スライド 1

現場で求められる対人
援助職の姿勢と態度
中部学院大学人間福祉学部
宮 嶋 淳
博士(ソーシャルワーク)
2015/10/1
名古屋市社協主催「社会福祉施設職員研修会」
1
演習1: 「現場」とは何か
Q1.社会福祉施設に勤務する皆さんにとって、
「現場」とは何でしょうか?
Q2.皆さんに「現場で求められる」こととは何でしょう
か?
ヒント: 「現場で?」 「現場から?」「○○から?」
「現場から」を考えてみましょう

「現場から」とは、業務命令・指示として「求められる
こと」ととらえます。

組織として「業務分掌上」求められること

組織の中で、上司・同僚・部下、理事等経営者間で
共通に確認されていること

「サービス評価」や「サービスの質の保証」として明
確にされていること
社会福祉施設という「組織」とは

組織目標の達成のために「6つの要素」へ対応する


人 ・ モノ ・ 金 ・ 戦略&戦術 ・ 風土 ・ 情報
組織類型

ヒエラルヒー組織



上下関係が厳格=権限が明確
役割分担が明確=責任の所在
ネットワーク組織


横のつながりで仕事をする=多職種協働
仕事の内容によりスタッフが変化する
あなたのポジションの確認
1.
組織類型はどちらか
2.
ポジションは


3.
タテ=トップ(施設長)、ミドル(係長)、ローヤー(平社員)
ヨコ=チェアマン(委員長)、リーダー(部門長)、スタッフ
権限と裁量/責任と義務

自由にできること、できないこと
注: 組織で起こる「社会的ジレンマ」





個人の自由な意思で「協力」か「非協力」かの選択可能な
状況で、
「非協力」を選択した方が「協力」を選択するよりも個人に
とって有利な結果が得られると思われるとき、
全員が「非協力」を選択したとする。
その場合、結果として全員が「協力」を選択した場合より
も悪い事態になってしまうことである。
業務がきついのでみんなで楽をすると、結果的に職
場が悪化し、評判が落ち、みんなが苦労する。
ジレンマ解消方法①

構造変革的アプローチ



このアプローチの特徴




協力行動をとる人に報酬を与える
非協力行動をとる人に罰則を与える
賞や罰がなくなってしまうと、再び非協力的行動が増加する
「ただ乗り」を監視し、罰金などの制裁をくわえ行動を制限しようとす
ると、監視にかかるコストがかさむことになる。
結果的に、全体の利益が損なわれ、新たなジレンマが生じる。
能力主義による職場で実施されている「勤務評価・査定」とい
う仕組みに一例をとることができるアプローチ
ジレンマ解消方法②

態度変容的アプローチ

メンバー間のコミュニケーションを促進することで全体に
対する信頼感や連帯感を高めようとするもの。

職場で推進しようとする事業に協力する人の割合が
一定以上になれば、協力する人がしだいに増え、
逆に、一定率を下回れば減少していく

要は「協力しても大丈夫」と職員の大勢に思わせる
ことを重視するものである。
ジレンマ解消のためのヒント




集団で問題を解決しようとすると、極端な意見になる場合
がある
単純に分けられただけの集団でも、「内集団びいき」が生
じる。
個人の利益を追求することで集団全体の利益を損ない、
それによって個人も不利益を受ける事態=「ジレンマ事
態」が生じる。
社会的ジレンマを解消するには、「ジレンマの構造」
を変えるか、「メンバーの態度」を変えるか、さらに
「相互作用」させるかである。
演習2: 組織の内部・外部環境
外部環境
利用者とその家族等
役員会

職場の組織図を
描きましょう。

あなたのポジショ
ンを確認しましょ
う。

業務の流れを確
認しましょう
内部環境
管理職
実習担当委員会
他部署①
実習指導者
他部署②
所属する部署
養成校等
地域
二次的実習受入組織
「実習指導者」が抱えている課題

