。 ﹁あ、モモンガさん。伝えることが﹂ ﹁どうされました。やまいこさん﹂ ﹁え ー っ と、近 い う ち に、ナ ザ リ ッ ク に お 客 さ ん が 来 る ん で す け ど ⋮⋮﹂ 69 ﹁⋮⋮え ﹂ それからのナザリックは嵐のようだった。お祭り隊長、ぶくぶく茶 釜、餡ころもっちもち、るし★ふぁー、ヘロヘロを先頭に、ナザリッ ク︵特に外観︶をリフォームしようぜ、となったのだ。 凝った見た目にするため、ブループラネット、タブラ、ウルベルト もそれに参戦した。 元々毒の沼地にあった遺跡が、だだっ広い草原に移ったので、ナザ リックの外観は周囲に比べてあまり良いものではなかった。 皆が言うならせっかくだし、とモモンガもノリノリでGOサインを 出した。 そこまでは良かった。 ﹁なら、二人みたいに人間の時の姿でも決めましょうか﹂ 誰が言ったか、その言葉から戦争が起きた。 ﹂ ﹁なら、私は守護者のセバスをモチーフとしましょう﹂ とたっち。 ﹁それなら私はデミウルゴスですね﹂ とウルベルト。 ﹁なら僕は⋮⋮、あれ、もう居なくね それからも争いは続いた。 ﹁モモンガさんそのままでもカッコいいじゃないですか﹂ ? 絶対モテますよ﹂ ﹁人前に出れる姿じゃないですよね﹂ ﹂ ﹁コキュートスなんてどうです ﹁蟲にしかモテねーよ ? ﹁おや、詳しいですね﹂ ﹁イワトビペンギンじゃねーか﹂ ﹁じゃあエクレアをお譲りしましょう﹂ ! 70 ? ﹁誉められても全然嬉しくない ◆ ﹂ ﹂ セバスは察したのか、なるほど、と口を開いた。 デミウルゴスの言葉に、コキュートス、マーレは疑問を浮かべる。 今、ナザリックの模様替えをしているのは大きなチャンスだ﹂ ﹁いや、マーレ。君は私たちが見ても子供に見えるが⋮⋮。とにかく。 ば子供に見えるし⋮⋮﹂ ﹁そ、それを言うなら、ぼ、僕だって無いですよ。至高の方々からすれ ﹁ソウダナ。⋮⋮マァ、俺ノ姿ナド、至高ノ方々ハ使ワナイダロウガ﹂ うだ﹂ れるが⋮⋮、ぶくぶく茶釜様の例を見ると、思わぬ番狂わせがありそ ﹁⋮⋮順当に行くならば、私の姿はウルベルト様が使われるかと思わ 水面下での戦いは、噴火寸前の火山のように高まっていた。 私が選ばれる。 を燃やす。 その場にいたプレアデス、守護者数名は静かに、されど激しく闘志 ることはないでしょうけど﹂ ﹁それはあの方々が決めることよ、シャルティア。まぁ、貴女が選ばれ 至福。⋮⋮譲りんせんよ ﹁至高の方々に使われるなど、私たちにとっては何物にも代えがたい ち様だけね ﹂ ﹁私もよ、エントマ⋮⋮。他に決められていないのは、餡ころもっちも ﹁ぐぬぬ⋮⋮、腹立つほどに羨ましいぃ⋮⋮﹂ す♪﹂ ﹁いやぁ、こんな私を至高の方々に使われるなんて至極光栄の極みっ 羨ましい﹂ ﹁ぶくぶく茶釜様はルプー、やまいこ様はユリ姉をモチーフにした。 いた。 そんなプレイヤーをそっちのけで、シモベの間でも争いは始まって ! ﹁つまり、この模様替えでの貢献によって、今後至高の方々が行動をさ 71 ? れる際、共に行動、または任命されると⋮⋮﹂ ﹁その通りだ、セバス。まぁ、至高の方々から頼りにされると思えば、 分かりやすいかな﹂ 話の内容を理解したのか、おぉ、と声を上げる。それぞれの野望が あるのか、特にコキュートスはトリップしていた。 ﹁オォ、若様。ソンナニ慌テナクトモ、爺ハココニ居リマスゾ⋮⋮﹂ ﹁いや、コキュートス。それはいくらなんでも飛び越えすぎだ⋮⋮﹂ とにかく。と言って、 ﹁今がチャンスだ。共に、ナザリックに、ひいては至高の方々に仕える 者として、お互い協力しようじゃないか﹂ タブラさん﹂ デミウルゴスが差し出した手に、その場に居た男性陣は手を重ね た。 ◆ ﹁おや、此処で何をされてるんです ﹁あぁ、プラネットさん。