外観検査市場を リードする - 映像情報インダストリアル

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ア
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グ
ル
外観検査市場を
リードする
一線を画す特許技術
R E A L
山田 吉郎
A N G L E
株式会社テクノス
代表取締役社長・技術士
氏
高画素化、小型化、高速伝送・通信など、大きく様変わりしようとしている映像・画像業
界において、日本のものづくりを支える企業の取り組みや活動、また業界を牽引する方々
にスポットを当てた、映像・画像ビジネスの今を読み解くインタビュー企画。
設 立の 経 緯
行ったのは、家電製品の修理でした。友人の父親
の校長先生がガリ版刷りで「電気製品なんでも直
します」というチラシを 40〜50 枚作ってくれて、
—御社の設立の経緯を教えてください。
これを近所に配ったのが最初でした。高校 3 年生
の時には、カラーテレビ時代になり東芝、松下、
ちょうど今年が創業から半世紀(50 年)経つの
三洋電機、富士電機、ゼネラル製のテレビ、洗濯
ですが、私が会社を立ち上げたのは 1965 年で高校
機や冷蔵庫などの家電品やその後に続くカシオの
1 年のときでした。高校に入学する 1 年前に IBM
電卓を売っていました。主にお客様の親戚筋を紹
社が 360 という世界初の汎用コンピュータを作っ
介してもらって構築したお客様だったのですが、
たのですが、それに刺激を受けた私と友人は、
「俺
面白いことに、家電販売店のセールスコンテスト
達のコンピュータを作ろう」と意気投合し、一緒
で高校生の私が、湘南地区で 1 番の売上を上げ、
に相模電子工業研究所を創業したのです。結局画
トップセールスになったことがありました。
像処理専用のニューラルコンピュータを開発して
また、高校 3 年生のときにはテープレコーダの
20 年間、世界最高精度を維持しているので目標は
駆動系の特許も出し、3M が特許取得しましたが
達成しました。
ベスト条件ではこちらのものになっていたことが
まずコンピュータを作るための資金集めとして
後年わかりました。登録中にわかっていたら人生
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株式会社テクノス 代表取締役社長・技術士 山田 吉郎 氏
も変わっていたかもしれません。この技術はコン
ピュータの記録にかかわるもので、つい最近まで
—何がきっかけで電気を好きになったのですか?
使われていたんですよ。
私の電気好きは物心のつくまだハイハイしてい
学生時代には東北大学長で垂直磁気記録で有名
るときからだったみたいです。静岡大学に通って
な岩崎先生が主宰される電子通信学会の磁気記録
いた叔父の部屋にはテスタや電気・電子部品や 78
研究会に出席し企業の皆さんにも可愛がっても
回転のレコードをバネで回すメカニズムなどがた
らっていました。
くさんあり、なぜか私はそれらが好きで、よく叔
修士課程の時にはヨーロッパを 100 日まわり、
父の部屋に入ろうとしていたみたいです。
オーストリアのウイーンにあるテープレコーダの
それと、叔父とよく秋葉原に行ったのも好きに
メーカを訪ねて設計に携わりたいと申し入れたこ
なった要因の 1 つですね。もちろん当時は今の秋
ともありました。
葉原とは違いますので、フィギュアとかはないで
その後、日本のセンサメーカの開祖ともいえる
すよ(笑)。木でできた電気蓄音機(レコードプレイ
竹中電子さんの仕事に協力し、産業用のセンサに
ヤー)の外装だとか、興味をもっていたインターホ
ついて学びました。当初は配電盤を作ることから
ンやテープレコーダの部品なんかもたくさんあっ
始めましたが、ユーザニーズがセンサの高度化に
てとても楽しかったですね。
向かっていることがわかり 1975 年に相模電子工
業研究所を法人企業「株式会社テクノス」として
改組しました。翌年の 1976 年から 17 年間、国家
—先ほど特許を出したと仰ってましたが、
どのような特許だったのですか?
プロジェクトのウラン濃縮の機器開発に携わり、
この話をすると長くなるのですが
(笑)
、それは、
毎秒 1,120 回の分光分析画像をリアルタイムで得
大型コンピュータ用のデータカートリッジテープ
られるシステムを開発したり、自動実験ロボット
に使われている駆動方式の技術です。一般的な
を開発しました。その技術は生産ラインにも用途
テープの構造って、2 つのリールに巻き付いたテー
が拡がり、このころから並列処理プロセッサの開
プを回転しながら巻き取っていきますよね。でも、
発を始め、ニューロ視覚センサの基本部分になっ
巻いていくと 1 つは直径が小さくなってもう 1 つ
ていきました。
電子通信学会
(現在の電子情報通信
は直径が大きくなる。そうすると回転数が変わっ
学会)
のシンポジュームに電気通信大学の梶谷先生
て一定速度で安定した記録ができないんです。そ
に後押しされて発表もしています。
こで、リールの軸を外部に出すことなく、一部露
—高校生の時に起業するなんてよほど
電気が好きだったんですね。
そうですね。私は小学生のころから電気製品が
好きで、周りからは、
「電気のキチガイ」という意
味で、電気の「電」と名前の吉郎の「吉」を取っ
て「デンキチ」と呼ばれていました(笑)
。小学 6
年生の夏休みには、実家のある藤沢から 1 人で秋
葉原にいったら、東京駅の地下道で家出少年と間
違われて補導されそうになったりしましたよ
(笑)
。
それくらい電気機器が好きだったんですね。
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出している滑車で送る機構の駆動方式を考えたん
チャー技術大賞」、
「文部科学大臣発明奨励賞」、
「科
です。これによりテープにテンションを掛けるこ
学技術賞」など 10 以上の賞をいただいています。
となく一定の速度でテープを送ることができるよ
特許では、アメリカ、ヨーロッパ、韓国、中国、
うになります。
台湾など世界 14 か国で特許を取得しており、だい
これと同じような技術を、3M さんも出してい
たい 30 個ほどでしょうか。
たんですね。日本では最初に特許出願を行ったも
のに特許権が与えられる「先願主義」なのですが、
アメリカは先に考え発明した者に特許が与えられ
る「先発明主義」を採用していました。ですので、
後から出しても、そちらが採用されるんですね。
しかもベスト条件で記述しないといけないという
ことも知りませんでしたし。当時は高校生でした
ので、もしこのへんのことを知っていれば、今ご
ろ特許ライセンスからの収入で大変なことになっ
ていたと思いますよ
(笑)
。
これは
(写真1)
、この駆動方式を採用している
3M さんのカートリッジです。以前ネットのオー
クションで出品している人がいたので、当時を懐
かしく思い購入したものです。
目のニューロを用いた検 査 技 術
—ニューロ視覚センサとはどのようなものですか?
