経営学入門 Introduction to Business Administration

経営情報論A (2年生)
経営情報論B (3年生以上)
第3回 組織の再編(続き:第2章3節)と
個人と組織の意思決定(第3章1節)
前期 火曜日5限
樋口徹
職能部門組織から事業部制組織への移行
職能部門組織(中央集権的) → 事業部制組織(分権的)
本社
本社
事業A
事業A
生
営
購
技
財
産
業
買
術
務
本社
スタッフ
事業B
生営購技財 生営購技財
事業B
産業買術務 産業買術務
※事業部単位で意思決定や対
応ができるようになる。
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事業部制のデメリット
• 各事業部が独立採算であるが故に、逆に セクショナリズムに
陥りやすくなる(自分の事業部の業績を重要視し、会社全体とし
てのまとまりがなくなる)。
• 長期思考よりも 短期思考 に陥りがちになる(少しで良い業績
を獲得するには、長期的な投資より、短期的な効率化や販売促
進に走りやすくなる)。
• 事業部間の コミュニケーション が阻害されてしまい連係が
とれないなどの問題が生じる傾向がある(事業部間の競争意識
やエゴにより他事業部との協力関係に問題が生じる)。
※事業部性の弊害を打破し、組織活性化のために更なる組織形
態の見直しが必要となる。
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シャープ、取締役に「大部屋制」導入 日航などに
倣う(日本経済新聞 2014/1/9 電子版)
シャープは1月中旬をメドに取締役ら幹部が1つの部屋で執
務する「 大部屋 制」を導入する。高橋興三社長や銀行出身
の役員らが席を並べて情報を共有し、経営の意思決定を速め
る。大部屋制は日本航空などが採用して経営再建に一定の効
果を上げており、シャープも倣うことにした。
8人いる 常勤取締役 のうち、財務や企画担当取締役ら
大半が同じ部屋に入る。これまで使っていた 個室 は原則と
して使用しないようにする。
シャープは企業規模が大きくなるにつれ 縦割り 意識が強
まり、 液晶 事業への過剰投資を止められず、経営悪化を招
いた。企業 風土 の改革に経営陣が率先して取り組む。
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▼組織横断的活動支援体制
マトリックス組織とプロジェクト・チーム
プロジェクト
・チーム:社内公募で事業の枠を超えたチームを一時
的に編成される。プロジェクトチームは、一般に 臨時 に製
品開発やコスト削減などについて、各専門分野からの人材が
チームを組んで解決にあたる組織である。集められた人員は、
当初の目的を終えると(問題解決が終わると)もとの部署に
戻っていく。
NASA(アポロ計画):
目標:有人の宇宙船を月へ。
そのためには様々なスペシャリストが必要となる。多様な部門から
必要な人員を集めなければならなかった。
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プロジェクトチームとマトリクス組織による組織学習
• マトリクス組織:事業部単位で 縦割り なった組織に職能(横串)
で管理。事業部は独立採算、職能は他事業とのバランスを重視す
る(2ボス)。
• マトリクス組織は事業別に担当チームが作られる点では、プロジェ
クト組織と同様であるが、このプロジェクト・チームが 恒常的 に
企業に存在しているような組織である。
※下図から明らかなように、組織横断的活動が促進されるというメリットを持
つ一方、チームに参加している人々は、特定の事業と各自の専門部門に
属するわけで、2人の長から同時に指示を受けることになるというデメリット
も持っている。
生産
販売
技術
A事業担当
B事業担当
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事業部制とマトリクス組織
事業部制組織
A
事
業
本社
B
事
業
マトリクス組織
生産
購買
営業
財務
A
事
業
C
事
業
事業部間の壁
D
事
業
E
事
業
本社
B
事
業
C
事
業
D
事
業
E
事
業
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社内分社制度
社内分社制( カンパニー制 ):事業部制組織では事業単位が
細分化されすぎているので、社内を分社した組織単位(複数の
事業部を 統合 したもの)にまとめることによって、各事業部
に細分化されていた人材や技術等の資源を有効活用している。
社内分社
A B
事 事
業 業
本社
C D E
事 事 事