外観をどのようにしようかと、考え中でして ⋮⋮﹂ 第一階層、出入り口の付近で座り込んでいるタブラの近くに、ブ ループラネットは座った。 近くではコキュートスの配下である︻八肢刀の暗殺蟲︼が、姿を消 して控えている。 二人とも︻変化の腕輪︼を使用していた。取り敢えずはその辺にい ﹂ る人間の姿を、︻遠隔視の鏡︼を使用してコピーしている。 ﹁それで、どうするつもりなんです ﹁んー、思いきってタイル張りにして外壁を造るか、柵を設置して庭園 要塞っぽく造るのもカッコいい 風にするかで迷っているんですけど﹂ ﹁外壁は良いんじゃないですか と思いますけど﹂ 目の前に広げた羊皮紙に、サラサラとタブラは書き込んでいく。 そこには全体の造りと、どこをどう造り変えるかのアイデアが記さ 72 ? ? ﹁要塞⋮⋮、良いですね。そのアイデアいただきです。﹂ ? れていた。 ﹁おかげで外観は決まりそうですね﹂ ﹁そうですか。⋮⋮他には何処をリフォームするんです くところだった。 ﹁お疲れさま、アウラ。調子はどう ﹂ ﹂ 骨組みは終わっており、後は各階層の床など、内装を完成させてい 第六階層、ジャングルの一角に、その建物は建築途中であった。 ﹁はいはーい、そこはもう床張って行って良いよー﹂ ◆ にまで取り掛かっているようです﹂ ﹁第六階層に、お客さん用のホテルを建てるらしいですよ。もう、建築 ? す﹂ モ モ ン ガ 様 か ら 貸 し て い た だ い た︻デ ス ナ イ ト︼ ﹁あぁ、なるほど。皆やる気充分なんだね、ありがとう﹂ ! ﹂ この工事終わったら絶対休ませよう。絶対。 そう、心に誓った。 ◆ ﹁え、えーと。こんな感じですか ﹁そうそう、そんな感じ。悪いね、マーレ﹂ ﹁い、いえ。至高の方々からの命令ですから、嬉しいです ! ﹂ ? を削るのにも役立つし、仮に入られたりしても、橋を落とせば逃げら ﹁俺の国では、昔拠点の回りに堀を掘ってたんだよ。侵入者のルート ﹁そ、それにしても、堀を三重に作るのは、どのような策略が その中の一人、マーレが、隣にいるるし★ふぁーへと疑問を放つ。 ナザリック外部、屋根部分に、三人の人影があった。 ﹂ どん、と胸を叩き、誇らしげにするアウラに、ぶくぶく茶釜は笑う。 ﹁至高の方々からの命令とあらば、どんなことだって致しますよ ﹂ や、コキュートス、デミウルゴスの配下の者が手伝ってくれてるんで ﹁欠 陥 住 宅 ⋮⋮ ﹁え、早⋮⋮。大丈夫だよね、欠陥住宅とかじゃないよね﹂ けですね。後1日あれば終わりそうです﹂ 後は内装を仕上げていくだ ﹁ぶくぶく茶釜様、お疲れさまです ? ? 73 ! ? れないしな﹂ ﹁な、なるほど。確かに大人数でも一網打尽に出来ますね。流石は至 高の方々﹂ ﹁ま、︻飛行︼を使われたら意味ないけどねー﹂ ﹁え、えぇー⋮⋮﹂ ﹂ ケラケラと笑いながら言うるし★ふぁーに、マーレは困惑する。 そんな二人に、隣にいた建御雷が訊ねた。 ﹁ところでマーレ、掘はどれくらいの深さになっているんだ 杖を構え、マーレは魔法を起動する。 ﹁わ、分かりました﹂ ﹁そうか⋮⋮、深さをもう3メートル深くしてもらえるか ﹂ ﹁え、と、深さが大体10メートル、幅は5メートル程で造っています﹂ ? ド ル イ ド で あ る 彼 は、大 地 の 操 作 に 手 慣 れ て い る。ゆ え に、ナ ザ リック外部での今回の作業は、彼の独壇場であった。 ﹁︵こ、これでアピールポイントは大分稼げたはずだよね︶﹂ 至高の方々直々の側近。 ﹂ ﹂ 74 ? 守護者各位、更には姉であるアウラを出し抜けたと、マーレは心の 中でほくそ笑んでいた。 ﹁そういえば建御雷さん、ここには何で ? ﹁満場一致で、るし★ふぁーさんの監視を頼まれました﹂ ﹁そこまで信用ないの俺 ?! おいでよ、ナザリック城 凄い。 エンリは語彙が少ない自分を恥じた。 ﹁すっごーい、お城みたい‼﹂ 隣では妹のネムが目をキラキラさせて見上げていた。 圧倒的な迫力を誇るその外観は、エンリが今まで見た中でも一番の 迫力のものだった。 ガッシリとした構造は三階くらいまでの高さがあり、屋根には悪魔 を象った石像が四体、四方に設置されている。 ネムの言葉通り、服装や雰囲気は全く違うが、確かにやまいこに似 75 その周囲では、モノクロ状にタイルが張っており、入り口へと繋が る道は、煉瓦で通路が出来ていた。 その全体を囲むように、石垣のように外壁が作られており、門には 蒼い炎を灯した大きな杯が、両端に備えられていた。 外に一歩出ると、その周囲を囲むように堀が三重にも掘られてい る。中には水が張られ、見たこともない綺麗な花が浮かんでいた。 ﹂ ﹁お待ちしておりました。カルネ村のエンリ・エモット様、妹のネム様 で御座いますか ﹂ ? ネムの言葉に、エンリはマジマジと女性を見つめる。 ﹁初めまして⋮⋮、やまいこさん ﹁は、はい。カルネ村から来たエンリです。こっちは、妹のネムです﹂ 驚きを隠せず、恐る恐る、エンリは返答をする。 いつの間に居たのか、一人の女性メイドが門の付近に立っていた。 ? ていた。 ﹁⋮⋮やまいこ様は私のご主人であり、このナザリック地下大墳墓に おける頂点の一人で御座います。私はユリ・アルファ、こちらでメイ ドをしている者です﹂ 間違えるな。直接言われはしなかったが、目線はそう言っていた。 慌てて謝ると、ユリは優しく微笑んで門を開けた。 ﹁それでは、中へ御入りください。やまいこ様、ぶくぶく茶釜様方が、 首を長くしてお待ちしております﹂ あ、ほんとに此処であってたんだ。 開いていく門を見ながら、エンリは今更ながらそう思っていた。 ◆ ﹁久しぶり、二人とも﹂ あの後のカルネ村は、兵士の追撃なども考えられていたが、兵士は おろか、魔物の姿すらもなかった。 不気味な程の静寂に、何かの前触れかとも思ったが、至って平和 だった。 76 よくわからないうちに案内された場所には、やまいこと茶釜が居 た。 一生を掛けてもここまで揃えきれないほどの調度品に包まれたそ の部屋に、エンリは一瞬入るのを躊躇った。 意を決して入ると、エンリの家に入りきらないくらいの広さのテー ブルに、二人の他にもう一人男性が座っている。 ﹂ ﹁やまいこさん、茶釜さん、お久しぶりです﹂ ﹁久しぶりです 人が言う。 ﹁元気そうで良かったよ﹂ ? 挨拶もほどほどに、やまいこがそう訊ねてきた。 ﹁久しぶりだね、あの後は何もなかった ﹂ 今にも駆け出そうとするネムを押さえつけていると、それを見た二 ! ﹁えぇ、何事もなく過ごせました。⋮⋮えぇと、そちらの方は ﹁あぁ、こっちは、私たちのリーダーである、モモンガさん﹂ ﹂ モモンガと言われた男性はこちらの事を見ると、笑顔を浮かべた。 やまいこ達と同じ黒髪で、この辺りでは見たこともない風体の美 形。 同じ地方の出身なのかな、とエンリは感じていた。 ﹁初めまして、ナザリック地下大墳墓の主をしています。モモンガで す﹂ ﹁あ、は、初めまして、カルネ村に住むエンリ・エモットと申します。 この度は、お招き頂きありがとうございます﹂ ﹁いやいや、我が友人であるやまいこさんと茶釜さんの友人だ。構う ことはないよ、ここに居る間はゆっくりしていってくれ﹂ 不思議と人を落ち着かせるその声音に、エンリは自然と聞き入れて いた。 ﹂ 隣にいた筈のネムが、いつの間にかモモンガに近づいていたことを 知るのは、すぐのことだった。 ﹁ねぇねぇ、ここのお城、ぜーんぶモモンガさんが作ったの その他居る私の友人達で作り上げた場所だ﹂ ﹂ ﹁へぇ∼。