入ゼミレポート4 - 経済学部研究会WWWサーバ

 選んだテーマ:環境保全と経済発展はいかにして両立可能か ~カーボンフットプリントから考える両立可能性~ 1. 序
論 近年、私達を取り囲む自然環境は大きく変化した。経済発展のために、天然資源の自浄 能力を越えた利用、有害な物質の自然への垂れ流しを行った結果、海面上昇、地球温暖化 や酸性雨などといった様々な環境問題を引き起こしている。様々な被害をもたらすこれら の現象を解決するために世界中で環境問題に対して様々な取り組みがなされている。その 中の一つの二酸化炭素の過剰な排出によって起こる地球温暖化に対しても様々な解決策を 導入しているが、特筆すべき効果をあげるに至ったものは無く、年々その深刻さを増して いる。その根底には、経済発展をすれば環境が破壊されるといった、反比例の構図がある のではないか。このレポートでは、二酸化炭素の排出に注目して、環境保全と経済発展の 両立の可能性について考える。 2. 二酸化炭素排出量の現状 まず、日本が現在排出している二酸化炭素の
量とその内訳を見ていく。 (1) 日本の二酸化炭素総排出量の変
遷 日本の二酸化炭素の排出量【表 1】は、1990 年から 2007 年度頃までは上昇傾向にあっ たが、2008 年を境に減少しはじめた。しかし、京都議定書で定められた 2008 年から 2012 年までに 1990 年を基準として排出量を 6%削減する、という目標にはまだまだ届いておら ず、早急に削減する事が急務となっている。 (2) 日本の部門別二酸化炭素排出量の変
遷 部門別では、
【表 2】から解るように、産業部門が一番多く排出しており、全体の 30%程 度を占めているが、近年は減少傾向にあるのが解る。一方、家庭部門・業務その他部門を 合計すると、産業部門の 30%とほぼ同じであるが、こちらは年々増加の一途をたどってい る。 (3) 家庭からの二酸化炭素総排出量の内訳 日本の家庭からの二酸化炭素排出量を目的別
【表 3】に見ると、最も多いのは照明・家電 製品で全体 30%を超えている。それらに加え、暖房・冷房、給湯を全て加えると 60%以上 になる。ここから、家庭から排出される二酸化炭素の多くを電化製品が占めている事が解 る。 -1- (4) 着 眼
点 以上から、日本が排出している二酸化炭素の多くは、工場で商品を製造する際と、家庭 で電化製品を使う際に排出されている事が解る。二酸化炭素を削減していくためにも、電 化製品を主とした商品の生産から使用、廃棄の段階までの一連のプロセスを通して排出量 を削減する事が出来れば、日本全体での削減に大きく貢献出来るのではないか。そこで、 以下のような方法を提案する。 3. 指標の導入 具体的には、商品の製造から廃棄までのプロセスにおいて排出される二酸
化炭素の量を 見ただけで解る定量的で可視化出来る指標を導入することである。 (1) なぜ指標化なのか 市販されている食品の成分表示ラベルには、カロリー○○kcal、脂
質○g、糖分○g、など といった詳しい情報が載っており、他の商品と容易に比較する事が出来る。このような食 品の成分表示のようなものを家電にも導入し、電力の消費量や二酸化炭素の排出量といっ た指標を載せれば、消費する電力や排出する二酸化炭素の量を定量的に可視化する事が可 能になる。この指標を基にし、“環境に優しい”とされる基準を商品毎に設ければ、消費者 は簡単に比較検討が出来るようになるだろう。 また、商品を使用する際だけでは無く、製造・廃棄の時に消費するエネルギーの三段階 に分けて記載する事で、それぞれのプロセス毎にどのくらいエネルギーを消費しているか が解るようになり、本当に環境に優しい商品かどうかを判別する事が出来る。これにより、 グリーンウォッシングのような見せかけだけのエコ商品を見分けることも可能になり、製 造者側も環境に配慮した商品作りに取り組まざるを得なくなる。 (2) 指標の導入例とその課題 上記のような指標を用い、排出される二酸化炭素の量を定
量的に可視化して示す“カー ボンフットプリント”という制度がある。この制度を例にあげて、実際にこういった指標 を導入する際の問題点等を考察していく。 (3) カーボンフットプリントと
は この制度は、商品の原材料調達から廃棄・リサイクルまでの各段階で排出される温室効 果ガスを二酸化炭素に換算し、商品等にマークとして表示するものである。具体的には、 商品に、カーボンフットプリント・マークと言われる“量り”をモチーフにしたマークに 排出される二酸化炭素の量を○○g という形で記している(参考:【図 1】)。また、数値の 算定の際に、第三者による検証制度を取っており、信頼性を保証する取り組みもなされて いる。この制度により、消費者と企業の双方は二酸化炭素の排出量を“共通のものさし“に -2- よって可視化する事が出来る。結果として、商品の買い方や使い方などを工夫することに より、二酸化炭素排出量の削減を促進することが期待されている。 (4) 現 状 と 課 題
