3 河村仮説の検証

名古屋の減税ってどうなの?
名古屋大学 柳原光芳ゼミナール
今泉香奈 江口雄太 田岡一樹
立道健二郎 坪井南佑美 長瀬樹香
堀尾祥子 宮田春香
目
次
1.市税のあらまし
2.45度線分析
3.河村仮説の検証
4.結 論
1 市税のあらまし
市税のあらまし
個人市民税
市が市民に行政サービスを
提供するための費用のうち、
市民が負担する税
法人市民税
都市計画税
普通税
固定資産税
目的税
事業所税
軽自動車税
市たばこ税
市民税
• 個人市民税
– 均等割: 所得にかかわらず一定の額を負担
– 所得割: 所得に応じて負担
• 法人市民税
– 均等割: 法人税額(国税)にかかわらず負担
– 法人税割:法人税に応じて負担
名古屋市の減税①
市民税10%減税
• 個人市民税
– 均等割税額: 3000円 → 2700円
– 所得割税率: 6.0% → 5.4%
名古屋市の減税②
• 法人市民税
◆ 均等割税額:
5万円~300万円 → 4万5千円~270万円
*9段階に区分されている税率をそれぞれ10%引き下げ
◆ 法人割税率:
資本金1億円以下かつ法人税額が年2500万円以下の法人
上記以外の法人
12.3% → 11.07%
14.7% → 13.23%
市税の使いみち
7% 2%
11%
37%
4872億円
12%
(H23年度)
12%
19%
市民の福祉と健康
市債の返済
市街地の整備
市民の教育と文化
都市の安全と環境
人権と市民サービス
市民の経済
2 45度線分析
2.1 三面等価の原則
2.1.1 三面等価の原則
生産面からみた
国内総生産
分配面からみた
国内総生産
支出面からみた
国内総生産
ある期間
国内で生産された
付加価値の合計
付加価値は生産過程で
各生産要素に所得として
分配され
それら分配された所得の
合計
国内で生産されたもの
に対して支出された額の
合計
これらは、統計上等しくなる
※ 売れ残りは
「在庫品増加」という
項目で合計に加える
2.1.2 45度線分析 グラフ(供給)
Ys
Ys ≡ Y
45゜
Y
2.2 財の需要と消費関数
2.2.1 供給面GDPと支出面GDPの差
供給面
支出面
民間最終消費支出
付加価値合計
≠
=
政府最終消費支出
総固定資本形成
供給面と支出面の差
在庫品増加
「在庫品増加」は、売れ残ったものを統計上企業や政府が支出
したものとみなしただけであり、実際に支出されたものではない
2.2.2 財の需要
(閉鎖経済)
財需要 ≡ 民間消費 + 民間投資 + 政府支出
Yd
C(消費関数)
ケインズ型を想定
I0 (一定)
G0(一定)
2.2.3 (ケインズ型)消費関数
C = a + b (Y - T)
基礎消費(a>0):
所得がゼロでもしなければならない消費(食費・光熱費など)
※データがないため推定が必要
限界消費性向(0<b<1):
所得が1単位増加した時の消費の増加分
※データがないため推定が必要
可処分所得(YD):
ここでは、所得から租税を引いたものをさすことにする
2.2.4 消費データの当てはめ
昭和63年~平成19年の市内総生産および民間最終消費支出の
データを用いて基礎消費と限界消費性向を最小二乗法で推定する
C/CP
50000
C/CP=10744+0.495(YD/CP)
48000
46000
R2 = 0.952
44000
42000
adjR2 = 0.950
40000
s = 624.9
38000
36000
34000
50000
DW = 1.720
55000
60000
65000
70000
75000
80000
YD/CP
2.2.5 最小二乗法とは?
想定する関数が測定値に対してよい近似となるように、
残差の二乗和を最小にするような係数を決定する推定方法
Y
各期のデータ
導出したい
消費関数
残差u
β
α
X
min ∑ |ui|2 = ∑ |Yi-(α + β Xi)|2
α,β
2.2.6 消費関数の推定
計算の結果
α=10744
β=0.495
消費関数に代入すると
C = 10744 + 0.495(Y-T)
有意水準5%でダービン=ワトソン
検定をすると
U
DW=1.720>d
20,1,0.05
=1.41
有意水準5%でt検定すると
tα=6.308 >t18,0.025=2.101
tβ=18.94 >t18,0.025=2.101
係数α、βは統計上有意だといえる
2.3 財市場の分析
※減税が行われた平成22年度のデータが作成されていないため、
以下、平成19年度のデータを代用して分析を進めることとする。
2.3.1 名古屋市の経済データ
平成19年市民経済計算(実質換算):
民間最終消費支出
C
48,164 億円
総固定資本形成
(在庫品増加)
I0
30,758 億円
(388 億円)
政府最終消費支出
G0
13,197 億円
市内総生産(閉鎖経済) Y
92,119 億円
租
16,654 億円
税
T
(資料:平成19年度名古屋市統計年鑑、名古屋国税局統計書)
2.3.2 名古屋市の財需要線
YCd
Yd=0.495Y+46067
91666
46067
C=10744+0.495(Y-16654)
I0+G0
48099
10744
0.495
a-bY
92119
75465
YD
Y
2.3.3 減税による財市場の変化
Ys Yd
373億円
92119
デフレギャップ