こんなに凄い場所を作れるなんて、モモンガさんの友逹は 凄い人なんだ ﹂ ﹁うん ﹂ それで、他にはあったかい ﹂ えっとね、凄かったんだよ、兵士の一人をね、思いっきり ぶっ飛ばしてたの ﹁あはは、そうかそうか ﹁うん、他にはね││﹂ ? 77 ? ﹁⋮⋮、いや、私だけではない。そこに居るやまいこさんや、茶釜さん、 ? ﹁⋮⋮あぁ。やまいこさんと茶釜さんの凄さは、先日君も見ただろう ! 身振り手振りで興奮した様子で話すネムの話に、モモンガは笑って ! ! ! ? 聞いている。 止めたほうが良いか、と二人に視線を送ったが、二人は手を横に 振った。 ⋮⋮だ、大丈夫なんですか ﹂ ﹁えっと、今日は一泊してもらおうと思っているんだけど、大丈夫かな ﹂ ﹁えぇ て良いよ ﹂ ﹁ここにいる間は、さっきモモンガさんが言った通り何も気にしなく 悪な光景に、エンリは顔を青ざめた。 自分一人ならば良いが、ネムが居たら何が起こるか、考えられる最 か考えきれない。 回りにある展示品の様なものも、一つ壊せばどれだけの請求が来る 考えるほどに高級感漂っている。 今いるこの部屋も、床に敷いている絨毯は靴で踏んでも良いのかと 所だと思っていた。 エンリは正直に言って、このナザリックは自分にとって場違いな場 良いけど⋮⋮﹂ ﹁うん。元々そのつもりだったんだ。もし急ぎの用があるなら、別に ? という茶釜の提案に、エンリは全力で首を横に ? ﹂ ? ﹁本日のメニューは││﹂ 置く。 二、三話すと、メニュー表の様なものを持ってきて、エンリの前に と、やまいこがメイドの一人を呼んだ。 和食、洋食。どっちも聞きなれない単語にエンリが困惑している 洋食、どっちが良い ﹁この日の為に、ご飯も美味しい物を用意したんだけど⋮⋮。和食と 振った。 一個壊してみる ﹁あー、大丈夫だよ。別にその辺の物壊した所で、誰も怒らないし﹂ ﹁で、ですが、ネムが迷惑をお掛けしたらと思うと⋮⋮﹂ ? 78 ?! ? 挙げられた名称は、ほとんど聞いたことのない物だった。煮付け、 などはスープの類いだろうかと思案する。 ただし、エンリの中で食いついたのは、デザートのメニューだった。 ﹁デザートには、6種のアイスクリーム、季節のフルーツを使ったタル ト、他にもマカロン等。食後のドリンクは、ホットチョコレート、コー ヒー、紅茶を予定しております﹂ アイスクリームは聞いたことがあった。自分が汗水流して働いた 給料を三回分以上払って食べられる甘味。 それが食べられるとなっては、エンリを止める鎖も、もはや蜘蛛の 糸程度の強度しかなかった。 ﹁││いただきます﹂ 凄い。 ﹂ 改めて、自分の語彙の無さに恥じた瞬間だった。 ◆ ﹁ぅわ∼ 眼前に広がる光景に、ネムは興奮しきっていた。 何もかもが見たことない物で出来ている、とネムは思っていた。 廊下に敷いている絨毯にせよ、壁などに掛かっている絵画や宝飾品 の数々。 ﹂ 目に映るものが全て好奇心を掻き立てる物に、ネムの足は止まらな かった。 ﹂ ﹁ふふ、そんなに急がなくとも、まだまだ見る場所は有るぞ ﹁まだまだ有るの ? ﹁よ、浴場ってなに ﹂ ﹁む。風呂には入らないのか しむが良い﹂ ナザリックの浴場は広い。存分に楽 早いが、浴場なども、後で使うが良い﹂ ﹁あぁ、ここナザリックはこの世の贅を極めたからな。まだ使うには ? ﹁そうなんだ。楽しみ ﹂ に増えた楽しみに、ワクワクが増える。 よく分からないが、とにかく広い風呂、とネムは理解した。この後 ? ? ! 79 ! いや、しかし⋮⋮。と悩みだしたモモンガ。 ﹁ははは。では次へと向かうとするか、次は⋮⋮﹂ 第六階層を飛ぶか た。 カルネ村から来た、ネム・エモットと言います。