講演レジュメ

アーベル拡大での岩澤主予想
岡野 恵司
概要
藤井氏,三浦氏による岩澤理論の代数的側面・解析的側面の解説に引き続き,それ
らを結びつける岩澤主予想について,前日の復習をしながら述べさせていただく.非
可換への橋渡しとしての立場をとり,主予想の意味づけや後々現れる手法のアーベル
版に関する記述に内容を絞った.朝一で頭が働かない,二日酔いがつらいという方に
もやさしい構成になっている.
古典的岩澤主予想の定式化についてのより詳しい解説は,[尾崎 03] を参照すると
よい.
準備
1
p を奇素数,F を有理数体 Q 上の総実な有限次拡大とする.以下では組 (F, p) に対し
て Leopoldt 予想が成り立つとしておく.また,Σ を F の有限素点からなる有限集合で,
p 上の素点をすべて含むものとする.F cyc でもって,F の円分的 Zp -拡大を表すものとし,
Γ := Gal(F cyc /F ) とする.Γ の位相的生成元 γ を固定しておく.
次のような拡大 F∞ /F を考える 1) :

cyc ⊂ F ,

∞
総実かつ F
F∞ /F : G := Gal(F∞ /F ) は 1 次元 p-進アーベル Lie-群,


F∞ /F は Σ の外で不分岐
(このような拡大を p-進アーベル許容 (admissible) Lie拡大とよぶ).H := Gal(F∞ /F cyc ) とおけば,この条
件より #H < ∞ である 2) .藤井氏の解説のように,
M (F∞ )/F∞ を Σ の外で不分岐な最大アーベル p-拡大
とすると,そのガロア群
F∞
M (F∞ )
u
uu
uu
u
u
uu
X
H
X = X(F∞ ) := Gal(M (F∞ )/F∞ )
G
F cyc
Γ
には G が内部自己共役で作用し,この作用によって X は
Λ(G) := limU ◁G: 開 Zp [G/U ] 上の加群となるのであった.
F
←−
Q の C への埋め込み, および Qp の代数閉包 Qp への埋め込みを固定しておく.また,
H の 1 次元 p-進指標
×
H := Hom(H, Qp )
の各元 χ ∈ H に対して,Oχ := Zp [Im(χ)] とおく 3) .
想定しているモデルの代表例は,F = Q, F∞ = Q(µp∞ )+ である.
Leopoldt 予想を仮定していることから,1 次元という仮定は不要である.
3)
同型 G ≃ Γ × H を固定して Γ ⊂ G とみなし,χ は Γ 上で自明とみなすせば,χ はいわゆる第 1 種,ま
たはタイプ S とよばれる F 上の 1 次元 p-進 Artin 指標を考えることに相当する.
1)
2)
1
注 1.1. 最大不分岐アーベル p-拡大との対応について:非常に大雑把にいって,X(F∞ ) を
調べることは X(F∞ (µp ))+ を調べることに対応する (問題 2 参照).Kummer 理論より,
これはイデアル類群と深い関係のある F∞ (µp ) の最大不分岐アーベル p-拡大の Galois 群
Y (F∞ (µp )) のマイナスパートに対応している (定理 2.2 参照).
1.1
岩澤主予想とは
一般に「岩澤主予想」と呼ばれているものは,源流は同じであるがその生い立ちが全
く異なるこれら二種類の“ ゼータ関数 ”が本質的に同じものであることを主張する予
想なのです.
「代数学」,
「幾何学」,
「解析学」といった分野を超えた数学の統合は,須
く全ての数学者たちが夢見る究極の境地でありますが,その一旦とも言える「代数学
と解析学の間の架橋」がなんと整数論の専売特許である「p-進の世界」で実現される
筈だ,という話になれば,多くの整数論研究者がその魔性の魅力の虜になったことは
至極当然のことに思えます.
