明利 ・ 小 川 酵 母 に よ る酒 造 りの か な め ―新 しい き ょ うか い 清 酒 酵 母 ― 明 利 ・小 川酵 母 を,今 秋(11月1日)よ り本 会 で 製 造 販 売 す る こと に な った。 そ こで本 稿 で は,こ の 酵 母 を開 発 され た 小 川 氏 に,本 酵 母 が 持 つ 諸 特 性,実 際 の 仕 込方 法 等 に つ い て,デ ー タ を も とに 解 説 願 った 。 品 質 の 多 様化 が呼 ばれ て い る昨 今,明 利 ・小 川 酵 母 が 全 国 に 配 布 され る よ うに な った こ と は,業 界 に と って 福 音 とい え よ う。 小 川 知 可 良/明 利酒類株式会社 は じ め に 詰 め るな ど して 高 く売 る こ とを 考 え て ほ しい 。 また 秋 に 田 県 の よ うに 吟 醸 酒 を 一 か 所 に 集 め て 一 つ の 銘 柄 で 売 り に,当 時東 北 大 学 農 学 部 の 教 授 を 出 す の も一 策 で あ る。 蔵 人 が 吟 醸 酒 つ く りの 技 術 を 身 に して お られ た 今 は 亡 き植 村定 治郎 先生 の助 言 を い た だ き つ け れ ば,蔵 の 主 人 が 望 む 酒 は どん な もの で もで き る筈 な が ら,私 が 東 北 六 県 の 清 酒醸 造 場 の も ろ み数 百 点 の 中 で あ る。 本 酵母 は 昭 和27年 か ら分離 した もの で,昭 和33年 頃 か ら茨 城 県 立 食 品 試 験 場 な らび に明 利 酒 類 株 式 会 社 に て製 造 販 売 して きた も の で あ る。 な お,吟 醸 酒 の 粕 は50%内 外 で 多 量 に で るが,こ の 粕 は粕 四 段 に 使 用 す れ ば そ れ だ け 原 価 は 安 くな る。 粕 は な るべ く新 しい もの で 上 槽 後1週 間 目位 の もの を 使 用 し このた び 日本 醸 造 協 会 か らの 欝懸 もあ り,昭 和52年 て も らい た い 。 普 通 も ろみ の 泡 の 軽 くな った 頃,地 に な 度 よ り 「き ょ うか い 酵 母 」 と して醸 造協 会 に お い て製 造 る2∼3日 販 売 す る ことに な り,全 国 の 酒 造 家 に 希望 に よ りお届 け し て追 水50lを す る こと に な った 。 け て しま っ て,粕 四 段 を しな い も ろみ と同 様 の 粕 歩 合 と 本 酵 母 の特 性 は,今 まで 使 用 され て き た どの 酵 母 よ り も酸 の 少 な い こと であ る。 また 吟 酸 香 も高 い こと で あ る。 もち ろ ん酸 度 は精 米 歩 合 に よ って 異 な るが,75%精 合 の もろ み で ア ル添 前 熟 成 時 に2.4cc内 歩 合 で2.2cc内 外,40∼50%精 米歩 外,70%精 米 前 に粕 四段 をす るが,こ の 際 粕100kgに な る。40∼50%と 明利,小 川 酵 母 に よ る吟 醸 仕 込 み に つ い て 関 東,東 北 地 方 の銘 醸 蔵 で'私 米 歩 合 で1.3∼1.4cc 母 に き ょ うか い 酵 母1本 位 の 使 用 で あ れ ば,庫 つ き の 酵母 も入 っ て くるで あ ろ うか ら 酸 度 も 原 醸 処 理 米 精 米歩 合 は50∼40%と (2)洗 酒 吟 醸 酒 は,精 米 歩 合40∼50%と (1)精 料 す る。 精 米 の枯 し期 間 は2避 間 か ら1か 月位 が好 ま しい 。 に な り,酸 の 少 ない こ とは 苦 に な らな い。 吟 な りに経 験 して きた ことを 順 を 追 っ, て記 述 して み る。 に 向 い て い るとい っ て も よい が,普 通 酒 で も(精 米歩 合 2.6cc位 精 米 歩 合 の 低 い 粕 で あ るた め 酒 質 は む しろ 向上 す る。 位 で あ る。 した が って 吟 醸 酒,純 米 酒,本 醸 造 酒 づ く り 75%)150kg酒 対 同時 に す る と,粕 は 上 槽 まで に 完 全 に 溶 米,浸 漬 洗 米 は 旅 で 手 洗す るが,吸 水 歩 合 の判 定 に 自信 の あ る 原料米を高度に磨い 方 は 洗 米 機 を使 用 して も よい。 浸 漬 水 の水 温 は10℃ 位 て つ くる酒 で あ るか ら,原 価 も他 の 酒 に 比 して 高 い。 