可換拡大の岩澤理論の代数的側面について

可換拡大の岩澤理論の代数的側面について ∗
藤井 俊 (金沢工業大学)
†
序
1
本講演では, 岩澤理論への導入として Zp 拡大の一般論を紹介するところから始める. ここ
で岩澤理論における基本的な対象, 概念, 不変量を導入し, 後の講演への足掛かりとする. 次い
で, 本サマースクール『非可換岩澤理論』における重要人物の一人である『分岐付岩澤加群』
について, どのように古典岩澤理論に現れるか, およびその重要性について解説する. レジュ
メにはたくさんのことを盛り込んでいるが, 全てをお話しできるわけではないことをあらかじ
めご了承いただきたい. レジュメでは準備をしていないが, 時間があれば岩澤不変量に関する
結果を紹介したい. また, レジュメの箇所によって解説に濃淡があるが, これは書いている時期
に大きなずれがあるためである. 分かりづらいレジュメになっていれば大変申し訳なく思う.
「岩澤健吉先生のお話を伺った 120 分」[1] の中で, 次のようなやり取りがある:
編: ヤコビ多様体との類似が (岩澤理論の) 出発点でないとすると pn 分体を全ての n につい
て考察するとよい云う事実にはどの様にして気付かれたのでしょうか.
岩澤: それはこういう事 (円分体論) をちょっとやってみれば, 誰でも自然に考えることだと思
います. (注: そうですか?) p 分体 K を取ってそのイデアル類群の p-part (A と書く) を考え
ます. K や A の研究には, 類体論とともにクンマー理論が大事です. その時, A の元の位数が
すべて p の約数なら問題ありませんが, A が位数 p2 の元を持つ可能性があります. その場合に
もクンマー理論を使おうとすれば, p2 分体に体を拡大する必要があります. 更に位数 p3 の元
がでてくる可能性もある, となって自然に p べき分体全てを考えることになります.
このやり取りを見ると, p 分体の Kummer の判定法と Herbrand の定理が思い出される. 自
然数 m について ζm ∈ Q を 1 の原始 m 乗根とする.
定理 1 (Kummer の判定法). hp を p 分体 Q(ζp ) の類数とし, Bn をベルヌーイ数とする. p
が hp を割るための必要十分条件は, p がある n, 2 ≤ n ≤ p − 3 について, Bn の分子を割るこ
とである.
Herbrand の定理を述べるために幾つか準備を行う. 奇素数 p について, ここでは上に合わ
せて A を Q(ζp ) のイデアル類群の p-part とする.
ω : (Z/pZ)× → Z×
p , a ≡ ω(a) mod p
∗
†
2014 年度整数論サマースクール『非可換岩澤理論』発表レジュメ
金沢工業大学 数理工教育研究センター
1
を法 p の Teichm¨
uller 指標とする. 同型
(Z/pZ)× ≃ Gal(Q(ζp )/Q), a mod p 7→ σa (σa (ζp ) = ζpa )
によって, ω を Gal(Q(ζp )/Q) の指標と考える. A は Zp [Gal(Q(ζp )/Q)] 加群であり, 直交べき
等元による直和分解
A=
p−2
⊕
A(i) , A(i) = {a ∈ A | σa = ω i (σ)a, σ ∈ Gal(Q(ζp )/Q)}
i=0
がある.
定理 2 (Herbrand の定理). 奇数 3 ≤ i ≤ p − 2 について, A(i) ̸= 0 ならば p | Bp−i .
なぜこの二つの結果が思い出されるかを説明しよう. h−
p を Q(ζp ) の相対類数とし, B1,χ を
Dirichlet 指標 χ の一般 Bernoulli 数とする. Kummer の判定法の証明は, 次の 3 段階からなる:
• p | hp ⇐⇒ p | h−
p
•
h−
p
p−2
∏
= 2p
i=1,i:odd
p−1
∑
B1,ωp−2 =
1
p
a=1
1
− B1,ωi ≡ (p − 1)
2
ω p−2 (a)a ≡
p−1
1∑
p
a=1
p−4
∏
i=1,i:odd
1=
1
− B1,ωi mod p,
2
p−1
mod p
p
• i が奇数で i ̸≡ −1 mod p − 1 ならば, B1,ωi ≡
Bi+1
mod p
i+1
最初の同値性を示す方法は少なくとも (筆者の知る限り) 2 つあり, 円単数, p 進 L 関数を用い
る解析的な方法 (cf. [10] の 157 (非正則素数!) ページ, Corollary 8.17) と, Kummer 理論を
用いる方法 (cf. 同じく [10] の 189 ページ, Theorem 10.9) がある. 二つ目の等式, 三つめの
合同式は, 解析的類数公式と円分相互法則, Dirichlet L 関数の特殊値の計算, および Bernoulli
数たちの合同式から導かれる. また, Herbrand の定理は, Stickelberger の定理を指標ごとに見
て, 再び上記の三つ目の合同式を用いることにより示される. ここで, Bernoulli 数の番号 p − i
に注目する.
p − i = p − 1 + 1 − i ≡ 1 − i mod p − 1
であり, 1 − i は A(i) の Kummer 双対
Hom(A(i) , ⟨ζp ⟩) = Hom(A, ⟨ζp ⟩)(1−i)
の番号と一致する (なぜこれを Kummer 双対というかは後述). A の指標分解の成分と,
Bernoulli 数の番号とが対応している, と考えることができれば, Kummer 理論を通じて
より詳しい理論の存在を示唆しているように見える. おそらくこれらの結果が理論の構想の一
部としてあり, 岩澤理論を創られていったのではないかと思われる. 実際, 岩澤理論の初期の
論文からもこのような雰囲気が感じられる. Mazur と Wiles により岩澤主予想が証明され, A
と Bernoulli 数との関係がこの上なく明らかとなったのであった.
