開発とローカリズム講義 「貧困」

開発とローカリズム講義
「参加型開発」
2006年11月16日
後期博士課程 広川幸花
[email protected]
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本日の講義の流れ
1.「参加型開発」の広がり
 2.従来型アプローチの何が問題なのか
 3.手法、実践、検討
 4.限界と残されている課題

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「参加型開発」のキーワード

プロジェクトの過程に、外部者だけでなく、住民も主体的に関
わること




住民自身がプロジェクトに主体的に関わる力を身につけ、
住民の「声」(ニーズ・意思)がプロジェクトに反映される
プロセスを通じて、住民がエンパワーメントされる
外部者、受益者(住民)、参加、エンパワーメント、主体性、自
立性、意思決定、妥当性、ボトム・アップ型・・・
注) コンセンサスを得た定義は現時点で存在しない
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1.「参加型開発」の広がり
①開発業界における位置づけ

国際機関で「主流化」した「参加型開発」
(1990年代~)
 経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)

参加型開発を1990年代の最重要課題に(1989年12月)
 世界銀行
1997年「世銀開発報告」
 UNDP 「人間開発報告書」1993年版
 USAID、JICA、他・・・
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1.「参加型開発」の広がり
②開発アプローチと「参加」の意味

1950 ~60 年代


1970年代~


分配や社会的側面への配慮の必要性が認識される
→プロジェクトの運営・管理の維持のための「住民参加」
1980年代~


「経済成長の達成が国全体の発展につながる」:トップダウン式
世界の絶対的貧困者数の増加、地球規模の環境悪化への関心
→「持続可能な開発」、社会的公平性の追求、政治的な意志決定と
しての市民参加の確保
1990年代~

多くの開発援助機関の政策的重心が「貧困削減」、「人間開発」
→貧困層に対象を絞ったプロジェクトなど「参加型開発」を重視
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2.従来型アプローチの何が問題なのか
①チェンバースの問題意識

著書
 Rural
development: putting the last first (1983)
 Whose reality counts?: putting the first last (1997)

主張
 誰のリアリティが重要なのか
 外部者の思い込みや間違いを正していくことこそが
重要な課題
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2.従来型アプローチの何が問題なのか
②チェンバースの問題意識
両極化
 「埋もれた過ち」
 専門家と住民のリアリティのギャップ
 リアリティの移転

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2.従来型アプローチの何が問題なのか
③チェンバースの問題意識

両極化 (p43~49)
 「富や権力を持った上層」と「貧しく無知な下層」
の二極化(統計より)
健康、教育の側面から
 女性の側面から
 軍事、貧困の側面から

⇒既存の開発アプローチでは解決できなかった。
どこに問題があったのか?
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2.従来型アプローチの何が問題なのか
④チェンバースの問題意識

「認識された過ち」と「埋もれた過ち」
 「埋もれた過ち」・・・外部者が間違いに気づけず、繰り返
された過ち。広く行き渡った見解の思い込み。



例)食糧と飢饉に関する思い込み
従来・・・①食糧不足、②飢えで死ぬ、③食糧供給の対策が必要
実際・・・①食糧を得たり自由にする能力の欠如が原因(セン)、
②飢餓よりも水に起因する疾病が死をもたらす(ワール)、③初期
対策や生活を救うことが必要(デーヴィス)
⇒専門家の問題認識に間違いがあった
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2.従来型アプローチの何が問題なのか
⑤チェンバースの問題意識

専門家と住民のリアリティのギャップ
 「リアリティ」の定義・・・「一人ひとりがそれぞれに
知覚し解釈する世界」
 専門家の計測・還元主義(複雑性の単純化)に基
づいたリアリティ ⇔ 住民の複雑・多様・暮らし
に基づいたリアリティ
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2.従来型アプローチの何が問題なのか
⑥チェンバースの問題意識

専門家と住民のリアリティのギャップの例

例)貧困ライン


単純化され、欠乏の多面性が見落とされ、貧しい人
たちの異なったニーズを捉えられない
例)生産量の重視

①飢饉を防げるという思い込み、②収量高は農民に
とって基準の一つにすぎない 例)時期、抵抗性、食
味 ③穀物生産=総食糧生産量、ではない。飢饉時
の頼みの綱は庭に植えた果物や野菜も含まれる
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2.従来型アプローチの何が問題なのか
⑦チェンバースの問題意識

リアリティの移転
 専門家のリアリティを押しつける、トップダウン式の
画一的「パッケージ」
良い例) 天然痘撲滅、ポリオの減少、識字の拡大
 問題を含んでいた例) 「緑の革命」など

⇒問い) 「誰のリアリティが重要なのか?」
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2.従来型アプローチの何が問題なのか
⑧チェンバースの問題意識

