キャリアで語る経営組織 第2章 入社する ー社会化と組織文化ー テキスト27~57ページ プロローグ 就職活動を終え,希望の会社に入社してから1カ 月,新人研修も終わり,先週からいよいよ職場へと 配属になった。同期のメンバーともしばし別れ,それ ぞれの職場で仕事をすることになった。しかし職場 へ行っても何もかもが新しく,何をしていいやらわか らない。ミーティングに参加したものの,先輩や上司 が話している内容も十分に理解できない。仕事で早 く貢献できるようになりたいが,なかなか慣れるまで 時間がかかりそうだ。 1 組織社会化と組織社会化プロセス 疑問2-1(テキスト28ページ) なぜ,就職した先輩たちは 雰囲気がかわっていくのだろうか? 社会化とは 社会学の領域において,なぜ,その国や土地に生ま れた人間が,その国や土地の人間のように振る舞う ことができるようになるのかを論じたのが,社会化の 議論 私達が知らないうちに日本人らしく振る舞えるように なっているのは,日本という社会に社会化されてい るから 会社にも当てはまるのでは→組織社会化論 組織社会化とは 「新人が組織に適応する過程」 →組織にとっては組織に必要な人間にすること 組織社会化の定義 組織社会化の3つの共通点 組織社会化は成員性の獲得である。 学習の過程である。 他者との相互作用を通じてパーソナリティを組織体に結び つける過程である。 組織社会化とは 「組織への参加者が組織の一員となるために組織の規範・ 価値・行動様式を受け入れ,職務遂行に必要な技能を習 得し,組織に適応していく過程」を言う。 疑問2-2(テキスト31ページ) なぜ会社は新人(新入社員)を 積極的に社会化するのか? なぜ企業は社会化をする必要があるのか • 学生のままでは仕事にならないから – 仕事そのものを知らない – 専門用語や商品知識などの仕事をする上での知識がな い – ビジネス上のマナー • スムーズに仕事を進めるため – 会社のやり方を知らないと周りが困る – 会社の方向性などを理解していない – 相互依存的に仕事をするため – 会社できちんと仲間と働くためにも社会化が必要 組織社会化に関わる3つの問い 何を学ぶのか,何を獲得するのか:内容 技術的側面:自分が携わる仕事に関するスキルや知識 文化的側面:組織文化や暗黙のルールなどの理解 どのように社会化していくのか:プロセス 予期的社会化 加入儀礼(リアリティ・ショック) 適応 誰から,どのように学ぶ(社会化される)のか?:手段 社会化戦術 社会化のエージェント 表2-1 新人が社会化プロセスで学ぶもの (テキスト36ページ) 仕事への適応に関わるもの 組織への適応に関わるもの 仕事そのもの知識やスキル 上司や同僚の名前や地位,性格 職場特有の言語や専門用語 評価基準や評価方法 競合他社や取引相手 職場や組織での暗黙のルール 支店や子会社 職場内の人間関係や力関係 顧客 自分自身の役割 組織の戦略 組織構造 新人が職場で学ぶための学習手段 経験による学習 仕事をしていく過程で試行錯誤,失敗を繰り返し仕事のスキ ルや知識を習得していく。 観察による学習 上司や同僚などの仕事ぶりを観察することで学習する 観察学習を社会的学習,モデリングとも呼ぶ 伝聞・指導による学習 上司や同僚,メンターから教えてもらう。 これらの全てが組織社会化過程では有効な学習手段 になる。 2 リアリティ・ショックと問いRJP (realistic job preview) 疑問2-3(テキスト38ページ) 本当に誰もがすんなりと組織に 適応できるのだろうか? リアリティ・ショック(reality shock) リアリティ・ショックとは「現実と期待のギャップ」 • リアリティ・ショックにもいろいろある – 自分が思ったような仕事ができない(仕事のリアリティ ショック) – 会社や職場が自分の思ったような雰囲気ではない(組織 のリアリティショック) – 理想の世界と違う – リアリティ・ショックの問題 – – – – 適応がしにくくなる 会社や仲間への一体感ができなくなる 仕事へのモチベーションが低くなる 会社を辞めてしまう 社会化のプロセス • • • 予期的社会化 • 採用段階での情報や印象,内定後に選ら れる情報による社会化 適応 • 通過儀礼: リアリティ・ショック 役割管理 • 組織の一委員として新しい価値観の形成 • 組織の中での自分の役割や位置を定める 組織参入前 予期的社会化 組織参入後 適 応 役割管理 図2-1,テキスト43ページ。 (出所)Feldman[1976]p.449をもとに筆者作成。 リアリティショックをなくすには • RJP(realistic job preview)理論 • 採用活動のときに本当の会社の姿を伝える – ⇔良いことしか言わない(伝統的) • RJPの3つの効果 – ワクチン効果:リアリティ・ショックを軽減する – セルフ・スクリーニング効果:本当にやる気のある人だけ が応募する – コミットメント効果:会社へのコミットメントが強くなる RJPの長所と短所 長所 リアリティショックが少ない→ワクチン効果 セルフスクリーニング効果 他の企業との比較がしやすい 短所 本当の情報が何か分からない 多くの人から選抜できない 優秀な人が来ない可能性がある 3 組織文化 疑問2-4(テキスト46ページ) 組織や職場の価値観とは いったいどのようなものか? 組織文化とは何か • 組織文化:組織が持つ特有の価値観のようなもの • 「共有された価値観,規範,信念」 • 組織文化の要素 • • • • • 儀礼: 表彰式などの高揚儀礼,運動会などの統合儀礼 遊び: 恒例の飲み会など 表象: シンボルマークなど 共有価値: 組織や職場における望ましさについての観念 無自覚的前提: 意識にのぼらない共有価値 図2-2 シャインの組織文化の3つのレベル (テキスト48ページ) 人工物 (Artifacts) 価 値 (Value) 基本的仮定 (Basic Assumption) •人工物:儀礼や遊び,表象の うち,具体的な儀礼やシンボ ルマークなど価値を理解する 手がかりとなるようなもの •価値:表象のうちの理念など の言葉として示された価値観 や,明示化されていないがメ ンバーが意識している価値観 •基本的前提:無自覚的前提 など価値の背後にあって誰も 疑わないもの (出所) Schein [1980] p.4をもとに筆者作成。 組織文化の機能 外的適応の機能と内的適応の機能 外的適応: 組織の価値や目標を示すことによって,組 織を取り巻く環境にうまく適応するような機能 ・独特の文化があることが採用希望者を増やす 内的適応: 組織に所属するメンバーに一体感をもたせ, 協働を促進する機能 ・コミュニケーションが早くなる ・意志決定がスムース ・もめ事が少なくなる ・従業員のモチベーションが高まる 4 同質性の怖さと過剰な社会化 疑問2-5(テキスト50ページ) 組織文化がメンバーに深く共有されていることは 本当によいことなのか? 組織文化の逆機能:画一性・同質性の問題 • 価値観を否定するような新しい発想や工夫が生ま れにくくなる→環境への適応の遅れ • 変革に対する抵抗が激しい→古い価値観を信じて いる人ほど新しい価値観への抵抗が激しい • 価値観と異なる価値観に対する強い圧力 疑問2-6(テキスト52ページ) 本当に新入社員を社会化することは よいことなのだろうか? 過剰な社会化の問題 • 過剰適応: 適応を急ぐばかりに,自分らしさを押さ えつけたり,自分の意見を飲み込んでしまうこと • • 自己の中でコンフリクトを起こす ストレスや不満を抱えてしまう • 個性の喪失 • • • 組織の価値観とは異なる価値観や感覚の喪失 →仕事の意欲やキャリアへの展望の喪失 学習性無力観(学習することが無駄に思える) • 会社側の学習機会の喪失 • • 新人の振るまいや言動が考え直す機会になる 新人の職場への良い影響を消してしまう 次回の問い 会社のルールは守らなければならないか?
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