さて, 岩澤先生の言葉を振り返ってみよう. A を調べる際に Kummer 理論を用いようとす
ると, 位数 p2 の元がある場合, p2 分体 Q(ζp2 ) に拡大する必要がある. Q(ζp2 ) に拡大をすると
さらに位数が大きな元がある可能性があり, 結局いたちごっことなってしまう. それならば,
2
と, 1 の p べき乗根の不足が無いように最初からすべて添加をして考える, というのが岩澤理
論の基本姿勢である. 各 n ∈ Z≥0 についてを包含関係で並べてゆくと, p べき分体の塔
Q(ζp ) ⊆ Q(ζp2 ) ⊆ Q(ζp3 ) ⊆ · · · ⊆ Q(ζpn+1 ) ⊆ · · ·
が得られ,
Gal(Q(ζpn+1 )/Q(ζp )) ≃ ⟨1 + p + pn+1 Z⟩(⊆ (Z/pn Z)× ) ≃ Z/pn Z
となっている. したがって,
Q(ζp )cyc = Q(ζp∞ ) =
∪
Q(ζpn+1 )
n≥0
とすれば
Gal(Q(ζp )cyc /Q(ζp )) ≃ lim Gal(Q(ζpn+1 )/Q(ζp )) ≃ lim Z/pn Z ≃ Zp
←−
←−
となる. すぐ後に定義を述べるが, Zp 拡大とはガロワ群が位相群として p 進整数環 Zp の加法
群と同型となる代数拡大のことである. 上記の Q(ζp )cyc /Q(ζp ) は Zp 拡大の典型例である.
本稿の構成は,
• 2 章: Zp 拡大の一般論
• 3 章: 円分 Zp 拡大上の Kummer 理論, イデアル類群と分岐付岩澤加群
となっている. 2 章は Washington の本 [10] の 13 章の内容の解説である. 3 章は, 岩澤先生
の論文 [7] の前半部分の (簡易な) 解説である. 論文 [7] では, Kummer 理論のすべての部分を
扱っているが, 本稿ではプラス部分に限定をして話を進める.
Zp 拡大の一般論
2
本章では Zp 拡大の不変量や結果を紹介する. 具体的には, Λ 加群の構造定理, 岩澤加群 Y
およびその特殊多項式, 岩澤類数公式および岩澤不変量, 岩澤不変量に関する結果および予想,
など. ここで述べられる不変量たちは, 後の講演でも現れる. また, 岩澤加群の特性イデアルの
変遷には, 特に注意を払っていただきたく思う. 非可換岩澤理論において, 特性イデアルをど
う扱うかということは大きな問題であった. 本サマースクールで, その一つの解答が示される
であろう. 本講演では古典的に Λ 加群の不変量として定義をするが, 後の講演で扱われる定義
との繋がりを強く意識されると, より内容がわかりやすくなると思われる.
それでは本論に入ろう. 第 2 章を通じて, k/Q を有限次拡大, p を素数とする.
2.1
Zp 拡大, 円分 Zp 拡大
定義 1 (Zp 拡大). K/k 1 が Zp 拡大であるとは, K/k がガロワ拡大であって, 位相群として
Gal(K/k) ≃ Zp となることをいう.
通常 Zp 拡大に対してこのような記号が用いられることは無いが, 後に用いられる記号との重複を避けるため,
本稿ではカリグラフィックを用いる. 本講演の後半や, 後の講演では円分 Zp 拡大を主に用いるため, あまり気にし
ないでもらいたい. 予習問題集の中で, 違う体で K が用いられていますが, Zp 拡大とは関係ありません.
1
3
Zp の閉加法部分群は 0, pn Zp (n ∈ Z≥0 ) なので, K/k が Zp 拡大であることと, 体の列
∪
k = k0 ⊆ k1 ⊆ k2 ⊆ · · · ⊆ kn ⊆ · · · ⊆ K =
kn
n≥0
で, Gal(kn /k) ≃ Z/pn Z となるものがあることと同値である. この kn を Zp 拡大 K/k の n-th
layer (第 n 層) という.
例 1 (円分 Zp 拡大, cyclotomic Zp -extension). 先に登場した Q に 1 の p べき乗根を全て添
加した代数拡大
∪
Q(ζpn )
Q(ζp )cyc = Q(ζp∞ ) =
n≥0
について,
Gal(Q(ζp )cyc /Q) ≃ lim Gal(Q(ζpn )/Q)
←−
≃ lim(Z/pn Z)×
←−
≃ Z×
p
= ⟨ζφ(2p) ⟩ × (1 + 2p)Zp
≃ Z/φ(2p)Z × Zp
となっている (φ は Euler 函数 ). (1 + 2p)Zp に対応する部分体は, p が奇素数のとき Q(ζp ),
√
p = 2 のとき Q(ζ4 ) = Q( −1) なので, p が奇素数のとき,
Gal(Q(ζp )cyc /Q(ζp )) ≃ Zp ,
p = 2 のとき
Gal(Q(ζ4 )cyc /Q(ζ4 )) ≃ Z2
となり, いずれも Zp 拡大である. それぞれ n-th layer は
{
Q(ζp )n = Q(ζpn+1 ) (p > 2),
Q(ζ4 )n = Q(ζ2n+2 ) (p = 2)
である.
cyc とすると,
また, Z/φ(2p)Z と同型な Z×
p の最大有限部分群の固定体を Q
Gal(Qcyc /Q) ≃ Zp ,
すなわち Zp 拡大である.
