山田 幾也 イオン交換法・超高圧合成法による新奇遷移金属化合物の

平成 22 年度 実績報告
「新規材料による高温超伝導基盤技術」
個人研究者
山田 幾也
愛媛大学大学院理工学研究科・助教
イオン交換法・超高圧合成法による新奇遷移金属化合物の探索
§1.研究実施の概要
本研究では、イオン交換法・超高圧合成法を用いた新奇物質の探索を行い、革新的な機能を見
出すことを目的としている。前年度までの研究結果より、いずれの手法も鉄ニクタイド化合物の合
成には適さないと判断されたので、本年度からは超高圧合成法に特化して、A サイト秩序型ペロブ
スカイト酸化物を主な研究対象に、新物質探索と結晶構造解析・基礎物性評価を行った。様々な
元素の組み合わせを試したところ、多くの新物質の発見に成功した。
23 年度は、さらなる研究推進のために大型試料の超高圧合成法の確立・小型高圧合成装置を
用いた超高圧合成法の開発を行い、これまでに得られた新物質の詳細構造・物性評価と、部分元
素置換による新奇物性発現を目的とした研究を行う予定である。
§2.研究実施内容
1) A サイト秩序型ペロブスカイト AA’3B4O12
AA’3B4O12 の化学式で表される A サイト秩序型ペロブス
カイト(図 1)は、数 GPa 程度の高圧条件で合成されること
が知られている。本研究では、合成圧力範囲を 10〜
15GPa の超高圧条件に拡大することで、効率的な新物
質探索を試みた。
比較的研究例の少ない白金族元素を含むペロブスカイト
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図 1. AA’3B4O12 の結晶構造。
を対象に物質探索を行ったところ、新物質 CaCu3Pt4O12 が得られた。CaCu3Pt4O12 は、ペロブスカ
イト構造において B サイトと呼ばれる結晶学的位置を Pt4+イオンが完全に占有する初めての物質
である
1)
。 こ の 物 質 は TN=40K の 反 強 磁 性 絶 縁 体 で あ り 、 CaCu3Ti4O12 と 同 様 に Cu-
-O-B(Pt)-O-Cu の超交換相互作用のパスが有効に働いていることが示唆された。
AA’3B4O12 ペロブスカイトにおいて、ヤーン・テラー性の強い Cu2+と Mn3+の他に、Fe2+と Mn1.67+が
A’サイトを占有するイオンとして知られている。そこで、平面四配位構造を取りやすいことで知られ
ている Pd2+による A’サイト置換を試みたところ、CaPd3B4O12 (B=Ti, V, Cr, Mn, Fe)が得られた。
CaPd3Ti4O12 は非磁性絶縁体であることから、Pd2+イオン(d8)が S=0 の低スピン状態として存在して
いると示唆される。CaPd3V4O12 はパウリ常磁性金属であった。理想的な 180°から大きく歪んだ
V–O-V 角を持つことから、V4+だけでなく Pd2+イオンが金属的電気伝導に関与していることを示唆
している。CaPd3Mn4O12 は TC=80K の強磁性体であった。CaPd3Cr4O12 と CaPd3V4O12 には不純物
が多く含まれているため、単相化を目指して合成条件の最適化を進めているところである。
異常高原子価イオン Fe4+(または Fe3.75+)を含む物質 ACu3Fe4O12(A:アルカリ土類金属、ランタノイ
ド金属)を対象にした新物質探索を行った。A イオンを置換することによる新奇物性発現を試みたと
ころ、A=Sr の場合に、-20μ/K 程度の大きな負の熱膨張を示すことが分かった。さらに、Y などの
小さなランタノイド金属によって A サイトを置換した場合、TC=250K 以下で強磁性的な振る舞いが
見られた。以上の結果は、既報の CaCu3Fe4O12 やLaCu3Fe4O12 が示す振る舞いとは全く異なるも
のである。このことは、ACu3Fe4O12 において、A イオン価数・サイズを変化させることで様々な電子
状態が発現することを示している。今後、メスバウアー分光など微細なプローブを用いた詳細物性
評価を行い、ACu3Fe4O12 の電子相図を明らかにする予定である。
Ag2+イオンを含む酸化物の候補として、SrAg3Ti4O12 の出発組成から超高圧合成を試みたところ、
格子定数 a = 7.60Åの cubic で指数付けできる構造が主相として得られた。現時点で得られる試
料には不純物が含まれており、現在、合成条件の最適化と、結晶構造の精密化を行っている最中
である。
2) クロムオキシニクタイド化合物 LaCrAsO
LnMAsO (Ln: ランタノイド、M: 遷移金属)で表されるオキシニクタイド化合物において、M イオン
を置換した系の探索を行った。その結果、真空封管中での固相反応により、新物質 LaCrAsO が
得られた(図2)。室温から2K の温度範囲で、電気抵抗率の測定を行ったが、超伝導的な振る舞い
を示さず金属的であった。0.5〜1 万気圧程度の圧力条件で、部分酸素欠損した試料の合成に成
功したが、試料は超伝導にならなかった。このことより、遷移金属イオンの d 電子数が偶数個である
場合(M=Fe, Ni)に超伝導が発現するという経験則は、これまでのところ LaCrAsO には当てはまら
ないことが分かった。
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図3. LaCrAsO の電気抵抗率の温度依存性。
図 2. LaCrAsO の結晶構造。
3) 超高圧合成研究環境の整備・技術開発
本研究用に 180ton 高圧合成装置の導入を行い、常用で 5GPa・1200℃程度の高圧高温条件で
試料合成を行えるように整備した。また、より高い圧力発生を可能にするため、本装置に対応する
6-6 二段加圧方式セルの設計を行った。23 年度には常用で 10〜15GPa での超高圧合成実験を
行うことができるようになる予定である。また、1g 級の大型試料の超高圧合成を行うため、高圧セル
の設計を行った。大型試料を用いた構造・物性評価へと移行する予定である。
§3.成果発表等
原著論文発表
① 発表総数(発行済:国内(和文) 0 件、国際(欧文) 1 件):
② 未発行論文数(“accepted”、“in press”等)(国内(和文) 0 件、国際 (欧文)0 件)
③ 論文詳細情報
1) I. Yamada, Y. Takahashi, K. Ohgushi, N. Nishiyama, R. Takahashi, K. Wada, T. Kunimoto,
H. Ohfuji, Y. Kojima, T. Inoue, T. Irifune, “CaCu3Pt4O12: The First Perovskite with the B
Site Fully Occupied by Pt4+”, Inorganic Chemistry, vol. 49, pp. 6778–6780 (2010), DOI:
10.1021/ic100474x
特許出願
① 平成 22 年度特許出願内訳(国内 0 件、海外 0 件)
② TRIP 研究期間累積件数(国内 0 件、海外 0 件)
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