第48回日本神経学会 PZZ-301 神経学資源の国内分布 池田正行1) 2) mail adresss [email protected] 1)国立病院機構東埼玉病院神経内科,2)独立行政法人医薬品医療機器総合機構 緒言:世界一の高齢化率とその進行,医療費増加抑制政策,国立病院独立行政法人化といっ た診療環境の変化と, 2004年からの臨床研修必修化,国立大学独立行政法人化に代表され る医学教育環境の変化は,神経内科の診療と教育に大きな影響を及ぼしたと思われるが,神 経内科医や神経内科教育施設,神経疾患患者数といった重要な教育・診療資源の実態は,断 片的にしか検討されていない.今回私は,特に,診療・医学教育は,地域の中で行なわれるこ とを踏まえ,公開情報をもとに神経学資源の国内分布を検討した. 対象と方法:2006年11月の時点で,日本神経学会のホームページで公開されていた認定 神経内科専門医名簿,認定教育施設に関する情報より,都道府県別の神経内科医数,神 経学会教育施設数を得た.また,厚生労働省のホームページで公開されていた住民基本 台帳,人口動態調査,患者調査等の統計データより,都道府県別に,人口,医師数,脳 血管障害による死亡率,特定疾患医療受給者証所持者数を得た.都道府県別の疫学デー タ図は,群馬大学 社会情報学部 青木繁伸氏による,”地図を描く!” (http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/map/map.html)を用いて描いた. 単位人口あたりの医師数は,東日本,北日本で少なく,西日本,南日本で多いのに対し,神経内 科専門医数ではそのような傾向が見られない.しかし都道府県間の差異は,医師数が最大の東京 都が最少の埼玉県に比べて2倍強なのに対し,神経内科専門医数では,最大の鳥取県が10万人あた り8.3と,最少の愛媛県の7倍以上と,その差がより顕著となっている.神経内科教育施設あたり の人口も地域によって大きな差が見られるが,神経内科専門医数とは必ずしも一致しない.ちな みに,単位人口あたりの日本の神経内科医数は先進諸国と比べて大差はない. 最も頻度の高い神経疾患である脳血管障害による単位人口あたりの訂正死亡率は,東北・ 北陸,四国,山陰,南九州で高い地域特異性を示したが,神経内科専門医一人当たりに換 算すると,その地域特異性は不明瞭になった. 頻度の高い神経難病であるパーキンソン病の単位人口あたりの患者数は,北海道と東北の 一部の県を除いて,東日本,北日本で少なく,西日本,南日本で多い傾向が明らかだった が,この原因については不明である.その結果,神経内科専門医が比較的少ない北海道と 東北の一部,及び西日本,南日本の一部の県では,神経内科専門医あたりのパーキンソン 病患者数が多くなり,最大の愛媛県では,最少の愛知県の6倍となっている. 多発性硬化症は北海道,東北,北陸と,近畿地方の一部で単位人口あたりの患者数が高く なっている.最大の北海道では,10万人あたり16.1人と,最少の沖縄の4倍以上にである. 結論:神経学の診療,教育,研究を推進するためには、地域毎に大きく異なる神経学資源の分布 をふまえる必要がある.
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