エコイノベーションと未来を見る視点 安井 至 東京大学名誉教授、国際連合大学名誉副学長 (独)製品評価技術基盤機構理事長 http://www.yasuienv.net/ 1 そもそもイノベーションとは? Innovation:Innovateの名詞 「In = make」 + 「novus = new」 Renewという言葉に近く、全く何もないところに何か を創ることではないかもしれない Renewは、古いものを壊して、新しいものを創る =「改革」、「革新」に近い 日本だと、Innovation=技術革新(1958年経済白 書)と訳されるが、技術だけでは意味が狭すぎる それなら、何を革新するのだろうか? 2 科学技術白書(2006年版) オーストリアの経済学者、シュンペーター(1883 1950)によって初めて定義された。その著書「経済発 展の理論」 (1912)の中で、経済発展は、人口増加 や気候変動などの外的な要因よりも、イノベーション のような内的な要因が主要な役割を果たす。 イノベーションの例として、 駆動力は? (1)創造的活動による新製品開発・・・ 技術かも! (2)新生産方法の導入 ・・・ 技術だろう! (3)新マーケットの開拓 ・・・ 欲求の開拓か??? (4)新たな資源の獲得 ・・・ ??? 技術も貢献? (5)組織の改革 ・・・ ??? 3 内閣府の「イノベーション25」 2007年6月 「イノベーションとは、技術の革新にとどまらず、これ までとは全く違った新しい考え方、仕組みを取り入 れて、新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化 を起こすこと」 それには、 これまでの「個別産業育成型」「政府牽引型」から 国民一人ひとりの自由な発想と意欲的・挑戦的な取り組 みを支援する「環境整備型」へ 「地球温暖化問題への対応など、地球的課題があ ることも忘れてはならない。20世紀型の経済発展 の手法では21世紀の今日、もはや地球の持続可 能性を脅かす課題への適切な対応が困難」 4 環境基本計画 現在、作成中 イノベーションの個人的理解 Stage1:なんらかの価値の創造 Stage2:社会への実装 Stage3:人々の考え方に変革 価値=「新規な製品、技術、サービス、価値観 、思想、習慣、生活感、教養、科学などなど」 質問?:生活習慣などで、過去何年かで、もっ とも「大きく変わったなあ」、と思われることは 何ですか。人類史的にみて、その意味は? 5 人類史的イノベーションの実例は何か? 火を使いこなす、調理をして食べる、農業の発明、酒の発明 材料=石器、土器、鉄器、織物、紙、ガラス 文字の発明、哲学・宗教・数学の発明 法律などの社会的システム(ローマ法?) 天体望遠鏡→天文学(観察)→哲学から科学へ 印刷による知識・記録の普及 化石燃料、エネルギー、熱力学、触媒(空中窒素固定) 移動:船の実用化、自動車の大量生産、飛行機の実用化 電力供給の実現、テレビ・冷蔵庫・洗濯機の普及 プラスチックと石油化学 医薬品、外科手術、抗生物質 人工衛星、衛星画像での天気予報、カーナビ 微細化技術、特に、半導体、部品など インターネットの普及、 Googleの検索エンジン 携帯電話の実用化、ウォークマン、電池の発明・進化 6 イノベーションのための7つの機会 from 「イノベーションと企業家精神」 by P.F.ドラッカー(1985) 予期せぬ成功、失敗を利用する 現実にあるものとあるべきものとのギャップ ニーズを見つける 産業構造の変化を知る 人口構造の変化に着目する 認識(ものの見方、感じ方、考え方)の変化を とらえる 新しい知識を利用する 7 破壊的技術とイノベーション from イノベーションのジレンマ を変形 by Clayton M. Christensen (2001) 確立された技術 銀塩写真 固定電話 ノートパソコン オフセット印刷 デスクトップパソコン 電力会社 旅行代理店 証券会社 破壊的技術 デジタル写真 携帯電話 スマートフォン デジタル印刷 iPad、タブレット 分散発電 (自然エネ・燃料電池) ネット予約 ネット証券 8 エコ・イノベーションとは何か? 9 環境問題はリスク対応 ローカル・リスク(日本) 公害 ダイオキシン 環境ホルモン BSE ....... 地球規模のリスク 気候変動 人口問題 資源問題 食料供給 新興感染症 ....... 埋立地不足 | 1970 | 1980 | 1990 | 2000 | | | 2010 2020 2030 10 地球環境問題事始め 1972年 国際連合人間環境会議 ない地球」 まだSustainable Developmentという文字はない 日本は、中国的な経済成長の副作用による水俣病から公害国 会(1970年11月)から石油ショックへ(1973年) Sustainable Development=“development that meets the needs of the present without compromising the ability of future generations to meet their own needs.” 