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第29回 秋田県教育研究発表大会資料 【5日G会場②】
ハイスピードカメラを活用した授業改善の試み
秋田県立羽後高等学校
教諭 吉田
功
授業中に行う演示実験を市販のハイスピードカメラで撮影し、直後にその動画を映示しながら物理現
象に関する理解を深める授業を実践した。力学や波動分野など、動きの速い実験では特に有効である。
生徒の科学的思考力や判断力・表現力を育み、言語活動を重視した授業の展開にもつなげることができ
る。自らの授業改善の試みとして報告する。
1.はじめに
トを上げるほど画像サイズは小さくて横長になり、
2008 年3月に、カシオからハイスピードカメ
ラ( EXILIM PRO EX-F1
以下 HS カメラ)が
発売された。60 枚/秒の連写性能や、
最大 1,200fps
のハイスピード動画撮影機能が特徴である。この
しかも画面が暗くなるのでそうした撮影は屋外か
日当たりのよい窓際が適している。
表1 EX-F1 の撮影速度と画像サイズ
撮影速度
画像サイズ
(フレームレート)
(pixels)
300fps
512×384
600fps
432×192
ウン、弦の振動等、いろいろなシーンを撮影して
1200fps
336×96
みたが、具体的に授業で活用する方法はないもの
30-300fps
512×384
ような機能を持つカメラが 10 万円を切るような
価格で市販されていることを知り、大いに興味を
持った。同年12月、高教研理科部会の予算で購
入することができた。購入当初からミルク・クラ
かと考え、授業中に行う様々な実験の様子を撮影
して解析し、物理現象の理解を補助するためのツ
ールとして活用してみた。
3.物理授業でのHSカメラの活用方法
EX-F1 の発売以来、HSカメラを授業に用いた
実践例が何件か報告されている。1)~4)報告の中
にはHSカメラで撮影した動画を用いて実験の測
定をするものと、今回の実践例のように動画で運
動の様子を解析するものとがある。
授業中生徒に動画を見せて運動を解析する手法
図 1 EXILIM PRO EX-F1 (CASIO ホームページより)
は、従来から行われてきており決して珍しくはな
い。NHK・Eテレの高校講座などでもしばしば
登場する場面である。今回の試みは、授業中に行
2.EX-F1 の機能について
動画の1秒あたりのフレーム数(画像の枚数)
をフレームレートという。単位は fps(frame per
second)である。通常のビデオカメラは 30fps であ
るから、例えば 300fps で撮影した動画は、1/10
の速度でスロー再生され、運動の様子が解析でき
る。EX-F1 は表1の通りフレームレートを選択す
ることができるので、被写体の速さなど、状況に
応じた設定が可能である。ただし、フレームレー
う演示実験をHSカメラで撮影し、直後にその映
像をスクリーンに映し出して運動の様子を解析す
るという手法である。実験・撮影した後はカメラ
とプロジェクターをHDMIケーブルで接続し、
すぐに教室で映示することが可能である。パソコ
ンなどに映像を取り込まなくてもすぐに映示でき
ることが大きな利点である。何処かで誰かが実験
して撮影した動画を見るのではなく、授業中に生
徒の目の前で実験した様子をすぐに映示するとい
うことは、物理現象に対する興味・関心を高める
が資料6)を基に自作した実験器具「慣性打ち上げ
効果があると感じられた。次に具体的な活用例を
台車」である。生徒に結果を予想させた後、電車
示す。
に見立てたこの装置・ボールとHSカメラ等を体
1) モンキーハンティング
育館に持ち込み、実験して運動の様子を観察・撮
モンキーハンティングはとは、木の枝にぶらさ
影する。実験は図3のように台車にボールをセッ
がっている猿に銃で狙いをつけて、引き金を引い