単 が よろ し く,い つ の 浸 漬 で も水 温 を一 定 に して お くと次 に 鑑 評 会 に 出 品す るた めに の み つ くる こ とは,そ の蔵 の 回 に 何 分 何 秒 浸 漬 す れ ば よい か がわ か る。 吸水 歩 合 は こ 清 酒 の イ メー ン ・ア ップ には 貢 献 す るで あ ろ うが,せ か くよ くで きた 香 り高 い,味 っ ま ろや か な 吟 醸 酒 を1級 酒 に 混 ぜ て 売 る よ うな ことは しな い で,形 の 変 わ った 容 器 第72巻 第9号 う じ米,掛 米 と も山 田錦 等 の軟 質米 で24∼25%,高 等 の 硬 質 米 で26∼27%と 合 とな った とき は,布 嶺錦 す る。 も し これ 以上 の 吸水 歩 上 に 薄 く広 げ,30分 毎 に軽 く手 627 .入れ して乾 か し予 定 の吸 水 歩 合 にす れ ば よい 。 (3)む 種 こ うじ は2∼3種 し 使 用 量 は 翫 こ うじで70g/100kg,掛 こ しき に米 を置 く方 法 は抜 け かけ が よい 。 む し時 間 は 蒸 気 が抜 け てか ら25∼35分 10.kg程 に して精 米 歩 合が 小 と な る ほ ど時 間 を短 くす る。 こ しき で の吸 水 歩 合10%を とす れ ぽむ し上 り直 後 の 吸水 歩 合 は34∼37%の こ うじで50∼30g/ 度 が よい 。 前 述 の よ うな吸 水 歩 合 の む し米 で あ れ ば 時 間的 に老 な 理想 して も ハゼ 過 ぎ る よ うな こ とは な く,こ う じの香 りは 栗 も のが 香 を過 ぎ て しば ら く経 つ と茸 香 とな って く る。 この時 が で き る。 (4)こ 類 混 合 して 使 用 す るの が 無難 で, 出 麹 で あ る。 うじ (5)酒 こ う じづ く りは全 て の清 酒 に と っ て大 切 で あ るが,特 に 吟 醸 に おい て然 りで あ る。 母 高 温 糖 化 翫 で も速 醸 翫 で も よい が,酵 母 の 量 は な るべ く多 く,100kg?に 製 き くは 小 蓋 あ るい は 大 箱,床 こ う じ式 等 です る のが 対 して7∼8本 位 使 用す る。 酒 母 中 に多 量 の純 粋 酵母 を 繁 殖 させ るた め で あ る。 酵母 を 取 無 難 で あ る。 大 箱 あ るい は床 こ うじ式 に て製 き くす る場 寄 せ てか ら1か 月 以 上 経 った もの は 普 通 もの に廻 し,吟 合 は 普 通 も の の と き よ り堆 積 の厚 さを 薄 くす る。 こ うじ 醸 翫 には で き るだ け 新 しい もの を 使 用 す る。 こ こで は 速 製 造 経 過 例 に も あ る よ うに,時 間 的 に充 分 老 な して も ら ・ いたい 。 老 なす とい っ て も ハゼ 廻 りが 普 通 も の の よ うに 醸 翫 に つ い て述 べ る。 酒 母 用水 は 硬 水 で あ って も高 温 糖 .大と な っ ては 吟 醸 こ うじ では な い。 を 多 量 にす る と酒 緑 の泡 は 黄 ば んで く るが,酒 質 に影 響 長 野 産 高 嶺 錦 櫓な 等 米,精 米 歩 合45%,こ 化,速 醸 を問 わ ず カ リの 加 工 は 充 分 に す る。 カ リの加 工 し き 置 前 吸 水 率26.0%,む 仲 こ う じ 製 造 し 直 後1吸水 率36.3%,秤 経 過 こ う じ使 用 量40g/100kg 例 酒 母 製 造 経 過 例 628 醸 協 を 与 え る よ うな こと は な く差 支 え ない 。100kg翫 し て酸 性 燐 酸 カ リ150g以 に対 上 加 工 し,他 の加 工 は普 通? と同様 で よい 。 仕 込配 合 例 を示 す と次 の通 りで あ る。 総 米 100kg む し 米 70〃 こ う じ米 30〃 汲 水120l酸 乳 酸 性燐酸カリ 酸性燐酸石灰 食 塩 硫 酸 苦土 650cc 200g 60g 60g 10g 酵 母 は 必 ず 水 こ うじに 添 加す る。 多量 の 酵母 を 添加 す る ので 早 くふ くれ て くる 恐 れ が あ る た め2日 に 品温 を10℃ 日の 朝 ま で 以 下 とす る。 