さらに, 有限次拡大 k/Q に対して,
k cyc = kQcyc
と定めると, Gal(k cyc /k) は Gal(Qcyc /Q) の有限指数閉部分群と同型, すなわち Zp と同型とな
る. よって Gal(k cyc /k) も Zp 拡大である. このように構成した Zp 拡大 k cyc /k を, k の円分 Zp
拡大 2 という. 任意の代数体 k には少なくとも一つ Zp 拡大があることが分かった.
注意 1. k が総実でなければ, k cyc 以外の Zp 拡大が存在する. たとえば, 虚二次体には
k が存在する. しかし, Zp 拡大に馴染んでいない方は, これからの内容
Gal(e
k/k) ≃ Z2p となる e
を円分 Zp 拡大と思って読んでいただければと思う.
2
Qcyc /Q の場合は, 基本 Zp 拡大 (basic Zp -extension) というのが正しいと聞いた.
4
2.2
Zp 拡大の分岐
命題 1. (1) Zp 拡大では, p 上の素点を除いて不分岐.
(2) Zp 拡大では, 少なくとも一つ p 上の素点が分岐する.
(3) ある n0 ≥ が存在し, K/kn0 で分岐素点は完全分岐する.
(4) 円分 Zp 拡大では, 全ての p 上の素点が分岐する.
証明は演習としよう. 命題 1 (3) から, 十分大きな layer から先は完全分岐となる. それに伴
い, 話しを簡単にするため本章では次の仮定を設ける:
仮定. K/k で分岐素点は完全分岐.
この仮定がなくても, 本章の内容にはほぼ影響はない.
2.3
岩澤類数公式
K/k を代数体 k の Zp 拡大とする. 非負整数 n に対して, kn を n-th layer とし (k0 = k), An
を kn のイデアル類群の p-Sylow 部分群とする. Zp 拡大における最初の大きな結果である, 岩
澤類数公式を紹介しよう.
定理 3 (岩澤類数公式 [5]). Zp 拡大 K/k のみに依存する非負整数 λ, µ と整数 ν が存在し,
十分大きな全ての n に対して
n
#An = pλn+µp +ν
が成り立つ.
一般に類数を表示することは難しいが, Zp 拡大では, p 部分のみではあるが, 簡明な表示式
があることが初めて知られることになった. 有限次拡大のみを見ていても岩澤類数公式を見出
すことはほぼ不可能であろうから, 無限次拡大である Zp 拡大を用いることの, 強力さをよく表
している結果と言える. 岩澤類数公式に表れた λ, µ, ν は Zp 拡大 K/k の不変量であり, それぞ
れ岩澤 λ, µ, ν 不変量という. λ, µ は An のガロワ加群構造の不変量であり, 特に重要である.
岩澤類数公式の証明の方針を簡単に述べよう. まず, An を類体論により不分岐アーベル拡
大のガロワ群に置き換え, ガロワ群の方で議論を進めてゆく. 次いで An の射影極限として岩
澤加群 Y を導入する. ガロワ群での計算を見ることにより, Gal(K/k) の Y への作用から, An
が Y から復元できることを見る. さらに, Gal(K/k) の作用に関する構造定理があり, その構
造定理を用いて岩澤類数公式は証明される.
以下の小節たちの中で, 証明の概略を述べる.
2.4
イデアル類群と不分岐アーベル ガロワ群
An には Zp [Gal(kn /k)] が作用し, 岩澤類数公式の証明では, 全ての n について, An の加群
としての構造を知ることが重要である. これを類体論を用いて調べる.
各 n ∈ Z≥0 に対して, Ln /kn を最大不分岐アーベル p 拡大とし, Yn = Gal(Ln /kn ) をそのガ
ロワ群とする.
□
補題 1. Ln /k はガロワ拡大.
5
Γn = Gal(kn /k) とする. 補題 1 より, ガロワ群の完全系列
1 −→ Yn −→ Gal(Ln /k) −→ Γn −→ 1
があり, Yn は Gal(Ln /k) のアーベル正規部分群なので, Γn が共役によって Yn に作用する:
g(y) = g˜y˜
g −1
ただし, g ∈ Γn , y ∈ Yn とし, g˜ ∈ Gal(Ln /k) は g の延長.
命題 2. Artin 写像は Gal(kn /k) 加群の同型
(
)
Ln /kn
: An ≃ Yn
を誘導する.
証明は演習問題としよう.
L=
∪
n≥0 Ln
とせよ.
定義 2. L/K のガロワ群を Y = Gal(L/K) を, Zp 拡大 K/k の不分岐岩澤加群という
L/K は最大不分岐アーベル pro-p 拡大となることが確かめられる (演習). K/k で分岐素点
は完全分岐と仮定していたことから, Y はノルム写像に関する An の射影極限と同型である:
Y =
lim
←−
Gal(Ln K/K) ≃
n, restriction
lim
←−
n, restriction
Yn ≃ lim An .
←−
n, norm
Γ = Gal(K/k) とせよ. このとき共役によって Γ は Y に作用する. また, 各 An は Zp [Gal(km /k)]
加群なので, Y は Zp 係数の Γ の完備群環
n
Λ = Λ(Γ)3 = Zp [[Γ]] = lim Zp [Γ/Γp ] =
←−
n
lim
←−
Zp [Gal(kn /k)]
n, restriction
上の加群となる. 岩澤類数公式は, Y の Λ 加群構造を調べることによって証明されるのである.
さて, まずは Λ の方から始めよう. Λ の定義だけを見るとよくわからないが, 次の Serre の
同型によりわかりやすいべき級数環であることがわかる.
