雪堆積場の雪冷熱利用技術に係る基礎実験について - 寒地土木研究所

技術資料
雪堆積場の雪冷熱利用技術に係る基礎実験について
永長 哲也* 片野 浩司** 山口 和哉***
本実験では、「冷風利用」と「冷水利用」の両方式
1.はじめに
によって冷熱を採集して冷房実験を行うこととした。
再生可能エネルギーである雪冷熱の利用はこれまで
なお、多頻度の運搬が必要なためコスト高になる「冷
も検討されてきたが集雪にかかるコストが課題であっ
熱用雪の供給」は対象外とした。
た。そのため、冬期に除排雪で集めた雪を夏期の冷房
に使用するという雪冷熱の利用は、一部で実用化され
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ているものの、大規模な雪冷熱需要施設での利用につ
いては技術的に体系化されていない状況である。また、
札幌市などの都市部では雪堆積場の確保が年々困難と
なり、運搬距離が遠距離化しているため、雪を積んだ
ダンプトラックの輸送距離が長くなることで、運搬排
雪コストが増大している。
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雪冷熱エネルギーは、新エネルギー利用等の促進に
関する特別措置法において、新エネルギーに位置づけ
られ、東日本大震災以降、再生可能エネルギー導入を
推進する取組は活発化している。更に平成24年3月に
は豪雪地帯特別措置法が改正され、雪冷熱エネルギー
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の活用促進に係る規定が追加されたところである。
以上のことから、道路排雪を有効利用することに着
目し、運搬排雪コストを削減するとともに、未利用で
あった雪堆積場の雪冷熱利用技術について検討するた
め、美唄市茶志内
(空知工業団地)に実験用雪山を造成
図-1 雪山の雪冷熱利用形態
し、基礎実験を行った。
2.2 冷熱の供給方法
2 実験用雪山の検討
冷却の対象となる施設、貯蔵庫等に冷熱を供給する
方法には次の3種類がある1)。また、それらを組み合
2.1 雪山の雪冷熱利用形態
雪を確保し保存する方法には、大きく分けて屋内(貯
わせて利用することもある。
(1)直接熱交換冷風循環方式(全空気式)
雪庫)及び屋外
(雪山)とあるが、雪堆積場に着目して
直接熱交換冷風循環方式(全空気式)は、送風機を用
いるため、屋外貯雪について検討した。
いて、冷熱を供給する貯雪部(雪山)と冷却の対象とな
造成した雪山の雪冷熱利用形態には、図-1のとお
る施設、貯蔵庫等との間で空気を循環させ、空気と雪
1)
り3種類がある 。
を直接接触させて熱交換するものである(図-2)。
① 冷風利用
(雪山で冷却された冷風を施設、貯蔵庫
等に送風して利用)
② 冷水利用
(雪山で融解した冷水を施設、貯蔵庫等
に送水して利用)
③ 雪室等への冷熱用雪の供給
(堆積させた雪山から
必要な雪を施設、貯蔵庫等に運搬して利用)
寒地土木研究所月報 №718 2013年3月 図-2 全空気式(イメージ)
11
(2)熱交換冷水循環方式(冷水循環式)
熱交換冷水循環方式(冷水循環式)は、熱交換器の一
次側に、融解水または雪で冷やされた不凍液をポンプ
で循環し、二次側で循環する液体(不凍液等)を冷却す
るものである
(図-3)。融解水冷熱を直接空調機に送
水する直接利用方式と熱交換器を介して送水する間接
利用方式とに分別される。なお、融解水を利用する場
合、熱交換器から戻ってきた水を雪氷を融かすのに利
用するため、雪山に散水する場合が多い。
図-5 全体図(全空気式)
図-3 冷水循環式(イメージ)
(3)雪室方式
(自然対流式)
雪室方式
(自然対流式)は、特別な機器を用いず、貯
雪部の冷熱や貯蔵庫等に被せた雪の冷熱を施設、貯蔵
庫等の中で自然対流させるものである(図-4)
。
図-4 自然対流式(イメージ)
表-1 使用資材(全空気式)
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2.4 実験用雪山(冷水循環式)の概要
本実験では、道路除排雪を利用した雪山からの冷熱
冷水循環式の実験用雪山では、雪山下部に設置した
採集方式を検討するため、全空気式、冷水循環式の2
集水桝に融雪水を集め、地中埋設管を経由させ、採水