今 ﹂ ? これからトレーニングがてら、軽く ? が﹂ ﹁行く ﹂ ﹁なるほど⋮⋮。ネム、行ってみるか 私たちの戦いが見れるかもだ 建御雷さんとスパーリングでもするんですが﹂ ﹁なら、第六階層なんてどうです てね、次は何処にしようかと思って﹂ ﹁あぁ、たっちさん。このネムに、今ナザリック内部を案内していまし ﹁モモンガさん、ここで何を ﹂ 良く言えました、と頭を撫でるたっちに、ネムは自然と笑顔になっ みー。たっちと呼んでくれ﹂ ﹁ん、あぁ、やまいこさん達のお客さんか。初めまして、私はたっち・ 日はお邪魔しております ﹁は、初めまして その時、通路の奥からやってきたその男に、ネムは声を上げた。 ? ? 指輪を起動して一足先に行ったモモンガ達に、たっちはポツリと言 う。 ﹁確 か、な ん と 言 っ た か ⋮⋮。ペ ロ ロ ン チ ー ノ さ ん が 言 っ て た が。 ⋮⋮そうだ﹂ ちょろイン。 たっちはモモンガの表情を思い出して、そう呟いた。 ﹁⋮⋮お前は此処で何してるんだ、アルベド﹂ 80 ! ! 二つ返事で即答したネムに、モモンガは満足そうに微笑んだ。 ! ﹂ ﹁止めないでください、ペロロンチーノ様 う女を見てるんです ﹁恋敵って⋮⋮、あれは子供だぞ﹂ 今私は、恋敵になるであろ あぁ、どうしま ﹂ ? ?! な女にデレデレして⋮⋮、もしやそういう性癖が ﹁子供だろうが何だろうが、女は女です。⋮⋮あぁ、モモンガ様。そん ! しょう、いっそアイテムで若返りの薬を探すとか ﹁コイツはあれだな、ヒドインだ﹂ 81 ! どきっ、女だらけのイベント回︵異業種含む︶ 第九階層、ロイヤルスイート。 その中の一室では、円形の大きなテーブルに、色とりどりのスイー ツがはみ出ん限りに並べられていた。 ﹂ ﹁それでね、モモンガさんが使う魔法、凄かったんだー♪﹂ ﹁へぇー。どんなことをしていたの 言ってた ﹂ ﹂ ﹁ねぇねぇ、ネムちゃん。そのワンちゃんの名前、モモンガさん何て 隣にいた茶釜を見ると、同意するように苦笑いを浮かべていた。 ネムが話した内容に、やまいこはその笑顔を引くつかせる。 ちゃんが出てきたの ﹁えっとね、なんか紙みたいなのが燃えた後に、すっごく大きなワン かべたやまいこだ。 手に持ったナプキンでそのクリームを取ったのは、優しい笑顔を浮 口の端にクリームを付けたまま、ネムは大きく手を動かして話す。 ? ﹁ケルベロス ﹂ ﹁あ、うん。それだよ餡ころさん ﹁そっかー、やっぱりかー﹂ ︻ケルベロス︼ Kサインを出した。 ﹂ これはお仕置きやろなぁ、と小声で呟いた餡ころに、やまいこはO 間違っても、子供に見せるために召喚する代物ではない。 くらいの力がある。 強力なモンスターで、それ一体でこの辺の国一つくらい軽く滅ぼす つモンスターだ。 第十位階魔法に相当する召喚魔法によって出てくる、三つの頭を持 ! ? 82 ! ﹁えっとね⋮⋮、確か、けるべら、けるべる⋮⋮﹂ ? 私も混ぜろ。という意味だろう。 ﹂ ∼っ、美味しい⋮⋮﹂ ﹁ほらほら、エンリちゃん。これも美味しいよ ﹁い、いただきます ﹁甘い物大好きなんだね。よく食べるの ﹂ ﹁えっ﹂ スイーツ追加で ンリは困惑した。 ﹁それにしても、この後どうする ﹂ ﹂ またあのカートいっぱいにスイーツが乗ってくるのだろうかと、エ カートを引いて、扉から出ていった。 畏まりましたと頭を下げたメイドは、スイーツを乗せていた大きな る。 と、茶釜が近くに居たメイドへとオーダーを告げ ﹁⋮⋮、よし、エンリちゃん。食べよう、食料庫が空っぽになるくらい す﹂ ﹁い、いえ。普段はこんな甘味食べれません。ほとんどが果物とかで ? ころか。 ! していた。 ﹁んー、良いね。なら皆で行こうか﹂ ﹁さんせー。