定理 4 (Serre の同型). γ ∈ Γ を位相的生成元, すなわち Γ = ⟨γ⟩ とする. また, 非負整数 n
n
に対して, 多項式 Pn = (1 + T )p − 1 を定める. このとき, 次の同型が成り立つ :
n
Γ ,→ Λ = limn Zp [Γ/Γp ] ≃ limn Zp [T ]/(Pn ) ≃ limn Zp [[T ]]/(Pn ) ≃ Zp [[T ]]
←−
←−
←−
n
γ →
(γ mod Γp )n
↔ (1 + T mod Pn )n ↔ (1 + T mod Pn )n ↔ 1 + T
よって, Λ は Zp 係数の 1 変数形式的べき級数環 Zp [[T ]] と位相環として同型である.
Serre の同型は位相的生成元 γ を決めるごとに定まるもので, 標準的なものではないことに
注意しよう. 以降 Λ と Zp [[T ]] を同一視して扱う.
3
後の講演では, 複数の群を扱うことから, 群を明記したこちらの形式で書かれる.
6
2.5
Λ の環論的性質
Zp 係数の形式的べき級数環


n Λ = Zp [[T ]] =
an T an ∈ Zp


n≥0

∑
の諸性質を紹介する. この小節の内容は, Zp を Qp の有限次拡大の整数環に置き換えても成立
するものばかりである ([10] の Chapter 7 を参照).
命題 3. Λ は m = (p, T ) を極大イデアルとする Noether 完備 Hausdorff 局所環.
命題 3 から,
• Λ× = Λ \ (p, T ) = {f (T ) ∈ Λ | f (0) ̸≡ 0 mod p}
• Λ ≃ lim Λ/mn
←−
• Λ/m ≃ Z/pZ, f (T ) + m 7→ f (0) mod p
などがしたがう.
定義 3 (特殊多項式, distinguished polynomial 4 ). f (T ) ∈ Zp [T ] とする. f (T ) が特殊多項
式であるとは, f (T ) がモニックであって, f (T ) ≡ T deg f (T ) mod p を満たすことをいう.
簡単な例では, T + p は特殊多項式である. 岩澤理論でよく現れる特殊多項式の例を紹介し
よう.
n
n
n
例 2. (1) Pn = (1 + T )p − 1 ≡ 1 + T p − 1 = T p mod p.
n
(1 + T )p − 1
Pn
n
(2) νn =
=
≡ T p −1 mod p.
T
T
命題 4 (p 進 Weierstrass の準備定理). 0 ̸= f (T ) ∈ Λ に対して, 非負整数 µ(f ), 特殊多項式
g(T ) と U (T ) ∈ Λ× が存在し,
f (T ) = pµ(f ) g(T )U (T )
が成り立つ.
定義 4. λ(f ) = deg g(T ), µ(f ) をそれぞれべき級数 f (T ) の λ, µ 不変量という.
次は命題 4 の系である. 表面上この講演では出てこないが, 重要である.
命題 5. Λ は p と既約な特殊多項式を素元とする一意分解整域である.
次の命題は, Serre の同型を含め, 上記の命題を証明してゆく際に用いられる. 順番が前後し
てしまっているが, ここで紹介をする.
∑
命題 6 (割り算原理). f (T ) =
an T n ∈ Λ を, ある n に対して p ∤ an となるべき級数とし,
また n をそのような番号の中で最小のものとする. このとき, Zp 加群としての直和分解
Λ = Λf ⊕
n−1
⊕
Zp T i
i=0
が成り立つ.
割り算原理により, 特殊多項式 f (T ) の λ(f ) は, Λ/(f (T )) の Zp -rank と一致する.
4
予習稿にあるように, 定着した邦訳は無いようである.
7
2.6
有限生成 Λ 加群
本小節では, Λ 加群の基本的かつ重要な性質をまとめる. 2003 年度サマースクール報告集 [2]
の伊藤剛司氏の稿にわかりやすく証明が書かれているので, 参考にしていただければと思う.
命題 7 (位相的中山の補題). M を pro-finite Λ 加群とする. このとき,
M=
∑
Λmi ⇐⇒ M/mM =
i∈I
∑
Fp (mi + mM ).
i∈I
が成り立つ. 特に, M が有限生成 Λ 加群であるための必要十分条件は, #M/mM < ∞ である.
定義 5 (擬同型, pseudo–isomorphic). M1 , M2 を有限生成 Λ 加群とする. M1 と M2 が擬同
型, pseudo–isomorphic であるとは, Λ 準同型
φ : M1 → M2
で, Kerφ と Cokerφ がともに有限となる φ が存在することをいう. M1 と M2 が擬同型のとき,
M1 ∼ M2 と表す.
擬同型は有限生成 Λ 加群の中で, 同値関係とはならない. たとえば, m ∼ Λ であるが, Λ ̸∼ m
である. しかし, 有限生成, torsion Λ 加群の中では同値関係となっている.
定理 5 (有限生成 Λ 加群の構造定理). M を有限生成 Λ 加群とする.
(1) 次の擬同型
s
t
⊕
⊕
⊕r
mi
M ∼Λ ⊕
Λ/(p ) ⊕
Λ/(fj (T )nj )
i=1
j=1
が成立するような, 非負整数 r, s, t, mi , nj と, 既約な特殊多項式 fj (T ) が一意に定まる.
(2) M が torsion であるための必要十分条件は, r = 0 となることである.
Λ は PID でないため, 有限のずれが生じる.
定義 6 (Torsion Λ 加群の λ, µ 不変量, 特性イデアル). M を有限生成 torsion Λ 加群とす
ると, 構造定理より
s
t
⊕
⊕
M∼
Λ/(pmi ) ⊕
Λ/(fj (T )nj )
i=1
j=1
となる.
