6章 火山噴火のからくり 総合科学3年 3041-6004 岩井 仁美 普賢岳の噴火 1990年から95年までに4年あまりにわたって噴火活動が続き、山 頂付近に地学的に「溶岩ドーム」と呼ばれる新しい山が形成された。 この溶岩ドームが成長を続ける間に火砕流が何千回も発生 高温の溶岩や軽石、火山灰、火山ガスが一団となって山の斜面を高速で流れ下る現象 火砕流により、マスコミ関係者や住民ら44人が犠牲になった 外国の火山学者3名も死亡→火山学者でさえ火砕流の本当の怖さの理解が不 足していたことがよくわかる。 火砕流という現象が日本でよく知られるようになったのも、この噴火がきっかけ 火砕流だけを見れば普賢岳の噴火は激しい噴火だったように見えるが、ここ数十 年の世界の噴火に比べると非常に穏やかなものだった。 雲仙普賢岳の噴出物の分布は、ピナツボ 山の分布と比べて極めて狭い。 また、セントヘレンズ山の噴火と比べて、 セントヘレンズ山の火山灰は成層圏にまで 達したこと、マグマの量が普賢岳に比べ 約二倍の0.4立方kmだったことからも 規模の違いがわかる。 この3つの火山のマグマの火山組成、マグマ溜まりの温度は極めて似たものだった 何故爆発の程度に大きな違いがあるのだろうか 揮発成分と爆発 マグマの爆発・・・水蒸気などの揮発成分が含まれているため。 マグマが地表に上昇するにつれてマグマにかかる圧力が下がるので、マグマに溶け込め なくなった揮発性成分が分離してガスになる。つまり、気泡ができる。(「発砲現象」) 水は蒸気になると何百倍にも体積が増加するので、揮発性成分がさらに分離して、気泡を 大きくしていく。圧力が下がるほど気体は膨らもうとするが、岩盤に囲まれた地下ではスペ ースが限られているため、狭いところに閉じ込められたマグマの圧力は次第に高まる。 これが爆発の原因になっている。 例→缶コーラ 缶コーラには液体と一緒に炭酸ガスが圧力をかけて入っている。缶コーラの栓を一気に抜 くとコーラが噴出してしまう。 マグマも同じで、地下にあるマグマの“ふた”や栓を急に抜かれるようなことがある と大爆発が起きる。 セントヘレンズ山が大噴火を起こしたのは、火山の上部が大規模な地すべりによって崩壊 し、“ふた”が取れたため。 →マグマを抑えていた岩石の圧力が急に減り、マグマの圧力が突然打ち勝ったため 脱ガス 脱ガスとは・・・ガスがマグマから抜け出す現象のこと 気泡が割れて大爆発を起こす→マグマが地上に到達する前に気泡内部のガスを 逃がしてやれば大爆発は起きなくなる。 小さい隙間があればガスが上手く逃げて内部の圧力が減り爆発が起きなくなる (缶コーラの栓を最初に少し開けたあと、時間をかけてあければコーラが噴出さない) マグマの揮発性成分の多いか少ないかではなく、マグマに含まれているガスがいか に効率よく脱出できるかに爆発力は左右されているといえる。 マグマの粘り気とガラス化 気泡の成長に伴ってメルトから水分が逃げていく脱水作用で、粘り気が増加する。 粘り気が増せば増すほどメルトはガラスのようにもろくなる→ガラス化 ガラスのように割れやすくなったマグマが、地下のマグマの通り道である火道の壁 によって引きずられ、泡立ったマグマは粉々になる。 気泡が潰れるとさらに脱ガスしやすくなる 火山性地震 波長が比較的長く振幅も小さく、「低周波地震」と呼ばれる。 普賢岳では、溶岩ドームが成長している間ずっと火山性地震が起こっていた。 マグマが地下水と接触したり、発砲したり、ガスが割れ目を伝って 移動する時に発生するとされている。 発泡したマグマが破壊され、つぶされた気泡からガスが外に逃げ出したため地震が起こった ←溶岩ドームで起こる現象を模式的に表した図。 どこにガスが逃げるのか 1980年代にカリフォルニア州東部のロングバーレー火山地域で、溶岩ドームやすり 鉢状の火口の下に向かってボーリング調査がおこなわれ、火道を調べた。 ・火道でマグマが固まってできた溶岩のまわりを、岩盤や溶岩の破片からなるガサ ガサの部分が取り囲んでいた。 ・火道から不規則に伸びた火山灰で充たされた割れ目があった。 (火山灰は溶岩と同じ性質のもの、発泡したマグマ(軽石)であることがわかる。) ニューメキシコ州の古い火道でも似たような火山灰の詰まった細い脈が、火道から 岩盤に向かって伸びているのが発見 ↓ マグマが地下水で急激に冷やされたあと、内部を流れ続けるマグマに引きずられる 力によって粉砕された模様 ガサガサの部分は、ガスが自由に流れることができる隙間がたくさんある。 それが地表まで繋がれば、マグマ中のガスは岩盤の中にわざわざ割れ目を作って逃げなく ても直接地上に逃げることができる。 火道はマグマが通る道でありながら、ガスが逃げるためのバイパスにもなる マグマの上昇する速さ 「上昇し始めたマグマからガスが上手く逃げられるかどうか」 がその後のマグマの運命を左右している。 マグマは一旦発泡すると、気泡が出来た分だけ体積が増加すると同時に、マグマ 全体の密度が小さくなる。 密度が小さく体積が大きくなった分だけ前よりも浮力が生じる。 ↓ マグマは速く上昇する・・・上昇の途中で気泡が成長して軽くなりさらに加速する しかし上昇があまりにも速いと、ガスが逃げ出す余裕もなく地上に達してしまい、 大爆発となる 仮に上昇し始めるマグマから上手くガスが逃げ出せた場合 マグマは浮力を得られないので、上昇速度は上がらない。 ゆっくり上昇するマグマからは、さらに十分に気泡が成長したり、ガスが外に逃げ出 す余裕があることになる。 活断層と地下水 普賢岳を含む雲仙火山は、約50万年前から成長を始め、その誕生から現在にいた るまで噴火活動と断層運動を繰り返してきた。 雲仙火山は東から西に活断層が多く横切っている・・断層でズタズタに切られた火山 このような断層は、マグマが通っている地下深部にも存在している。 地下にある断層はガスや地下水などの格好の通り道になる。 普賢岳で上昇するマグマからガスが逃げ出しやすい理由の一つは、断層が多く存在 するためではないか 無数の断層が存在するために、山自身が地下水を溜めやすい構造になっていた ことも挙げられる。 火道を上昇してきたマグマは、地下水と接触して急激に冷やされ固まる。 固まった溶岩は後から来たマグマに脇に追いやられ、引きずられて細かく砕ける。 これが地上まで続くと揮発性成分の通り道ができる。 これら二つが、普賢岳で爆発的噴火を起こさなかった原因であると考えられる まとめ 火山の爆発の規模はマグマの性質に依存するのではなく、「マ グマからいかにガスがうまく逃げるか」に依存する。 速く上昇できるマグマからはガスが抜けにくく、より爆発的な噴 火を起こしやすい これらの原因はマグマ自身にあるのではなく、マグマの通り道 の状態にある 雲仙普賢岳噴火の研究によって、火山噴火の複雑なメカニズム についてより具体的な理解が進んだ
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