PowerPoint プレゼンテーション

チンパンジー幼児における活動空間の発達
Development of spatial activity in a young chimpanzee
福永恭啓 (滋賀県立大学 人間文化学部)
要旨
天王寺動物園で飼育されているチンパンジー母子を対象に、母子間距離を指標として母親を中心としたコドモの活動空間の発達を調べ
た。これまでの研究の多くは水平方向の母子間距離を扱ったものであったが、今回、垂直方向にも着目してデータを取ると、チンパンジー
の子どもは2歳8ヶ月ごろまで母親の上方空間を下方空間より選好することと、母親から水平に分離する頻度が垂直に比べて高いことが
示唆された。
はじめに
方法
対象個体:天王寺動物園のチンパンジー母子一組
母子間距離を基準にした従来の研究
母親アップル(24歳)ー子供レモン(03年10月生まれ第一子)
→水平方向の母子間距離の広がりに着目した水平
型
オス2頭・メス3頭と同居(オスは一日交代で放飼)
チンパンジーの活動空間→樹上も含んだ立体的な空間
調査期間:2006年1月〜現在進行中
→水平型に加えて垂直方向の広がりを調べる必要性
調査方法;放飼場の平面図と縦断面
図
を用いて母子の位置を記
録
し、垂直と水の母子間距
離
を5分間隔の瞬間サンプ
リ
ングで算定した。
本研究
→水平方向に加えて垂直方向も考慮した母子間距離
の立体的な広がりを考慮。
レモンとアップル
結果
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観察期間
2006年2月〜11月
総観察時間468時間
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レモンは27ヶ月の時点で母親
の上部空間を多く利用した。その
頻度は下部空間に比べて約2倍
の利用率を示している。その後、
下部空間の利用頻度が増え3
4ヶ月以降の利用率は上部と下
部ともに50%付近で拮抗し差が
見られなくなった。
母子が10cm以上離れた頻度
を水平と垂直で比較した場合、
全期間を通して水平へ離れる頻
度が垂直へ離れる頻度を上回っ
た。
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20.64032698
放飼場の設計図(詳しくは下に貼付け
てある図を参照)から垂直空間を高さご
とに上部・中部・下部に分けて、高度ご
との母親の利用頻度を調べた。
→母親は放飼場の高い高度を好んで
利用し、上部の利用率は約50%だっ
た。このことから、母親が低い高度を多
く利用したため、子どもが母親の上部を
多く利用したのではないかという仮説
が打ち消される。
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考察
母親の利用高度(下の図面を参照)を見ると母親は高い高度を好んで利用している。したがって、アカンボウ(レモン)に
とっては母親の下方に行く期待率が大きい。にもかかわらず、アカンボウは33ヶ月まで母親の上方空間を選好している。こ
のことから、チンパンジーのアカンボウを母親の上に行くことを選ばせる何らかの要因があることが示唆された。母親を基準
としたレモンの水平垂直の空間利用率にも差が見られ、コドモは母親からの分離において母親と同じ水平空間を垂直空間
より好むことが示唆された。以上よりコドモは母親から離れるとき、母親を基準に、まず水平空間、つぎに上方空間を選好す
ることが示唆される。
レモンは36ヶ月ぐらいまで、母親がグルーミングや休息で一定場所にとどまっているときのみ母親から5m以上離れること
があった。また母親から離れている場合でも、母親が動き出すとレモンは母親の元に駆け戻り母親に従って行動していた。
このことから、レモンは36ヶ月までは母親の行動を常に確認して行動していたと予想される。母親は上部の棚にいることが
多かったため、棚にいる母親を下から見上げたのでは母親の存在を確認しづらい。逆に母親より上の空間や同じ水平面上
であれば母親の存在の確認は容易になる。アカンボウの活動空間の広がりに母親の見え方が関わった可能性がある。
謝辞
この研究を進めるにあたって、天王寺動物園の皆様、とりわけ、類人猿担当の早川篤
さん、中島野恵さんや、滋賀県立大学の黒田末壽先生、竹下秀子先生、明和政子先生
には色々な面でお世話になりました。この場をお借りしてお礼申し上げます。