∑
∑
(1) λ(M ) = j nj deg fj (T ), µ(M ) = i mi をそれぞれ M の λ 不変量, µ 不変量という.
(2) 右辺の分母のすべての積で生成される単項イデアル
charΛ (M ) = p
∑s
i
mi
t
∏
fj (T )nj Λ
j=1
を M の特性イデアルという.
charΛ (M ) は M の位数に相当する不変量である.
注意 2. F (T ) を charΛ (M ) の生成元とすると, λ(M ) = λ(F (T )), µ(M ) = µ(F (T )) である.
8
2.7
岩澤類数公式の証明の概略
本小節で, 岩澤類数公式の証明の概略を与える. まずは, Γ = Gal(K/k) の作用を用いて, An
を岩澤加群 Y で表現する. γ を Γ の位相的生成元とし, Serre の同型を γ ↔ 1 + T で定める.
命題 8. (1) 任意の n ≥ 0 に対して, projection
Y −→ An
は全射.
(2) Zn = Ker(Y → An ) とすると,
n
Zn = νn Z0 =
n
(1 + T )p − 1
γp − 1
Z0 =
Z0
T
γ−1
が成り立つ.
Zn を詳しく記述することにより, 命題 8 を示すことができるが, やや複雑なので一般の場
合はばっさり略し, もっとも単純な分岐素点がただ一つの場合を紹介しよう. 一般の場合の詳
しい証明は [10] の Chapter 13, もしくは [2] の拙稿をご覧いただきたい.
命題 9. K/k でただ一つの素点が完全分岐するとせよ. このとき
n
n
Zn = Pn Y = ((1 + T )p − 1)Y = (γ p − 1)Y
が成り立つ. 特に, Z0 = T Y = (γ − 1)Y から,
Zn = νn Z0
が成り立つ.
例えば, Q(ζp )cyc /Q(ζp ) は命題 9 の条件を満たしている. ともかく, 命題 8, 9 の形で Zn た
ちが関係していることが重要なのである.
興味ある人もいるであろうから, 命題 9 の証明の概略を述べる. まず, ガロワ群の完全系列
1 −→ Y −→ Gal(L/kn ) −→ Gal(K/kn ) −→ 1
n
があり, Gal(K/kn ) は γ p で生成される pro-cyclic 群であるから, Gal(L/kn ) の位相的交換子
n
群は Pn Y = (γ p − 1)Y と一致する (演習問題). Lab/kn を Pn Y の固定体とすると, Lab/kn
は L 内の kn 上の最大アーベル拡大である. Ln /kn は最大不分岐アーベル拡大だったので,
I ⊆ Gal(Lab/k /kn ) を唯一つの分岐素点の惰性群とすると, Gal(Lab/kn /Ln ) = I となってい
る. ここで, Lab/kn /K は不分岐であることから,
Gal(Lab/kn /Ln K) = Gal(Lab/kn /K) ∩ Gal(Lab/k /Ln ) = Gal(Lab/kn /K) ∩ I = 1,
したがって Lab/kn = Ln K である. 以上より,
An ≃ Yn = Gal(Ln /kn ) ≃ Gal(Ln K/K) ≃ Y /Pn Y
が成り立つ.
9
注意 3. 一般の場合の証明は, そう感じるのは筆者だけかもしれないが, K/k で種の理論を
展開しているような気持ちである.
さて, 不分岐岩澤加群 Y の一般的構造について, 次の定理が成り立つ.
定理 6. Y は有限生成, torsion Λ 加群.
Proof. 命題 8 より, A1 ≃ Y /Z1 = Y /ν1 Z0 は有限である. Z0 /ν1 Z0 ⊆ Y /ν1 Z0 より, Z0 /ν1 Z0
n
も有限. ν1 ≡ T p −1 mod p より, ν1 ∈ m = (p, T ), したがって全射 Z0 /ν1 Z0 ↠ Z0 /mZ0 から,
Z0 /mZ0 が有限であることがしたがう. 位相的中山の補題 (命題 7) より, Z0 は有限生成 Λ 加
群である.
有限生成 Λ 加群の構造定理より,
Z0 ∼ Λ⊕r ⊕
s
⊕
Λ/(pmi ) ⊕
i=1
t
⊕
Λ/(fj (T )nj )
j=1
を得る. 両辺を ν1 で割ると, 核と余核が有限の準同型写像
Z0 /ν1 Z0 ∼ (Λ/(ν1 ))⊕r ⊕
s
⊕
Λ/(ν1 , pmi ) ⊕
i=1
t
⊕
Λ/(ν1 , fj (T )nj )
j=1
を得る. ここで,
Λ/(ν1 ) ≃ Zp [T ]/(ν1 ) ≃ Zp⊕p−1
より r = 0, したがって Z0 は torsion であることがしたがう.
最後に, Y /Z0 ≃ A0 は有限なので, Y も有限生成, torsion Λ 加群である.
Y が torsion であることは, 類数の有限性から来るのである. 定理 7 の証明において ν1 で
割って議論をしたが, これはなかなか有用なので, 補題として挙げておこう.
補題 2. M を pro-finite Λ 加群とし, g(T ) ∈ m = (p, T ) とする. もし, M/g(T )M が有限な
らば, M は有限生成 torsion Λ 加群である.
さて, 岩澤類数公式の証明を完成させよう.
#An = [Y : Zn ] = [Y : Z0 ][Z0 : νn Z0 ]
より, [Z0 : νn Z0 ] を計算する. ここで一つ補題を用意する.