業 業 業
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社内分社制度において危惧されるべき弊害
• 社内 分社 (複数事業の統合)が進められた背景には、会社全
体で新規事業の開発に取り組む体制をとらなければ、臨機応変
に環境変化に対処できないことがあった。
• トップがこのようなメッセージを発信し、会社全体で活動できるよ
うに主導することによって、組織横断的な活動を促進している。
• しかし、分社体制でも、新規事業開発の主導権が特定の分社組
織に集中しすぎると、事業部制と同様の弊害をもたらす可能性が
ある。
※社内分社制度は、職能別組織と事業部制組織の間の組織形態。
(同一)
企業内
職能別組織
(中央集権的)
マトリクス組織
社内分社制度
事業部制組織
(分権的)
持株会社
(分権的)
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▼持株会社制度(分権的組織の一種)
持株会社とは、会社の総資産に対する子会社の株式の取得価額の
合計が50%を超える会社(複数の企業群を企業グ
ループとして持つ場合は、グループの核となる親会社)。
持株会社の形態
・ 純粋 持株会社:株式を所有することにより、他の会社の活
動を支配することのみを事業目的とする会社
・ 事業 持株会社:他の会社の活動を支配するのみならず、持
株会社自身も相当規模で事業を行っている会社
日本郵政グループ
の場合
日本郵政
日
本
郵
便
ゆ
う
ち
ょ
銀
行
・・・純粋持株会社
か
ん ・・・3つの事業会社
ぽ
生
命
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3-1-1 組織内の人間像(p.49)
人間の行動
• 人間の 行動 を予測できる範囲や精度には限界がある。
• 過去の出来事や人々の 行動パターン を参考にすることに
よって、個人の行動や社会の動向をある程度までなら予測する
ことができるであろう。
• しかし、同じような状況下にある人々は必ずしも同じように行動
するわけではない。人間の行動には、置かれている 状況 も
影響するが、 個人差 も重要な働きをする
• 人間には常に何らかの 欲求 があり、それを満たすために、
なんらかの行動を行う。人間の行動の根源にある欲求は、個人
の 気質 や置かれている状況によって、大きく異なる。
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組織内の人間像
• 右図は マズロー の「欲求段階説」を
図示したものである。
• 人間の欲求を、生命維持に不可欠な
「 生理的 欲求」、危険回避に関する
「 安全 ・ 安定 への欲求」、就職や
結婚など社会的な「 所属 ・ 連帯 へ
の欲求」、集団の中で尊重されたいという
「 自我 ・ 自尊 の欲求」、自分の潜
在能力を発揮したいという「 自己実現
欲求 」の5つに区分した。
• それらが 階層 をなしているとしている。
低次の欲求が満たされると、より 高次
の欲求が現れ、満たされた欲求は支配的
ではなくなるとされている
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伝統的な経済学で想定している世界:完全競争
1. 製品の 均一性 :市場で販売されている同じ種類の製品は全て同質
である。全ての企業が生産・販売している製品に差はない。
2. 完全 情報 :企業も消費者も価格や品質などについて完全な知識を
持っている。市場で販売されている製品は同じなので、消費者は最低
価格で購入しようとする。
3. 原子性 :市場に多数の企業が存在しているので、全ての企業が価
格に影響を与えられない( プライス テイカー)。
4. 平等 アクセス:同じ製品を製造・販売するすべての企業の生産技術
と生産に関する費用は同じ;すべての企業が技術情報や資源を平等
に利用できる。
5. 市場への 参入・退出 が自由 :上記の完全情報や平等アクセスに
基づいて供給不足ならば新規参入企業が現れ、供給過剰ならば企業
が退出し、需要と需要が均衡する。
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経営学における人間像
合理性に限界があるのが人間(経営人)
サイモン(Herbert A. Simon)は、実際の人間が経済人のように完
全に合理的に意思決定することについて疑問を呈し、著書『経営行
動』(1967)の中でより現実的な人間像として「 経営人 」を提唱。
実際の人間は、限られた情報や知識の範囲の中で合理的に行動
し、最適基準ではなく、「 満足基準 」によって意思決定を行って
いる.