「実習指導者として困っていること」を20項目づ
つ抽出

抽出された課題をKJ法により分類

「実習マネジメント」の課題は複雑・多岐

課題解決のためには


課題を具体的にする
課題解決の視点を明らかにする
「個人的なつながり」による実習受入
「好きでやっているんでしょ」というウワサ
 他者・他部門からの無理解
 組織ルールに反映されない
 「抱え込み」
 「負担増」
 後始末の大変さ

こうした状況に耐えられる?
=自己理解(セルフ・マネジメント)
「理屈」以上に「現実」がある

「業務上の負担が増すかもしれない」
を解消しなければ、
「他部署に実習生の受け入れをお願いできない」

「なぜ業務がそこまで忙しいのか?」



業務改善の道筋は?
戦略、戦術
マンパワーの確保・育成~人脈、人数、質
正職は「業務カバー」に負われる
 「忙しい・余裕がない」という他部署
 配慮から納得へ
 「穴が開く」という不安
 その後が「埋められない」という不安
 穴を埋められる仕組み
 穴が空かない仕組み
「余裕の無さ」と
「サービスの質の低下」との悪循環

上層部による「無計画」な実習生受入


「不本意」で「不安」を抱えながら実習生を受入


「不透明」で「場当たり的」
「無計画」で「目的・ねらい」が「未伝達」
「悪循環」が生じている職場で
「消極的な意見」が大勢を占める

「負担感」の増加から本務上でミスが増える
顕著な 「コミュニケーション」「信頼関係」
「柔軟さ(余裕)」の不足



「正社員」と「非常勤・パート」の格差・・・身分
「福祉職」と「医療職」と「事務職」との格差・・・職種
「相談員」と「管理・経営者」との格差・・・職階
【対応策?】



相手(経営側、他職種)の作戦に耳を傾ける
相手の理屈に対応する(=対立ではない)
「一職種一人」に代表される福祉職場の
特殊性(=中小企業的特性)にみあう手法
今後必要とされるツールや指標





「業務の滞り」を解消する方法
「実習終了後のアフターフォロー」の技法
実習受入に関する利用者やその家族等への
説明時「パンフレット」や「しおり」などのモデル
実習受入側の施設要件や実習指導者要件を
発展させた、より具体的な実習生受け入れの
「基準」
「実習生受け入れ拒否」の根拠・論拠
仕事をマネジメントするという視点

福祉サービスを提供する時、質の高いサービスが求められ
ている

質の高いサービスを効果的・効率的に提供するためには
「ルールに基づくつながり(=システム)」が必要である

マネジメントは、質の高いサービスを効果的・効率的に提供
するための調整機能である

通常業務も実習・ボランティア受入も、質の高いサービスを
効果的・効率的に提供するためにはマネジメントが必要であ
る
なぜ「システム」が必要か

個人として「抱え込まない」

チームとして「喜びを共有し、負担を分散する」

組織として実情を内外に明確に示す(情報公開)




法令遵守(コンプライアンス)
自己評価
第三者評価
監督官庁
「システム」が機能するための前提条件

職員の「不安」「負担感」の解消につながる

業務としての認識づくり

業務調整~「報告・連絡・相談」と「フィードバック」

担当者不在時への一時対応体制づくり~リスク・・・
今回の参加者像と技法の焦点

生活相談員等相談援助・橋渡し職
・・・ ソーシャルワークにいう「直接援助」と「間連援助」
↓
マネジメント

介護職
・・・ 介護福祉士養成課程にいう「コミュニケーション技術」
ソーシャルワークの人間観

根本的価値 ・・・ 人権と社会正義

中核的価値 ・・・ 人間の社会性
変化の可能性
手段的価値 ・・・ 援助関係(バイステックの原則)
バイステックの原則
個別化:一人ひとりの固有性を認める
 意図的な感情表出:利用者の否定的な感情も認める
 統制された情緒的関与:利用者の感情を受け止め、共感を示

