2009年度前期 火曜2限 企業と経営

キャリアで語る経営組織
第2章
入社する
ー社会化と組織文化ー
テキスト27~57ページ
プロローグ
就職活動を終え,希望の会社に入社してから1カ
月,新人研修も終わり,先週からいよいよ職場へと
配属になった。同期のメンバーともしばし別れ,それ
ぞれの職場で仕事をすることになった。しかし職場
へ行っても何もかもが新しく,何をしていいやらわか
らない。ミーティングに参加したものの,先輩や上司
が話している内容も十分に理解できない。仕事で早
く貢献できるようになりたいが,なかなか慣れるまで
時間がかかりそうだ。
1 組織社会化と組織社会化プロセス
疑問2-1(テキスト28ページ)
なぜ,就職した先輩たちは
雰囲気がかわっていくのだろうか?
社会化とは
社会学の領域において,なぜ,その国や土地に生ま
れた人間が,その国や土地の人間のように振る舞う
ことができるようになるのかを論じたのが,社会化の
議論
私達が知らないうちに日本人らしく振る舞えるように
なっているのは,日本という社会に社会化されてい
るから
会社にも当てはまるのでは→組織社会化論
組織社会化とは
「新人が組織に適応する過程」
→組織にとっては組織に必要な人間にすること
組織社会化の定義
組織社会化の3つの共通点
組織社会化は成員性の獲得である。
学習の過程である。
他者との相互作用を通じてパーソナリティを組織体に結び
つける過程である。
組織社会化とは
「組織への参加者が組織の一員となるために組織の規範・
価値・行動様式を受け入れ,職務遂行に必要な技能を習
得し,組織に適応していく過程」を言う。
疑問2-2(テキスト31ページ)
なぜ会社は新人(新入社員)を
積極的に社会化するのか?
なぜ企業は社会化をする必要があるのか
• 学生のままでは仕事にならないから
– 仕事そのものを知らない
– 専門用語や商品知識などの仕事をする上での知識がな
い
– ビジネス上のマナー
• スムーズに仕事を進めるため
– 会社のやり方を知らないと周りが困る
– 会社の方向性などを理解していない
– 相互依存的に仕事をするため
– 会社できちんと仲間と働くためにも社会化が必要
組織社会化に関わる3つの問い
何を学ぶのか,何を獲得するのか:内容
技術的側面:自分が携わる仕事に関するスキルや知識
文化的側面:組織文化や暗黙のルールなどの理解
どのように社会化していくのか:プロセス
予期的社会化
加入儀礼(リアリティ・ショック)
適応
誰から,どのように学ぶ(社会化される)のか?:手段
社会化戦術
社会化のエージェント
表2-1 新人が社会化プロセスで学ぶもの
(テキスト36ページ)
仕事への適応に関わるもの
組織への適応に関わるもの
仕事そのもの知識やスキル
上司や同僚の名前や地位,性格
職場特有の言語や専門用語
評価基準や評価方法
競合他社や取引相手
職場や組織での暗黙のルール
支店や子会社
職場内の人間関係や力関係
顧客
自分自身の役割
組織の戦略
組織構造
新人が職場で学ぶための学習手段
経験による学習
仕事をしていく過程で試行錯誤,失敗を繰り返し仕事のスキ
ルや知識を習得していく。
観察による学習
上司や同僚などの仕事ぶりを観察することで学習する
観察学習を社会的学習,モデリングとも呼ぶ
伝聞・指導による学習
上司や同僚,メンターから教えてもらう。
これらの全てが組織社会化過程では有効な学習手段
になる。
2 リアリティ・ショックと問いRJP
(realistic job preview)
疑問2-3(テキスト38ページ)
本当に誰もがすんなりと組織に
適応できるのだろうか?
