化学実験 10「電子の移動による色の変化」

化学実験 10「電子の移動による色の変化」
私たちの体の中では,様々な化学反応が起きています。化学反応は,電子が居心地の悪い場所
から,より居心地のよい場所へと移動する現象です。その電子移動により放出されるエネルギー
の一部を利用して,生きていくために必要な物質を運んだり,体を構成する様々な物質を作った
りすることができます。電子の移動により物質の色が変化する場合,その化学反応を目で見て簡
単に確認できます。赤紫色の過マンガン酸イオンを用いた,無色のシュウ酸や過酸化水素の定量
実験を行い,酸化還元滴定の科学原理ついて学習しよう。
実 験 操 作 1 : 過マンガン酸カリウムの定量(濃度分析)
1)100 ㎖のコニカルビーカーにシュウ酸水溶液(標準液:0.050 mol/ℓ)をホールピペットで
10 ㎖量り取り,さらに2 mol/ℓ硫酸水溶液(希硫酸)を5㎖加える。
硫酸は不揮発性の酸なので,衣服に付くと水が蒸発して
濃硫酸なる(→ 衣服の繊維が分解してぼろぼろになる)。
2)25 ㎖のビュレットに過マンガン酸カリウム水溶液 (この実
験では約 20 mmol/ℓ KMnO4 を使用する)を加え,
ビュレットスタンドに固定する。
ビュレット
3)ロートを使ってこぼさないように過マンガン酸カリウム
水溶液をビュレットに少しずつ入れる。
4)約 70℃のお湯が入った 200 ㎖のビーカーで硫酸酸性のシュ
ウ酸水溶液を温めながら,過マンガン酸カリウム水溶液を少
しずつ滴下する。シュウ酸が酸化されて発生する二酸化炭酸
の泡の発生を確認する。
コニカルビーカーはビーカーに浮かせるようにしながら軍
手を使って緩やかに撹拌する。
温度が 60℃以下に下がると反応がうまく進まない。
コニカルビーカー
ビーカー
5)予想される等量点(約 10 ㎖)の手前(9㎖)になったら,一滴ずつ慎重に滴下する。
6)過マンガン酸イオンの赤紫色が僅かに残るようになった時の滴下量を等量点(終点)とする
白い紙をビーカーの下に布くと色の変化を確認しやすい。
7)過マンガン酸イオンとシュウ酸との酸化還元反応が定量的に進行すると,それら二つの反応
物質の数の比(= 物質量の比)は2:5になる。添加した硫酸(水素イオンの供給源)は過
剰量である。
過マンガン酸カリウム水溶液の正確な濃度(有効数字2桁)を算出する。
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過マンガン酸イオンの段階的な還元反応(酸性条件下)
MnO4-
O-
O
e2H+ O
Mn
HO
2e2H+
Mn
2H2O
マンガン酸
O
eH+
O
Mn
Mn2+
+3
2H2O +2
O
+4
酸化マンガン(IV)
マンガン(II)イオン
・水素イオンがないと途中の酸化状態で止まってしまう
Mnの酸化数
半反応式(a)
MnO4- + 5e- + 8H+
+7
過マンガン酸イオン
シュウ酸の酸化反応(酸性条件下)
O
(COOH)2
炭素の酸化数
+3
e3H+
OH
O
O
+6
Mn
O
OH
O
O
OH
C
C
OH
半反応式(a)×2
半反応式(b)×5
2H+
2e -
2CO2
+4
Mn2+ + 4H2O
O
C
二酸化炭素
C
O
O
半反応式(b)
2CO2 + 2H+ + 2e-
(COOH)2
酸化還元のイオン反応式
2MnO4- + 5(COOH)2 + 6H+
酸化還元反応式
2KMnO4 + 5(COOH)2 + 3H2SO4
2Mn2+ + 10CO2 + 8H2O
2MnSO4 + 10CO2 + K2SO4 + 8H2O
実 験 操 作 2 : 過酸化水素の定量
1)市販の消毒液(オキシドール: 2.5∼3.5%(w/v))を 10 ㎖のホールピペットで量りとり,
200 ㎖のメスフラスコに入れた後,標線まで蒸留水でメスアップして 20 倍希釈の過酸化水
素水溶液を用意する。
-2
H2O2 の濃度=「25g/1ℓ→ 0.74 mol/ℓ」 20 = 約 4
10 mol/ℓ
2)100 ㎖のコニカルビーカーに 20 倍にうすめた過酸化水素水溶液をホールピペットで 10 ㎖
量り取り,さらに2 mol/ℓ硫酸水溶液(希硫酸)を 20 ㎖加える。
3)50 ㎖のビュレットに実験操作1で濃度を決定した過マンガン酸カリウム水溶液を加え,ビ
ュレットスタンドに固定する。
4)室温下,過マンガン酸カリウム水溶液を少しずつ滴下する。
予想される等量点(約8㎖)の手前(7㎖)になったら,一滴ずつ慎重に滴下する。
5)過マンガン酸イオンの赤紫色がほのかに残るようになった時の滴下量を等量点とする。
