トピックス 肩関節周囲の絞扼性神経障害 慶應義塾大学医学部 整形外科 専任講師 池 上 博 泰 の 診 断 に は 、 種 々 の 特 徴 的 な 理 学 所 見 が 最 も 重 な 刺 激 に 末 梢 神 経 が さ ら さ れ る こ と が 多 い 。 そ の 可 動 域 が 大 き い こ と か ら 、 こ の よ う な 機 械 的 CLINICIAN ’06 NO. 549 と 命 名 し た 。 肩 関 節 は そ 刺 激 に よ り 生 じ る 限 局 性 の 神 経 障 害 を 総 称 し て 、 何 ら か の 原 因 が 加 わ り 、 関 節 運 動 な ど の 機 械 的 ま た は 骨 の ト ン ネ ル を 通 過 す る 際 に 、 こ の 部 に 始 部 の 腱 性 構 造 物 な ど に よ り 形 成 さ れ た 線 維 性 経 幹 が 、 関 節 近 傍 で 関 節 嚢 、 靱 帯 、 ま た は 筋 起 が 提 唱 し た も の で あ る 。 彼 ら に よ る と 、 末 梢 神 い う 名 称 は 、 1 9 6 0 年 と 絞 扼 性 神 経 障 害 ︵ は じ め に entrapment neuropathy 要 で あ る 。 ま た 、 電 気 生 理 学 的 検 査 や M R I 検 Thompson 査 は 、 そ の 障 害 程 度 お よ び 高 位 を 診 断 す る の に 、 Kopell 89 た い へ ん 有 用 で あ る 。 本 稿 で は 、 代 表 的 な 肩 関 entrapment neuropathy 節 周 囲 の 絞 扼 性 神 経 障 害 に つ い て 述 べ る 。 ︶ と (5 1 1) 棘上筋枝 肩甲上神経 を 出 す ︵ 図 ! ︶ 。 肩 甲 上 神 経 は 、 肩 甲 骨 切 痕 部 上肩甲横靱帯 棘下筋枝 も の の 一 つ で あ る ガ ン グ リ オ ン の 診 断 に は 、 超 が 有 用 で あ る 。 麻 痺 の 原 因 の う ち 最 も 一 般 的 な (5 1 2) 理 学 的 検 査 だ け で な く 、 関 節 造 影 や M R I な ど 混 同 さ れ や す い 。 し た が っ て 、 診 断 に は 電 気 生 こ の よ う な 症 状 は 、 肩 回 旋 腱 板 損 傷 の 症 状 と 困 難 に な る 。 棘 上 筋 、 棘 下 筋 の 筋 力 低 下 を 生 じ 、 肩 の 挙 上 が 肩 の 運 動 で 疼 痛 は 増 強 す る 。 症 状 の 進 行 と 共 に 、 疼 痛 、 と く に 夜 間 痛 を 主 訴 と す る こ と が 多 い 。 絞 扼 性 障 害 の 場 合 、 肩 か ら 肩 甲 部 に か け て の 臨 床 症 状 お よ び 診 断 棘 下 筋 を 支 配 し 、 肩 関 節 後 方 の 関 節 包 に 知 覚 枝 し た 後 、 肩 甲 棘 基 部 を 迂 回 し て 棘 下 部 に 至 り 、 肩 甲 上 神 経 を 固 定 し て い る 。 棘 上 筋 に 筋 枝 を 出 に 至 る 。 肩 甲 切 痕 上 に は 、 上 肩 甲 横 靱 帯 が あ り 、 し て 、 肩 甲 骨 上 縁 の 肩 甲 切 痕 を 通 り 肩 甲 骨 後 面 肩 病 1 甲 因 上 肩 神 甲 経 上 は 神 、 経 腕 麻 神 痺 経 叢 の 上 神 経 幹 か ら 分 枝 わ れ て い る 。 肩 甲 棘 基 部 が 最 も 多 く 、 次 い で 肩 甲 切 痕 部 と い 次 が ガ ン グ リ オ ン に よ る 圧 迫 で あ る 。 絞 扼 部 は を 使 う ス ポ ー ツ や 職 業 に よ る 慢 性 刺 激 で あ り 、 ー ル 、 ウ エ イ ト リ フ テ ィ ン グ な ど の 頻 繁 に 上 肢 . !肩甲上神経の走行 絞 扼 を 受 け や す い 。 最 も 多 い 原 因 は 、 バ レ ー ボ CLINICIAN ’06 NO. 549 と 肩 甲 棘 基 部 で そ の 走 行 を 急 角 度 で 変 え る た め 、 90 に 沿 っ て 下 降 し 、 同 筋 を 支 配 す る 。 第 5 ・ 6 頸 集 合 し 形 成 さ れ 、 腋 窩 を 通 っ て 前 鋸 筋 の 外 側 面 長 病 2 胸 因 神 長 経 胸 は 神 第 経 5 麻 ・ 痺 6 ・ 7 頸 髄 神 経 か ら の 枝 が で は 変 形 が 目 立 た な い 。 