ていうか、二人は着替えあるの ﹂ 浴場と聞いて、昔聞いた王国の広い風呂というのをエンリは思い出 手を上げてそう言ったネムに、全員の視線が集まった。 ﹁あ、だったら浴場ってところに行ってみたい ﹂ 時計を見上げると、時間的にもう少ししたら就寝の準備といったと ころがそう言った。 食後の一時、これ以上入らないくらい膨れた腹を擦っていると、餡 ? た。 エンリが物思いに耽っている間に、トントン拍子で話は進んでい ﹁ナザリックに有るので良いでしょう。メイドに頼んでおきます﹂ ? 83 ? ! ! ! え、何事 するね﹂ と状況が掴めないでいると、やまいこが手を引いて言う。 スパリゾートって何 アウトした。 ◆ 何だ何だ、何処のVIPが来てんの ﹂ ? ? ネムを探すと、まだやまいこと餡ころに身体を洗ってもらっている 素直に思ったことを、そう口にした。 ﹁あ、はい。色々と、ありがとうございます﹂ ﹁今日は満喫してくれたかな﹂ その様子を見て、同じく湯船に浸かった茶釜が言う。 肩まで湯船に浸かって、エンリはそう口に出した。 ﹁ふぅ⋮⋮、気持ちいぃ⋮⋮﹂ ◆ することもなく、そのまま男性用の暖簾をくぐった。 その場にいた他の者も思っていたのだが、るし★ふぁーは特に気に 俺、なんか久しぶりに真面目なこと言った気がする 思った。 するように呟いているナーベラルを見ながら、るし★ふぁーはふと 瞬間、顔を青くして﹁あれは同等、あれは同等⋮⋮﹂と自分に洗脳 われると思うから気を付けてね。特にやまいこさんに﹂ ﹁うん。ナーベちゃん、多分あのお客さんに下等生物って言ったら嫌 ますぅ﹂ ﹁如何なる場合であっても、絶対に男性を通すなと、仰せつかってあり て下等せ││お客様二名が入浴中で御座います﹂ ﹁はっ、只今やまいこ様、餡ころもっちもち様、ぶくぶく茶釜様、そし た。 うにたっているメイド数名︵プレアデス含む︶にるし★ふぁーが言っ 浴場前の暖簾が掛けられた場所、主に女性側の方に、立ち塞がるよ ﹁おおぅ 等と思っていると、エンリの視界はブラック ﹁なら次は、ナザリック自慢の浴場︻スパリゾートナザリック︼に案内 ? ところだった。 84 ? 楽しそうに笑うネムを見て、エンリはポツリと呟く。 ﹂ ﹁あの子、最近はめっきり笑わなかったんです﹂ ﹁⋮⋮あの時以来 蔑している。 ﹂ そして、異業種になってからそんな感性に目覚めた自分を、心底軽 で、自分一人ならば見捨てる気で居た。 友人であるやまいこが助けたいと必死だったから力を貸しただけ た。 正直に言って、茶釜は当初、エンリとネムのことはどうでもよかっ を、茶釜はただ優しく撫でる。 胸元に顔を押し付けて必死に声を上げないように嗚咽するエンリ 偉い偉い、と背を優しく叩く茶釜に、エンリは思いきり抱きついた。 とだよ﹂ ん。それなのに、二人とも我慢して頑張ってる。それはとても凄いこ ﹁突然二人きりになってさ、生活しなさいって、私なら絶対無理だも うにすると、エンリにしか聞こえないように言う。 そんなエンリを、優しく茶釜は抱き締めた、他の者から見えないよ ﹁茶釜さん⋮⋮ ﹁偉いね、二人とも﹂ 涙を誤魔化すように、何度も顔を洗う。 湯に映る自分の顔が、いつの間にかクシャっと歪んでいた。流れる 久しぶりに、本心から笑うあの子を見れたから⋮⋮﹂ ﹁だから、今日はここにお邪魔させてもらって、本当に良かったです。 近所の人はそう言うが、エンリからすればそれは異常だった。 聞き分けのいい、良い子になった。 急に⋮⋮﹂ ﹁お父さんとお母さんが、その、死んで。前までよく笑っていたのに、 探るように聞いた茶釜に、コクりと頷いて肯定する。 ? 茶釜がこの二人に構うのも、そうした自分を変えたいと思うからで 85 ? もあった。 ﹁⋮⋮これからさ、何かあったらすぐに言ってね。私だけでも行って、 二人のことを絶対に守るから﹂ ﹁⋮⋮ぁぃ﹂ これ以上、この姉妹が理不尽に巻き込まれないように、 そして願うなら、次からは悲し涙でなく、嬉し涙を流していってく れますように、と。 自分の胸で泣きじゃくる少女を見ながら、茶釜はそう願っていた。 86 ﹁おや、モモンガさん。ご機嫌麗しゅう﹂ ﹁餡ころさん、茶釜さん、やまいこさん。どうしました、こんな時間に﹂ ﹁いえ、何処かの︻オーバーロード︼が、小さな子供に見せるためだけ ﹂ に、安全性に欠ける第十位階の召喚魔法を使ったと聞きまして﹂ ﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮キノセイジャナイデスカ ﹁ちょっと、頭冷やそうか﹂ その後、メチャクチャ折檻した てマジで洒落にならな﹂ ﹁いや、頭冷やすのに︻女教師怒りの鉄拳︼は必要無いやちょっと待っ ? つかの間の平穏 ﹁││重ね重ね、本当にお世話になりました﹂ 明くる日の昼下がり、昼食を食べ、最後にお茶会を交えてからエン リ逹はナザリックを出た。 メイドを引き連れてまで送りにきたやまいことぶくぶく茶釜と餡 ころに、エンリは心からの礼を言う。 ﹁いや、大したことじゃないから、お礼なんて良いよ﹂ ﹂ ﹁う ん。私 た ち こ そ、わ ざ わ ざ こ ん な と こ ろ に ま で あ り が と う ね。 ⋮⋮帰り、送らなくて本当に大丈夫 茶釜の言葉に、エンリは苦笑いをして断った。 ここからカルネ村までは、歩いても充分辿り着ける。確かに時間は 掛かるが、そこまで危険な道のりでもない。 ﹁大丈夫ですよ。森に近付かず、草原の道を通れば安全ですから﹂ ﹂ 心配だ。そう顔に出しているやまいこに、エンリは笑顔で言った。 ﹁そっか⋮⋮。なら、途中でお腹が空いたときに、これを食べて 取った。 ﹁やまいこさん、これはなぁに ﹂ それと、と追加で差し出された物を、今度は隣にいたネムが受け は、美味しそうな匂いが漂っていた。 差し出されたバスケットを受けとる。上等なそのバスケットから ? れるモンスターが、すぐに来てくれるから﹂ それは、小さな角笛に紐を通しただけの物だった。飾り付けに鳥の 羽のような物が付いている。 ﹂ 至れり尽くせりな対応に、エンリはもう一度頭を下げた。その下げ た頭をやまいこは優しく撫でる。 ﹁皆さん、今回はありがとうございました ﹁お、良く言えたね。偉いぞー、ネムちゃん﹂ ! 87 ? ﹁もし、危ない時とか困った時とかに、それを吹いてごらん。助けてく ? ﹂ ﹁えへへ。モモンガさんにも、色々見せてくれてありがとうって伝え てくれる ﹁うん。良いよ、伝えておくね﹂ また来てねー、と手を振る三人に、エンリとネムは礼をして歩いて いく。 夢のような時間だったが、例え夢でも良いとさえ感じる二日間だっ た。 ◆ ﹁⋮⋮そうですか。もう帰ったんですね﹂ 茶釜の報告に、モモンガはそう言った。 少しだけ寂しそうなその横顔に、茶釜はニヤニヤとしながら言う。 ﹂ ただ、他にも見せてやろうと思っていただけ ﹁あれれ∼、もしかして寂しいんですか ﹁なっ、ち、違いますよ で ﹂ ? ﹁へ、なんですか ﹂ ﹁ほんとにちょろいなー⋮⋮﹂ た。 あー、もう。と一人悶えるモモンガ、その様子を見て、茶釜は言っ つい色々と見せたくなって⋮⋮﹂ ﹁ナザリックをあそこまで褒められるとは思ってみませんでしたから その感覚に言葉が詰まりそうになるが、一口で言った。 モモンガは報告書を机に置き、茶釜へと向き合う。どこかむず痒い ﹁⋮⋮違いますよ。ただ、﹂ 言ってくれましたから、その時で良いでしょ﹂ ﹁言い訳が苦しいですよ、モモンガさん。