方式について、熱交換システムの検討を行った。雪室
桝より冷水を水中ポンプで実験庫内の送風機
(FCU:
方式は、屋内の貯蔵庫等で適用可能な冷熱交換手法で
ファンコイルユニット)に送水した。なお、送風機に
あり、
雪堆積場の雪冷熱利用技術には適合しないため、
供給する水の不足がないよう、送風機に供給した冷水
選定から除外した。
は戻り配管によって雪山下面に戻し、循環させること
で融雪を促した。
2.3 実験用雪山(全空気式)の概要
本実験では、熱交換器を介さない冷水循環式を試験
全空気式の実験用雪山では、雪山下部にグレーチン
的に採用した。しかし、道路排雪の融解水には泥やゴ
グで蓋をしたトラフを地面上に設置することで空気の
ミが混入しており、これらが送風機(FCU)のコイル
通り道を確保し、
トラフに接続したダクトを経由させ、
内に付着することが懸念されるため、採水桝にフィル
雪山内部で直接熱交換し冷却された空気を送風ファン
ターを採用した。塩ビ管設置状況を写真-3、実験庫
で実験時の計測室
(以下「実験庫」という)に供給した。
内状況を写真-4、全体図を図-6、使用資材を表-
トラフ設置状況を写真-1、実験庫接続状況を写真-
2に示す。
2、全体図を図-5、使用資材を表-1に示す。
(%7
写真-1 トラフ設置状況 写真-2 実験庫接続状況
12
写真-3 塩ビ管設置状況 写真-4 実験庫内状況
寒地土木研究所月報 №718 2013年3月
実験用雪山の内、道路排雪を利用した雪山Aは直接
熱交換冷風方式の「全空気式」とし、雪山Bは熱交換
冷水循環方式の「冷水循環式」による冷房実験に利用
した。残りの雪山2基(雪山C、D)は、道路排雪と新
雪(融雪剤等を含まない)を利用して造成し、比較対照
用として冷熱エネルギーを採集せずに自然融解させ、
雪山の形状や体積の変化を測定した。
また、実験庫として、外気や日射の影響を受けない
よう100mm の断熱材付の12ft 冷蔵コンテナを採用し
た。雪山の全体配置図を図-7、雪山造成を写真-6
に示す。
表-3 実験用雪山の種類
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図-6 全体図(冷水循環式)
表-2 使用資材(冷水循環式)
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2.5 断熱材の検討
断熱材としてはバーク材を使用した(写真-5)。バ
ーク材は、伐採小木などを粉砕したものであり、既往
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図-7 雪山の全体配置図(美唄市茶志内)
研究においてバーク材を30cm の厚さで被覆した場合、
外気や日射による融解量は一夏を通じて約1.5mにと
どまることが報告されている。4)
写真-6 雪山造成(左:バーク材被覆前、右:被覆後)
写真-5 バーク材(左:粉砕前、右:粉砕後)
3 基礎実験
4 実験結果及び考察
4.1 全空気式
4.1.1 融解量、雪山形状の変化
実験用雪山は、美唄市茶志内(空知工業団地)に表-
全空気式の実験用雪山の体積は、表-4に示すとお
3のとおり4基造成した。冷熱採集状況を把握するた
り、実験開始直近の雪山測量日(5/23)は198m3であっ
め、実験庫内温度などの温度計測、外気温度・風向・
たが、実験終了直近の雪山測量日(7/5)に計測したと
風速などの気象観測、定点カメラによる雪山の体積、
ころ34m3であった。
形状変化等の観測、定期的な測量などの各種計測を実
施し、データ収集・解析を行った。
寒地土木研究所月報 №718 2013年3月 13
表-4 全空気式の融解量
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0.3℃であった(図-8)。これは、実験庫の断熱性能
が高く、外気温度の影響を受けにくかったことから、
実験庫内の熱負荷を受けずに低い温度のまま実験庫外
に放出したためと思われる。
また、雪山が有する全体の冷熱エネルギー量は、雪
密度
(0.65t/m3)
、融解潜熱(334.88MJ/t)を用いて計算
すると35,698MJ となった。実験用雪山は、5/28(開
始から4日目)からトラフ周辺の融解が進行し始め、
