ら,住居内のダニ類の動態の推移を解析し,戦後の日本にお ダニ と 住環境 ける室内塵中のダニ類の増加と住宅築年数との関係につい て検討した。 わが国における室内塵中のダニ類の調査は,1964 年に大 第3回 島氏によって行われたものが最初である。その後行われた Ⅰ.ダニの生態 「住環境の変化とダニ類 の増殖」編 ダニ類の調査は,大島氏の行った方法と大きく異なるため, 大島氏の結果と比較されず,長期的なダニ類の推移が検討さ れることもなかった。 株式会社ペスト マネジメント ラボ 代表取締役社長 髙岡 そこで,筆者が行ったダニ類の調査と大島氏が行った方法 正敏 において,ダニ数の検出率が同じ値になるよう換算した。さ らに,その後の調査をできる限り大島氏が行ったものと同条 件で行い,わが国の室内塵中のダニ類の長期的な推移につい て検討した。 1.ダニ類の生態におよぼす住居内の要因 その結果,わが国の室内塵中のダニ数は,増加傾向を示し 住居内におけるダニ類の生態は,本連載の第 2 回で述べた ていることが明らかになった。特に戦後においては,チリダ ように,各種ダニ類の生理とさまざまな住環境要因との関係 ニ科に属するヤケヒョウヒダニとコナヒョウヒダニの 2 種 によって成り立っている。それら整理してみると,図 1 に示 が,顕著に増加する結果となった。大島氏の調査によれば, すように,住居内環境と住居外環境に分けられる。さらに, 室内塵 1g 当たりのチリダニ数は,約 500 匹ほどであった。一 住居内環境は,建築的要因と人為的要因に分けられる。住居 方,筆者が行った調査では,チリダニ数は年々増加し,1990 外環境としては,気象や住居の立地条件などが挙げられる。 年代には室内細塵 1g 当たり 1500 個体を超えた。大島氏の調 住居内環境のうち,建築的要因としては,住居の構造,用 査からわずか 30 年の間で,住居内のチリダニ数は,3 倍以上 にも増加したことになる。 いられる建材,築年数が考えられる。加えて,室内における そこで筆者は,このチリダニの増加の要因が住環境に起因 空調・冷暖房設備,家具・家電製品などが考えられる。一方, 人為的要因としては,家族構成やライフスタイルなどが挙げ しているのではないかと考え,わが国の住宅着工戸数とチリ られる。これらの要因が絡み合ってダニの生理に影響を及ぼ ダニ数の推移を比較した。その結果,図 2 にみられるように, し,住居内のダニ類の生態が構成されると考えられる。従っ わが国の新設住宅着工戸数の増加に伴い,チリダニ数が増加 て,これらの状況を総合的に把握した上で,住居内のダニ類 する傾向を把握できた。戦後,わが国は極度の住宅難から脱 の生態を認識しなければならない。 却するために,1970 年代に到る 20 〜 30 年ほどの間に多数 の住宅が建設された。郊外型の団地やプレハブ住宅の建設 など,戦前までの日本の伝統的な住宅とは異なるものであっ 2.室内塵中のダニ数の推移と住居の変化 た。このような住宅の変化に伴い,住環境や住まい方が劇的 に変貌したと考えられる。このような住環境の変化が,それ ダニ個体数(匹)/室内塵1g 気候条件 人為的要因 建築的要因 家族構成・ライフスタイル 構造・建材・築年数 ダニの生態 ダニの生理・行動 餌・温度・湿度・光・場所など 地理的条件 図 1 住居内のダニ類の生理・生態に及ぼす要因 24 新設住宅着工戸数 住居内環境 新築住宅着工戸数 2,000,000 2000 1,800,000 1800 1,600,000 1600 1,400,000 1400 1,200,000 1200 1,000,000 1000 800,000 800 600,000 600 400,000 400 200,000 200 0 ダニ個体数(匹)/室内塵1g わが国で過去に行われた室内塵中のダニ類の調査結果か 0 1945 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 (年) 図 2 新設住宅着工戸数とチリダニ数の推移の比較 建材試験センター 建材試験情報 12 ’ 14 乾燥傾向となる住宅も多いことが指摘されている。 ) 。ダニや に適合したチリダニの増加を促したと考えられる。 図 2 で示したダニ数の推移はそれほど精度の高いものでは カビの増殖を防ぎ,人の健康安全を確保するためには,多角 的な施策が望まれる。 ないが,戦後のわが国における室内塵中のチリダニ数が増加 筆者は,ある家庭(鉄筋コンクリート造・5 階)を対象に, したことは確かである。 