まぁ、また来てくれるって ! ﹂ ﹁キャー、〝いけないこと〟だなんて、一体ナニをするつもりなの、モ は最優先でしなきゃいけないことなんですから﹂ ﹁あ、そうやってまた隠そうとしてるでしょ。ダメですよ、情報の共有 ﹁なーにもないですよー﹂ ? 88 ? モンガさん ! ﹁ちょ、待って、変なこと言いながら逃げるんじゃない ﹂ 執務室から聞こえる、ドタバタと走り回る音を聞いて、外に居たメ イド数名はいつものことか、と苦笑いをした。 ◆ ﹁はぅぁー⋮⋮、ぁぁぁ、極楽だぁ⋮⋮﹂ 同時刻、第九階層にある大浴場︻スパリゾートナザリック︼には、一 人の男の姿があった。 湯船に浸かる男の顔には、至福の表情が浮かんでいる。 ふぅ、と一息吐いていると、後ろからくる人影があった。 ﹁ん、あぁ、タブラさんですか﹂ ﹁おや、ヘロヘロさん。人間の姿で入っているとは﹂ タブラはそう言ってヘロヘロの近くへと湯船に浸かった。 ふぅ、と一息吐くのを待って、ヘロヘロは言う。 ﹁今回のリフォームはお疲れさまでした﹂ ﹁あぁ、いえいえ。こちらとしても、自由にさせてもらえて逆に礼を言 いたいくらいですから﹂ ﹁そうですか。⋮⋮ところで、タブラさんは顔のデータ、誰をモチーフ ﹂ デミウルゴスに調整して貰いました﹂ そう言ったヘロヘロの顔を、タブラはじっと見つめる。確かに美形 ではあるが、どこか、こう、 ﹁︵なんか、顔が死んでる⋮⋮︶﹂ 悲壮感というか、全体的に死にかけな表情だったのだ。 デミウルゴスが、長い時間真剣に考えて調 そういやこの人、伝説の超社畜戦士だったなぁと、タブラは心の中 でしみじみ思う。 ﹁あれ、なんか変ですか 少しだけ不安そうに、自分の顔を手でペタペタと包むヘロヘロに、 整してくれたんですけど﹂ ? 89 ! 私はその辺に居そうな、平均的な顔にしましたが﹂ にしたんですか ﹁私ですか ? ﹁あ、そうなんですか。僕は、前に見たカルネ村の人間をモチーフに、 ? タブラは手を横に振って誤魔化した。 ﹁︵どんなにしても表情が死ぬんだから、デミウルゴスは相当焦ったろ うな⋮⋮︶﹂ 御愁傷様、とデミウルゴスの顔を思い出しながら祈っていると、ヘ ロヘロが伸びをして言った。 ﹂ ﹁そういえば、そろそろ本格的に動くらしいですね﹂ ﹁ほぅ。メンバーは誰々ですか ﹂ ﹂ ? ⋮⋮か。俺の種族って記憶の吸出しも可能なのかね﹂ ﹁さーて、質問には回数制限がある、それを踏まえた上での情報収集 目指すは、ニューロニスト・ペインキルが居る拷問部屋。 する。 風呂から上がり、さっさと身支度を整えると、タブラは指輪を起動 ﹁あ、乙です﹂ ﹁では、お先に﹂ ﹁そうですねぇ﹂ ﹁まぁ、オンオフを大事に、やるべきことをやりましょう﹂ といってやりたいことを我慢するつもりもない。 言ったことは本心だ。別に冒険がどうでも良いとは思わないが、か 特に貴方は、とタブラは口には出さず言った。 ﹁いや、休めるときには休んだほうが良いですよ﹂ ﹁僕はまだ休みたいです。申し訳ないとは思うんですけどね⋮⋮﹂ でお留守番です。ヘロヘロさんは ﹁私は色々としたいことがありますからねぇ。しばらくはナザリック ませて、タブラは言った。 湯を両手ですくい、顔を洗う。じんわりと暖めてくれる湯に頬を弛 はどうするんです ﹁ははは。まぁ、気持ちは分からんでもないですが⋮⋮。タブラさん ﹁結構居ますねぇ。守護者がまた喧しくなりそうだ﹂ モモンガさんですね﹂ ﹁今のところの立候補は、ウルベルトさん、たっちさん、餡ころさん、 ? ︻ブレインイーター︼である自身の種族を思い出しながら、お仕事お仕 90 ? 事、と呟いてタブラは転移していった。 91
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