未来世代の権利を認めること しかし、実際には、今後、発展する途上国の権利を認めること 日本は絶好調、Japan As Number One 今の韓国なみか 1992年 リオの地球サミット Agenda21 国際情勢 Principle 6 The discharge of toxic substances or of other substances and the release of heat,,,,,,, 1987年 ブルントラント委員会 Our Common Future 「かけがえの 1989: ベルリンの 壁崩壊 1991: ソ連邦崩壊 日本はバブルの終わりで変調へ。 11 1990年ごろからの動向 1989年 1991年 1992年 1994年 1997年 ベルリンの壁崩壊 ソ連邦崩壊 EUの成立 生物多様性条約発効 京都議定書合意 2000年 2002年 2002年 2004年 2008年 2010年 2010年 ミレニアムサミット ヨハネスブルグサミット 日本、京都議定書批准 ロシアが批准して発効 第一次約束期間 生物多様性条約 名古屋 気候変動 カンクン 拡 大 期 縮 小 期 若干 復活 世 界 の 環 境 マ イ ン ド 12 双子の環境関連条約と日本の3都市名 気候変動枠組条約 UNFCCC 生物多様性条約 CBD いずれもその起源は1992年のリオの地球サ ミットにある CBDは、リオで調印が開始された 1993年12月29日に発効 2010年、愛知ターゲット、名古屋議定書 UNFCCは、 1997年COP3で京都議定書 2005年2月16日に発効 二つの国際条約の背景 人間活動の大幅な拡大 特に、人口の増加 圧倒的な化石燃料使用量の増加 自然破壊と土地利用形態の変化 短期的な視野での利益拡大の金融 未来の割引率が高いことを良しとする経営 過去12000年間の世界人口 7000 6000 5000 20th C. 4000 定住型農業 3000 2000 19th C. 1000 0 -12000 -10000 -8000 -6000 BC -4000 -2000 0 2000 AD 18th C. 4000 国連の人口予測 12000000 10000000 8000000 中位予測 上位予測 下位予測 6000000 4000000 2000000 2050 2040 2030 2020 2010 2000 1990 1980 1970 1960 1950 0 16 140000 120000 100000 Korea Japan Italy Ukraine Uganda 80000 60000 40000 20000 0 1950 1970 1990 2010 2030 2050 17 1600000 1400000 1200000 1000000 USA India China 800000 600000 400000 200000 0 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 2020 2030 2040 2050 18 出生率 =出生数/1000人 19 二酸化炭素排出の歴史的推移 Million 人口の増加とCO2 Year 生物多様性とは何かを考える 22 ミレニアムアセスメント=MA 2001年~2005年 国連 生態系・生態系サービスの変化が人間生 活に与える影響を評価するため、それらの 現状と動向・未来シナリオ作成・対策選択 肢の展望について分析を行っている。 世界95カ国から約1,360人の専門家が参 加し、日本からは国立環境研究所が参加 した。 23 生態系サービスとは 1)供給サービス 2)調整サービス 気候、水質、廃棄物分解などの調整 3)文化サービス 食料、水、木材、繊維、燃料などの供給 精神的充足、美的楽しみ、レクリエーション 4)基盤サービス 光合成、土壌形成、伝染病制御など 24 過去50年での変化 生態系サービスが確実に低下したもの 漁獲量 木質燃料 遺伝資源 淡水 災害防止、特に、雨水の吸収 25 森林地帯 26 森林 減少中、増加中 27 地中海性気候の樹林 温帯ステップの疎林 温帯広葉樹林 熱帯・亜熱帯乾性広葉樹林 氾濫草原、サバンナ 熱帯・亜熱帯サバンナ低木林 熱帯・亜熱帯針葉樹林 荒地・砂漠 山岳地の草原・低木林 熱帯・亜熱帯湿性広葉樹林 温帯針葉樹林 寒帯林 ツンドラ 28 生物多様性の劣化 地上生息種 海洋生息種 淡水生息種 全脊椎動物 29 生物種の数 菌・カビ 節足動物 原生動物 線虫 植物 擬軟体 甲殻類 脊椎動物 昆虫・多足類 30 気候変動 地球温暖化 31 洞爺湖サミットでの長期気候変動 我々は、2050年までに世界全体の排出量 の少なくとも50%の削減を達成する目標と いうビジョンを、UNFCCCのすべての締約 国と共有し、かつ、この目標をUNFCCCの 下での交渉において、これら諸国と共に 検討し、採択することを求める。 