温度と相対湿度を 1 年間測定し,気象台の統計データと比較 したクリモグラフを作成した。その結果を図 4 に示す。住居 3.わが国の住宅の省エネルギー基準の変化 内の環境は,年間を通じてダニが繁殖できる環境となってい ることがわかる。冷暖房機器などの普及が,ダニの増殖を加 わが国では,石油の枯渇や地球環境への影響などを背景 速しているといえよう。 に,建物の断熱性能を評価する省エネルギー基準が設定され ている。省エネルギー基準は,昭和 54( 1972)年に施行され た。その後,平成 4( 1992 )年(新省エネルギー基準) ,平成 4.住居内の環境とチリダニの生理および生態との関係 11( 1999)年(次世代省エネルギー基準)の改正を経て,建物 の断熱性能の向上が図られている。省エネルギー基準の変 住居内に生息しているダニ類の活動や繁殖は,温度および 遷を図 3 に示す。 湿度と密接に関わっている。ある種のチリダニ類やコナダニ 図 3 に示した住宅の省エネルギー基準の改訂は,住宅の高 類に関しては実験室実験が行われ,基本的な繁殖条件が分 気密・高断熱化を促すため,適度な換気や通風を行わないと, かっているものもあるが,住居内に生息する多くのダニ類に 冬期においても室内が湿潤傾向となる場合がある(なお,近 ついては不明であることが多い。 年は,暖房機器および換気設備の使用により,冬期の室内は 1)住居内の温度および相対湿度の変化 熱損失係数(Q値)W/(m 2・K) 9.0 8.0 次世代省エネルギー基準 (平成11基準)/等級4 7.0 新省エネルギー基準 (平成4基準)/等級3 0.0 1.6 2.4 1.9 ており,住居固有のダニ類が各家庭に生息している。 3.7 3.3 2.7 異なるが,大きな視点でみると各家庭特有の環境は保持され 4.6 4.2 2.8 1.8 影響を受ける。なお,各家庭によって住居内の温湿度環境は 5.2 4.0 4.0 1.0 温度・相対湿度とダニの生態との関係を述べる。 住居内の温度および相対湿度は,外部の気象条件に大きく 4.7 5.0 2.0 ここでは,過去に筆者が行った,実態調査による住居内の 8.1 新旧エネルギー基準 (昭和55年基準)/等級2 6.0 3.0 8.3 図 5 に,鉄筋コンクリート造住宅の 5 階で温度と相対湿度 を測定した結果を示す。図 5 は,1 日の温度は日中に高く, 2.7 2.7 明け方にかけて低くなる日内変動パターンを示している。一 方,相対湿度は,日中に低く,明け方にかけて高くなり,温度 Ⅰ Ⅱ Ⅲ Ⅳ Ⅴ 地域区分 Ⅵ 推移と正反対の変動を示す。 温度および相対湿度の変動が,住居内に生息しているダニ 図 3 各基準における熱損失係数の比較と 年間暖房負荷の低減 類にどのような影響を及ぼすかが以降の論点となる。 各月の平均相対湿度(%) 100 95 気象台の統計データ 90 一般家庭の統計データ 95 90 85 80 75 70 65 60 55 50 45 40 35 30 25 20 15 10 5 0 85 80 75 70 65 60 55 50 45 40 温度(℃) 相対湿度(%) 12 16 20 0 0 5 10 15 20 25 30 各月の平均温度 (℃) 図 4 外気温湿度と住居内温湿度のクリモグラフ による比較 建材試験センター 建材試験情報 12 ’ 14 35 8月25日 (雨) 4 8 12 16 20 0 8月26日 (雨) 4 8 12 16 20 0 8月27日 (晴) 4 8 12 16 20 0 8月28日 (晴) 4 8 12 16 20 0 8月29日 (晴) 4 8 12 16 20 0 8月30日 (雨) 4 8 12 16 20 0 8月31日 (雨) 図 5 ある住居における 1 週間の温度および相対湿度の推移 25 2)室内における相対湿度の変化とチリダニの活動性 住居内のチリダニ数が一定の日内変動を示すことは,本連 れた。また,G 邸では,比較的寒さに強く多湿を好むイエニ クダニが 2 月に増加した。なお,H 邸は相対湿度が季節消長 載の第 2 回において記述した。筆者が行った実験では,相対 を示さなかったためか,季節消長パターンを示さなかった。 湿度との関係性は把握されたものの,温度との関係性は認め さらにダニ数は長期的に変動することも知られており,住居 られなかった。 の築年数および繁殖場所の新旧などと関連しているといわ チリダニに関する活動性と相対湿度の関係については, れている。