窒素酸化物と酸化防止剤による黄変の防止方法(PDF:38KB)

窒素酸化物と酸化防止剤による黄変の防止方法
○ 小 林 研 吾 *1)、 青 木 郁 子 *2)、 藤 代
敏 *2)
1.はじめに
繊維製品が保管中に黄変を起こす事故原因のひとつに、窒素酸化物と酸化防止剤の反応
で生じる黄色物質がある。この黄色物質が生成する反応機構や性質はこれまでの研究等に
より解明されてきたが、依然として毎年数多くのクレーム事例が報告されている。また、
この黄変を防ぐために繊維製品を弱酸性に保つことなどが提唱されているが、その効果は
明らかになっていない。そこで各種繊維加工剤の黄変防止効果を明らかにするために、こ
の黄変の再現実験を行った。
2.実験方法
綿 ブ ロ ー ド を 試 料 と し て 加 工 剤 と 酸 化 防 止 剤 ( BHT) を 付 着 さ せ た 加 工 布 と BHT だ け
を 付 着 さ せ た 基 準 布 を 染 色 堅 牢 度 試 験 方 法( JIS L 0855)に 従 っ て 窒 素 酸 化 物 に 暴 露 し た 。
暴露試料を分光光度計で測色し、未処理綿ブロードを標準として色差を算出して加工剤の
性 能 を 評 価 し た 。 さ ら に 試 料 を ア ン モ ニ ア ガ ス 中 に 放 置 し た 後 、 再 度 色 差 を 算 出 し て pH
の着色に対する影響を確認した。
また予め十分に黄変させた試料を、未処理綿ブロードと加工剤を付着させた綿ブロード
でサンドイッチにして所定条件下で放置した。その後、各試料を測色し、算出した色差で
黄色物質の移行・発色に対する加工剤の防止性能を評価した。
1.6
1.4
1.2
1
0.8
0.6
0.4
0.2
0
暴露直後(酸性)
中和増加分
中和後
0.8
加工布dE*/基準布dE*
加工布dE*/基準布dE*
3.結果と考察
本 実 験 で 再 現 し た 黄 変 は pH に 依 存 し て 発 色 す る も の と 依 存 し な い も の が 含 ま れ て お り 、
実験の結果は加工布の暴露直後の色差、中和後に増加した色差、両者を加えた総色差を基
準布のそれぞれの色差に対する比率で表した。クエン酸を用いた実験では、クエン酸濃度
が 増 す と 暴 露 直 後 の 色 差 比 は 大 き く な っ た が 、 逆 に 中 和 後 に 現 れ る 着 色 ( こ の pH に 依 存
す る 発 色 が ク レ ー ム に 関 わ る 主 体 物 質 と 考 え ら れ る 。) の 色 差 比 は 小 さ く な っ た 。 た だ し 、
中 和 後 の 加 工 布 の 総 色 差 は ク エ ン 酸 濃 度 が 変 化 し て も 基 準 布 と ほ ぼ 同 程 度 で あ っ た( 図 1)。
ま た 、ア ン モ ニ ウ ム 基 数 の 異 な る 3 種 の ク エ ン 酸 ア ン モ ニ ウ ム( 1%owf)を 用 い た 場 合 で
は、色差比が全体にわたり 1 以下となり、基準布に比べ着色が抑制された結果となった。
そ の 中 で ア ン モ ニ ア 基 数 が 増 す( pH が 上 が る )に 従 い 、暴 露 直 後 の 色 差 比 が 小 さ く な り 、
中 和 に よ っ て 現 れ る 着 色 の 色 差 比 が 大 き く な る 傾 向 が あ っ た ( 図 2)。
暴露直後(酸性)
中和増加分
中和後
0.6
0.4
0.2
0
0.1
0.5
1
3
クエン酸付着濃度(%owf)
AC-m.basic
AC-d.basic
AC-t.basic
クエン酸アンモニウムの種類
図2 クエン酸アンモニウム塩の黄変防止効果
図1 クエン酸の濃度と黄変挙動
4.まとめ
各種繊維加工剤を付着させた試料による黄変の再現試験を行った結果、クエン酸等の有
機 酸 や ク エ ン 酸 ア ン モ ニ ウ ム 塩 を 用 い て 繊 維 製 品 を pH5 以 下 に 調 整 す る こ と が 、窒 素 酸 化
物と酸化防止剤による黄変の防止に有効であることを確認した。
*1)
八 王 子 支 所 、 *2)
墨田支所
−62−