トし、台車を走らせながらレバーをはじいてやる
た瞬間に猿が気がついて枝から手を離して下に落
と、図4のようにボールは打ち上げられ、放物線
ちていったら、弾は猿に当たるだろうか?はずれ
を描いて再び台車に収まる。
るだろうか?という問題である。放物運動の発展
7)
として、物理基礎の教科書
予想とは違った実験結果に、
「えっ、なんでー?」
にも記載がある。図
と声を上げる生徒もいた。その後実験室に戻り、
2の実験装置は、左側の筒から弾丸(プラスチッ
撮影したハイスピード動画を見ながら、ボールと
ク球)が発射された瞬間に電磁石のスイッチが切
台車の運動について再度考察する授業を展開する。
れ、棒の先に電磁石でぶら下がっていたサル(小
型のぬいぐるみ)が落下する仕掛けになっている。
授業では生徒にあらかじめ実験結果を予想させ、
何故そうなるのかを考えさせた上で実験を行う。
しかしこの実験に限らず落下運動は動きが速い。
自由落下するサルや弾丸の動きはそのままでは分
かりにくく、HSカメラの利用は有効であった。
図2およびこの後の図4は、後に紹介するソフト
ウェア『多重露光』5)を用い、運動の軌跡を表示
した写真である。
図 3 慣性打ち上げ台車
(「いきいき物理わくわく実験」より)
図 2 モンキーハンティングの実験
2) 電車の中のボールの運動
放物運動の学習が終わった後の授業で、生徒に
次のように質問する。
「一定の速度で走っている電
車がある。この電車の中で真上にボールを投げ上
げると、ボールはどんな運動をするだろうか。」正
図 4 慣性打ち上げ台車の実験
解はもちろん「投げた人の手元に戻ってくる」で
3)慣性の法則①(鉛筆落とし)
あるが、
「電車の進行方向と逆の方に落ちる」と答
これもの物理基礎の教科書7)に記載のある実験で
える生徒も少なくない。ここで実験に用いる装置
ある。図5のように空き瓶の上に刺繍用の木製の
輪を立て、その上に鉛筆やペン等を立てる。輪を
内側から勢いよく引き抜くと「だるま落とし」と
同様、慣性の法則により鉛筆は垂直に落下して瓶
の中に落ちる。しかし、輪を外側から引き抜こう
としても、鉛筆は決して瓶の中に落ちることはな
い。輪を内側から引き抜くと、輪はその瞬間わず
かに横長に変形するので、鉛筆と輪との摩擦がな
くなり鉛筆は真っすぐに落下して瓶の中に落ちる。
しかし輪を外側から引き抜こうとすると、輪は
縦長に変形するので鉛筆は跳ね上げられ、決し
て瓶の中に落ちることはないのだ。この理由を
考えさせるのがこの授業のポイントである。
少々わかりにくいが、図6のようにコマ送りを
すると、輪がわずかに変形していることがわか
る。
図 7 水入り風船の破裂
変であるが、割れた瞬間の映像に生徒は強い関心
を示していた。
5)波の重ね合わせの原理
波動ではウエーブマシンを使って授業をするこ
とが多い。しかしこのマシンの動きも速く、その
まま見せただけでは生徒はなかなか理解してくれ
ないことが多い。昨年度、本校で中高学習指導研
究協議会が開催され、研究授業で波の重ね合わせ
の単元を取り上げた。両側から進んできた2つの
波がぶつかると反射するのか、あるいは通り過ぎ
るのか。どんな実験をしたらそのことが確かめら
れるのか。HSカメラで撮影した動画を見ながら
生徒に考えさせる授業を展開した。同様に波の反
射の授業でもHSカメラは大いに役立つ。
図 5 「新編 物理基礎」(東京書籍)より
図 6 鉛筆落としの実験
4)慣性の法則②(水入り風船の破裂)
図 8 ウエーブマシンの実験
6)力学的エネルギー
水入りの風船に針や画鋲を刺して割る実験であ
この実験装置も20年程前に自作したものであ
る。風船の中の水にも慣性があるため、図7のよ
る。実験は力学的エネルギー保存則の授業の後に
うに割れた直後の水は割れる前の涙滴型を保って
行っている。図9のように並んだA,B2つの斜
いることがわかる。教室での実験は水がはねて大