補題 3. f (T ), g(T ) ∈ m = (p, T ) とする. このとき, Λ/(f (T ), g(T )) が有限であるための必
要十分条件は, f (T ) と g(T ) が互いに素となることである.
この補題から, 任意の n について νn と charΛ (Z0 ) の生成元は互いに素であることがわかる.
定理 7 より, 擬同型
Z0 ∼ E =
s
⊕
Λ/(pmi ) ⊕
i=1
t
⊕
Λ/(fj (T )nj )
j=1
が存在する. 左辺と右辺のずれは有限なので, 擬同型の核の位数を pC0 (C0 ∈ Z≥0 ) とし, 少し
(結構?) 考えると,
[Z0 : νn Z0 ] = pC0 [E : νn E]
が成り立つことがわかる. よって, E の方で岩澤類数公式に相当することを示せばよいので
ある.
10
命題 10. m を正の整数, f (T ) を特殊多項式とする. 十分大きなすべての n に対して, 以下
が成立.
n
(1) ある整数 C1 が存在し, #Λ/(νn , pm ) = pmp +C1 .
(2) ある整数 C2 が存在し, #Λ/(νn , f (T )) = pn deg f (T )+C2 .
∑
∑
以上まとめると, #A0 = pC3 , λ = j nj deg fj (T ), µ = i mi , ν = C0 + C1 + C2 + C3 と
すると, 十分大きなすべての n に対して,
n +ν
#An = pλn+µp
□
が成り立つ.
岩澤 λ, µ 不変量の加群としての意味を見ておこう.
命題 11. TorZp (Y ) を Y の最大 Zp -torsion 部分加群とする.
⊕
(1) TorZp (Y ) ∼ si=1 Λ/(pmi ).
(2) Y /TorZp (Y ) ≃ Z⊕λ
p .
(3) 以下は同値.
(i) µ = 0.
(ii) Y は Zp -rank λ の有限生成 Zp 加群.
(iii) dimFp An ⊗ Fp は有界.
命題 11 より, λ 不変量はイデアル類群の元の位数の増加を示すものであり, µ 不変量は
dimFp An ⊗ Fp の増加を示すものである.
2.8
岩澤 µ 予想
岩澤先生による次の予想を紹介する.
予想 1 (岩澤 µ 予想). K = k cyc ならば, µ = 0 であろう.
論説 [6] において岩澤先生は, k cyc /k の Y の dual と, 有限体上定義された代数曲線の, Jacobi
多様体の p-torsion 部分 Jp との類似について述べておられる. λ 不変量は種数の類似と考えら
れ, Riemann–Hurwitz の公式の類似である木田の公式が知られている [9]. Jp の dual が Zp 上
有限生成なので, 類似性により µ = 0 となることが予想される. 岩澤 µ 予想は k/Q がアーベル
のときに証明されている:
定理 7 (Ferrero–Washington [3]). k/Q がアーベル拡大ならば, k cyc /k の µ 不変量は 0.
円分 Zp 拡大以外では, p > 3 が p = PP′ と分解する虚二次体 k には P 分岐 Zp 拡大があり,
Gillard [4] は k の有限次アーベル拡大に対して µ = 0 を示している. 円分 Zp 拡大は定義より
円の p べき等分点から構成され, P 分岐 Zp 拡大は CM 楕円曲線の P べき等分点から構成さ
れる. 証明には p 進 L 函数を用いる.
また, µ > 0 となる Zp 拡大も知られている. k を CM 体とし, k + を k の最大総実部分体と
する. p が奇素数のとき, k + 上非可換ガロワ拡大となる Zp 拡大 k ant /k が存在する. k ant /k は
反円分 Zp 拡大 (anti-cyclotomic Zp -extension) と呼ばれる. 岩澤先生は [8] において, い
くらでも大きな µ 不変量を持つ Zp 拡大が存在することを示している.
11
円分 Zp 拡大上の Kummer 理論, 分岐付岩澤加群
3
以降, F を総実体とし, p を奇素数とする. また, k = F (ζp ) とする. このとき,
k cyc = k(ζp∞ ) = F (ζp∞ )
であり,
kn = k(ζpn+1 ) = F (ζpn+1 )
であり. また,
Γ = Gal(k cyc /F ), ∆ = Gal(k/F )
とすると, ガロワ群の分解
Gal(k cyc /F ) ≃ Γ × ∆
がある.
k + を k の最大総実部分体とし, Gal(k/k + ) の生成元である複素共役を J と表す. J ∈ ∆ で
ある. 後に F = Q とし, Teichm¨
uller 指標による分解についてより詳しい結論を述べる.
3.1
p 進円分指標, Tate 加群
定義 7 (p 進円分指標). 準同型写像
Gal(F (ζpn )/F ) −→ (Z/pn Z)×
の射影極限として得られる連続準同型写像 (k cyc = F (ζp∞ ))
κ(σ)
κ : Gal(k cyc /F ) −→ Z×
p , σ(ζ) = ζ
を, p 進円分指標という.
1 の p べき根のなす群の p 乗写像に関する射影極限
Zp (1) = lim⟨ζpn ⟩
←−
n
を Tate 加群という. Zp 加群として Zp (1) ≃ Zp であり, Gal(F /F ) は Zp (1) へ, κ を経由して
作用する.
3.2
複素共役による加群の分解
Zp [⟨J⟩] 加群 A に対して,
と定める. ε± =
A± = {a ∈ A | Ja = ±a}
1±J
∈ Zp [⟨J⟩] とすると. A± = ε± A となり, A の直和分解
2
A = A+ ⊕ A−
が得られる. A+ , A− をそれぞれ A のプラス部分, マイナス部分という.