すなわち,室内塵より検出されるダニのうち,チ Lupen & Varekamp( 1966)が行ったヤケヒョウヒダニを用 リダニは築後年数の経過に伴って増加傾向を示し,その他の いた興味深い室内実験がある。この実験では,温度 25℃・ ダニ類はおおむね新築時に多いが,その後年々減少傾向を示 厚さ 2mm の空間で,相対湿度を所定の条件( 55 〜 100% の す。中でも,チリダニに属するヤケヒョウヒダニ,コナヒョ 範囲)に設定し,チリダニの行動を観察しており,ヤケヒョ ウヒダニの増加傾向とササラダニ類に属するコナダニ,ニク ウヒダニは相対湿度 80% の条件下に集まることが示されて ダニ,ホコリダニ,ササラダニおよび多くの捕食性のダニ類 いる。この湿度条件は チリダニの至適湿度と一致すること の減少傾向は顕著である。 から,室内環境と住居内ダニの行動とを理解する上で貴重な 資料といえる。 わが国の調査結果とヨーロッパで行われたチリダニの活 これらの変動は,住居に用いられる建材の含水率の変化 やそれらが含有する化学物質の濃度変化の影響とダニ類の 種別間の競合作用などが関わっていると考えられる。 動実験の結果を考え合わせると,チリダニは住居内空間の相 さらに,ダニ類の住居内分布や室内分布,そして垂直分布 対湿度の変化に合わせて活動(日内変動)していることが推 さらには地域分布についても,温度や相対湿度の分布と関係 察される。しかし,ダニの活動性の誘因は相対湿度以外にも, していることも認められている。 温度,明暗,人の活動および生息場所などの住居内の環境要 因が関わっていると考えられる。 3)住 居内における年間の温湿度変化とダニ類の季節消長 室内気候の変動とダニ数の動態との関連でよく知られて いるのが季節消長である。室内塵中より検出されるダニ数 5.チリダニの増殖速度について ダニ類の増殖速度は,種類によっても,また環境条件に よっても異なる。ここでは,室内塵中の優位種であるチリダ ニの増殖について述べる。 は,1 年間の室内環境の変化に伴って,個体群の増減を繰り これまでの知見に基づき,チリダニの増殖速度を推定す 返している。この現象は,以前から世界中の住居内で確認さ る。1 匹のメスダニが 1 日 4 個の卵を 25 日間(約 100 個体)産 れている。室内塵中の多くのダニ類は,高温多湿を至適条件 み続けると仮定する。ダニの増殖条件が整っていれば,次の としている。わが国では 7 月から 9 月にかけて増殖すること 世代には 50 匹のメスダニ(半数オスダニ 50 匹)がそれぞれ が知られている。その後,晩秋から冬季にかけて繁殖条件が 100 匹の卵を産むことになる。産み落とされた卵がメスダニ 悪化するため個体数は激減し,春季になって再び温度・相対 になって交尾を行い,産卵可能となってさらに 100 個の卵を 湿度が高くなると増加する。このような室内塵中のダニ数の 産卵する。2 カ月後には 5,000 匹に達すると推定される。そ 季節消長は,全国的に共通している。 の後,その半数のメスダニが 100 匹ずつ卵を産むと 25 万匹 わが国では,温度および相対湿度は夏季に高くなり,冬季 となり,4 世代目には 1,000 万匹をはるかに超える数になる。 に低くなる季節消長を示す。それに伴い,室内塵中にみられ 実際に,実験室内で 100g の飼料の中にチリダニ(コナヒョ るダニ類も同様の変動を示す。温度と相対湿度がそろって ウヒダニ)のメス 10 匹を移植し,温度 25℃,相対湿度 75%の 夏季に増加傾向を示す家庭は,ダニ数も夏季に増加する傾向 条件でダニ数の推移を測定した。その結果,ダニの増殖は 1 を示す。温度に対して相対湿度が不規則に変動している住 カ月後にはほとんど認められないが,2 カ月目にようやく 居では,ダニ数も典型的な季節消長を示していないことが認 1,530 匹となり,その後 3 カ月で約 9 万匹,4 カ月で 64 万匹, められる。また,地域(豪雪地帯や標高の高い地域など)や 5 カ月で 100 万匹と急激に増加した。この実測値(メスダニ 1 家庭の温度,湿度条件および繁殖場所などの条件によって変 匹に換算)と上記に示した推定値を比較したのが図 7 である。 動パターンが異なることもある。 図 7 によれば,5 カ月頃までは,実測値と推定値が類似の傾 さらに,近年の冷暖房機器の発達により,冬季でもダニの 増殖が認められ,ダニが通年的に繁殖している傾向にあると 向を示した。