日本史にみる長寿食 F O O D 239 土用しじみは腹ぐすり 食文化史研究家 ● 永山久夫 昔から「土用しじみは腹ぐすり」といわれ、暑 あります。 さをしのぐうえで、体力を強くする食べ物として 現代でもよく「お酒を飲んだらしじみ汁」とか、 珍重されてきました。 「二日酔いにはしじみ汁」などといわれるのは、 淡水や河口付近でとれる二枚貝で、大量にとれ あの小粒の身に肝臓によい栄養成分がぎっしりと て廉価であるところから、江戸の庶民にはなじみ 詰まっているからです。 の深い食品でした。 まず、肝機能を高めるタウリンが多く、アルコー 浅草海苔、佃煮、練馬大根などと並んで、江戸 ルの分解能力の高いアミノ酸もたっぷり。しかも、 。中之郷の業 名物といわれたのが「業平しじみ」 肝臓の働きを活発にして解毒作用を高めるビタミ 平橋の近くのしじみで、大粒で味わいのよいとこ ン B2や、肝臓の働きを助け、体中の疲れを少な ろから「業平しじみ」と呼ばれたもの。 くするグリコーゲンも豊富なのです。このように 業平橋は、本所横川にかかる橋で、近くに平安 みると、昔から用いられてきた、お酒の締めくく 時代の美男歌人・在原業平の碑があることから業 りの「しじみ汁」には、しっかりとした意味があ 平橋と呼ばれ、川柳も少なくありません。 ることがわかります。しじみの効果をテーマにし 色男あづまに貝の名を残し た、面白い川柳も少なくありません。 次のような色っぽい作品もあります。 黄色な声でオイ蜆オイ蜆 蛤が好きで蜆で名を残し こんじきの男蜆に喰いあきる 「蛤」は女性。業平は稀代の色男だったのです。 蜆汁黄色い坊が浴びている 河川の上流や湖沼などに棲息するマシジミは寒中 当時、黄疸になったら、しじみを煮出した汁を が旬ですが、河口近くや潮入りの水域に棲むヤマ さまし、全身に浴びると治るといわれていました トシジミは、夏の土用の頃は味がのっています。 が、あまり効果は期待できないのではないでしょ しじみは昔から薬効があるといわれ、とくに黄 うか。しじみのみそ汁を飲用した方が、よっぽど 疸によいとして、よく食べられてきました。『食 効果があるのはいうまでもありません。その頃の 品国家』という書物にも、「しじみよく、黄疸を しじみは一升で十文位といわれており、現在に換 治し、酔いを解す。消渇水腫、寝汗にもよし」と 算すると 200 円弱になります。 2013.8 42
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