[原 08] より
図 1: p-進世界に架かった虹の架け橋
主予想は,有限体上の代数曲線論における,合同ゼータに関する Weil の定理の類似物と
みなせる.藤井氏の解説で取り上げられたように,岩澤先生は当初,円分体独自の理論を
探ろうとして,その類数の研究をなされていたようである [岩澤 96]. 同じ記事の中で,岩
澤加群とヤコビ多様体との類似を考えたきっかけは,λ, µ, ν-不変量を考えた後,µ = 0 の
場合にはイデアル類群の p-パートとヤコビ多様体の p べき分点の群の構造が似ていること
に気づいたからと述べている.
実際,K := F (µp ) とし,K cyc /K を考える.Kn を K cyc /K の第 n-層,そして Σ とし
て p 上の素点のなす集合を取れば,µ = 0 の仮定の下,K と Fq (p ∤ q) 上の種数 g をもつ
非特異射影曲線 C との間に下のような類似対応がある.この類似を追うと,岩澤主予想に
たどり着く:
2
関数体側
←→
代数体側
ヤコビアン JacFq (C)
←→
イデアル類群 Cl(K)
係数拡大 Fq /Fq
←→
円分的 Zp -拡大 K cyc /K
Gal(Fq /Fq ) ≃ Z
Gal(K cyc /K) ≃ Zp
⇓
JacFq
(C)[p∞ ]
≃ (Qp /Zp
)2g
⇓ 双対
HomZp (JacFq (C)[p∞ ], µp∞ )
←→ A∞ := limn (Cl(Kn )[p∞ ]) ≃ (Qp /Zp )λ
−→
⇓ 双対
HomZp (A−
∞ , µp∞ )
←→
≃
Kummer ペアリング
≃
Weil ペアリング
岩澤加群 X(K cyc )+
↷
γ
Tate 加群 Tp (JacFq (C))
↷
Frob
Weil の定理:
←→
“特性関数 = 合同ゼータ関数”
1.2
岩澤主予想:
“特性関数 = p-進 L-関数?”
解析サイド
総実体の p-進 L-関数を復習する.
κF : Gal(F (µp∞ )/F ) → Z×
p
を円分指標とする.すなわち σ ∈ Gal(F (µp∞ )/F ) に対し κF (σ) は,σ(ζ) = ζ κF (σ) (ζ ∈
µp∞ ) を満たす p-進整数で定義される.特に κ(γ) ∈ 1+pZ である.また ω : Gal(F (µp )/F ) →
µp−1 ⊂ Z×
uller 指標とする.
p を Teichm¨
n
χ ∈ H に対し,Λχ (Γ) := limn Oχ [Γ/Γp ] とおくと,Γ の固定した位相的生成元 γ と
←−
1 + T を対応させることにより,同型 Λχ (Γ) ≃ Oχ T が得られる.以下この同型により両
者を同一視する.χ : H → Oχ× を χ : Λ(G) → Λχ (Γ) = Oχ T に延長して,さらに
χ : Q(Λ(G)) → Q(Oχ T )
へ延長する.ただし,Q(R) でもって環 R の全商環を表す.
定理 1.2. (Deligne-Ribet [DRi80], Cassou-Nogues [CaN79], Barsky [Bar78]) 次を満たす
G 上の擬測度 ζF∞ /F ∈ Q(Λ(G))× がただ一つ存在する:
{
χ(ζF∞ /F ) = Wχ (T )
1H (ζF∞ /F ) = W1H (T )/T
(χ ̸= 1H のとき)
(χ = 1H のとき)
とおく (Wχ (T ), W1H (T ) ∈ Oχ T ).χ ̸= 1H のとき
Wχ (κF (γ)n − 1) = LΣ (χ, 1 − n),
3
また χ = 1H のとき
W1H (κF (γ)n − 1)
= ζΣ (F, 1 − n)
κF (γ)n − 1
が,[F (µp ) : F ] | n なる任意の自然数 n について成り立つ.ただし LΣ (χ, s), ζΣ (F, s) は
各々 χ に付随する L-関数,F のゼータ関数から Σ に含まれる素点に関するオイラー因子
を除いたものである.
p-進 L-関数 χ(ζF∞ /F ) とは,円分指標でひねった指標 χκn による擬測度 ζF∞ /F の evaluation が L-関数の特殊値で与えられており,その値を補間したものとみなすことができる.