しかし,それ以降はダニは推定値ほど増殖しな かった。これは,密度効果による現象と考えられる。 もいわれている。一方,ダニの種類によっては夏季をピーク なお,上記に示した実測値におけるダニの増殖は,あくま とする消長パターンを示さないものもある。例えば,図 6 の で温度 25℃,相対湿度 75% の条件下の場合であり,ダニの繁 E 邸では,住居固有のササラダニが春季に極めて多数検出さ 殖速度は温度の上昇とともに加速することも知られている。 26 建材試験センター 建材試験情報 12 ’ 14 500 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 70 60 50 40 30 20 10 ダニ数(匹/m2) 90 80 90 450 80 400 70 350 4 5 6 7 8 9 60 300 50 250 40 200 30 150 100 20 50 10 0 0 10 11 12 1 2 3 4 A邸(鉄筋コンクリート造・築10年) 温度 (℃) 相対湿度 (%) 500 90 450 80 400 70 350 60 300 50 250 40 200 30 150 100 20 50 10 0 総ダニ数 (匹/㎡) ダニ数(匹/m2) チリダニ数 (匹/㎡) 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 チリダニ数 (匹/㎡) 11 相対湿度 (%) 2 3 60 50 40 30 20 10 ダニ数(匹/m2) 70 5 6 7 8 9 70 350 60 300 50 250 40 200 30 150 100 20 50 10 0 0 6 7 8 9 9 10 11 12 温度 (℃) 相対湿度 (%) 70 350 60 300 50 250 40 200 30 150 100 20 50 10 0 2 3 4 10 11 12 G邸(鉄筋コンクリート造・築13年) 総ダニ数 (匹/㎡) ダニ数(匹/m2) 400 5 8 0 温度(℃)・相対湿度(%) ダニ数(匹/m2) 80 4 7 80 相対湿度 (%) 90 3 6 5 6 7 8 9 10 11 12 F邸(鉄筋コンクリート造・築3年) 450 2 5 400 1 500 1 4 90 10 11 12 温度 (℃) チリダニ数 (匹/㎡) 相対湿度 (%) 450 E邸(木造・築4年) 総ダニ数 (匹/㎡) 12 500 0 4 11 温度 (℃) チリダニ数 (匹/㎡) 総ダニ数 (匹/㎡) 80 3 10 90 80 70 60 50 40 30 20 10 0 1 90 2 9 D邸(木造・築25年) 500 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 1 8 500 450 400 350 300 250 200 150 100 50 0 12 温度(℃)・相対湿度(%) ダニ数(匹/m2) 温度 (℃) 7 チリダニ数 (匹/㎡) C邸(鉄筋コンクリート造・築20年) 総ダニ数 (匹/㎡) 6 B邸(木造・築15年) 温度(℃)・相対湿度(%) ダニ数(匹/m2) 総ダニ数 (匹/㎡) 5 温度(℃)・相対湿度(%) 3 相対湿度 (%) 温度(℃)・相対湿度(%) 2 温度 (℃) 500 0 1 チリダニ数 (匹/㎡) 総ダニ数 (匹/㎡) 温度(℃)・相対湿度(%) 相対湿度 (%) 温度(℃)・相対湿度(%) ダニ数(匹/m2) 温度 (℃) 温度 (℃) チリダニ数 (匹/㎡) 相対湿度 (%) 500 450 90 400 350 70 80 60 300 250 200 50 40 30 150 100 50 20 温度(℃)・相対湿度(%) チリダニ数 (匹/㎡) 総ダニ数 (匹/㎡) 10 0 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 H邸(木造・築20年) 図 6 ダニの季節消長と温度および相対湿度の推移 建材試験センター 建材試験情報 12 ’ 14 27 用やたんすの減少など) 10 9 10 8 実測値 10 7 推定値 4.