面のスタート地点から2個の鉄球を同時に転がす。
Aは最初の斜面を下った後は水平に進んでゴール
するだけだが、Bは次の斜面を下って水平に進ん
の画像を見せることはできなかった。上記の実験
だ後、斜面を上ってゴールする。このとき、Aも
だけでなく、いろいろな場面での活用が期待でき
Bもスタートとゴールの高さは同じであるから、
る。
力学的エネルギー保存則により、ゴールに達する
速さはAもBも同じだ。この事は生徒も学習済み
である。しかし、AとBどちらが先にゴールする
かは別問題、これを理由とともに考えさせる。
ちなみに答えはB、下りで加速した分上りで減
速するが、下の水平部分で速い分だけ時間を短縮
できるのでBが早くゴールするという訳である。
これも同様に実験前に結果を予想させるのだが、
理由まで正しく言える生徒はほとんどいない。こ
の実験も一瞬のうちに終わるのでHSカメラが役
図 10 『多重露光』の操作画面
に立つ。実験後にHSカメラで撮影した動画を再
生しながら、Bが早くゴールする理由を生徒に考
5.生徒へのアンケート
それでは生徒らにとって、HSカメラは授業
えさせることができる。
の理解にどの程度役に立っているのであろうか。
次のように問いかけ、アンケートを実施してみ
た。「ハイスピードカメラは、以下の物理現象
を理解するのにどれくらい役に立ちましたか?」
役に立たなかったという回答はほとんど無く、
HSカメラは上記諸現象の理解に役立っている
図 9 力学的エネルギーの実験
ことが分かる。また、動画を見て感じた事・分
かったことを表現させたり、互いの考えを伝え
4.ソフトウエア『多重露光』の活用
『多重露光』(岩手県立総合教育センター
開発
者:奥田昌夫)はデジタルカメラやビデオカメラ
で記録した物体の運動を、手軽にわかりやすい表
示に変換することができるソフトウェアで、岩手
あったりすることは、思考力や判断力・表現力
を育むことにもつながるのではないか。今後は
EX-F1 の他の機能である高速連写を活用した実
験や、測定なども試みてみたいと考えている。
県立総合教育センター・情報教育ウェブからフリ
ーダウンロードできる。動画ファイル(mpg, avi,
wmv)から静止画像を取り出し、ストロボ写真のよ
うに運動の軌跡を表示したり、並べて表示した
りするなど、運動の様子をわかりやすく表示する
ことができる。また、作成した静止画をアニメー
ション表示する html ファイルを作成する等の機
能がある。ただし EX-F1 で作成される動画は mov
形式なので、一度ファイル形式を変換する必要が
ある。図2・図4はこのソフトを用いて作成した
画像である。残念ながらこれらの実験を行ったと
きにはまだこのソフトの存在を知らず、生徒にこ
図 11 物理授業におけるHSカメラの効果に
関するアンケート
参考・引用文献等
1)渡會兼也:ハイスピードカメラを利用した「観
察」と「測定」を同時に行う授業方法の探究
2013 年度日本物理教育学会年会
「第 30 回物理教育研究大会発表予稿集」
2)渡會兼也:ハイスピードカメラを用いた高校
物理教材の有り方と開発 物理教育 Vol.61-1
3)高橋尚志・中山貴之・穴吹佑太・金家弘枝:
ハイスピードカメラによる慣性の法則を視覚
化する実験の解析 物理教育 Vol.58-4
4)佐藤革馬:ハイスピードカメラを用いた生徒
実験の実践~力学分野の生徒実験で~
平成 24 年度全国理科教育大会研究発表論文
集(第 34 巻)
5)岩手県立総合教育センター・情報教育ウェブ
http://www1.iwate-ed.jp/tantou/joho/mate
rial/tajuurokou/index.html
6)愛知・岐阜物理サークル:
「いきいき物理わく
わく実験」
7)東京書籍 「新編 物理基礎」
8)CASIO ホームページ 製品情報
http://casio.jp/dc/products/ex_f1/