2)個人的倫理と社会的倫理

コミュニケーション ダイナミクス
担当者
総合政策学部
深谷昌弘
第II部
新しい言語・コミュニケーション論
人間社会の諸現象は意味の社会的編成と
深く関わっている。ここでは、意味の社会的ダ
イナミズムを取り扱うためにSFCで開発されて
きた言語・コミュニケーション論(意味づけ論)を
概説する。
(1)会話モデル
(2)創造と迷走:意味の不確定性
(3)会話を支える意味の共有感覚:
意味づけにおける共有の秩序性
(2)
創造と迷走:意味の不確定性
意味づけ論の会話モデル
コトバ
Aの情況編成
Bの情況編成
記憶連鎖の引き込み合い
記憶連鎖の引き込み合い
コトバからの事態構成
コトバからの事態構成
コトバへの事態構成
コトバへの事態構成
理解の相・応答の相
理解の相・応答の相
コトバ
意味の不確定性
(1)情況依存性(多義性)
(2)履歴変容性(経験依存)
(3)不可知性(暗黙知・潜在記憶)
(4)主体間多様性(記憶の差異)
この不確定性によってコトバは共有しても
意味は共有できない!
意味の不確定性は
会話の成立問題を浮上させる
特に、四つの不確定性のうち、
(1)多義性(情況依存)
(2)多様性(主体固有の記憶・主体間差異)
は、
会話相手である他者にとっての意味をどうして
理解できるのか、意味に齟齬が生じた場合
どうやってそれを調整できるのか、などの問題
発生させます
会話は意味の不確定性が二重奏で進展するプロセス
会話はどうして成立するのか?
おさえておくべきこと
われわれは言語体系全体についての意味の
コード表を共有していない
意味づけは記憶連鎖の引き込み合いでなされる
その意味づけには
多様性と多義性の不確定性がある
会話はどうして成立するのか?
おさえておくべきことーつづきー
話し手のコトバの意味は話し手の
情況編成の中で情況とともに編成される
聞き手は自らの情況編成の中で話し手の情
況とコトバの意味を理解しなければ
ならない
それができなければ適切な応答もできない
ダブル・コンティンジェンシー再燃
話し手の情況もコトバの意味も
話し手の心の中で記憶連鎖の
引き込み合いによって編成される
聞き手は自らの記憶連鎖を引き込み
合わせて話し手の情況とコトバを理解
するほかない
しかし
聞き手は自らの情況編成において
話し手の情況もコトバの意味も
再現できないはずである
他者の記憶連鎖は使えない!
コトバは共有されても
意味は共有されない
意味が噛み合って進展しなければ
会話は成立しない!
( チグハグ
二人の幼稚園児 今日は暑い! 鉛筆ある? )
コトバの意味が噛み合って進展するには
お互いが相手のコトバの意味を理解することが
不可欠なはずである
だが、
コトバは共有されても意味は共有されない
この命題を原理的に受け入れなければならないと
すれば、会話の成立は保証されてないことになる
ダブル・コンティンジェンシー問題が再燃する
他者のコトバを理解することとは
どういうことなのか?
他者の記憶連鎖を使用できない以上、
自らの情況編成において他者情況を再現する
ことはできない
したがって、他者のコトバの意味も再現できない
では、会話の成立に不可欠な、
他者情況や他者のコトバの意味を理解することとは
どういうことなのだろうか?
聞き手がなさねばならないことは
他者の情況の中で
コトバが担う意味を理解することである
この作業を自らの情況編成の中で
自らの記憶連鎖をつかって
遂行しなければならない
われわれはこの作業を
そこそこに成し遂げているのである
聞き手は
辻褄合わせを志向した情況編成の中で
他者情況を忖度しつつ
コトバからの事態構成をする
この情況編成の理解の相には
態度・表情把握
意図把握
内容把握(狭義:コトバの意味)
が含まれ、三者間にも辻褄合わせが図られる
他者理解とは他者情況の忖度である
他者情況の忖度は
さまざまな情報とコトバからの事態構成と
によってなされる
だがそれは他者情況や他者のコトバの
意味と全く同一なわけではない
辻褄合わせとコトバの働きによって
そこそこに意味が噛み合うのである