法面開口部から雪が崩壊し、6/5(12日目)に完全に空
洞となった。地面上に設置したトラフに熱が伝達し、
周囲の雪を融解させることで空気の通り道ができ、融
図-8 全空気式の冷房特性
解を促進させたためと思われる。雪山の形状変化が大
きくなると、バーク材に亀裂が入り、雪が露出してし
まうことから頻繁な補修が必要となった。
4.1.3 全空気式の冷熱エネルギー量
空洞発生後も冷熱エネルギーを取得できたため、雪
5/25 ~ 6/24の実験期間(31日間)の全空気式の冷熱
山を補修するなどして実験を継続した。しかし、6/24
エネルギー量の推移を図-9、6/25時点の雪山状況を
に外気温度とファン吸込側温度が同等になった時点で
写真-9に示す。
冷熱エネルギーが取得できないと判断し、実験を終了
実験用雪山から得られた冷熱エネルギー量は、外気
した。雪山状況を写真-7、8に示す。
温度とファン吸込側温度の差とファン風量(2,100m3/h)
から累計すると7,715MJ となった。また、冷房対象と
なる実験庫内の冷熱エネルギー量は、吹出口温度と排
気口温度の差とファン風量から累計すると635MJ と
なった。
実験終了直近の雪山測量日(7/5)までの融解減少分
の体積は表-4から164m3であり、35,698MJ の冷熱エ
写真-7 全空気式(5/28)雪山状況
ネルギー量を最大で取得することが可能である。
また、雪山から得られた冷熱エネルギー量に対する
最大取得可能エネルギー量の有効率は、7,715/35,698=
21.6%となった。
このことから、冷熱エネルギーの有効率を向上させ
るには、雪山を有効に活用するため、空洞の発生を遅
らせるような施工又は構造物の設置方法の検討、また、
本実験では実験開始から連続運転させたが、温度制御
写真-8 全空気式(6/5)雪山状況
による断続運転を検討する必要がある。
なお、冷熱エネルギー量(時間当たり)は以下の計算
4.1.2 全空気式の冷房特性
式で算出した。
全空気式は、外気温の影響で冷房温度が大きく変動
Q=q×⊿T×c×ρ
した。実験庫の吹出口温度と外気温の差は、実験当初
ここで、Q:全空気式の冷熱エネルギー量(MJ/h)
は10℃あったが、時間の経過とともに、雪山内部の空
q:ファン風量(m3/h)
洞の成長拡大、雪山の崩壊が進行し、外気温度と差が
⊿T:温度差(℃)
なくなった段階
(6/24)で実験を終了するに至った。実
c:空気の比熱(=0.24×4.186MJ/kg℃)
験期間
(5/25 ~ 6/24)中の温度差は平均3.5℃となった。
ρ:空気の密度(=1.293kg/m3)
また、実験庫の吹出口温度と排気口温度の差は平均
14
寒地土木研究所月報 №718 2013年3月
/,
たこと、及び実験庫が密閉され、熱負荷がそれほどか
からない状態で、実験庫内で冷水が循環していたこと
から温度差が小さかったためと思われる。
/,
また、本実験では熱交換器を介さなかったことから、
送風機コイル内にゴミなどが付着する影響を懸念し、
図-9 全空気式の冷熱エネルギー量
採水桝に帆立貝殻を利用したフィルターを設置した。
しかし、7月下旬ころからフィルターの目詰まりの症
状が現れたことから、8/1に高圧洗浄機により採水桝
フィルターの洗浄を行った。1ヶ月後には再度目詰ま
りの症状が現れたので9/6に再度洗浄を行った。その
ため、8/17から9/6の間は採水桝フィルターの詰まり
により、FCU に供給する冷水が不足したため、ポン
プを停止し、冷熱採取を行わなかった。
写真-9 全空気式(6/25)雪山状況
4.2 冷水循環式
4.2.1 融解量、雪山形状の変化
冷水循環式の実験用雪山の体積は、表-5に示すと
おり、実験開始直近の雪山測量日
(5/23)は183m3であ
ったが、実験終了後
(9/26)に確認したところ0m3で
あった。
また、雪山が有する全体の冷熱エネルギー量は、雪
密度
(0.65t/m3)
、融解潜熱(334.88MJ/t)を用いて計算
すると39,834MJ となった。
4.2.3 冷水循環式の冷熱エネルギー量
表-5 冷水循環式の融解量
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O 図-10 冷水循環式の冷房特性
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5/25 ~ 9/26の実験期間(125日間)の冷水循環式の冷