上 肢 を 前 方 に 挙 上 さ せ 、 安 定 化 さ せ る の で 、 普 通 に 上 肢 を 下 垂 し た 状 態 前 鋸 筋 は 、 上 肢 の 運 動 に 際 し 、 肩 甲 帯 を 固 定 し . 91 の 突 出 を 指 摘 さ れ る ま で 気 づ か な い こ と も 多 い 。 き の 疲 労 感 、 脱 力 感 が 存 在 す る 。 家 人 に 肩 甲 骨 を 訴 え る こ と が 多 い 。 ま た 、 上 肢 を 挙 上 し た と が 多 い 。 筋 萎 縮 ・ 筋 力 の 改 善 に は 、 長 期 間 を 要 す る 場 合 肩 を 中 心 と し た 、 頸 部 、 上 肢 に 放 散 す る 鈍 痛 臨 床 症 状 お よ び 診 断 す 経 れ べ リ ド 一 る の や き オ の 初 治 般 。 状 す と ン 局 期 療 に 態 い の に 注 の 法 機 を 肩 意 よ な 絞 お 能 確 甲 見 る ど 扼 よ 的 認 棘 も も の 性 び な し 基 あ の 保 障 予 回 て 部 る の 存 害 後 復 、 あ 。 場 的 の は 圧 る 手 合 療 際 良 迫 い 術 に 法 に 好 や は に は が は と 絞 肩 際 、 行 、 い 扼 甲 し ま わ 安 わ が 切 て ず れ 静 れ あ 痕 は 穿 る 、 て れ 部 、 刺 。 ス い ば で 絞 を ガ テ る 除 、 扼 行 ン ロ が 外 神 さ う グ イ 、 CLINICIAN ’06 NO. 549 て い る 。 も あ り 、 胸 郭 出 口 症 候 群 と の 合 併 例 が 報 告 さ れ 1 ・ 2 肋 骨 と の 間 で の 絞 扼 性 障 害 が 生 じ る こ と れ る 。 中 斜 角 筋 と 鎖 骨 あ る い は 、 烏 口 突 起 と 第 ー ル な ど の ス ポ ー ツ に よ る 麻 痺 の 報 告 が 散 見 さ や ア ー チ ェ リ ー 、 や り 投 げ 、 テ ニ ス 、 バ レ ー ボ に 牽 引 さ れ て 生 じ る 麻 痺 ︵ リ ュ ッ ク サ ッ ク 麻 痺 ︶ プ ザ ッ ク 、 リ ュ ッ ク サ ッ ク に よ っ て 、 肩 が 下 方 音 波 画 像 検 査 、 M R I が 有 用 で あ る 。 部 位 で 固 定 さ れ 、 障 害 を 受 け や す い 。 重 い ナ ッ 髄 神 経 か ら の 枝 は 、 中 斜 角 筋 を 貫 く た め 、 こ の (5 1 3) (5 1 4) 三 角 筋 へ 行 く 筋 枝 と 、 肩 外 側 の 知 覚 を 司 る 上 外 し 、 上 腕 骨 の 後 方 に 達 す る 。 こ の 部 で 、 小 円 筋 、 を 後 上 腕 回 旋 動 脈 と 共 に 通 過 上 腕 三 頭 筋 長 頭 、 大 円 筋 、 上 腕 骨 で 囲 ま れ た て 、 肩 関 節 の 下 方 を 後 方 へ と 進 み 、 肩 関 節 包 、 腋 病 3 窩 因 神 腋 経 窩 は 神 、 経 腕 麻 神 痺 経 叢 の 後 神 経 束 よ り 分 枝 し . 側 上 腕 皮 神 経 に 分 か れ る ︵ 図 " ︶ 。 こ の 部 は 神 quadrilateral space 経 が 固 定 さ れ 走 行 を 変 え る た め 、 神 経 障 害 が 生 治 療 は 、 一 般 に 保 存 的 療 法 が 行 わ れ る 。 上 肢 全 に は 拳 上 で き な い 。 治 療 法 お よ び 予 後 る 遅 例 。 く で と 2 も ∼ 約 3 2 カ 年 月 で 以 ほ 内 と に ん 回 ど 復 完 し 全 始 回 め 復 、 が 半 認 年 め か ら ら れ 、 外 傷 性 の 神 経 断 裂 で な け れ ば 、 ほ と ん ど の 症 案 さ れ て い る 。 る ︵ 翼 状 肩 甲 骨 動 外 転 さ せ る と 、 肩 甲 骨 の 外 転 が 弱 い た め 、 完 winged scapla !右長胸神経麻痺 、 図 ! ︶ 。 肩 を 自 壁 を 押 さ せ る と 、 肩 甲 骨 の 内 縁 が 後 方 に 突 出 す さ せ 、 上 肢 の 運 動 を 円 滑 に す る 種 々 の 装 具 が 考 示 す る 。 