カシオ計算機株式会社/野嶋 磨、富所 佳規、木村 厚 カシオ計算機は、2008年3月にコンシューマ向けハイスピードカメラ 「EX-F1」を発売した。この カメラの反響の良さから、今回法人向けにアップグレードした「EX-F1S」 を開発。 そこで、この注目のカメラについて開発を担当されている野嶋氏、富所氏、営業部門を担当 されている木村氏にお話をうかがってきたので紹介する。 1 ―カシオ計算機の事業と今回のハイスピードカメ ―そもそもコンシューマ向けのハイスピードカメラ というのが画期的ですが、個人ユーザの方はどのよ うな目的で購入されているのでしょうか。 ラについて教えてください。 野嶋 はい。コンシューマ用でここまでのハイスピー 木村 カシオ計算機は、デジタルカメラ、時計、電 ド動画を撮れるデジタルカメラというものは、世の 子辞書などのコンシューマ製品、 ハンディターミナル、 中にありませんでした。このカメラの特長は大きく プリンタやプロジェクタという法人向け商品の製造 3つあります。 販売をしています。 ①60コマ/秒の高速連写ができる 今回のカメラは、もともとコンシューマ向けのハイ スピード・デジタルカメラ「EX-F1」 を昨年3月に発売 ②ハイスピードで最大1,200fpsの動画が撮れる ③ハイビジョンの動画が撮れる 開始しており、これがベースとなっています。 EX-F1はコンシューマ用ですが、そのなかで実は 法人が業務の中でハイスピード動画を撮影するため にご利用されているケースも多々あり、業務で使う ことを想定して今回の「PC制御基本開発キット」 と 「EX-F1S」 をご提供することになりました。 EX-F1Sは、デジタルカメラをPCからコントロールす ることができるようになります。このアプリケーションを 作るための開発環境を提供するのがPC制御基本 開発キットです。 写真1 EX-F1S PC制御基本開発キットメニュー画面 eizojoho industrial October 2009︱61 ハイビジョンの動画が撮れるデジタルカメラは最 野嶋 カメラの販売は、店頭販売と販売店からでは 近増えていますが、連写だけの性能を見ても、従来 ない非店頭販売があります。その非店頭販売は通 1秒間で60枚撮れるものはありませんでしたし、ハイ 常数パーセントなのですが、EX-F1は当初からケタ スピード動画はまったく新しい試みでした。 の違う売上がありました。今までのカメラとは違う 開発の一番の目的は、今までにない高速連写の のだという認識のもと、ユーザの声を拾ったり要望 実現でした。まったく新しいハイスピード・デジタル を調べていきました。その結果、今回のアプリケー カメラでユーザが何を撮りたいと思うのか、我々も ションを開発することになったのです。 調査する必要がありましたので、2007年のドイツで 開催された「ベルリン国際コンシューマー・エレクト ロニクス展(IFA) 」に試作機を出展し、7ヵ国ほどか 2 らWebアンケートでユーザの声を集めました。この ―業務用途としては、スポーツや検査に関連した ときの要望で一番多かったのが、60コマ/秒の高 使い方ですか? 速連写だったのです。次いで動画のハイスピードと いうのも多かったですね。実際に発売してからは、 木村 そうですね。映像の素材があれば、それを解 スポーツシーンの分析や鳥や昆虫の飛翔瞬間の撮 析できるアプリケーションは、製造業やスポーツメー 影などでご利用いただいています。また、学校の先 カでそれぞれ持たれていることが多いのですが、ま 生が子どもの動きを撮ったり、大学での研究用にも ずカメラで撮影して、その映像を取り込むという二段 使っていただいています。 階の処理があります。今回開発したPC制御基本開 発キットの一番の特長はアプリケーションとしての ―プロのカメラマンでハイスピードカメラを使わ 販売ではなく、カメラをコントロールするアプリケー れている例もあるそうですが、コンシューマ商品をど ションを作ることができるというところです。たとえ う利用されているか調べるのは大変そうですね。 ば、解析用アプリケーションにカメラを操作する部 分を組み込んでいただければ、撮像から解析までを 1つのアプリケーションで実行できるので、工程数 削減に貢献できると思います。 ―案件にあわせて、アプリケーション構築ができ るとすると、従来システムインテグレータに頼んでい たようなシステム構築もそれぞれのメーカで作るこ とができそうですね。 木村 あるいは、そういったシステムインテグレータ の方にも、採用していただけるのではないかと思い ます。 ―具体的に、カメラのコントロールや開発キット 写真2 EX-F1S 62 ︱October 2009 の中身はどのようなものですか? eizojoho industrial 富所 デジタルカメラはいくつかモードがあり、連 アプリで解析して、と様々なツールを組み合わせる 写モードやハイスピード動画と切り替えられますが、 のではなく、このキットを使って一連の作業を組み モードの切り替え、ズーム機能やシャッタ、録画の 立て、撮像から解析までできるものというのがコン 開始/停止をパソコンから操作できます。写真3の セプトです。 右下に出ているウィンドウが操作画面です。これは もちろんアプリケーションを作ってほしいという依 PC制御基本開発キットに入っているサンプルソフト 頼があれば、別途有償にはなりますが、担当できる なのでシンプルに撮影モードやシャッタのみの構成 部署もありますのでご相談いただきたいです。 