(453億円)
91746
80億円
ΔY*
158億円
46147
46067
YdY=0.495[Y-(16654-161)]+54311
d=0.495(Y-16654)+54311
91222 91380
92119
Y
2.3.4 名古屋市の減税の効果
減税を行うことで80億円分財需要線が上にシフトし、
均衡市内総生産は158億円増加する
今回の減税は、この効果を狙ったものと考えられる
3 河村仮説の検証
3-1 目的 ・ 結論
「河村仮説の検証」の目的
減税政策の正当性を結論づけた河村市長の論理
目的 : 河村仮説は、減税政策を正当化
できているのかを検証し、
両者の因果関係に整合性が
あるのかを明らかにすること
結論 : 河村仮説を用いて減税政策を
正当化することは、疑問
3-2 河村仮説に入る前に
増税のメリット
減税のメリット
・ 行政サービスの向上
・ 財源の安定による
計画的政策の実現
・ 国債発行の抑制、
世代間不公平の解消
・ 経済政策として
・ プライスキャップ
(料金上限規制)による
行革の推進として
・ 小さな政府論として
増税のデメリット
減税日本の主張
・ 消費意欲や投資意欲を
弱め、経済成長を妨げる
減税のデメリット
・ 可処分所得が
貯蓄にまわる可能性
・ 行政サービスの低下
・ 公的債務の増加
3-3 河村仮説
河村仮説における2つの前提
Ⅰ 今の日本はデフレ不況
Ⅱ 今の日本は貯蓄過剰であって、
財政危機ではない
・ 国内の内需が減少しているので、
消費を刺激する政策が必要
その有効な手段のひとつが減税
3-3 河村仮説
前提Ⅱ 今の日本は貯蓄過剰であって、財政危機ではない
貯蓄過剰 : 借り手が少なく、金余りの状態
⇒バランスシート不況
景気後退で負債が増えた企業が、財政状態を把握する
バランスシートを綺麗にしようとしておこる不況。
日本も安心
企業はどんなに低金利でも儲けを貯蓄してしまう。
できない
そして、さらに市場に金が回らなくなる。
悪循環
Q. そもそも財政危機といわれる目安は?
A. 正確に国家の財政破綻を言い当てることは困難
よく使われる指標
債務残高対GDP比
プライマリーバランス
3-3 河村仮説
日本がダントツ!
公債残高の累増
債務残高の国際比較
(対GDP比)
参考資料 財務省HP
3-4. 河村仮説の検証
日本は貯蓄過剰であり
財政危機ではない
。
1.国債は財産であり借金ではない
1.国債は財産であり借金ではない
2.国債は安全 2.国債は安全
3.民間が資金を借りないとき
銀行の投資先は国債しかない
1.国債は財産であり借金ではない
銀行など
金融機関の保有割合が高い
銀行は貯蓄されている
国民の財産で国債を買う
__
形を変えた国民の財産
財産として
次世代に渡せる
貨幣のように、買い手が
国債は価値があると信じていること
国債の信用がある状態で、
国債は持っている人にとっては財産
国家全体にとっては借金
国債の返済は税金
↓
誰かの財産は誰かの税金
財産として次世代に渡せる
次世代が国債を返済されるまで信用があるのか
2.国債は安全
金利が高ければ国債の価値は低く(危険)
金利が低ければ国債の価値は高い(安全)
世界一の低金利(10年国債金利 約1%)
危険ならば財務省は販売しない・・・ 安全
現在は安全 しかし
将来も国債の信用があるかはわからない
現実問題
A. 少子高齢化 B. 債務の増大
2.国債は安全
A.少子高齢化
老年世代 増加
(貯蓄を取り崩して生活)
現役世代 減少
(働いて貯蓄する)
国債購入力の低下
2.国債は安全
B 膨らむ債務
債務残高対GDP比
(BIS試算)
現在
200%
2015年
250%
持続可能性の不安
2020年
300%
2030年
400%
将来日本は信用を保てるのか
国内消化は可能か もし消化できなくなったら
2.国債は安全
海外の投資家に販売
↓
金利上昇
※国内の消化が困難という時点で、国債の信用は低下
それ相応のリスクに対するリターンが求められる
↓
財政圧迫 償還困難
↓
信用低下 金利上昇
悪循環
↓
財政圧迫 償還困難・・・
中・長期的にデフォルトの危険
3.民間が資金を借りない時、銀行の投資先は国債しかない
銀行の投資先が国債しかないのはこじつけ
景気後退で
銀行が今安全な運用をしたいから国債に集中
民間に投資・投資先開拓など 負債が増えた企業は
低金利でも儲けを貯蓄し
銀行の企業努力を妨げている可能性
市場に金が回らなくなる
消費・投資の冷えこみは減税が解決するのか
減税分で必ず投資・消費するか
バランスシート不況が悪化する可能性
冷え込みの背景に深刻な問題はないか
(例: 社会保障への現在の不安)
1.国債は財産であり借金ではない
1.国家全体としては常に借金
2.国債は安全
2.中・長期的にデフォルトの危機
3.因果関係に不備
3.民間が資金を借りないとき
銀行の投資先は国債しかない
日本は中・長期的に財政危機
河村仮説を用いて
減税を支持することに疑問
4 結 論
4.結 論
減税を行うことで80億円分財需要線が上にシフトし、
均衡市内総生産は158億円増加する
今回の減税は、この効果を狙ったものと考えられる
しかし
他の市場も考慮した場合、
河村仮説を用いて
減税を支持することに疑問
参考文献
減税論 「増税やむなし」のデタラメ 河村たかし
国家債務危機 ジャック・アタリ
東洋経済新聞社「ナゴヤの正念場」
首長たちの革命 出井康博