問題意識から
 専門家の思い込みによって現場の多様性に合わない画一
的なパッケージが押しつけられ、無視できないほどの弊害
を生んできた。
⇒住民の「リアリティ」を学ぶところから始める

必要な手法
 専門家のみが理解できる数字だけに還元するアンケートや
統計手法よりも、当人たちが理解できる言葉と視覚的ツー
ルを用いて「リアリティ」を表現してもらい、当人たちによっ
て「問題」を捉え、解決方法を話し合い、実行/中止しても
らう
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3.手法、実践、検討
①「参加型開発」の様々な手法

手法
(体系化されたツールの組み合わせ)
 PRA

住民による自らの状況の再認識・学習→知識・情報の
共有→分析・計画・実行・評価するための一手法
 PLA

(参加型農村評価)
(参加型開発実践学習)
住民の主体的参加を実現するための一手法
 PALM,
DRP, MAPP, etc…
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3.手法、実践、検討
①「参加型開発」の様々なツール

ツール
(前頁で挙げた「手法」に使われるもの)
 ワークショップ、インタビュー
 地図づくり、優先順位づけ、関係性の視覚化、生
活カレンダーづくり・・・
⇒住民自身が自らの状況を再認識し、住民同士で情
報を共有するための様々な工夫
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3.手法、実践、検討
②「参加型開発」の一例

実践
 例)
「参加型開発」の様子(ビデオ約10分)
 URL) http://www.jicanet.com/CD/05PRDM014/next/next01.html
セネガル総合村落林業開発計画(略称:PRODEFI)
 出典:JICA

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3.手法、実践、検討
③検討

外部者の存在が前提
 プロジェクトの資源投入(資金、人材、知識、技術、
機器など)をする外部者の介入を前提とした舞台
設定
外部者の姿勢・関与の仕方
 住民の参加、主体性
 プロセスを通じたエンパワーメント

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3.手法、実践、検討
④検討

「参加型開発」で期待されるメリット
 計画段階で「外部者が想定したニーズ」と「住民
のニーズ」のズレ⇒修正可能⇒「妥当性」
 実施段階で住民が外部者に問題点を指摘/意
向を反映してもらう⇒相互監視による不正配分の
防止、透明性の確保
 評価段階で受益者からのフィードバック
 その他
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4.限界と残された課題

「参加型」の条件の検討
 プロジェクトの過程に、外部者だけでなく、受益者
も関わること
⇒外部者が住民の「リアリティ」をどれだけ適切に
捉えられるのか
⇒何をもって「成功」・「失敗」といえるのか
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4.限界と残された課題

各条件が内包する問題

外部者と受益者の関わり(参加)の程度



住民側に内在する権力関係



機会費用、住民同士の利害関係・・・
外部者の「費用」



立場、役割、ジェンダー・・・
最貧層の見落としと「排除」
住民側の「都合」


自発的~非自発的な参加
「参加しない」という選択肢
限られた予算⇔人手も時間も多量に必要
方向性の予測不可能性→住民の意向によって大幅修正した際のドナー
への説明責任
その他
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4.限界と残された課題

具体的な問題例(D. Mosse)
 ツール(ランキングなど)によって、村の有力者の
声が「コミュニティの公式化された情報」として固
定化されてしまう可能性
⇒コミュニティ内の力関係の固定化、弱者の排除
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4.限界と残された課題

「誤った実践」(チェンバース2000:480)
 1)トップダウン方式の流布
 2)行動様式と態度と訓練
 3)現場での実践と倫理
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略称一覧
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
UNDP United Nations Development Plan
USAID United States Agency for International Development
OECD Organization for Economic Co-operation and Development
DAC Development Assistance Committee
PRA Participatory Rural Appraisal
PLA Participatory Learning and Action
PCM Project Cycle Management
PALM Participatory learning methods 参加型学習手法
DRP Diagnostico rurale participativo 参加型地域診断
MAPP methods accelere de rechereche participative 参加型迅速調
査手法
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参考文献





Chambers, Robert, 1997, Whose reality counts?: putting the first last,
Intermediate Technology.(=2000,野田直人・白鳥清志監訳『参加型
開発と国際協力:変わるのはわたしたち』明石書店.)
Chambers, Robert, 1983, Rural development: putting the last first,
Longman Scientific & Technical.(=1995, 穂積智夫, 甲斐田万智子監
訳『第三世界の農村開発: 貧困の解決-私たちにできること』明石書店.)
Mosse, David, 2005, Cultivating development: an ethnography of aid
policy and practice, Pluto Press.
佐藤寛編, 2003, 『参加型開発の再検討』アジア経済研究所.
国際協力事業団,2001,『国際協力と参加型評価』.
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