12
3.3
Kummer 理論
n ∈ Z≥1 とする. いったんここだけ, k は ζn を含む標数 0 の体とする. 完全系列
×
n
×
0 −→ ⟨ζn ⟩ −→ k −→ k −→ 0
のガロワコホモロジーをとると,
×
η
k × −→ k × −→ H 1 (k, ⟨ζn ⟩) −→ H 1 (k, k )
n
×
を得る. Hilbert の定理 90 より H 1 (k, k ) = 0 であり, 連結準同型 η は
(
√ )
σ( n α)
η(α) = σ 7→ √
n
α
と表される. Gk を k の絶対ガロワ群とし, Gab
k を Gk の最大アーベル商とする. ζn ∈ k なので,
H 1 (k, ⟨ζn ⟩) = Hom(Gk , ⟨ζn ⟩) = Hom(Gab
k /n, ⟨ζn ⟩)
となり, Gab
k /n は k の全ての n 次巡回拡大の合成体のガロワ群である. このことから, 非退化
な pairing
√
σ( n α)
×
ab
√
k /n × Gk /n −→ ⟨ζn ⟩, (α, σ) 7→ n
α
を得る. ガロワ群の様子を, 体の比較的分かりやすい群によって知ることができる.
3.4
k cyc 上の Kummer 理論
さて, Kummer 理論は ζn が体に含まれていれば, n 次巡回拡大およびその合成体である指数
n のアーベル拡大は, 乗法群の n 乗数による剰余群で理解できるというものであった. k cyc は 1
の p べき乗根を全て含んでいるので, k cyc のアーベル pro-p 拡大は全て Kummer 理論の範疇
にある. ここで扱うアーベル拡大は, p 上の素点以外不分岐な最大アーベル pro-p 拡大 M/k cyc
である. X = Gal(M/k cyc ) とする. X を p 分岐岩澤加群という. X と Kummer 理論で対応す
る群を調べよう. (k cyc )× /n ≃ (k cyc )× ⊗ n1 Z/Z と見ておく.
α ⊗ p1n
↓
α ⊗ p1n
∈ (k cyc )× ⊗
↓
cyc
×
∈ (k ) ⊗
1
pn Z/Z
1
Z/Z
pn+1
であり, lim p1n Z/Z ≃ Qp /Zp であるから, M を X に対応する群とすると,
−→
M ⊆ (k cyc )× ⊗ Qp /Zp
である.
α ⊗ p1n ∈ M とせよ. m ∈ Z≥1 を,
• α ∈ km ,
• ζpn ∈ km ,
• k cyc /km で p 上の素点は全て完全分岐
√
となるようにとる (なんでもよい). このとき, km ( n α)/km は p 上の素点以外不分岐なアーベ
13
ル拡大である. このとき, p と素なイデアル Im,p′ と p 上の素イデアルの積 Im,p が存在し, km
で
pn
(α) = Im,p
′ Im,p
と表せる (演習問題). k cyc /km で p 上の素点は全て完全分岐するので, km+n 内で
n
n
n
p
p
p
(α) = Im,p
′ Im+n,p = (Im,p′ Im+n,p )
と表せる. ここで,
A∞ = lim An
−→
n
をイデアルの持ち上げ写像に関する帰納的極限とすると, 準同型写像
M −→ A∞ , α ⊗
1
7→ [Im,p′ Im+n,p ]
pn
が定義される. ここで, [ ] はイデアル類を表す (well–dedined であることは演習).
命題 12. 上で定義した準同型写像は全射であり, 核は Ekcyc ⊗ Qp /Zp , ただし, Ekcyc は k cyc
は k cyc の単数群. よって
0 −→ Ekcyc ⊗ Qp /Zp −→ M −→ A∞ −→ 0
は完全系列である.
全射性はほぼ自明であるが, 核が Ekcyc ⊗ Qp /Zp であるというのは, 形式的計算の意味でちょ
い面倒.
命題 12 はいかにも重要なことを述べているように見える. 整数論における重要な群として
イデアル類群, 単数群があるが, M はその両方をまとめたものなのである.
さて, 不分岐岩澤加群 Y と, p 分岐岩澤加群 X について考えよう. L/F , M/F はともにガロ
ワ拡大なので, Gal(k cyc /F ) が作用する. 特に, 複素共役 J が作用する. したがって, プラス部
分とマイナス部分の直和に分かれる:
Y = Y + ⊕ Y −,
X = X + ⊕ X −.
Y + , X + はそれぞれ Y , X の商であり, J が自明に作用するので次が成り立つ.
命題 13. L+ /k + , M + /k + をそれぞれ最大不分岐アーベル pro-p 拡大, p の外不分岐な最大
アーベル pro-p 拡大とすると,
Y + ≃ Gal(L+ /k + ), X + ≃ Gal(M + /k + )
が成り立つ.
本サマースクールの主役の一人は「総実体の X + 」であり, ようやくここで姿を現したこと
になる. X + がなぜ重要なのかを調べてゆこう. その前に一つ補題を用意する.
14
補題 4 (CM 体の unit index). k を CM 体, Wk を k の 1 のべき根のなす群とする. E, E +
をそれぞれ k, k + の単数群とすると,
[E : Wk E + ] ≤ 2
が成り立つ.
さて, 命題 12 の完全系列のマイナス部分をとる.
0 −→ (Ekcyc ⊗ Qp /Zp )− −→ M− −→ A−
∞ −→ 0.
1 の p べき乗は ⊗Qp /Zp で消滅し, さらに補題 4 も用いると
Ekcyc ⊗ Qp /Zp = E(kcyc )+ ⊗ Qp /Zp
となり, マイナス部分は 0 である. よって,
M− ≃ A−
∞
となっている.