熱エネルギー量の推移を図-11、8/21時点の雪山状況
を写真-10に示す。
実験用雪山から得られた冷熱エネルギー量は、外気温
度と雪山下部集水桝温度の差とポンプ流量(1,800ℓ/h)
から累計すると16,218MJ となった。また、冷房対象
実験用雪山は、実験庫から戻ってきた融解水を雪山
となる実験庫内の冷熱エネルギー量は、送風機の行き
下面に戻しているため、雪山下面から順に全体的に融
温度と戻り温度の差とポンプ流量から累計すると
雪が進み、大きな形状変化はなかった。
2,682MJ となった。
4.2.2 冷水循環式の冷房特性
実験終了の9/26までの融解減少分の体積は表-5か
冷水循環式は、外気温の影響をほとんど受けず冷房
ら183m3であり、39,384MJ の冷熱エネルギー量を最大
温度が概ね一定であり、外気温度に影響されることな
で取得することが可能である。
く、平均1.6℃の冷水を実験庫に供給した。そして、
また、雪山から得られた冷熱エネルギー量に対する
行き配管温度が上昇し始めた段階で実験を終了した。
最大取得可能エネルギーの有効率は、16,218/39,834=
実験期間
(5/25 ~ 9/26)を通しての実験庫の FCU
40.7%となり、冷水循環式は雪山を効率的に使ってい
吹出口温度と外気温の差は平均16.7℃となった。また、
ると言える。
実験庫の行き配管温度と戻り配管温度の差は平均0.1
なお、冷熱エネルギー量(時間当たり)は以下の計算
℃であった
(図-10)。これは、全空気式と同様に実験
式で算出した。
庫の断熱性能が高く、外気温度の影響を受けにくかっ
Q=q×⊿T×c×ρ
寒地土木研究所月報 №718 2013年3月 15
ここで、Q:冷水循環式の冷熱エネルギー量
(MJ/h)
わかった。
q:ポンプ冷水量(L/h)
また、雪山から得られた冷熱エネルギー量は、全空
⊿T:温度差(℃)
気式で7,715MJ(31日間)、冷水循環式で16,218MJ(125
c:水の比熱(=1.0×4.186MJ/kg℃)
日間)となった。
ρ:水の密度(=1.0kg/L)
雪山から得られた冷熱エネルギーに対する有効率
は、全空気式で21.6%、冷水循環式で40.7%となった。
全空気式は雪山内部の空洞の成長拡大及び雪山が崩壊
/,
したため、途中で実験を終了したが、道路排雪の雪で
も、十分な冷熱エネルギーを得られることがわかった。
本実験において、全空気式、冷水循環式の各々の特
/,
に適した雪冷熱の取得方法を検討し、雪山造成及び資
徴を把握することができたことから、今後、雪堆積場
図-11 冷水循環式の冷熱エネルギー量
材等の施工方法、造成後の雪山のメンテナンス、冷熱
取得後のゴミ等の処理、コストの検証など、道路排雪
を利用する上での課題について解決方法を検討してい
く。
参考文献
1)北海道経済産業局:雪氷熱エネルギー活用事例集
4増補版平成22年6月
写真-10 冷水循環式(8/21)雪山状況
2)美唄自然エネルギー研究会:平成22年度「美唄自
然エネルギー研究会 研究活動報告書」、平成23
年6月
5 まとめ
3)本間弘達,浅川勝貴,船木淳,山上重吉,媚山政
雪堆積場に着目するため、屋外貯蔵の雪山について、
良:“雪山”の造り方、第23回寒地技術シンポジ
全空気式及び冷水循環式の2種類の冷熱方法を検討し
ウム論文・報告集 pp13-16、2007.12
た。
4)伊東宏城,媚山政良,川本周郎,松居正道,佐藤
実験用雪山を造成して行った基礎実験の結果、冷房
龍幸,岩腰壮康:沼田式貯蔵実験報告~籾から,
特性としては、全空気式は、外気温の影響で大きく変
バーク材を被覆材として利用した場合~、第16回
動するが、冷水循環式はほぼ一定の状態であることが
寒地技術シンポジウム論文集 pp701-705、2000
永長 哲也*
16
片野 浩司**
EINAGA Tetsuya
KATANO Kouji
寒地土木研究所
技術地開発調整監付
寒地機械技術チーム
研究員
寒地土木研究所
技術地開発調整監付
寒地機械技術チーム
総括主任研究員
技術士(機械)
山口 和哉***
YAMAGUCHI Kazuya
寒地土木研究所
技術地開発調整監付
寒地機械技術チーム
主任研究員
寒地土木研究所月報 №718 2013年3月