6)反応する過マンガン酸イオンと過酸化水素の数の比(2:5)から,過酸化水素水溶液の
濃度(有効数字2桁)を算出する。
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過酸化水素の酸化反応(酸性条件下)
H2O2
酸素の酸化数
−1
2H+
2e-
半反応式(c)
O2
H2O2
0
半反応式(a)×2
酸化還元のイオン反応式
半反応式(c)×5
2MnO4- + 5H2O2 + 6H+
酸化還元反応式
2KMnO4 + 5H2O2 + 3H2SO4
O2 + 2H+ + 2e-
2Mn2+ + 5O2 + 8H2O
2MnSO4 + 5O2 + K2SO4 + 8H2O
科 学 用 語 の 解 説
過マンガン酸カリウム(potassium permanganate)
・濃赤紫色の柱状斜方晶系結晶であり,水,メタノール,アセトンによく溶ける。過マンガン酸
イオンは,4つの酸素が等価な位置に配置した正四面体構造(防波堤などにあるコンクリート
でできたテトラポットの様な形)である。約 200℃で酸素を放ち K2 MnO4 と MnO2 に分解する,
日光の作用でも同様の分解が起こる(→ 溶液は褐色びんで保存する)。
シュウ酸(oxalic acid)
・二水和物の融点は 100℃であり,100℃で無水物となる。水およびアルコールに可溶である。強
熱すると二酸化炭素とギ酸に,濃硫酸を加えて熱すると二酸化炭素,一酸化炭素,水に分解す
る。硫酸酸性の過マンガン酸カリウム溶液を還元的に脱色する。
過酸化水素(hydrogen peroxide)
・室温で無色油状の液体(融点­0.89℃,沸点 151.4℃)である。水,エタノール,エーテルによ
く溶ける。アルカリ金属,重金属,粗雑な固体表面などいろいろなものが触媒となって爆発的
に酸素を放出し分解する。25∼35%水溶液が市販されている。濃溶液は猛毒で,強い刺激性が
ある。過酸化水素は酸化剤で,とくにアルカリ性でそのはたらきがいちじるしい。一方,KMnO4
のようなさらに強い酸化剤と混合した場合には過酸化水素は還元剤としてもはたらく。繊維,
食品などの漂白剤(色素を酸化して無色の物質にする)
,ビニル重合開始剤,ロケット燃料など
に用いられる。約3%(w/v)濃度の水溶液をオキシドールとよび,消毒殺菌剤として使用される。
電気陰性度(electronegativity)
・結合している異種の2原子が電子を引きつける能力の目安になる数値である(単位はない)。電
気陰性度の大きな元素の近くの方が,電子の居心地はよい。結合をつくる2原子の電気陰性度
の差が大きいほど,電子は一方の原子に引きつけられ,その結合のイオン性は大きい。また,
電気陰性度の値の小さい元素ほど電子供与性が大きく,逆に大きいものほど電子受容性が強い。
その中間の値をもつ元素(Al や Zn)は,両性としての性質をもつ。
イオン化傾向(ionization tendency)
・金属が液体(とくに水)と接するとき電子を放出して陽イオンになる傾向のこと。金属元素の
電子(自由電子)の居心地の良さの目安になる。水に対するイオン化傾向を大きさの順に並べ
た金属元素の序列を電気化学列あるいはイオン化列といい,Li,K,Ca,Na,Mg,Al,Mn,
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Zn,Cr,Fe,Co,Ni,Sn,Pb,(H),Cu,Hg,Ag,Pt,Au の順である(りかかな,まあま
あ,くろてこにすな,ひどすぎん,はっきんきん? 意味のない覚え方ですが周期表を見ながら
何度か唱えると頭に残りますよ)。イオン化傾向の実験事実は,金のイオン化が金属の中で最も
おこりにくいことを示している。金原子の集団(金の塊)の自由電子は自由に動き回ることは
できますが,他の場所に移動するには大きなエネルギーが必要である。
チオ硫酸ナトリウム(sodium thiosulfate:Na2S2O3)
・市販されているものは五水和物で,一般的には「ハイポ」と呼ばれる。無色の単斜晶系柱状結
晶であり,融点は 48℃,空気中では安定だが,湿気により風解または潮解性を示す。ハロゲン
化銀を溶かすので写真の定着に用いられる。ヨウ素と定量的に反応するのでヨウ素の定量分析
(酸化還元滴定)に用いられる。
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過酸化水素の定量を目的とした もう1つの酸化還元滴定法
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