すが、個人的な感情をコントロールする

受 容:今ここでの利用者の状態・情動・感情・脈略をそのまま受け止
める
非審判的態度:利用者を非難したり、裁くような態度を示さない
 自己決定
 秘密の保持

「サイン」を読み取る①
(事例) 障害のある内向的な児童が、職員に「おしっ
こ」とたびたび訴える。トイレに行くが、おしっこは出
ない。でも、すぐ再び・・・「おしっこ!」と。
Q1:何のサイン?
Q2:何から手をつける?
Q3:どのように記録し、評価する?
「サイン」を読み取る②
(事例)介護老人施設に入所している治夫さん(83歳)
が猛烈に怒って、大声を出している。私は、どうして
よいのか困ってしまった。
Q1:「怒っていた」のはホント?
Q2:起こっていたのは何?・・考えられる「行動」は?
Q3:どのように記録し、評価する?
6W2Hの記録を






When(いつ)
Where(どこで)
Who(だれが)
What(なにを)
Why(なぜ、どのような目的で)
How(どのように、どうやって)
 Whom
 How
・・・ 誰との関係で
long ago ・・・ どのくらい前から
記録の役割






備忘録としての役割
状況や問題の明確化の役割
確認と修正のための役割
評価や効果測定のための役割
共有される資料・証拠としての役割
調査・研究の資料としての役割
専門職が行う行為の客観性を示す重要なものであり
プライバシー保護という条件つきではあるが、
専門職と関係者とのコミュニケーションの媒体手段でもある
演習4-1:聴く技法の確認
利用者との距離・姿勢










表情 :喜怒哀楽
視線 :強さ・弱さ、見下ろし、見下げ
動作 :身振り、手振り
姿勢 :腕組み、足組み
身体接触 :手を握る、体を触る
距離 :向かい合う、横に座る
声の調子 :トーン、大きさ
抑揚 :語尾の上げ下げ
間 :沈黙、言葉と言葉の間隔
速さ :話ののばし方、ちじめ方
出典:山田容(2003)
かかわり行動
出典:SW演習教材開発研究会(2008)
行動
促進
阻害
視線
・相手を見る
・内容や状況に応じた自然な視線
・視線が外れる
・キョロキョロする
・凝視する
表情
・やわらかい自然な表情
・自然な微笑み
・こわばった顔つき
・無表情
身ぶり
・リラックスしたポーズや動作
・相手の方を向く
・わずかに状態を傾ける
・自然なうなずき
・固い姿勢
・大げさなジェスチャー
・自己接触行動や反復行動
声の調子
・温かみのあるやや低めの声
・ゆったりとした話し方
・状況にふさわしい言葉遣い
・ためらいがちな話し方
・甲高いトーン
・事務的な口調
応答
・相手の話に関心を向ける
・相手の反応に合わせた反応
・早合点な応答
・話をそらしたり誘導したりする
・沈黙に耐えかねる
マイクロ技法
の階層
出典:アレン・E, アイビイ
/福原真知子(1985)
技法
の
統合
第四層
積極技法
指示・説明・自己開示
第三層
基本的傾聴の連鎖
質問・励まし・反映・要約
第二層
かかわり行動
受容的・共感的な基本的態度
第一層
基本的応答技法①

内容の反射に関するもの

単純な反射:利用者の言葉をそのまま返す

言い換え:利用者の言葉を相談者の言葉に言い換えて反
射する

要

明確化:利用者が語ったことを明確にして示す
約:利用者が語ったことを要約して返す
出典:山辺朗子(2003)
基本的応答技法②

感情の反射に関するもの

感情の反射 :利用者が語った感情をそのまま反射する

感情の受容 :利用者が語った感情を受け入れ反射する

感情の明確化:利用者の語った感情を明確にして示す
出典:山辺朗子(2003)
基本的応答技法③

適切な質問

開いた質問:質問に答えることによって、多くのことが語れるような質
問

閉じた質問:はい、いいえ、あるいは答えが一つであるような質問

状況に即した質問:面接の流れに合致した質問

避けるべき質問の認識:
出典:山辺朗子(2003)
基本的応答技法④

情緒的な支持



利用者を支えるようなメッセージ
利用者の健康さや強さを認めるようなメッセージ
直接的なメッセージ



I(アイ)メッセージ
「私は」で始まる直接的主観的なメッセージ
メッセージを一般化するのではなく、一人の人間としての
ワーカーの思いを直接伝える
出典:山辺朗子(2003)
ナラティブ・アプローチ