W を 1 の p べき乗根全体のなす群とする. Kummer 理論により,
X ≃ HomZp (M, W )
である. 両辺のプラス部分を見てみよう. ただし, HomZp (M, W ) へのガロワ群の作用は,
(σf )(m) = σf (σ −1 m) = κ(σ)f (σ −1 m)
である. f ∈ HomZp (M, W )+ , σ = J とすると, HomZp (M, W )+ は J 準同型全体である. ま
た, M = M+ ⊕ M− であるから,
HomZp (M, W ) = HomZp (M+ , W ) ⊕ HomZp (M− , W )
となり, HomZp (M+ , W )+ = 0 から
HomZp (M, W )+ ≃ HomZp (M− , W ) ≃ HomZp (A−
∞, W )
を得る. 以上まとめると, 次を得る.
定理 8. X + ≃ HomZp (A−
∞ , W ).
これでイデアル類群と p 分岐岩澤加群との関係が理解されたであろう. イデアル類群のマイ
ナス部分は, 総実体の p 分岐アーベル p 拡大と対応するのである. X − の Λ 加群構造について
さらに詳しいことが分かるので, 続けよう.
Λ 加群 A に対して, A◦ を, アーベル群としては A と同型で, γ の作用を γ ◦ a = γ −1 a とい
うように変更した Λ 加群とする. よって,
f (T ) ◦ a = f ((1 + T )−1 − 1)a
◦
− の adjoint と呼ばれるもので, 非自明な有限 Λ
として作用する. HomZp (A−
∞ , Qp /Zp ) は Y
−
部分加群を持たず, Y と疑同型な加群である (Y − 自身も有限 Λ 部分加群を持たないことが
証明できる). また,
− ◦
X + ≃ HomZp (A−
∞ , W ) = HomZp (A∞ , Qp /Zp ) ⊗Zp Zp (1) ∼ (Y ) ⊗Zp Zp (1)
が成り立つ.
定理 9. X + は有限生成 torsion Λ 加群. さらに, X + は非自明な有限 Λ 部分加群を持たない.
注意 4. X − の構造も岩澤先生が [7] で詳しく調べており, その後の研究の基礎となっている.
15
3.5
F = Q の場合
F = Q とする. このとき, ∆ = Gal(Q(ζp )/Q) の指標分解, Teichm¨
uller 指標 ω による分解
により, 詳しく調べられる 5 . さて,
X (i) = {x ∈ X | δx = ω i (δ)x, δ ∈ ∆}
とすると,
X=
p−2
⊕
X (i)
i=1
と直和分解し,
X+ =
⊕
X (i) , X − =
i:even
⊕
X (i)
i:odd
となる. ここではプラス部分を調べるということで, 偶数 i に対して X (i) を見る. これは演習
(1−i)
とするが, X (i) と Kummer 理論で対応するのは A∞ である:
X (i) ≃ HomZp (A(1−i)
, W ) ∼ (Y (1−i) )◦ ⊗Zp Zp (1).
∞
これから Kummer の判定法の精密化が得られる (Washington の本 [10] の Chapter 10 の内容
(i)
よりも精密である). p | h+ とせよ. このとき, ある偶数 i ̸= 0 が存在し, A0 ̸= 0 となる. 類体論
(i)
(i)
で k + 上 A0 に対応する不分岐アーベル p 拡大を L0 /k + とし, X (i) = Gal((M + )(i) /(k cyc )+ )
(i)
(1−i)
とする. L0 ⊆ (M + )(i) なので, X (i) ̸= 0 となる. これから Y (1−i) ̸= 0 がしたがい, A0
≃
(1−i)
Y (1−i) /T Y (1−i) より A0
̸= 0 を得る. 再度書くが, 単なる有限次代数体の Kummer 理論よ
り, 精密な結果を我々は得ているのである. また, Herbrand の定理についても関係が見え隠れ
してきている. しかし, 本稿は「代数的側面」ということで, これ以上は立ち入らない.
参考文献
[1] 『岩澤健吉先生のお話しを伺った 120 分 』, 数学, 45 (1993) No. 4.
[2] 尾崎 学, 田谷 久雄, 八森 祥隆 編, 2003 年度 (第 11 回) 整数論サマースクール 『岩澤理
論』 報告集.
[3] B. Ferrero and L. C. Washington, The Iwasawa invariant µp vanishes for abelian number
fields, Ann. of Math., 109 (1979), 377–395.
[4] R. Gillard, Remarques sur l’invariant mu d’Iwasawa dans le cas CM, Journal de the´orie
des nombres de Bordeaux, 3 (1991), 13–26.
[5] K. Iwasawa, On Γ-extensions of algebraic number fields, Bull. Amer. Math. Soc., 65
(1959), 183–226.
[6] 岩澤 健吉, 代数体と函数体とのある類似について, 数学, Vol. 15 (1963–1964) No. 2.
[7] K. Iwasawa, On Zℓ -extensions of algebraic number fields, Ann. of Math., 98 (1973),
246–326.
5
本当は一般の総実体でもよいのだが, 分かりやすさを優先した.
16
[8] K. Iwasawa, On the µ-invariants of Zl -extensions, Number theory, algebraic geometry
and commutative algebra, in honor of Yasuo Akizuki, Kinokuniya, Tokyo, (1973), 1–11.
[9] Y. Kida, l-extensions of CM-fields and cyclotomic invariants, J. Number Theory, 12
(1980), 519–528.
[10] L. C. Washington, Introduction to cyclotomic fields, 2-nd edition, GTM 87, Springer
(1997).
17