• 経済学の世界(完全競争状態下)では、人間は 完全情報 を
有し、最適化行動を行う存在(経済人)。
• しかし、実際には人間は 情報不足 (選択肢は不十分)で、そ
して各選択肢の比較評価方法あるいは 数値化 にも限界があ
る。したがって、最適化行動は現実的ではない。
• 現実的には、複数の選択肢の中から、 恣意的 な基準を作成
し、それらを満足するものを採用することが多い(満足基準)。
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3-1-2 人間関係の影響(p.52)
個人の意思決定に影響を与える要素
• 個人が行う意思決定には、親子、兄弟、友達、隣人、同僚など
身近な人間に加えて、 社会 や 文化 などの影響も強く受
ける。
• 身近な人間および社会や文化が、個人の意思決定の内容に
直接影響を及ぼすこともあれば、個人の 属性 に影響を与
えるなど意思決定決に 間接 的に影響を及ぼすこともある。
• 逆に、個人の意思決定が、家族や組織などの 集団 あるい
は社会や 文化 に影響を及ぼすこともありうる。
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人間関係論
(作業条件より、職場の人間関係の方が生産性に良好な影響を与える)
• 1920年代の米国ではテイラーの科学的管理法が普及。
• メイヨー等が米国ウェスタン・エレクトリック社のホーソン工場での
実験で、 作業条件 (環境)によって、 生産性 が変化するこ
とを実証したかった(1924年から1932年の長期的分析)。
• 実験室で組立作業を様々な条件(照明の明るさ、休憩回数や時間、
軽食の提供など)下で行わせ、結果を測定した。
• ところが、どのような条件下でも、作業条件と生産性の 因果 関
係は確認できなかったので、原因は他にあるとして、面接調査を
行った。
• 非公式組織を含めた職場の 人間関係 が職務満足や生産性
の向上につながると結論づけた。人間の心理的要因、モラール
(意欲)が生産性向上には大切。
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マクレガーのX理論とY理論
• マクレガー(Douglas McGregor)は、人間は命令(強制)と金銭
だけで高い生産性を達成・維持できるのかを疑問に感じ、「X理
論」と「Y理論」を提唱した。
• X理論は命令統制に関する伝統的見解であり、テイラーが想定
した人間観に基づいている。人間は本来怠惰であり、自ら進ん
で仕事をしようとしないので、人間は 強制 あるいは金銭的
な 報酬 (飴と鞭)によって働くとされている。
• それに対して、Y理論は従業員個々の目標と企業目標を統合し
たものであり、前述したマズローの欲求段階説に基づく人間観
を基本としている( 動機づけ )。
• 生活が豊かになった現代では、X理論の限界が露呈し、Y理論
の方が重要性を増してきているように思える。
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3-1-3 組織と個人(p.54) 組織の意思決定プロセス
• 組織の意思決定プロセスにおいて、 満足基準 による意思決定
プロセスをあてはめることができる。
• 目的設定後、その目的達成に向けた 代替案 を複数作成し、目
的達成の見込みの高い代替案があればそれを採用し、実行に移す。
• 目的達成の見込みの高い代替案が見当たらない場合は、更なる代
替案を作成する必要がある。いくら代替案を探しても、見込みの高
い代替案を見つけられなければ、設定した 目的 事態を考え直す。
※組織にも探索能力と時間・費用に限
界があるので、有限の選択肢の中か
ら特定の条件を満たしたものを採用
せざるを得ない。
※組織の場合でも、個人と同様に、最
適基準での意思決定というより、満足
基準での意思決定となる。
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