32 気候変動対策の未来を見る 2020年中期目標 ◆鳩山国連演説 2009年9月 2050年長期目標 ◆安倍G8演説 2007年7月 2020年 GHG25%削減(国内・国外) 2050年 GHG80%削減(国内&G8諸国) 2050年 GHG50%削減(世界) 環境省は15%程度が適切と考えている? 多くの関係者も、この数値は無理だと考えている? しかしダーバンCOP17次第 日本は少なくとも京都議定書単純延長には反対する? 33 2050年日本の排出量 14 なりゆき ケース エネルギー起源CO2排出量(米国エネルギー省 オークリッジ国立研究所,1965年まで表示) エネルギー起源CO2排出量(国際エネルギー機関) CO2排出量(億トンCO2) 12 エネルギー起源CO2排出量(環境省) 10 8 6 4 1990年 比80% 削減 2 0 1950 1970 1990 2010 2030 出典:国立環境研究所AIMプロジェクトチーム「中長期ロードマップを受けた音質効果ガス排出量の試算(再計算)」,H21,12,21.より作成 ★ 2050 34 3.11が変えた状況 東京電力が撮影した 津波に襲われている福島第一発電所 35 2050年日本の排出量 中長期ロードマップ小委員会 1200 350 300 250 200 150 運輸 100 50 0 産業 民生 2005 運輸 4割減 運輸 民生 産業 2050 最終エネルギー消費量 900 民生 1990年比 ▲8割 600 運輸 300 産業 産業 2005 CO2換算百万トン 石油換算百万トン 400 これが実現でき れば80%削減 が可能との試 算あり 0 2050 CO2排出量 3.11の事態を含まない 含めれば6割減か 出典:脱温暖化2050プロジェクトスナップショットモデルの試算結果より作成 36 経済発展に必要なエネルギー量 Costa Rica 2050 Japan 37 Energy Consumption / Capita 従来の経済発展と低炭素経済 先進国型 これは 相当難しい 途上国型 低炭素経済 5%経済成長には 5%エネルギー消費増大 節約型 仙人型 エコプレミアム型 GDP par Capita 38 エコイノベーションの最終目標 =究極の持続可能性とは何か 39 Herman Dalyの定義 1972年 学術的ハードSustainability もしくは、定常状態経済学 "再生可能な資源"の持続可能な利用の速度は, その供給源の再生速度を超えてはならない. "再生不可能な資源"の持続可能な利用の速度 は, 持続可能なペースで利用する再生可能な資 源へ転換する速度を越えてはならない. "汚染物質"の持続可能な排出速度は, 環境が そうした汚染物質を循環し, 吸収し, 無害化でき る速度を越えてはならない. 40 Herman Dalyの定義 1972年 学術的ハードSustainability “再生可能な資源”の持続可能な利用の速度は, その 供給源の再生速度を超えてはならない=木材・紙や薪 ・炭、漁獲量、水などの場合 “再生不可能な資源”の持続可能な利用の速度は, 持 続可能なペースで利用する再生可能な資源へ転換す る速度を越えてはならない=化石燃料・プラの場合 金属、鉱物資源などについては、適用不能だが、リユース・ 水平リサイクルが必要条件であることは明確 “汚染物質”の持続可能な排出速度は, 環境がそうした 汚染物質を循環し, 吸収し, 無害化できる速度を越えて はならない=公害型汚染物質、温室効果ガス、オゾン 層破壊物質、廃棄物 41 エコ・イノベーションのゴール 理想的な持続可能型商品とは???? 答えの一例、人の価値観によって異なる 再生可能なエネルギー、再生可能な素材を持 続可能な範囲内で使用する 持続可能な範囲内の使用であることを証明す る資料をWebなどに公開する 生物多様性に影響がある場合の補完措置とし て、保護区を設定し維持する 環境汚染は、ある地域~地球レベルのすべて の条件で、汚染が蓄積しない範囲内で済ませ る 42 今後の方向性を考える視点 環境問題の難しいところは、理想を一気に目 指すと、確実に挫折する。 そのため、 地球環境とのバランスを見つつ、軟着陸を目指 すこと。 何が軟着陸で、何が解決の方向でないかを見抜 く経験をもち、能力をさらに磨くこと。 短期的な視点での判断をできるだけ長期に拡大 すること。 未来に対する割引率をできるだけ小さくする。 43
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