2013年度秋学期 経営学/経営学総論B/経営学総論 第2回 組織における人間の行動 経営学部 教授 石井 晴夫 1 人間の行動の予測 今日のお昼に私はどこで何を食べると思いますか? ヒント1:6号館か8号館の食堂を利用することが多い。 ヒント2:毎回「これ」と決めているものはない。 ヒント3:待つのが嫌いなので、混んでいると違う所に行く。 ヒント4:今朝はあまり食べていない。 ※行動がパターン化されていない限り、予測は困難。 例えば、 私が食べるものは、6号館か8号館の食堂だけで、6号館なら A定食、そして8号館ならB定食と決まっていて、毎回サイコロを振って、 偶数なら6号館、奇数なら8号館に行くとした場合は? ※選択肢が絞り込まれていて、その選択の仕方(ルール)が明 確になっていたら予見でるかもしれない。しかし、サイボーグの ようにプログラムに沿って、動く人はあまりいない(非現実的)。 2 人間の行動を科学する行動科学 人 ノートを取る、寝る、スマ ホを操作する、おしゃべ りをする、食事を食べる、 等. . . . . . . . . . 行動 人はどうしてそのような行動(=現象)をするのか? ⇊ 何らかの原因があるからである(因果関係が存在)。 (原因) 内的要因 外的要因 解消 改善 影響 人 (結果) 行動 ノートを取る、 起きようと努力 する、スマホで 授業関係の調 べものをする 等 ※原因を解明し、解消・改善すれば、行動を管理・改善 3 反射 • (内外からの)刺激=(末梢)神経が受容⇒反応 ※意思決定や判断が行われていない 例えば、熱湯に触った時は、次のAとBのどちらの反応ですか? A.熱い(刺激)⇒手をひっこめる(反応・反射) B.熱い(刺激)⇒状況判断⇒火傷(予測)⇒手をひっこめる(行動) • パブロフの犬の実験 「赤いランプ点灯(事象)⇒犬が認識(刺激)⇒餌」を繰り返すと、赤い ランプが点灯しだすと犬の体内では唾液が分泌されるようになる。 • 犬を鞭打ちしてから、餌を与えると?(本能と本能の戦い) 犬は鞭打ちされると痛いから逃げたいが、餌も食べたい。 ※空腹の度合いによって、逃げるか鞭打ちを受け入れるかが決まるらしい。 4 人間の発達:発達段階(成長や成熟度合い)によって行動が異なる 人間のライフサイクル:受精⇒誕生⇒発達(成長・成熟)⇒死 • 発達:ライフサイクルの絶え間ない変化の過程 • 成長:身長や体重の増大などの量的変化 • 成熟:本来持っている機能が年齢とともに現れる内的要因によ る発達的変化(最大の機能を最大限発揮できるように状態に 達すること) • 学習:出生後の経験によって獲得した行動の変化(外的刺激) 行動 受精 誕生 最大の 機能 発達(成長+学習と成熟) 死 ※発達には、➀遺伝と環境の相互作用、②「未分化⇒分化(特殊な 機能に)⇒統合(有機的に連結)」というプロセス、③発達の順序 性・連続性・関連性、④個人差等があるとされている。 5 行動(新行動主義者の提唱したSORモデル) S(刺激:独立変数)⇒O(生活体:媒介変数)⇒R(反応:従属変数) 外部あるいは対内からの刺激 ⇊ 生活体のプロセス(行動を喚起) ⇊ 行動や反応 ※人間の学習・意思決定プロ セスや態度が注目されるよ うになる(内部の判断基準)。 Katz(1960)は刺激に対する4つの態度を提示 ・適応(刺激に的確に対応) ・自我防衛(不安や葛藤を抑え込む) ・価値表現(自己の価値をアピール) ・知的(学習し、判断基準作成) 6 行動科学(Behavioral Science) 米国で1950年頃発祥(J. G. Miller) • 行動科学とは、「客観的方法で収集した経験的証拠によって、 人間行動に関する一般的法則を確立し、それを科学的に説明 し予測することである」(Berelson & Steiner 1964) • 具体的には、個人及び集団での人間の行動を科学的に研究し、 行動に関する法則性を解明しようとする学問である。 • その分野は幅が広く、個人の心的側面を扱う心理学から、個人 や組織を扱う社会学や経営学などが含まれる(学際的)。 • 研究分野によって研究目的は大きく異なる。心理学なら、個人 のより内面(心的過程)の解明に、社会学なら社会的な現象と なる行動の背景(認識と概念)を明確にし、経営学なら組織の業 績向上に向け有効な手法を確立することにある。 • したがって、行動科学ではコミュニケーションや意思決定メカニ ズムに焦点が当てられるが、その応用を目指す経営学では優 れたリーダーシップやチームワークを引き出す仕組みづくりにも 焦点が当てられている。 7 様々な行動科学の分析対象 小さい単位 1. 個人(最小) 2. 家族 3. 組織 4. 制度 5. 成層(種族関係、社会成層) 6. 公衆(マスコミ・) 7. 社会 8. 文化(最大) 大きい単位 個人 集 約 影 響 集団 集 約 影 響 影 響 文化 8 経営学における人間像 合理性に限界があるのが人間(経営人) • 経済学の世界(完全競争状態下)では、人間は完全情報を 有し、最適化行動をとる存在(経済人)。 • しかし、実際には人間は情報不足(選択肢は不十分)で、そ して各選択肢の比較評価方法あるいは数値化にも限界があ る。したがって、最適化行動は現実的ではない。 • 現実的には、複数の選択肢の中から、恣意的な基準を作成 し、それらを満足するものを採用することが多い。 ※例えば、恋人選び、今日の行動、洋服、買い物。なぜなら 限られた選択肢の中から良さそうなものを選択している。全 世界中を探せばもっといいものがあるかもしれないが、探索 は途中でやめている。 9 マズローの欲求段階説(1940年代に提唱) • 人間の欲求には、「生理的欲求」、「安全に対する欲求」、「社会的 欲求」、「自我の欲求」、「自己実現欲求」があり、 • 階層をなしている(低次の欲求が満たされると、高次の欲求が現 れ、既に満たされた欲求は支配的でなくなる)。 強 生理的 安全・安定 欲 求 の 強 さ 社会的(連帯) 自我・自尊 (認められたい) 自己実現 弱 低 欲求の次元 高 10 組織と構成員の目標 経営学の視点からは、組織と構成員の目標を調整することが 重要となる(研修制度や企業文化)。 組織 目標 個人 目標 組織と構成員の目標が重なっている ほど上手くいので、両者を近づけるの が有効となる(Barrett 1970) 組織の満足(目指す方向) Θ(角度:ずれ) 個人 の満足 (目指す方向性) 組織と構成員の方向性(満足 基準)を合わせれば(=目標 による管理)、同じやる気や労 力でも組織の有効性は一層高 まる(Schleh 1961) ※実際に組織と構成員の目標の方向性数値化するのは難しい。 11 人間関係(親子、兄弟、親戚、友達、隣人、同僚など) 態度、やる気(モラール)、行動に影響を及ぼす 支配 拒 否 受 容 服従 2次元の対人関係(広井 1969) • 勢力関係軸(支配↔服従):上下関係 • 情愛的関係軸(受容↔拒否):感情 対人関係の構成要素(広井 1969) 勢力関係 対 認知的成分 人 (学習・形成) 関 情愛的関係 係 感情的成分 (好き嫌いや愛憎等) (対人態度) 対人認知 (表情、印象、個性等) 対人関係認知 (良好な関係、正確な 理解の度合い) 行動的成分 (感情によって生じる行動 例.接近↔反発) 12 伝統的な経営学における行動科学の考察 熟練作業者や経営者の経験と勘に依存(飴と鞭) 1900 年 1925 年 ※19世紀初頭の米国においても工場では内部請負制が中心で、「成 り行き的」管理が行われていた。 