ランダムウォークの性質に

ランダムウォークの性質に
ついての大学生の直感的理解
寺尾敦・太田梨沙子・本仲ひより
青山学院大学社会情報学部
研究の背景
• 人間はランダム系列の性質を正しく理解して
いない.
– 短い系列であっても,大数の法則を期待してしま
う.ギャンブラーの錯誤.
– 人間が「ランダムな系列」と認識するのは,真のラ
ンダム系列(結果の交代確率が0.5)よりも高い交
代確率の系列である(Gilovich, Vallone, & Tversky, 1985).
研究の目的
• 大学生がランダム系列の性質をどのように理
解しているかを把握する.
– 本発表
• 1次元ランダムウォークの実験を通して,その
理解がどのように変化するかを明らかにする.
– 分析中
方法
• 参加者:
– 青山学院大学社会情報学部の1年生204名が,
必修科目「社会情報体験演習」での実習として,
ランダムウォークの課題に取り組んだ.
• 手続き(実習の手順):
– 100試行のランダムウォークの実験を,方法を変
えて3回行った.
– 最初の実験では,結果についての予測を行った
後で,実物のコインを100回投げた.
– 実験を行う前に,参加者は以下の予測を記述し
た.
1. 100試行のランダムウォークの軌跡がどのようになる
か,
2. 表と裏の出る割合はどれくらいになるか,
3. プラス側にいた時間とマイナス側にいた時間の割合
はどれぐらいになるか.
ランダムウォークの描画
結果と考察
• ランダムウォークの軌跡
– 学生が描いたランダムウォークの軌跡での,正負
の交代回数(原点を横切った回数)をカウントした.
– 最小値は0回(8人),最大値は40回,中央値は7
回,平均値は8.2回,標準偏差は6.5回であった.
– 全長が 2n のランダムウォークの経路において,
経路の途中(最終点でもよい)でちょうどk回の原
点復帰が生じる確率:
1  2n  k 


2nk 
2
 n 
– ちょうど k 回の原点復帰が生じた系列では,正負
の交代回数は,k/2 である.
– 理論値と比べると,正負の交代回数は過大に予
測された.たとえば,交代回数が8回以下(中央
値が7回,平均値が8.2回であることに注意)とな
る確率はおよそ0.94であるが,線分を横切る回数
が9回以上の軌跡を描いた学生は,およそ30%
(66人)もいた.
• 表と裏の出る割合
– 表と裏の比についての回答から,表と裏で回数
が多い方の割合を計算した.この割合の最小値
は50%,最大値は80%,中央値は51%,平均値は
55%,標準偏差は6%であった.期待値はもちろん
50%である.
– 予測割合が50%であった学生は102人(50.0%)で
あった.それ以外の回答をした学生は,ぴったり
50%という割合を不自然だと感じ、多少ずらしたと
考える.
• 正領域および負領域にいる時間の割合
– 両領域の比の予測の回答から、大きい方の割合
で計算.最小値は50%、最大値は100%、中央値
は60%、平均値は62%標準偏差は13%となった.
– 予測のランダムウォークの軌跡で計算.最小値
は50%、最大値は100%、中央値は59%、平均
値は64%、標準偏差は14%となった.
– いずれの計算方法でも類似した結果になった.
– 表裏の割合の予測よりばらつきが大きい.一部
の学生はこれらの割合の違いを直感的に認識で
きている.
正領域にいる割合の確率密度関数
1
f ( x) 
 x(1  x)
結論
• 1次元ランダムウォークでの正負の交代回数
(原点を横切る回数)についての直感は過大
である.
• 表と裏の割合についての直感的理解は妥当
である.ただし,1:1 という割合の予測を躊躇
する学生は多い.
• 正および負領域にいる時間の割合について
は,少なくとも一部の学生は,表裏の割合よ
りも偏ることを直感的に理解できている.