酒 母製 造 経過 例 で示 す よ う に,3日 目か らだ き を 入 れ て3℃ 上 げ,2℃ す と8日 目頃 に は 湧 付 とな り,10日 下 げ を繰 返 目に は 最 高 温17℃ を と り,ボ ー メ8度 位 とな った とき?分 け とな る。 泡 の 高 さは き ょ うか い7号 酵 母 と同 様 で あ る。 翫 分 け して か ら3∼4日 目に 使 用 す るが,こ の 位 の 枯 期 間 で は 最 高 温 が 低 い た めか 芳 香 は 見 られ な い 。5日 以 上 枯 らせ ば 吟 醸 香 が高 くな っ て くる。 高温 糖 化 酒 母 に つ い て は 萱 島 昭 二 氏1)が 本 誌 に 発 表 さ れ た育 成 論 を 参 照 され た い 。 (6)も ろ み もろ み は低 温 長 期 型 を ね ら う。 こ うじを 締 ま った 老 こ うじ と した の も,酒 母 用 水 に 充 分 加 工 し て強 健 に した の も,長 期 もろ み に堪 え る よ うにす るた め であ る。 仕込 配 合 の一 例を 示 す と次 の 通 りで あ る。 もろ み用 水 には 一切 加 工 しな い 。 添 は や や 高 く仕 込 み,ま た 汲 水 を 多 くして(120%位) 踊 は 泡 の 高 さ20∼30cm位 に な る よ う充 分 踊 ら せ る。 あ ま り踊 らな い と きは2日 間 踊 らせ る。 仲 は 普 通 もの と 全 じ く9℃ 位 に仕 込 む 。 留 は6.0℃ の 留 即 時 もろ み歩 合 が280∼300%に そ の後 品 温 の 急 昇 を 抑 え5日 で 仕 込 む が,こ の時 な る よ う汲 水 す る。 目に6.3℃ も ろ み 製 造 経 過 例 ∼6.5℃ 位 に し て もろ み の 発 酵 を ぐつ つか せ る。 も ろ み の 内容 は 酵 母 が 続 させ る。 も ろ みが 熟 しか か った 時 に ア ル添 を して2∼ 充 満 して 発 酵 し よ う し よ うとす る の を品 温 で 抑 え てい く 3時 間 後 に上 槽 す る。 完 全 に熟 させ て しま って は香 りは とい うこ とで あ る。 た だ し4∼5日 目の最 高 ボ ー メ が な くな っ て しま う。 熟 しか か った 時期 の 判 定 は 一 応 日 7.5度 以 上 あ る場 合 は この方 法 は とれ ない 。 この と き は 本 酒 度 の 切れ が 鈍 くな った こ とに よ って 目安 と して い る 12∼13日 が,ア 目に 最 高温 度10.0℃ に な る よ う管 理 す る。 最 高 ボ ー メ7度 内 外 の と きは15∼17日 ℃ に な る よ うに して,15日 目に 最 高 温 度10.0 目の ボ ー メが4.0∼3.5に る よ うに管 理 す る。20日 目に 日本 酒 度-20位 30日mに 第72巻 は-2∼+2位 第9号 な で あれ ば に な る。 最 高 温 度 は 最 後 まで 持 ミ ノ酸 度 の 分 析 値 よ りみ る とは っき りす る。 もろ み の末 期 の ア ミ ノ酸 度 は 一 定 で あ るが,熟 期 に は0.1∼0.05cc増 しか か った 時 して く る。 この とき が ア ル 添時 期 で あ る。 この よ うに もろ み を低 温 で 引 っぱ る と,い わ ゆ る吟 醸 629 香 が 高 くな って くる の は20日 目頃 か らで あ る。 も ろみ ●執 筆者 紹 介(順 不 同 ・敬称略) で 高か った 吟 醸 香 も上 槽 後 は薄 くな る のが 普 通 だ が,ア ル コー ル17.5%以 か ら20日 下 で 品 温10∼12℃ 位 に して2週 間 間 貯 蔵 して おけ ば 再 び 吟 醸 香 は 高 くな り,味 も丸 み を おび て くる。 む 伊 藤 寛(Itoh 昭 和4年9月4日 品 総 合 研 究 所,東 す 生(勤 務 先 とそ の所 在 地)農 林 省食 京 都 江 東 区塩 浜1-4-12(略 歴)28年 千 葉 大 学 農 芸 化 学 科 卒,東 京 医 科 歯科 大 学 中退,同 年食 び 糧 研 究 所 入 所,46年 1.明 HIROSHI) 利 ・小 川 酵 母 を 使 用 した 吟 醸 つ く りの 場 合 。 