回 復 が 遅 い 場 合 に は 、 肩 甲 骨 を 安 定 化 に 無 理 な 力 の か か る 動 作 を 禁 止 さ せ 、 安 静 を 指 CLINICIAN ’06 NO. 549 92 腋窩神経 大円筋 静脈叢 上腕三頭筋枝 上腕三頭筋 (Bateman より) 度 が 様 々 で あ る 。 進 行 例 で は 三 角 筋 の 萎 縮 が 高 痺 に 基 づ く 肩 の 挙 上 困 難 は 、 症 例 に よ り そ の 程 時 痛 、 夜 間 痛 を 生 じ る よ う に な る 。 三 角 筋 の 麻 ス ポ ー ツ 中 な ど に 限 ら れ る が 、 進 行 に 伴 い 安 静 脱 力 感 、 し び れ を 訴 え る 。 疼 痛 は 、 軽 症 例 で は 、 CLINICIAN ’06 NO. 549 肩 関 節 後 方 か ら 外 側 に か け て の 疼 痛 や 倦 怠 感 、 臨 床 症 状 お よ び 診 断 病 変 ︶ 、 腋 窩 神 経 を 慢 性 的 に 圧 迫 ・ 刺 激 す る 。 で は 、 肩 甲 骨 関 節 窩 後 下 方 に 骨 棘 を 生 じ ︵ 経 の 単 独 麻 痺 例 が 多 い 。 投 球 動 作 に よ る 神 経 上 枝 の 障 害 の 合 併 は 比 較 的 少 な く 、 腋 窩 神 窩 神 経 と 橈 骨 神 経 上 枝 の 障 害 が と 名 づ け ら れ た 。 し か し 、 橈 骨 じ や す い 。 ま た 、 神 経 と 共 に 在 し 、 Bateman (1955) 度 と な り 、 挙 上 不 能 と な る 。 を 通 過 す る 静 脈 叢 が 、 外 傷 に よ っ て 容 易 に 出 血 quadrilateral 進 行 例 で は 、 三 角 筋 の 萎 縮 と 肩 外 側 の 知 覚 障 Bennet 93 害 を 認 め れ ば 、 診 断 は 比 較 的 容 易 で あ る 。 肩 外 overuse 側 の 知 覚 障 害 は 、 軽 症 例 を 含 め 、 ほ と ん ど の 症 し 、 瘢 痕 形 成 を 生 じ や す い と い わ れ て い る 。 こ quadrilateral space 骨神経 の 部 位 は 、 上 腕 三 頭 筋 に 行 く 橈 骨 神 経 上 枝 も 存 space syndrome !guadrilateral space に よ り 、 こ の 部 位 で の 腋 (5 1 5) quadrilateral 治 療 法 と 予 後 単 純 X 線 写 真 で 確 認 す る 。 病 変 の 有 無 を 、 肩 の 挙 上 位 、 軸 射 で の め る 。 投 球 動 作 を 繰 り 返 す 既 往 の あ る 場 合 に は 、 に 応 じ て 、 三 角 筋 、 小 円 筋 に 神 経 原 性 変 化 を 認 様 徴 候 を 認 め る 。 筋 電 図 検 査 で は 、 麻 痺 quadrilateral space quadrilateral へ の 局 注 が 行 わ れ る 。 回 復 傾 基 本 的 に は 、 3 カ 月 程 度 保 存 的 に 治 療 し て 、 Tinel を 展 開 し 、 神 経 剥 離 を 行 う 。 回 復 傾 向 を 観 察 す る 。 と き に ス テ ロ イ ド の Bennet で の 神 経 剥 離 術 後 は ほ と ん ど の 症 例 で 良 向 の 見 ら れ な い 症 例 で は 、 手 術 的 に quadrilateral space space 回 復 が 報 告 さ れ て い る 。 space Kopell, HP., et al. : Peripheral entrapment neuropathies 1)文 好 献 な 部 で の 障 害 で は 、 同 部 の 圧 痛 、 ら か で な い 場 合 の 診 断 の 決 め 手 と な る 。 ∼ (5 1 6) CLINICIAN ’06 NO. 549 of the lower extremity. New England J. Med., 262, 56 60(1960) Bateman, JE., : Nerve lesions about the shoulder. Orthop. Clin. North Am., 11, 307 326(1980) 2) 例 で 陽 性 に な る と い わ れ て お り 、 運 動 障 害 の 明 ∼ 94
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