点 しかし、このカーボンフットプリントの知名度はまだまだ低く、2009 年にイオンが店頭 で認知度についての調査をしたところ、実に 85%の人が「知らない」と答えている。まだ まだ使用目的の明確化もなされておらず、大きな効果を与えるとまでは進んでいない事が 伺える。これには、2 つの問題点があると考えられる。 まず一つ目は企業に対する訴求力の弱さだ。企業にとって、利益を上げることが至上命 題である。その観点から考えるとカーボンフットプリントを導入するメリットはあまりな いと言える。確かに、環境に優しい商品作りを推し進めていき、それをしっかりと表示す る事で消費者から信頼を獲得し、長期的な視野で見れば新規顧客獲得に繋がるかもしれな い。しかし、環境に配慮した商品作りのために新技術導入のコスト、製造にかかる費用の 増大を考えると、排出量の少ない商品は他のものに比べ高値で売りだされる事が予想され る。その結果、どんなに商品が売れても、利益自体は減少し、経済状況が悪化する事も大 いに考えられる。 二つ目は、示された排出量を判断する基準が設けられていない点だ。例えば、従来まで 使っていたエアコンが一時間あたり 100g の二酸化炭素を排出していたとする。それを、一 時間あたり 80g を排出するエアコンに変えると、
一時間あたり 20g の削減をする事になる。 しかし、その 20g がどの程度地球温暖化に影響するのか、どれくらい大きな数字なのか、 といった情報を得る事は出来ない。これでは、マークに書かれた数字は、ただ単に排出量 を示しているだけである。これでは、他の商品との比較検討は可能であっても、その数字 が地球温暖化に与える影響に関して知ることは出来ない。 (5) 解決策 以上にあげた問題点を解決するために、以下のような解決案を
提案する。 ① 奨励金の導入 一つ目の問題点について、環境に優しい製品を作ることは重要だが、企
業にとっては利 益を生み出さなければ意味が無い。そこで、動機付けの“奨励金”という形で企業にイン センティブを与える事を提案する。例えば、商品毎にある一定の基準を設け、その基準以 上の製品を開発した企業には、奨励金という形で一定の販売数に応じた補助金を与え、基 準に満たない企業からは、環境負荷負担金という形で負担をさせる。これにより、基準以 上の企業はよりインセンティブを獲得しようとし、基準に満ちていない企業は負担を減ら すために、全ての企業がより環境に配慮した商品作りに取り組むようになることが考えら れる。それに加え、良い製品は、補助金が貰える分安く販売すれば需要も増え、企業の経 -3- 済状況も良くなり環境商品市場のより一層の活性化が期待出来る。 ② 判断基準としての情報の導入 二つ目の問題点を解消するためには、総排出量を何年後に
何%下げるために、一つの家庭 が一日あたりどの程度エアコンの使用量を削減するべきか、といった具体的な数字を消費 者に解りやすく提示する必要がある。そうすることで、どの程度削減するべきかが具体的 な数字によってイメージし易くなり、排出量に対してシビアに見極める目を消費者は養う 事が出来る。これによって、具体的な数字を示しているカーボンフットプリント制度自体 に対する必要性の向上にも繋る。 4. 結論 上記で紹介したカーボンフットプリント制度は一例に過ぎないが、こういった二
酸化炭 素の排出量に対する情報はまだまだ発展段階で、早急にこれらの情報インフラを整える必 要がある。その上で、環境保全と経済発展を両立するには、まずは、一人一人に環境保全 の必要性を認識させ消費行動に移すように促すのと同時に、環境に配慮したモノづくりの ためのカーボンフットプリントのような情報を利用していく必要がある。そこに、企業に 対する補助金や、より具体的な情報を消費者に与えれば、環境商品市場も活性化していく。 それにより、エコ商品を作るための新しい技術革新や、消費者の積極的な環境商品の購入 により、経済発展を促進するだろう。このように、環境保全を手段として、経済発展を遂 げる事で両立の可能性が開けてくるのではないだろうか。 -4- <参考資料> 【表 1】日本の二酸化炭素排出量の推移 二酸化炭素(100万t) 1350 1300 1250 1200 1150 1100 2009
2008
2007
2006
2005
2004
2003
2002
2001
2000
1999
1998
1997
1996
1995
1994
1993
1992
1990
1991
1050 (http://daily-ondanka.com/basic/data_07.html) 【表 2】日本の部門別二酸化炭素排出量の推移 (http://daily-ondanka.com/basic/data_07.html) -5- 細田衛士研究会 入ゼミレポート 学籍番号:20914497 氏名:田付 裕太郎 【表 3】日本の家庭からの二酸化炭素排出量用途別内訳 (http://daily-ondanka.com/basic/data_09.html) 【図 1】カーボンフットプリント・マーク (http://www.cfp-japan.jp/about/howto.html) <参考文献> Wikipedia - 環境問題 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%92%B0%E5%A2%83%E5%95%8F%E9%A1%8C Carbon Footprints of Products - CFP について http://www.cfp-japan.jp/about/index.html eco ライフスタイル - カーボンフットプリントをチェックしてみよう http://ecolife.tappy-style.com/archives/cat215/post_189/ CSR ニュース集 – 「カーボンフットプリント」認知度、高まるか http://blog.canpan.info/csr_release/archive/311 -6-