注 発 酵 食 品 部 は っ こ う生 産 研 究 室 長, 48年 応 用 微 生 物 部 微 生物 利 用 第1研 究 室 長 を 経 て現 在 に と して 従 来 の 生 産 手 段 に よ る方 法 に つ い て 記 述 した が, 至 る(現 在 の 仕 事 の 内 容 或 は 研 究 テ ー マ)麹 菌SCPの 近 年 大 きな 酒 造 場 で は 自動 む し米 機 あ るい は 自動 製 き く 生 産 に 関 す る研 究,醸 造酢 と合 成 酢 の鑑 別 法 の 確 立,発 機 が 設 備 され て い る。 この よ うな 設 備 で わ れ わ れ の 望 む 酵 食 品 の 製 造工 程 の 改 良 開発 に 関 す る研 究 く 大豆 の連 続 吟 醸 酒 が で き る か ど うか筆 者 も3∼4回 経 験 して み た が 高圧 蒸 煮 法 の検 討,等 外 米 の原 料 処 理 の 検 討>(抱 負) 何 れ も失 敗 した の で何 も触 れ な か っ た。 要 は望 む む し米 味 覚 の生 理 を酵 素 と電 気 生 理 学 的 立 場 か ら解 明 し,測 定 が 得 られず,し 機 器 を考 案 で きれ ば と考 え てい る(趣 味)健 康上 医 者 か たが って こ う じも 思 う よ うに な らな か っ た。 しか し今後 技 術 者 の 挽 まぬ 努 力 と創 意工 夫 に よ り遠 らす す め られ て テ ニ スを や って い る。 切 手蒐 集。 か ら じ立 派 な吟 醸 酒 が 醸 出 され る も の と思 う。 2.本 酵母 を普 通 も の に使 用 す る場 合,も を15∼16℃ ろ み の品 温 に す れ ば ア ル添 まで の 日数 は20日 る。 酸 が き ょ うか い7号,9号 位 とな よ り少 ない ので,吟 醸 酒 ば か りで な く本 醸 造 酒,純 米 酒 に 適 して い る。 文 献 1) 萱島昭二: 本誌, 63, 908 (1968) 湯川 茂 雄(Shigeo 明治35年12月31日 66-1<特 Yukawa) 生(住 所)東 に 勤 務 先 を 持 た ず,自 ンサ ル タ ン トと して 地 方 出 張>(略 京 都調 布 市 緑 ケ丘2由職 業 と し て,技 術 コ 歴)昭 和3年 東 京 大 学 農 学 部 農 芸 化 学 科 卒,藪 田 貞 次郎 教授 教 室 に 副 手 と し て約5年 指 導 を 受 け,そ の 後 東 京 市 内味 噌 業 者 工 場 に 勤 務,戦 後 味 噌 配 給 公 団 検 査 局 味 噌 部長,解 散 後 全 国 味 噌 技 術 会 理 事,現 在 に 至 る。(現 在 の 仕事 の 内容 或 は 研 究 テ ー マ)味 噌 醸 造 に 有 効 な 細 菌 を 添 加 し,早 期 に 天 然 醸 造 製 品 に 近 い 品 質 の 品 を 作 る研 究。 この研 究 の傍 ら,自 由職 業 と して 個 人 で 業 界 内 の 有 志 の工 場 の指 導 に 当 る。 (抱負)添 加 す る細 菌 の 種 類 を 検討 し,選 択 し,培 養方 法 を 研 究 し,天 然 醸 造 製 品 の 特 徴 を と らえた 品 を 作 りた い 。 この 希 望 を 満 た す た め に 余生 を か け た い 。(趣 味) 植 木<盆 栽>気 違 い と 自任 して い る。 全 国 出張 の 際,同 好 者 と交 際 し,株 の 分 譲,栽 培 方 法 の研 究 談 に花 を 咲せ て い る。 自宅 に 大 分 色 々 な品 質 有 。 次 ぎは 日曜 大工 の仕 事 で あ る。 凝 り性 な ので,買 い溜 めた 本 職 以上 の道 具 あ り,自 慢 に して い る。 但 し腕 の 方 は 未 熟 トタ ン細 工 も 好 きで あ る。 大 方 の もの は 自分 で 作 る。 小 川 知 可 良(Chikara 明 治42年1月13日 OGAwA) 生(勤 務 先 とそ の所 在 地)明 利 酒類 株 式 会 社,水 戸 市 元 吉 田 町338(略 歴)昭 和10年 東京 大 学 農 学 部 農 芸 化学 科卒,大 蔵 省 内勤 務19年 国 税 局,25∼29年 社 勤 務。(現 在 の仕 事)会 社 経 営 の全 般(趣 ゴ ル フ を 月2∼3回 630 ∼25年 東 京 仙 台 国税 局鑑 定 官 室 長,29年 味)下 後現 会 手 な 楽 しむ 。 日本 画 の 観 賞。 醸 協
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