になっています。 カメラとパソコンはUSBでつなぎ、たとえば連写 ―アプリケーションの組み方がフローチャートで モードでこのシャッタをクリックして静止画の連写を 分かるというのは、ある程度慣れているエンジニア 撮影することができます。自動的に撮像したいとか、 の方なら簡単に進めていけそうですが、そうではな 画像を取り込みながら解析したい、といった要求に く慣れていない人にはサポートもしていただけます あわせてアプリケーションを構築するためにプログ か? ラミングガイドが入っており、アプリケーションの組 み方がフローチャートで説明されています。 木村 開発キットということで、サポート体制は整え ています。Web上でオンラインサポートを3ヵ月間、 木村 繰り返しになりますが、画像を撮って、別の 無償で行います。ソフトウェアを作るのに初めての 写真3 EX-F1S 制御ソフト操作画面 eizojoho industrial October 2009︱63 ます。 ―価格はどのくらいですか? 木村 価格はオープンですが、販売窓口となる商社 での予想価格は、 ・PC制御基本開発キット:1セット30万∼40万円 ・EX-F1S(ハイスピードカメラ) :1台20万円前後 ではないかと思われます。システム商品なのでいろ いろとご相談いただくなかでコストダウンできる可能 性も考えられます。 写真4 撮影デモ EX-F1Sは先に販売しているコンシューマ向けEXF1とほぼ仕様は同じですが、特殊なファームを入れ 方でも安心して開発していただけるよう、3ヵ月過ぎ てのライセンスが必要なります。そのまま転用はで たあとでも必要であれば、有償でサポートできます。 きませんが、こちらのシステムにあうようにアップグ レードのサービスは用意しますので、すでにEX-F1 3 をお持ちの方もご心配ありません。 ―では、これまでハイスピードカメラを使われてい ―このPC制御アプリケーションは、複数台つな なかったユーザ向けに販売をしていく予定ですか? がるのですか? 木村 従来、高速度カメラは専用カメラとして販売 木村 されるのが一般的で、コンシューマ向けハイスピー 数台をひとつのPCで制御するということは可能で ドデジタルカメラというものはありませんでした。専 す。ただカメラとPCはUSBでつなげていますので、 用カメラはやはり高くなってしまいますので、購入で USBの限界値がありますし、きちっとした同期をとる きるところも限られていたと思います。 というのには向かないでしょう。 カメラとアプリケーションは1対1で、その複 当社のEX-F1Sはコンシューマ向けに開発・生産 アプリケーションの組み方次第で、同じ現象を複 していたものをベースにしていますから、そのメリッ 数台で撮影することによって解析の仕方も変わって トは価格に反映されています。専用カメラを使って くると思います。複数台で解析したいけれど、高コ いないユーザはもちろんですが、専用カメラを使っ ストのために実現できなかった場合などにご利用い ていたユーザでもメインを専用カメラで、サブ的に ただけるのではないかと思っています。 別の角度に設置して複数台採用していただくことも 可能です。 野嶋 具体的なお話もいただいています。総務省 コストが下がることによって、たとえば製造業では の地域ICT振興型研究開発や情報通信研究機構の 専用の開発部門でしか使えなかったハイスピードカ 委託研究で、中京テレビが中心となって多視点研 メラを、トラブル対応用に他部門でも採用していた 究のプロジェクトを行っています。複数台のハイス だけるなど、裾野が広がるのではないかと考えてい ピードカメラが必要なので、従来なら億単位の予算 64 ︱October 2009 eizojoho industrial となってしまいますが、このEX-F1Sのシステムを使 うと非常に安価にできるということで、すでにお試 しいただいております。 4 ―いろいろ採用例が出てきそうですね。これから の予定があれば教えてください。 木村 今回の法人向けハイスピードカメラシステム は、9月末から販売開始となります。これから皆様の カシオには「創造 貢献」 という経営理念があり ご要望などをうかがいつつ、今後の展開を図りたい ます。 「0→1」 という発想で、今までなかったものを と考えています。 生み出していきたいと思っています。 富所 一般ユーザ向けのカメラを先にリリースして ―ハイスピードカメラが身近になり、敷居が高く 大変評判がよく、すでに業務用に利用されているユー て使えなかったユーザ層というのは、需要がたく ザの方もたくさんいます。これまでハイスピードカメ さんありそうです。これからも期待しています。本日 ラを使いたかったけれど、コスト的に使えなかった はありがとうございました。 というユーザの方たちにも業務がスムーズになるよ うご利用いただけたらと思います。 野嶋 コンシューマ向けカメラも一眼タイプ、コンパ クトタイプとラインナップを増やしているので、業務 ☆カシオ計算機株式会社 システム企画部 用もさらに検討して需要に貢献できるようにライン TEL.03-5334-4638 ナップを広げていきたいですね。 http://www.casio.co.jp/ eizojoho industrial October 2009︱65
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