テイラー:科学的管理法と(金銭的)報酬により作業現場 の効率アップ メイヨー:良好な人間関係によって生産性向上 バーナード:組織の定義と存続条件を明示 マズロー:欲求階層説 1950 年 サイモン:経営人の意思決定(満足基準) 13 人間関係論(作業条件より、職場の人間関係の方が生産 性に良好な影響を与える) • 1920年代の米国ではテイラーの科学的管理法が普及。 • メイヨー等が米国ウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場での 実験で、作業条件(環境)によって、生産性が変化することを実証 したかった(1924年から1932年の長期的分析)。 • 実験室で組立作業を様々な条件(照明の明るさ、休憩回数や時 間、軽食の提供など)下で行わせ、結果を測定した。 • ところが、どのような条件下でも、作業条件と生産性の因果関係 は確認できなかったので、原因は他にあるとして、面接調査を 行った。 • 非公式組織を含めた職場の人間関係が職務満足や生産性の向 上につながると結論づけた。人間の心理的要因、モラール(意 欲)が生産性向上には大切。 14 バナード理論(公式組織の定義) 『経営者の役割』(1938年) • メイヨー(人間関係論)の考え方を導入し、非公式組織、 意思決定、コミュニケーションといった概念を明確にし、 リーダーの役割を明らかにしようとした理論研究。 • バーナードは組織を「意図的に調整された人間の活動 ないし諸力のシステム」と(構成概念的に単純化して) 定義した。 • 組織成立に不可欠な3要素として、①共通の目的、②コ ミュニケーション、③貢献意欲を挙げた。 • 組織が存続するための条件についても明確にした。 15 行動を変化させるには? 内的要因 内外 からの 刺激 外的要因 意思決定 メカニズム 個性 選好 経験 行動 天候 雰囲気 規則 不適切な行動を辞めさせたいあるいは適切な行動を採らせた い場合はどうすればいいか? • 意思決定メカニズムを変化させればいい • 訓練や研修などの学習効果によって内的要因を変化させる • 対人関係の緊密化(コミュニケーション等による)や規則の 変更などによって外的要因を変化させる。 16 経営における個人行動のコントロール 社会 個人 応募 (個性・欲求) 会社 (職務割り当て教育・評価・報酬制度) 採 順応・発達過程 成 行動 用 (キャリア形成) 果 • 社会・個人・会社は相互依存関係にある。 • 採用過程(個人は希望の会社に応募し、会社は必要な人材を採 用する) • 順応・発達過程(個人は会社の従業員となり、職務になれ、会社 に貢献する。 • 会社による従業員の管理(教育・人事・報酬制度などに加えて、職 場の良好な人間関係などの非金銭的インセンティブの仕組みを 整える) ※各自の方向性とやる気のコントロールを適切に管理することが、全 体のパフォーマンスにつながる。 17 経営にとっての行動科学を学ぶことの意義は? • 経営の目的(前提):組織目的を効率的に達成すること • そのために組織の各構成員の行動および組織内のグループ(下 部組織)の活動を適切にコントロールすることが必要となる。 • 各構成員に対しては、教育・研修やリーダーシップを通して、意思 決定のメカニズム(判断基準の枠組み)に働きかけ、組織的行動 をとらせるようにする。 • 組織内部の部署間あるいは提携関係にある企業間においても、 活動を適切にコントロールしないと大変な問題になる(大企業病・ 官僚主義、提携の失敗) ※現代では一企業で、原材料の採掘、部品の生産、製品の完成、流 通網整備まで一貫して行うことはほとんどないので、サプライ チェーンマネジメントが重要な分野になる(サプライチェーンの構成 メンバーをいかに管理し、全体として効率的な運営を行うか)。 ※個人の行動⇒集団(職場・会社)での行動⇒提携会社間の連携 18
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