注 1.3. p-進 L-関数に関する記号をまとめておこう.
{
1 (χ ̸= 1H のとき)
Hχ (T ) :=
T (χ = 1H のとき)
とおくと,χ(ζF∞ /F ) = Wχ (T )/Hχ (T ) である.このべき級数と三浦氏の解説で構成され
た p-進 L-関数との関係は
Lp,Σ (χ, 1 − s) =
Wχ (κF (γ)s − 1)
Hχ (κF (γ)s − 1)
で与えられる.ここで非原始的 p-進 L-関数 Lp,Σ (χ, s) は任意の自然数 n に対し
Lp,Σ (χ, 1 − n) = LΣ (χω −n , 1 − n)
をみたす関数である.また,三浦氏の解説における G(χ, T ) との対応は
Wχ (T )
= G(χ−1 ω, κF (γ)(1 + T )−1 − 1)
Hχ (T )
となっている 4) .χ と χ−1 ω は各々偶指標,奇指標であり,Oχ = Oχ−1 ω であることに注意.
問題 1. 定理 1.2 の W1H (T ) について,F = Q のとき W1H (T ) ∈ Zp T
確認せよ.
1.3
×
であることを
代数サイド
以下,p ∤ #H の場合に限定する.Oχ への H の作用を,χ を通じて作用させる.言い
換えると,自然な同型 Oχ ≃ Zp [H]/Ker(χ : Zp [H] → Oχ ) と可換な作用とする.さらに
Xχ := X ⊗Zp [H] Oχ
4)
これは事前打ち合わせのミスによる誤植で,正しくは
Wχ (T )
= G(χ, κF (γ)(1 + T )−1 − 1)
Hχ (T )
です.(2014 年 9 月 5 日訂正)
4
への H の作用を,h(x ⊗ a) = (hx) ⊗ a = x ⊗ (ha) (h ∈ H, x ∈ X, a ∈ Oχ ) と定める.
p ∤ #H より,Xχ ≃ eχ X であり,べき等元分解
∏
X≃
Xχ
χ∈H/∼
が成り立つ.ここで eχ はべき等元 eχ := (#H)−1
∑
h∈H
TrQp (Im(χ))/Qp (χ(h))h−1 ∈ Zp [H]
であり,また χ, χ′ ∈ H に対して χ ∼ χ′ を,ある σ ∈ Gal(Qp (Im(χ))/Qp ) が存在して
χ′ = σχ となるときと定める.
任意の有限生成捩れ Λχ (Γ)-加群 M に対して,Λχ (Γ)-加群の構造定理より完全系列
0 → (有限) → M →
r
⊕
Λχ (Γ)/(πχmi ) ⊕
i=1
s
⊕
n
Λχ (Γ)/(fj j ) → (有限) → 0
j=1
が得られる.ここで πχ は Oχ の素元であり,fj ∈ Λχ (Γ) は既約 distinguished 多項式に
対応する元である.s, t, mi , nj , fj は M によりただ一つに定まる.このとき,M の岩澤
µ-不変量 µχ (M ), 特性イデアル charΛχ (Γ) (M ) を各々
µχ (M ) :=
∑
mi ,
i
µ (M )
charΛχ (Γ) (M ) := πχχ
∏
n
fj j Oχ T
j
と定める.このようにして定まる charΛχ (Γ) (Xχ ) は,イデアル類群の深い情報をもつ p-進
的な “代数的ゼータ関数” とみなされる.
注 1.4. 任意の F と χ ∈ H に対し µχ (Xχ ) は常に 0 であろうと予想されている (岩澤
µ = 0 予想).
′ /F を,F /F とは別の 1 次元 p-進アーベル許容 Lie-拡大とする.χ ∈ H が
問題 2. F∞
∞
′ /F cyc ) 上の指標ともみなせるとき,
Gal(F∞
′
charΛχ (Γ) (X(F∞ )χ ) = charΛχ (Γ) (X(F∞
)χ )
が成り立つ.即ち,charΛχ (Γ) (X(F∞ )χ ) は χ のみに依り F∞ の取り方には依存しない.