これも特許を取得している技術ですが、簡単に
いうと、人間の視覚系を電子回路に置き換えた技
術です。その精度は微細欠陥については目視の
144 倍、色ムラも人間の 100 倍を超える精度で検
知できるのです。
人間が見える最小の大きさは 50μmだといわれ
写真 1
ています。その理由は 240mm離れて 50μmの点を
みると網膜上にはちょうど 5μm の大きさに写る
—後ろの壁を見ますと、多くの賞や特許が飾られて
いますね。
からです。なぜならば、人間の目の大きさが 24mm
であるため、24/240 = 1/10 になります(図1)。
そして、錐体(光受容細胞)の直径が 5μmだからで
そうですね。おかげさまで、いろんな賞をいた
もあります。この 24mm と 5μm さえ知っていれ
だき、
「中小企業優秀新技術新製品賞」は 3 回受賞
ば、人間の目がどの距離からどの程度の大きさま
しました。3 回も受賞したのは私どもだけみたい
でを見えるのかを簡単に計算できるのです。
です。その他にも「新機械開発賞」
、
「東京都ベン
たとえば、自動車外観検査では、約 1,000mm
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図1
(1m)の 距 離 か ら 検 査 員 が 見 え る 大 き さ は、
す。ですので、細胞の狭間に欠陥が入ると見えず
1,000mm/24mm × 0.005mm(5μm)≒ 0.2mm で、
に見逃しになるのです。人間の目は本当にすごく
これはほとんどの業界での検査にこの式は当ては
て、見逃しを防ぐために眼球を毎秒 70〜90 回上下
まります。
に微震動をして見逃しをなくしているんです。こ
の動きをトレモアといいます。テクノスではこの
—貴 社のシステムは見逃しや過検出がないと謳われ
機能も電子回路化し、トレモア・センシングとし
ていますが、なぜですか?
て世界で初めて見逃しも過検出もない検査システ
先ほど述べましたように、人間の網膜の光受容
ムを構築することに成功しています。この技術も
細胞の直径は 5μm でして、それが片目に約 700 万
世界 14ヵ国で特許を取得しています。いままでの
個あります。その光受容細胞は円錐形をしている
CCDカメラ方式の急所である見逃しや過検出を防
のですが、裏面からみると図 2 のようになりま
ぐ世界唯一の技術です。
図2
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—貴 社製品はどのような業界で使われて
いるのですか?
そうですね、イラストにあるような自動
車、鉄鋼、電気機器、薬業など様々な業
界で採用されています。今、進んでいる
ものは機密保持契約がありますので詳
細は申し上げられませんがテクノスの技
術は法人化 2 年目から 17 年間やらせて
いただいた国家プロジェクトのウラン濃
縮が大きなバックグラウンドになってい
ると思います。
自動車メーカさんでは、昨年 11 月にトヨタさん
創業から 50 年を迎えて、 今後
の展 望をお 聞かせください。
から講演のお声がけをいただき、ホンダさん、マ
ツダさんや日産さんからもお話をいただきまし
た。ゼロックスさんやキヤノンさん、リコーさん
いままでは目のニューロに力をいれてやってき
は、感光ドラムの感光体の厚さムラ検査だったり、
まして、目の部分の技術としては、世界に誇れる
インクジェットのヘッド部分の検査だったりと、
技術をいくつももっています。これまでの技術を
様々な検査用途でお使いいただいております。
より高めることはもちろんですが、しかし今後は、
どうも困ったらテクノスに聞けと言われている
次のさらなるステップとして、脳の部分にあたる
ところがあって、センサメーカからの間接的な紹
判断系のところに注力し、テクノスらしさを出し
介など難題を持ち込まれることもあり、人間の目
た技術開発を行っていきたいと思っております。
ではどのように処理しているのであろうかと考え
近年はインターネットの発展だけではなく世界
て解決策を出したり、お客様と一緒に考えたりす
各国から広い範囲を高精度で検査するニーズが寄
ることもあります。長年やっているので現場での
せられ、IT をはじめメガネレンズや航空機、鉄鋼
経験も多く、スーパーコンピュータを安定して動
などの世界的なメーカから引き合いをいただき、
かすすべを知っていることがかなりのパーフォー
納入もさせていただいています。5 月にはドイツ
マンスの違いになっていると自負しています。
のニュールンベルグでニューロ視覚センサに関す
る講演をする予定になっています。
また、厳しくなるお客さんからの要望に応える
ため、常にアンテナを高く張って、様々なニーズ
に応えられるよう努力していきたいと思っており
ます。
実は「映像情報」は一番最初に原稿依頼をして
いただいた思い出深い媒体です。今後とも末永く
お付き合いいただきたいと思っております。本日
は誠にありがとうございました。

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