室内環境学会誌 Vol.7 No.1 pp.278-279 (2004) 日本環境管理学会・室内環境学会 合同研究発表会講演予稿集 チリダニの発育に与える温湿度の影響 Effect of Temperature and Relative Humidity to the Growth of House Dust Mite 楠木 浩文* ○阿部 恵子** Hirofumi Kusuki, Keiko ABE keywords:house dust mite, temperature, relative humidity, growth environment チリダニ、温度、相対湿度、発育環境 1.はじめに 和紙 環状ステンレス板 チリダニ(ヤケヒョウヒダニとコナヒョウヒダ ニ)は住居内のアレルゲンとして大きな割合を占 クリップ める。チリダニの発育には住居内の温湿度環境が 影響する。そこで、温湿度とチリダニ発育の関係 を明らかにすることを目的に、チリダニとその餌 を封入した試験片(ダニセンサー)を作製し、様々 な温度と相対湿度を組み合わせた定常環境下にダ 図1 ダニセンサー ニセンサーを置いてダニの発育を調査した。 ダニセンサー 2.方法 使用ダニ:2種類のチリダニ、ヤケヒョウヒダ 外側湿室 内側湿室 プラスチック ネット ニおよびコナヒョウヒダニを用いた。 試験片:外径 32mm 内径 15mm、厚さ 2.3mm の環状ステンレス板3枚の間に和紙を挟み、中央 の空間部分に雌雄各 10 匹ずつのダニとその餌と してマウス用粉末飼料(オリエンタル酵母“MF”) 25mg と乾燥酵母(アサヒビール“エビオス”) 25mg を封入し、調査用試験片(図1 ダニセンサ ー)とした。 培養:図2にダニの培養に使用した2重湿室を 示す。内側湿室は縦横 10cm 高さ 3cm の密閉アク リルボックスで、外側湿室は縦横 12cm 高さ 7cm の密閉容器である。何れの湿室も底に小型容器を 置き、小型容器の内外に湿度調節用の溶液を入れ、 小型容器上にプラスチックネットを載せた。ダニ センサーは内側湿室のプラスチックネット上に置 き、ダニセンサーの入った2重湿室をインキュベ ーターに入れてダニを培養した。 *㈱アトピーラボ Atopy Lab Inc. **環境生物学研究所・農博 Institute of Environmental Biology, Dr. Agri. 調湿液 図2 培養装置 表1 2重湿室の相対湿度と湿度調節溶液 ダニセンサーを入れて 湿度変動を防ぐ為の 培養する内側湿室 外側湿室 相対 グリセリン 相対 湿度 溶液の屈折 湿度 塩の種類 (%) 率 (%) 55 1.4387 52.9 Mg(NO3)2 60 1.4329 63.5 NH4NO3 65 1.4264 63.5 NH4NO3 70 1.4191 70.8 SrCl2 75 1.4109 75.3 NaCl 80 1.4015 80.7 KBr 85 1.3905 84.3 KCl 90 1.3773 90.2 BaCl2 95 1.3602 95.4 Pb(NO3)2 培養終了時にダニセンサーをマイナス 20℃のフ れのダニも相対湿度 55%以下では発育しなかっ リーザーに移し発育を停止させた。 た。 ダニ個体数のカウント:ダニと餌の混合物を界 2種類のチリダニの発育領域は似ていたが、発 面活性剤水溶液中で分散させ、ブフナー濾過器を 育に適した環境はヤケヒョウヒダニがコナヒョウ 用いて濾紙上に展開した後、検鏡によって行った。 ヒダニよりやや高温低湿寄りであった。 発育曲線:内側湿室に NaCl の結晶とその飽和 本調査から、温湿度環境とチリダニの発育し 溶液を入れて湿度を 75.3%に調節し、ダニセンサ やすさの関係が明らかとなった。住居内の温湿度 ー2個(ヤケヒョウヒダニおよびコナヒョウヒダ 環境を測定し、その値からその住居のダニ汚染さ ニ各1個)を入れ、25℃で 1 週間~12 週間培養 れやすさを推定することが可能と思われる。 し、各培養期間終了時のダニ個体数を調査した。 温度と相対湿度の影響:温度は 5℃刻みで 5℃ 10000 で、各温度と相対湿度を組み合わせた環境を作っ た。温度はインキュベーターの設定温度により調 節し、相対湿度は内側湿室に入れるグリセリン溶 総ダニ数 ~40℃、相対湿度は 5%刻みで 40%~95%の範囲 1000 100 ヤケヒョウヒダニ コナヒョウヒダニ 液の濃度により調節した。表1に、25℃での内側 湿室のグリセリン溶液の屈折率と平衡相対湿度お 10 よび外側湿室の塩の種類と平衡相対湿度を示す。 0 2 4 各温度と相対湿度を組み合わせた環境下にダニ センサーを置き、4週間培養後、ダニ個体数をカ 6 8 培養期間(週) 10 12 図3 チリダニの発育曲線 ウントした。実験は2回繰り返した。 3500 3.結果と考察 ヒョウヒダニとコナヒョウヒダニの発育曲線を示 す。2回測定の平均値と最大値および最小値であ ヤケヒョウヒダニ 2500 総ダニ数 図3に、25℃・相対湿度 75.3%の環境下のヤケ 3000 2000 1500 1000 る。発育は同調化しており、ヤケヒョウヒダニの 500 ほうが発育がやや早く、ヤケヒョウヒダニの世代 0 5 時間が約5週間、コナヒョウヒダニの世代時間が 10 15 約6週間であった。 図4および図5に、各温度と相対湿度を組み合 20 25 30 温度(℃) 35 40 55% 60% 65% 70% 75% 80% 85% 90% 95% 図4 ヤケヒョウヒダニの4週間の発育 わせた環境下で4週間培養後のヤケヒョウヒダニ およびコナヒョウヒダニの個体数を示す。 ヤケヒョウヒダニは温度 30℃~35℃での発育 ウヒダニは温度 25℃~35℃での発育速度が高く、 最適温度は 30℃であった。何れのダニも 15℃以 下および 40℃では発育しなかった。 ヤケヒョウヒダニは相対湿度 70%~80%での 発育速度が高く、最適相対湿度は 75%であった。 コナヒョウヒダニは相対湿度 75%~85%での発 育速度が高く、最適相対湿度は 80%であった。何 総ダニ数 速度が高く、最適温度は 30℃であった。コナヒョ 1000 900 800 700 600 500 400 300 200 100 0 コナヒョウヒダニ 5 10 15 20 25 30 温度(℃) 35 40 55% 60% 65% 70% 75% 80% 85% 90% 95% 図5 コナヒョウヒダニの4週間の発育
© Copyright 2024 ExpyDoc