([Gr83, Proposition 1], [尾崎 03, §2] 参照)
2
アーベル拡大での主予想とその応用
以上の準備の下,アーベル拡大 F∞ /F に関する岩澤主予想は次のように定式化される:
定理 2.1. (F = Q の場合:Mazur-Wiles [MaWil84],一般の場合:Wiles [Wi90]) χ ∈ H
を任意にとる.このとき µχ (Xχ ) = µ(Gχ ) であり,
charΛχ (Γ) (Xχ ) = Wχ (T )Oχ T
が成り立つ.
5
証明はここではとりあげないが,オイラー系を用いたものと保型形式を用いたものの 2
種類が知られている.証明の概略については [青木 03], [栗原 03] を参照.オイラー系を用
いた証明は [Aoki01], [Ru90] にある.
この節の残りの部分は演習とし,講演ではとりあげない.
主予想を不分岐岩澤加群で表現すると,次のようになる.
定理 2.2. (不分岐岩澤加群による岩澤主予想の定式化) K∞ := F∞ (µp ) 上の最大不分岐
アーベル p-拡大のガロア群を Y (K∞ ) とおく.このとき,
charΛχ (Γ) (Y (K∞ )χ−1 ω ) = Wχ (κF (γ)(1 + T )−1 − 1)Oχ T
が成り立つ 5) .
問題 3. 定理 2.2 を証明せよ.(藤井氏の講演,[尾崎 03] 参照)
F = Q, F∞ = Q(µp∞ )+ の場合を考える.このとき
F∞ /F は p の外で不分岐な 1 次元アーベル許容 Lie-拡大
になっている.さらに Leopoldt 予想と岩澤 µ = 0 予想は成
立している.H = Gal(F∞ /F cyc ) を Gal(Q(µp )+ /Q) と同
一視し,χ をこの上の非自明な Dirichlet 指標,ψ := χ−1 ω
とする.
Q(µp∞ )
F∞ =Q(µp∞ )+vvv
v
v•
Qcyc
定理 2.3. (Herbrand-Ribet の定理) 上記の ψ ,即ち mod
p の奇指標 ψ ̸= ω に対し,
#eψ A(Q(µp )) ∼p B1,ψ−1 .
Q
v
vvv
Q(µp )
u
uu
uu
u
uu
uu
ここで eψ は前節で定義したべき等元,Bn,ψ−1 は一般 Bernoulli 数,∼p は両辺の p-進付
値が一致することを意味する.
問題 4. 定理 2.3 を証明せよ.([尾崎 03, §8], [数論 II, §10.3] 参照)
問題 5. GΣ (F ) でもって F 上の Σ の外で不分岐な最大拡大の Galois 群を表すものとす
る.また χ を位数が p と素な F 上の 1 次元 Artin 指標,dχ := [Oχ : Zp ] とする.E/F
を拡大次数が p と素な,F Kerχ を含む総実な有限次アーベル拡大とするとき,
LΣ (χ, 1 − n)dχ ∼p
#H 1 (GΣ (E), Qp /Zp (n))χ−1
#H 0 (GΣ (E), Qp /Zp (n))χ−1
が n ≥ 2 なる任意の偶数について成り立つことを示せ 6) .ただし,左辺に現れるコホモロ
ジー群は有限であるという Soul´e の定理 ([NSW08, (8.7.6)(10.3.27)]) を認めることとする.
5)
ψ = χ−1 ω として三浦氏の記号 f (ψ −1 ω, T ) を使えば,注 1.3 より
charΛψ (Γ) (Y (K∞ )ψ ) = f (ψ −1 ω, T )Oψ T
である.これは [尾崎 03] の記号 f (T, ψ −1 ω) と同じものである.
6)
エタールコホモロジーで表せば,これは
LΣ (χ, 1 − n)dχ ∼p
#H´e2t (Spec(OE [1/p]), Zp (n))χ−1
#H´e1t (Spec(OE [1/p]), Zp (n))χ−1
である.
