小児科の貧血 - e-CLINICIAN

O各科の治療指針
小児科領域における貧血の特徴を一口でいえば、
小児の貧血の特徴
胎児の組織では、大変低い酸素分圧で酸素の供給
グロビンが重要な役割りを果たしている︶。従って
素の供給を受けるわけである︵この際、胎児ヘモ
は胎盤を介して、母親の静脈血に近い血液から酸
長 尾
成人に比して鑑別診断と そ の 順 位 が 異 な る こ と で
を受けることになる。ところが、出生と共に肺呼
小児科の貧血
あろう。また、ヘモグロビン値︵血色素量︶の正
吸が始まり、大量の酸素が組織に供給されること
あり、小児の中でも年齢により異なりうることで
常値も、 年 齢 に よ り 変 化 す る 。
ω新生児期
出生と共に低下し、出生後二ヵ月問は活発な赤血
になる。このためであろう、骨髄における造血は
出産・出生は、新生児にとっても大変なことで
体重増加に伴う循環血液量の増大もあって、一∼
二ヵ月のうちに一二%程度に落着いてくる。
球産生を行わないのが普通である。出生直後には
一八∼二〇%あった血色素量も次第に低下し、
ある。子宮という安全快適な温室からの脱出とい
う環境の大変化はもとよ り 、 肺 呼 吸 の 開 始 と い う
大激変が待受けている。子宮内では、胎児の血液
特集・貧血を見直す
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大
①小児期に見られる主な貧血
1.骨髄造血低下
1.欠乏性貧血
鉄欠乏、ビタミンB6・B12欠乏、葉酸欠乏など
2.急性白血病
3.再生不良性貧血
特発性、先天性、二次性など
4.基礎疾患に伴うもの
内分泌疾患、腎不全、感染症、膠原病、悪性腫瘍など
II.骨髄造血充進
1.出 血
母児問・児間輸血、腸管出血、頭蓋内出血など
2.溶血性貧血
新生児溶血性疾患、先天性溶血性貧血、ビタミンE欠乏症、自己免疫性溶
血性貧血、溶血性尿毒症症候群など
未熟児・低出生体重児は、貧血になり易い。出
生後の体重増加が急速なため、血液の稀釈により、
ユ
生後二ヵ月頃に九%程度の貧血がくる。これを
未熟児早期貧血ともいう。一方、出生時の体重が
小さいことは、血液量すなわち鉄貯蔵量が少ない
ことを意味している。従って、正常成熟新生児の
鉄欠乏性貧血が生後六ヵ月以後に起こるのに、未
熟児では二ヵ月以後の早期にみられる。未熟児用
ミルクに、鉄が相当量添加してあるのは、この理
由による。
盤を介しての胎児からの母親への出血︶、胎児間輸
新生児期にみられる貧血として、母児間輸血︵胎
血などの出血性貧血とそれに伴う鉄欠乏性貧血、
溶血性貧血などが重要である。溶血性貧血は、新
生児期には貧血よりも、重症黄疸が問題になるこ
とが多い。従来、胎児赤芽球症と呼ばれた踏︵D︶
式血液型不適合妊娠による重症黄疸は、最近の妊
娠時の検査と、出産時の抗D抗体による治療によ
り、殆ど見られなくなっている。これにかわって、踏
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②各種貧血の主な発現時期
出血
貧血
溶典
曾ハ血
性
骨髄、
、生
〔
低下
迫
血
︵E︶式不適合、ABO式不適合の重要性が相対的
に上昇してきている。生後二ヵ月頃の未熟児にみ
られる溶血性貧血に、ビタミンE欠乏症がある。
我国ではミルクにビタミンEが添加されているた
めか、余り問題となっていない。
②小児期
新生児期・小児期にみられる主な貧血と、それ
らの主な発現時期を表①と図②に示した。新生児
期以後の小児についてみれば、貧血の原因の第一
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位にあげられるのは、鉄欠乏性貧血である。その