住まい方 a)家 族構成・働き方の変化(共働き,単身世帯,核家族 の増加など) b)掃 除の簡略化(日常の掃除の粗略化,大掃除の習慣 の消失など) c)住 宅の管理にかかわる慣習の衰退化(ふとん干し, 畳干し,衣類の虫干しの減少など) 総ダニ数 10 6 10 5 10 4 10 3 10 2 10 1 以上の要因は,近年のわが国の住宅および住まい方の変貌 0 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 22 24 26 28 30 週 図 7 チリダニの増殖に関する実測値と推定値の比較 を示す指標となっている。これらは,個別にまた複合的に絡 み合って,住居内の生物およびダニ類の増加に多大の影響を 及ぼしてきた。さらに,屋外環境すなわち気候などに支配さ れていることは言うまでもない。 6.ダニの増殖に影響する住居内における要因 多くの家庭内における室内塵中のダニの調査結果は,概ね 似通ったダニ相を示す。しかし,家庭によっては,ダニの種 類構成が極端に異なったり,ある種のダニが極めて多数検出 されたりする場合がある。また,ダニ数の多い家庭では,室 内塵量 1g 中から数十万匹も検出される場合がある。その一 方で,極めて少ない個体数しか検出されないケースもあり, 各家庭によって千差万別である。各家庭で検出数が異なる のは,住居内のさまざまな要因に左右されているためであ る。そのため,各家庭におけるダニ類の調査結果と住環境と の関連を考察することがダニ数の増減に影響する要因の解 明につながり,ひいては住居内に生息するダニ類を制御する 抜本的な手がかりになると考えられる。 住居内のダニ類の増殖に影響を及ぼす要因を表1に示す。 表 1 住居におけるダニの増加要因 1.住宅の立地条件(密集度,高度など) 2.住環境 a)建 物の種類の変化(鉄筋コンクリート造住宅,プレ ハブ造住宅など) b)建 物の性能の変化(断熱・気密性能の向上など) c)建 物の構成の変化(間取りなど) d)和 洋折衷型近代住宅様式への移行(コンクリート住 宅に畳床,畳にじゅうたん,じゅうたんに素足の生 活など) e)家 電の設置(冷暖房機器・照明器具の普及など) f)そ の他(ペット(犬・猫・鳥など)の室内飼育や植物(観 葉植物など)の室内設置など) 3.室内装飾 a)床 (じゅうたん,畳など) b)寝 具(ベッド,ふとん,枕など) c)内 装材(壁紙の種類(布壁紙,ビニール壁紙)など) d)窓 (サッシおよびガラスの仕様,付属物の種類(カー テン,ブラインド,スクリーンなど) e)家 具(ソファー・じゅうたん・カーテン・椅子の使 28 【参考文献】 ・ Leiden. Walshow,M. and Evans,C. : Qaurt J. Med. 58:pp.199215,1986 ・Leupen,M.J.and Varekamp,H.:House dust biology for allergens, acarologists and biologists. NIB publishers,Zeist, The Netherlands,1981,pp.20-21 ・大島司郎(1975) : 室内塵性ダニ類の季節変動とその変動要因 . 小 児アレルギー,7:pp.461-468 ・中山秀夫・高岡正敏(1992):ダニが主因アトピー性皮膚炎の治し方, 24-62,合同出版,東京 ・Spieksma F.Th.M. and M.I.A.Spieksma-Boezeman(1967) :The mite fauna of house dust with particular reference to the house-dust mite Dermatophagoides pteronyssinus (Trouessart,1897). Acarologia, 9:pp.226-241. 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Entomol. 12:pp.577-621,1976 プロフィール 髙岡 正敏(たかおか・まさとし) ㈱ ペスト マネジメント ラボ 代表取締役社長 医学博士 主要業務:環境調査,害虫駆除・対策,講演活動他 主要著書: 「ダニ病学 〜暮らしのなかのダニ問題〜」 (東海大学出版会) 「住居内におけるダニ , 類 〜住環境とダニ疾患〜」 (八十一出版) , 「予防医学事典」 (朝倉出版) 「アレルギー , 病学」 (朝倉出版) 「ダニの生物学」 , (東京 大学出版) ほか 建材試験センター 建材試験情報 12 ’ 14
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