たつ りゅう 辰(竜)にまつわる民話 竜王ばあさま(山口県) むかしむかし、中村という所に、赤ちゃん の取り上げが上手なおばあさんがいました。 どんなに難産(なんざん)でも、このおばあ さんの手にかかればすぐに産まれるので、 『中村の取り上げばあさま』と呼ばれていま した。 竜王ばあさま(山口県) 1 ある日の真夜中、おばあさんが寝ていると 家の戸を叩く者がいます。 ドンドン、ドンドンドン。 こんな時間に来るのは急産の取り上げに 違いないと思い、おばあさんはすぐに支度 (したく)をすると外へ飛び出しました。 外には、使いの男がいて、 「こんなに遅くにすまんが、一緒に来て下さ い」と、言いました。 「それは良いが、どこの家かいの?」 竜王ばあさま(山口県) 2 おばあさんが尋ねると男は、 「ずっと遠くです。案内しますから、足元に気 をつけてください」 と、先に立ってどんどん歩いて行きました。 真暗闇(まっくらやみ)ですが、なぜか足元 だけは明るいので、おばあさんは何とか転 ばずに歩けました。そのうち波の音が聞こえ て来たので、(これは、海の近くだな)と、思っ たとたん、おばあさんは気を失ってしまいま した。 竜王ばあさま(山口県) 3 おばあさんが気がつくと、そこは金銀(きん ぎん)がキラキラと光り輝く龍宮城(りゅうぐう じょう)だったのです。おばあさんがびっくりし ていると、龍宮城の主の龍王(りゅうおう)が 現れました。 「夜中に、遠い所をごくろうであった。そちに、 姫のお産のかいぞえを頼みたいのだ」 「お産?」 お産と聞いては、ジッとしていられません。 竜王ばあさま(山口県) 4 おばあさんがさっそく姫の部屋へ行くと、そ れはひどい難産(なんざん)で、姫の顔には 血の気がありませんでした。 「よしよし、すぐに楽にしてやるからな」 おばあさんはさっそく仕度に取りかかり、そ れからすぐに玉の様な男の子が産まれまし た。 「おおっ、良くやってくれた。お礼に、何でも やろう」 龍王は大喜びで、おばあさんの前に 竜王ばあさま(山口県) 5 お礼の金銀サンゴを山の様に積み上げまし た。 けれど、おばあさんはそれを受取ろうとし ません。 「どうした? 気に入らんの?・・・そちは一体、 何が欲しいのじゃ?何なりと取らせるゆえ、 申してみるがよい」 龍王がそう言うと、おばあさんは恐る恐る 答えました。 「はい。実はわたくしの村にあまり雨が降ら ず、田んぼのイネが枯れようとして 6 竜王ばあさま(山口県) います。どうか龍王さまのお力で、雨を降ら せてもらいたいのです」 この村人を思う気持ちに感心して、龍王は その願いを聞き入れました。 「それでは、今後はわしをまつって、豊年(ほ うねん)踊りを踊るがよい。さすれば大雨を 降らせよう」 さて、それからおばあさんが龍宮城を去っ て村に帰りつくと、いなくなったおばあさんを 探して村中が大騒ぎでした。 おばあさんが訳を話して龍王との約束 7 竜王ばあさま(山口県) を伝えると、村人は大喜びです。 「これで、村は救われる!」 「取り上げばあさまは、ありがとう」 この時から村人たちは、このおばあさんの 事を『龍王ばあさま』と呼ぶようになりました。 そしてこの踊りが山口県に今に伝えられる、 楽踊り(がくおどり)の始まりだという事です。 福娘童話集許可転載<http://hukumusume.com/douwa/> おしまい 竜王ばあさま(山口県) 8
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