リアリティ・ショック(reality shock)
リアリティ・ショックとは「現実と期待のギャップ」
• リアリティ・ショックにもいろいろある
– 自分が思ったような仕事ができない(仕事のリアリティ
ショック)
– 会社や職場が自分の思ったような雰囲気ではない(組織
のリアリティショック)
– 理想の世界と違う
– リアリティ・ショックの問題
–
–
–
–
適応がしにくくなる
会社や仲間への一体感ができなくなる
仕事へのモチベーションが低くなる
会社を辞めてしまう
社会化のプロセス
•
•
•
予期的社会化
• 採用段階での情報や印象,内定後に選ら
れる情報による社会化
適応
• 通過儀礼: リアリティ・ショック
役割管理
• 組織の一委員として新しい価値観の形成
• 組織の中での自分の役割や位置を定める
組織参入前
予期的社会化
組織参入後
適 応
役割管理
図2-1,テキスト43ページ。
(出所)Feldman[1976]p.449をもとに筆者作成。
リアリティショックをなくすには
• RJP(realistic job preview)理論
• 採用活動のときに本当の会社の姿を伝える
– ⇔良いことしか言わない(伝統的)
• RJPの3つの効果
– ワクチン効果:リアリティ・ショックを軽減する
– セルフ・スクリーニング効果:本当にやる気のある人だけ
が応募する
– コミットメント効果:会社へのコミットメントが強くなる
RJPの長所と短所
長所
リアリティショックが少ない→ワクチン効果
セルフスクリーニング効果
他の企業との比較がしやすい
短所
本当の情報が何か分からない
多くの人から選抜できない
優秀な人が来ない可能性がある
3 組織文化
疑問2-4(テキスト46ページ)
組織や職場の価値観とは
いったいどのようなものか?
組織文化とは何か
• 組織文化:組織が持つ特有の価値観のようなもの
•
「共有された価値観,規範,信念」
• 組織文化の要素
•
•
•
•
•
儀礼: 表彰式などの高揚儀礼,運動会などの統合儀礼
遊び: 恒例の飲み会など
表象: シンボルマークなど
共有価値: 組織や職場における望ましさについての観念
無自覚的前提: 意識にのぼらない共有価値
図2-2 シャインの組織文化の3つのレベル
(テキスト48ページ)
人工物
(Artifacts)
価 値
(Value)
基本的仮定
(Basic Assumption)
•人工物:儀礼や遊び,表象の
うち,具体的な儀礼やシンボ
ルマークなど価値を理解する
手がかりとなるようなもの
•価値:表象のうちの理念など
の言葉として示された価値観
や,明示化されていないがメ
ンバーが意識している価値観
•基本的前提:無自覚的前提
など価値の背後にあって誰も
疑わないもの
(出所) Schein [1980] p.4をもとに筆者作成。
組織文化の機能
外的適応の機能と内的適応の機能
外的適応: 組織の価値や目標を示すことによって,組
織を取り巻く環境にうまく適応するような機能
・独特の文化があることが採用希望者を増やす
内的適応: 組織に所属するメンバーに一体感をもたせ,
協働を促進する機能
・コミュニケーションが早くなる
・意志決定がスムース
・もめ事が少なくなる
・従業員のモチベーションが高まる
4 同質性の怖さと過剰な社会化
疑問2-5(テキスト50ページ)
組織文化がメンバーに深く共有されていることは
本当によいことなのか?
組織文化の逆機能:画一性・同質性の問題
• 価値観を否定するような新しい発想や工夫が生ま
れにくくなる→環境への適応の遅れ
• 変革に対する抵抗が激しい→古い価値観を信じて
いる人ほど新しい価値観への抵抗が激しい
• 価値観と異なる価値観に対する強い圧力
疑問2-6(テキスト52ページ)
本当に新入社員を社会化することは
よいことなのだろうか?
過剰な社会化の問題
• 過剰適応: 適応を急ぐばかりに,自分らしさを押さ
えつけたり,自分の意見を飲み込んでしまうこと
•
•
自己の中でコンフリクトを起こす
ストレスや不満を抱えてしまう
• 個性の喪失
•
•
•
組織の価値観とは異なる価値観や感覚の喪失
→仕事の意欲やキャリアへの展望の喪失
学習性無力観(学習することが無駄に思える)
• 会社側の学習機会の喪失
•
•
新人の振るまいや言動が考え直す機会になる
新人の職場への良い影響を消してしまう
次回の問い
会社のルールは守らなければならないか?