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2.5 1/10 年確率以外の基準雨量への適応検討
2.5.1 各種確率密度関数での評価
我が国の河川における治水計画では、水文統計量の算出に複数の確率密度関数を用い、
サンプリングデータと最も適合する関数を SLSC※値で選定し、その関数での評価値を採用
することが行われている。一方、農業農村整備における基準降雨の評価では、確率密度関
数に岩井法を用いることが多い。
本検討では、河川分野で用いられる確率密度関数 13 種類を適用し、全国各地の最適な
確率密度関数での評価を行う。ただし、最終的には、以下に列挙した理由により、岩井法
での評価値を採用する。

各地点に最適な確率密度関数は、地点毎に異なったものが採択されると予想される。

ある地点に対する最適な確率密度関数を地域性と捉えることには、あまり意味がない。
特に本業務では、20 年間の気候変動段階毎に評価するため、サンプル数が 20 個しか
なく、これを 25 個、30 個とすることで採択される確率密度関数は異なるはずである。

また、隣接する地域で異なる確率密度関数が採択された場合、例えば 1/10 年確率雨量
の評価値は、空間的な連続性が確保できないと予想される。

農業農村整備の基準降雨検討においてよく採用される岩井法での評価が、他の評価結
果から大きく異なっていないかという確認のために、各種確率密度関数での評価を実
施する。
※SLSC 値:SLSC は、Standard least-squares criterion(標準最小二乗規準)の略であ
り、宝・高棹*が 1988 年に発表した水文データへの確率分布あてはめの適合度を評価する規
準であり、我が国の治水計画策定のプロセスにおいて一般的に使用されている指標である。
*宝馨、高棹琢馬:水文頻度解析における確率分布モデルの評価規準、土木学会論文集,
No.393/Ⅱ-9, pp.151-160, 1988
図 2-14
SLSC のイメージ図(出典:気象庁 HP)
2-17
<評価対象の水文統計のための確率密度関数:全 13 種類、岩井法含む>
① 指数分布(Exp)
② グンベル分布(Gumbel)
③ 平方根指数型最大値分布(SqrtEt)
④ 一般化局地分布(Gev)
⑤ 対数ピアソンⅢ型分布(実数空間法)(LP3Rs)
⑥ 対数ピアソンⅢ型分布(対数空間法)(LogP3)
⑦ 岩井法(Iwai)
⑧ 石原・高瀬法(IshiTaka)
⑨ 対数正規分布 3 母数クォンタイル法(LN3Q)
⑩ 対数正規分布 3 母数(SladeⅡ)(LN3PM)
⑪ 対数正規分布 2 母数(SladeⅠ,L 積率法)(LN2LM)
⑫ 対数正規分布 2 母数(SladeⅠ,積率法)(LN2PM)
⑬ 対数正規分布 4 母数(SladeⅣ,積率法)(LN4PM)
<具体的な評価手法>

各種水文統計値の評価には、(財)国土技術センターによる水文統計ユーティリティを用いる。

評価対象地点は図に示したような気象官署とする。

水文データは、1981 年~2009 年の気象官署における観測値とする。
図 2-15 気象官署位置図(各種確率密度関数評価対象地点)
2-18
各地点の岩井法による 1/10 確率雨量の評価結果を図に示す。
これより、岩井法による評価は他の 12 手法と比較して過大でも過小でもないため、全国的な確率雨量の評価手法として問題ないと判断できる。
350
岩井法による1/10確率雨量評価結果
300
1 3手法の最大値
1 3手法の最小値
200
全 国 平 均 値 166mm
150
100
50
北海道
東北
関東
東海
北陸
近畿
中国・四国
九州・沖縄
0
稚内
旭川
札幌
網走
室蘭
釧路
函館
青森
秋田
盛岡
仙台
山形
福島
水戸
宇都宮
前橋
熊谷
東京
千葉
横浜
長野
甲府
静岡
名古屋
岐阜
津
新潟
富山
金沢
福井
彦根
京都
大阪
神戸
奈良
和歌山
岡山
広島
松江
鳥取
徳島
高松
松山
高知
山口
福岡
大分
長崎
佐賀
熊本
宮崎
鹿児島
那覇
1/10確率雨量[mm/日]
250
図 2-16 各種確率密度関数での評価結果
2-19
2.5.2 岩井法による 20km メッシュの基準降雨評価
後の気候変動下における農業農村整備事業や農地への影響評価、適応策検討の為に、作
成した全国のメッシュ毎に岩井法で日雨量での基準降雨確率評価を行い、基準となる再現
期間ごとの日雨量分布図を作成した。
評価された各メッシュにおける確率規模別日雨量より、物部式により時間雨量データを
作成する。なお、時間雨量データを作成する地点は、後の適応策検討対象区域とする。
<作成した全国メッシュ毎の基準降雨評価の条件>

気候変動の段階は以下の 3 年代
○ 現在(1981 年~2009 年):実測データ
○ 近将来(2010 年~2030 年):補間データ
○ 将来(2031 年~2050 年):RCM20 による予測データ
※将来データは、気象変化予測に基づく日単位の気象予測データであるが、近将来デー
タは、実測データと RCM20 予測データから作成したデータであり、日単位の気象予測デ
ータとしての意味を持たない。

確率密度関数は岩井法を用いた

全国 1km メッシュの空間分布を作成

1/2 年、1/5 年、1/10 年、1/15 年、1/20 年、1/30 年、1/50 年について、確率雨量算
定
2-20
算定した確率雨量の評価結果をメッシュ図として作成した。次頁以降に結果を示す。
RCM20 の予測結果を用い、将来(2050 年)の 10 年確率雨量が現況の何年確率に相当す
るのかを整理した結果を図に示す。これより大部分のメッシュで将来(2050 年)の 10 年
確率雨量が現況の 50 年確率雨量以上となっていることがわかる。
図 2-17 将来の 1/10 確率雨量に相当する現況確率評価
2-21
図 2-18 現在(1981~2009 年)気候における 1/10 確率雨量の算定結果
2-22
図 2-19 近将来(2010~2030 年)気候における 1/10 確率雨量の算定結果
2-23
図 2-20 将来(2031~2050 年)気候における 1/10 確率雨量の算定結果
2-24
図 2-21 100 年後(2081~2100 年)気候における 1/10 確率雨量の算定結果
2-25
図 2-22 現在(1981~2009 年)気候における 1/5 確率雨量の算定結果
2-26
図 2-23 近将来(2010~2030 年)気候における 1/5 確率雨量の算定結果
2-27
図 2-24 将来(2031~2050 年)気候における 1/5 確率雨量の算定結果
2-28
図 2-25 100 年後(2081~2100 年)気候における 1/5 確率雨量の算定結果
2-29
図 2-26 現在(1981~2009 年)気候における 1/15 確率雨量の算定結果
2-30
図 2-27 近将来(2010~2030 年)気候における 1/15 確率雨量の算定結果
2-31
図 2-28 将来(2031~2050 年)気候における 1/15 確率雨量の算定結果
2-32
図 2-29 100 年後(2081~2100 年)気候における 1/15 確率雨量の算定結果
2-33