次には白血病、次いで再生不良性貧血、溶血性貧
血が位置する。感染症・腎疾患などの基礎疾患に
伴う貧血も多いが、程度も軽く、実態は不明であ
での小児では、血色素量一二%以上あれば正
る。貧血についての一つの目安として、思春期ま
ユ
常、一一%以下では貧血がある、一一∼一二9
/コでは正常かも知れないし何かが隠れているかも
知れない、というところであろう。
コ
鉄欠乏性貧血
赤芽球瘍(PRCA)
再生不良性貧血
白 血 病
TAM(Down)
感染症に伴う貧血
コ
血液型不適合
遺伝性球状赤血球症
先天性酵素異常
自己免疫性
溶血性尿毒症症候群
コ
コ
母児間・児間輸血
ビタミンK欠乏症
血 友 病
性
1歳(年齢)
3月
1月
1週
生下時
未熟児貧血
を一日四〇〇∼五〇〇認以上、水がわりに飲んで
などでは、牛乳多飲の見られることが多い。牛乳
鉄剤を投与してもなかなか貧血が改善しない場合
示す者、六ヵ月∼二歳でも重症な貧血を示す者、
乳多飲である。特に、二歳以上で鉄欠乏性貧血を
小児の鉄欠乏性貧血で忘れてならないのは、牛
望など、食生活も影響していると思われる。
であったという調査もある。思春期には、ヤセ願
月∼二歳の入院患者の五人に一人は鉄欠乏性貧血
素の需要すなわち鉄の需要が高まっている。六ヵ
いずれも 急 速 に 身 体 が 生 長 す る 時 期 で あ り 、 血 色
特に、生後六ヵ月∼二歳と、思春期に頻度が高い。
鉄欠乏性貧血は、小児においても重要である。
児には便利である。
剤が出て重宝している。また、五〇㎎の錠剤も小
直しを飲ませるとよい。最近、フェロミアの穎粒
剤などに砂糖を混ぜ、少量の水で飲ませ、後に口
等に混入するとかえってよくないことが多い。散
の生臭い臭のためであろう。シロップ剤をミルク
改善とともに嫌がるようになる。一つは、鉄自身
を要求しているためか喜んで内服するが、貧血の
を内服させることが困難なこともある。初めは鉄
欠乏症の合併などを考えて対処する。小児に鉄剤
いない、牛乳多飲、消化管などよりの出血、葉酸
な改善がなければ、診断の誤り、鉄剤を内服して
みられ、二ヵ月以内に正常化する。もしこのよう
して三暫㎎︵分二食後︶四∼六ヵ月間投与すると
ゆ
よい。通常、二週以内に血色素量の有意の上昇が
鉄欠乏性貧血
いること が 多 い 。 こ の よ う な 場 合 、 牛 乳 を 減 量 す
鉄 欠 乏性貧血の治療は 、 乳 児 は シ ロ ッ プ 剤 、 幼
らく禁乳することを奨めている。
乳幼児期の方が貧血の程度が重く、次第に軽くな
小児期では、最も頻度の高い溶血性貧血である。
遺伝性球状赤血球症
ることはかえって可哀想なので、一家全員でしば
児は散・穎粒剤、小児は錠剤の形で、鉄剤を鉄と
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に、二歳以下で摘脾すると、二%が肺炎球菌、溶
児では、摘脾による重症感染症の問題がある。特
る傾向がある。摘脾によ り 貧 血 は 消 失 す る が 、 小
摘脾を行う場合も同様である。
いる。これは、特発性血小板減少性紫斑病などで
脾後三年問はペニシリンVを内服することとしブ、
あると思われる場合、摘脾は五歳以上で行い、摘
︵神奈川県立こど鑛幾血液科科長︶
連菌などによる重症感染で死亡するといわれてい
チンを投 与 し て い る が 、 我 国 に は ま だ な い 。 従 っ
る。米国では、摘脾に際してこれらに対するワク
て我々は、溶血発作・生長障害など摘脾の適応が
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