社会構造主義の考え方をソーシャルワーク実践に
応用した
「意味をつくりだす主体 」は利用者自身である
利用者が語る内容にこそ、利用者の本当の姿が
あると確信する
「物語(ナラティブ)としての自己」を尊重する
利用者の問題の本質はワーカーが決めるのでは
なく、利用者本人が決めるものである
利用者の自己決定のための手段として、利用者本
人が語るストーリーを理解することを重視する
ナラティブ・アプローチの特徴






文化的な感性が高く、ジェンダーや文化、社会・経済的文脈
による利用者の世界観を形成するあり方に耳を傾ける。
ナラティブ・アプローチの根底にある人間性に対する見解は、
人間というものは複雑で多面性を持っているということ。
第一の目標は、利用者が自らの人生を構成するストーリーを
理解することであり、そのストーリーを広げ変化させること。
真実となりうる利用者の人生の別な側面を、利用者が見つ
け出すよう援助することを伴う。
ワーカーとの共同作業によって利用者は、袋小路から脱出し
て選択肢や方法を見つけ出すことができる。
ナラティブ・アプローチでは、問題に焦点をあてているときに
は無視してしまっていた、利用者がすでに所有し、使ってい
る強さを利用者が認識し、動員することを助ける。
ナラティブ・アプローチの技法





ワーカーは、利用者の狭いものの見方を変化させるための
疑問をはさみ、徐々に利用者がこれまでナラティブから脱出
するよう見届ける。
一方、ワーカーから指針を示すことはぜず、かつ、新たなナ
ラティブの構築プロセスに関する構造についても、ほとんど
提供しない。
過度に指令を与えたり技術が優先されることがなく、具体的
な実践を示したり、プロセスの段階の輪郭を、利用者本人が
描くので、教育的であり実践的である。
ナラティブ・アプローチでは、アセスメントを進行的で絶えず
変化するプロセスであるとみなす。
ソーシャルワークのすべての関わり期間で、常に変化を期待
しているので、実践における「アセスメント」段階と「トリートメ
ント」段階とを区別をしない。
演習5:
「ウソ」あるいは「秘密にすること」は、許されるか
Q1.「あなたは癌です。余命約半年です。」を告げるか否か。告
げるときの条件は。
⇒インフォームド・コンセント
Q2.「あなたの遺伝上の父は犯罪者です。」を告げるか否か、
告げるときの条件は。
⇒真実告知(テリング)
援助者に必要な「7つの力」

捉える力: “何かがある”という意識と視点

気づく力: “360度の視界”と“感度の高いアンテナ”

考える力: 問題の本質を掘り下げる

整理する力: “様々な引き出し”

まとめる力: 様々な意見や考えから“合意”を得る

伝える力: 他者に大切なことを伝える・知らせる・納得させる

ふり返る力: 全体をふり返り、反省し、評価し、点検する
【参考文献】







岡田 誠監修(2010)『相談援助でお悩みのあなたへ』久美出版
山田 容(2003)『『ワークブック社会福祉援助技術演習① 対人援助の
基礎』ミネルヴァ書房
山辺朗子(2003)『ワークブック社会福祉援助技術演習② 個人との
ソーシャルワーク』ミネルヴァ書房
対人援助実践研究会(2003)『77のワークで学ぶ対人援助ワークブッ
ク』久美出版
福祉臨床シリーズ編集委員会編(2009)『相談援助の理論と方法Ⅰ・
Ⅱ』弘文堂
日本社会福祉士養成校協会監修(2009)『社会福祉士相談援助演習』
中央法規
日本社会福祉士養成校協会監修(2009)『相談援助演習教員テキスト』
中央法規