6
これより特に χ を自明な指標とすれば,(コホモロジー的)Lichtenbaum 予想
ζ(F, 1 − n) ∼p
∏ #H 1 (GΣ (F ), Qp /Zp (n))
p
#H 0 (GΣ (F ), Qp /Zp (n))
が導かれる.([Kol09] 参照)
[尾崎 03] では有理数体上の主予想やそれから導かれる諸結果について,より詳しく論じ
ている.
K-理論による岩澤主予想の再解釈
3
これまで通り p ∤ #H と仮定する.非可換岩澤理論における主予想は,古典的 K-理論を
用いて定式化される.ここではアーベル拡大における主予想が,非可換岩澤理論の立場か
らどのように解釈されるかを述べる.K-理論については齋藤氏の講演で詳しく述べられる
ので,ここではそれについては大雑把な記述にとどめる.
Λ は Λ(G) または Λχ (Γ) であるとする.有限生成捩れ Λ-加群の同型類を基底とする自
由 Z-加群 F (Mtor (Λ)) を考え,次のような同値関係を入れる.同型類 [M ], [M ′ ], [M ′′ ] の
間に完全系列 0 → M ′ → M → M ′′ → 0 が存在するとき,[M ] と [M ′ ] + [M ′′ ] は同値で
あると定める.この関係で割ったものを K0 (Mtor (Λ)) と記す 7) .即ち
(
)
[M ] − [M ′ ] − [M ′′ ] if
K0 (Mtor (Λ)) = F (Mtor (Λ))/
0 → M ′ → M → M ′′ → 0 : 完全
である.K0 (Mtor (Λ)) の元も同じ記号 [M ] で表示する.
問題 6. (1) K0 (Mtor (Λ)) において,f, g ∈ Λ とするとき [Λ/(f g)] = [Λ/(f )] + [Λ/(g)] が
成り立つことを証明せよ.
(2) M を有限な Λχ (Γ)-加群とすると,[M ] = 0 である.
連結準同型写像とよばれる写像
∂ : Q(Λ)× → K0 (Mtor (Λ))
が次のように定義できる:f ∈ Q(Λ)× ∩ Λ に対しては
∂(f ) := [Λ/(f )]
とし,一般の f /g ∈ Q(Λ)× に対しては
∂(f /g) := [Λ/(f )] − [Λ/(g)]
とする.問題 6(1) より ∂ は準同型であり,その核は Λ× である.Λ = Λχ (Γ) の場合,任意の
有限生成捩れ Λχ (Γ)-加群 M は,構造定理と問題 6(1)(2) より [M ] = [Λχ (Γ)/charΛχ (Γ) (M )]
と書けるから,∂ は全射 である.したがって完全系列
0 → Λχ (Γ)× → Q(Λχ (Γ))× → K0 (Mtor (Λχ (Γ))) → 0
∂
7)
正確には,通常 G0 (Mtor (Λ)) と書かれるものである.今の場合 G0 (Mtor (Λ)) と K0 (Mtor (Λ)) は一致
している.
7
が得られる.可換環 Λχ (Γ)× および Q(Λχ (Γ))× は,K-群の言葉で言い換えると各々
Λχ (Γ)× = K1 (Λχ (Γ)), Q(Λχ (Γ))× = K1 (Q(Λχ (Γ)))
となっており,さらに K0 (Mtor (Λχ (Γ))) については,相対 K-群 K0 (Λχ (Γ), Q(Λχ (Γ))) と
いうものと同型な群である (これらの定義は齋藤氏の講演参照.ここでは K-群というもの
になっているということを認識してもらえれば十分です).
この完全系列は K-理論における局所化完全系列とよばれるものであり,構造定理の K理論による再解釈を与えているといえる.非可換の場合には,この ∂ が全射という事実を
示すのには相当の困難が伴うことを注意しておく (森澤氏の解説参照).
