行動障害心理学05 第6回: 環境の豊穣化:DRAに優先して http://d.hatena.ne.jp/marumo50/ 望月昭 [email protected] 1 強度行動障害を持つ青年期の個人への対応 -選択機会の拡大を含めたプロアクティブ (前進型)な対処の検討- 望月昭・渡部匡隆・野崎和子・小野宏・織田智志 安田生命社会事業団研究助成論文集、1998,34, 71-79. 2 A 「行動障害の停止」という負の強化のもとに行わ れる対処・・・Reactive な対処 B 「正の強化で維持される行動が拡大していくため の対処」・・・Proactiveな対処 3 実践を開始するに至る過程 ●職員のリアクティブな対応を強化する(A)のではな く、プロアクティブな対応(B)が強化されるように する →「問題行動が減じること」を目標にしない。 問題行動停止が職員の行動を維持する仕組みとしない →対象者の「個人的問題」で完結しない。完結すると それ以上の発展はないのでは? →「職員の行動」(A/B)のうち、Bを特に分化強化 する方針 4 職員のA(reactive)行動が強化されてきた背景 (1)行動障害は、本人の属性(重い障害のある 個人が持つ個人的特徴)であるという認識 (2)強度行動障害のある個人への対応として 特定の職員をマンツウマンで配置する (3)対応する方針は「受容」である (4)強度行動障害のある個人に対応している という事実→施設の「存在価値」としてアピール (5)新たな環境設定を必要とする積極的意見や 活動は強化されない (6)ノーマリゼーションあるいはQOLの拡大は 「重い障害」のある個人ではできない(あるいは、 まず問題行動をなくしてから)という認識 5 1)行動は「本人の属性」である 「問題行動は、自閉という障害性や発達年齢 からきている」 →行動は全て現在環境との関係として成立・維持し ている行動問題である。問題行動も現状のシステム として存在する(個人属性ではない)。 →問題行動は、現状環境によって維持されている その多くは「物理的(施錠個室)な制約)から きている可能性があること(このケースでは) 6 2)マンツウマンでの対応 ・「専従」配置は、その担当個人において、 “一時的な問題行動の停止”を実現する行動を 強化してしまう。(罰の使用を促進してしまう) ・「破衣」など社会的にインパクトのある行動に対 しては、個人的対応では落ち着いた対応が不可能 「問題行動」が生じる可能性の少ない現状から踏み 出せない。(社会的影響の少ない個室管理をしやす くなってしまう) →複数(グループ)による対応へ →委員会組織をつくる 7 3)「受容」か「罰」かではない ・「個室管理」を含め、現状の環境設定の中での行 動を単に追認することが「受容」である。 ・「罰による行動統制」がだめなら「受容」という 放任状態」にするしかない。 →新たな環境設定を前提とした(一定の教授のも とでの)正の強化で維持される行動の形成 →新たな環境設定(選択機会)の設定をすること 本来の「受容」である。 8 4)強度行動障害のアピール 強度行動障害:施設人員の加配という強化あり 「見学者」に施設の存在価値を示す (コロニー全体が、重度障害のある個人への対応、 医療的対応も可能である、という位置づけあり) → 重い障害のある個人に対しても、個別の療育的 プログラムが要請されている →「個室管理」の実態はプログラムとして認められ ないこと →「情報公開」による社会的随伴性 9 5)新たな環境設定への抵抗 基本的に「公務員的」ルーティーン(昨年度と同様 の内容)が強化される傾向あり →委員会組織、施設外部の人間を含めた実践組織 →実践内容の「情報公開」を行う 10 6)ノーマリゼーション(QOLの拡大)は 「重い障害」のある個人ではできない ・重い障害のある個人に対しては、地域化を含め たノーマリゼーションは非現実的である ・重い障害のある個人においては「生活の質」 (QOL)以前に、身辺自立的(ADL的)な目標が 必要である ・問題行動がなくならなければ、ノーマリゼー ション(地域生活)もQOL(より個人的な好みの 反映など)の拡大もむずかしい 11 6) →ノーマリゼーションは単に住む場所の問題ではな い。 →QOLの拡大は、地域居住といった「マクロ」な 環境設定(場)の問題に代わり、より個別の個人を 対象とした生活改善の概念である。 →ノーマリゼーションは「先送りすることなく、今、 障害のあるままに(社会が受け入れる)ということ である。 →問題行動の低減を優先すれば「先送り」である →「今、受け入れる」ことの具体的な内容とは なんだろう? 12 行動的QOLという考え方 ★行動的QOL(の拡大) 「本人が正の強化で維持される行動の選択肢の拡 大」(=受け入れる、という意味) →環境も、心理的満足も含まれる(であろう) 大きなメリット: ●定量化(客観的評価)可能 ●どんな遅れた環境からでもスタートできる ●どんなに重い障害をもっていてもスタートでき る。 13 Reactiveな対応からPro-activeな対応へ (ミッションの確認) 1)問題行動は「行動問題」 2)優先課題は、行動的QOLの拡大である (=正の強化で維持される行動選択肢の拡大) 3)実践は報告を含むものである (情報公開の行為であると共に、Pro-activeな実践 行為を施設外部から強化しやすくする) 14 具体的実践内容(日常的な選択肢拡大に向けて) 0.対応のための委員会による責任体制 1.個別指導(散歩~選択反応機会まで) 2.個室開放 3.個室の外での活動(コーヒータイム) 4.職員全体の「選択箱」による選択機会の設定 不定期な実践 1.模擬店開設(重度の障害があっても選択可能) 2.「音楽療法」(ボランティア)の実行 15 職員全体の処遇行動の変化 16 職員全体による、呈示された「選択内容」更新 17 問題行動推移(排尿) 18 破衣の累積数(コーヒータイム) 19 施設職員と研究所の間のコミュニケーション 20 個別指導の中での「選択行動の推移」 選択1:実物の菓子4種類から 選択2:菓子の袋や箱をパウチしたもの 選択3.菓子を入れた籠 vs デイバッグ →当初は菓子の選択に偏向したが、写真による 菓子呈示で、ディバッグ(外出という活動)を 選択することも可能になった。 21 22 成果として ・施錠を解いた状況では、最初は破衣行動などが みられたが、次第になくなる。 ・外出時においても同様 ・プロアクティブな活動の維持は、グループとして 存続 ・学会での報告は、現在まで続いている 課題 さらなるプロアクティブな実践の拡大 23 参考資料置き場(行動障害心理学) 1)コロニーの実践を職員の人たちが記述した もの.「織田人間研論文」「桂木人間研論 文」 http://www.ritsumeihuman.com/publication/files /NINGEN_2/02_085-102.pdf http://www.ritsumeihuman.com/publication/files /NINGEN_2/02_103-120.pdf 2)行動的QOLと行動障害に関する論文 「行動的QOL」 http://www.psy.ritsumei.ac.jp/~mochi/qol.pdf ダウンロードして読んでください. 24
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