さて,各 χ についてできるこのような完全系列を “貼り合わせる” ことで,主予想を
∏
Λ(G)-加群 X の表現に直す.Λ(G) ≃ χ Λχ (Γ) より,可換図式
∏
0
/ Q(Λ(G))×
/ Λ(G)×
0
≀ θ
×
Λχ (Γ)
/
χ∈H/∼
∏
/
/ K0 (Mtor (Λ(G)))
∂
≀ θS ∗
Q(Λχ (Γ))
χ∈H/∼
×
∏
∂
∏
/
/0
≀ θ0
K0 (Mtor (Λχ (Γ))
/0
χ∈H/∼
が得られる (この形の図式は今後しばしば現れる) 8) .ここで θ, θS ∗ は §1.3 でみた χ : Λ(G) →
Λχ (Γ) から自然に誘導されるものであり,それらから誘導される θ0 はべき等元分解から
誘導されるものと一致している.定理 1.2 で現れた ζF∞ /F ∈ Q(Λ(G))× の θS ∗ による像
(χ(ζF∞ /F ))χ を考える.主予想 (定理 2.1) が主張することは,各成分の ∂ による像が
{
χ(ζF∞ /F ) = Wχ (T ) → [Xχ ]
(χ ̸= 1H のとき)
1H (ζF∞ /F ) = W1H (T )/T → [X1H ] − [Zp ] (χ = 1H のとき)
であると言い換えることができる.図式の可換性から,主予想は次のように言い換えるこ
とができる.
定理 3.1. (アーベル拡大における岩澤主予想) 定理 1.2 で現れた ζF∞ /F ∈ Q(Λ(G))× につ
いて,
∂(ζF∞ /F ) = [X] − [Zp ]
が成り立つ.
参考文献
[青木 03] 岩澤主予想の Euler 系による証明, 2003 年度 (第 11 回) 整数論サマースクール『岩澤理論』報告集.
[岩澤 96] 数学編集部, 岩澤先生のお話を伺った 120 分, 数学 45 (1993) 366–372.
[尾崎 03] 岩澤主予想, 2003 年度 (第 11 回) 整数論サマースクール『岩澤理論』報告集.
[栗原 03] 岩澤主予想の保型形式系による証明, 2003 年度 (第 11 回) 整数論サマースクール『岩澤理論』報
告集.
8)
改めて p ∤ #H に注意しておく.そうでない場合,この可換図式は多少の修正が必要である
8
[数論 II] 黒川信重, 栗原将人, 斎藤毅, 数論 II –岩澤理論と保型形式, 岩波書店 (2005).
[原 08] 原 隆, 総実代数体の非可換岩澤理論の展開, 第 5 回城崎新人セミナー報告集 (2008)
[Aoki01] The main conjecture and Gauss sums, J. Number Theory 89 (2001) 151–164.
[Bar78] Barsky D., Fonctions zˆeta p-adiques d’une classe de rayon des corps de nombres totalement r´eels,
Groupe de travail d’analyse ultram´etrique (5e ann´ee: 1977/78), Secr´etariat Math., Paris, (1978)
1–23.
[CaN79] Cassou-Nogues P., Valeurs aux entiers n´egatifs des fonctions ˆzeta et fonctions ˆzeta p-adiques,
Invent. Math., 51 (1979) 29–59.
[DRi80] Deligne P. and Ribet K., Values of abelian L-functions at negative integers over totally real fields,
Invent. Math., 59 (1980) 227–286.
[Gr83] Greenberg R., On p-adic Artin L-functions, Nagoya Math. J. 89 (1983) 77–87.
[Kol09] Kolster M., Special values of L-functions at negative integers, in Arithmetic of L-functions
(Popescu C., Rubin K. and Silverberg A. eds.), IAS/Park City Math. Series, Vol.18, AMS (2011).
[MaWil84] Mazur B. and Wiles A., Class fields of abelian extensions of Q, Invent. Math., 76 (1984)
179–330.
[NSW08] Neukirch J., Schmidt A., Wingberg K., Cohomology of Number Fields, second edition
Grundlehren der Mathematischen Wissenschaften, 323, Springer-Verlag, Berlin, (2008).
[Ru90] Rubin K., The main conjecture, Appendix to Cyclotomic Fields I and II 2nd ed. (Lang S.),
Springer-Verlag, New York (1990).
[Wi90] Wiles A., The Iwasawa conjecture for totally real fields, Ann. of Math. Second Ser., 131 (1990)
493–540.
9