16章 EUの通貨統合と新たな課題 • 1 欧州通貨統合の歴史的背景 域内通貨協力の 歴史/EMS(欧州通貨制度)と金融政策協調/資本移動自 由化と欧州通貨危機 • 2 「市場統合+EMS」からEMUへ EMUのコストと 便益/EMU計画策定からユーロ導入まで/ユーロシステム と単一金融政策 • 3 ユーロ域内の政策運営とEUの諸課題 ユーロ の金融政策運営と為替相場/世界金融危機と規制監督 体制の強化/ユーロ圏債務危機とEU財政制度構築 • 4 ユーロ圏の拡大と国際通貨としてのユーロ EUの拡大とユーロの求心力/為替標準通貨・公的準備通 貨としてのユーロ/国際取引通貨としてのユーロ 2013-15 MohriR 1 16-1欧州通貨統合の歴史的背景 16-1-1 域内通貨協力の歴史 • 小国の分立と仏独の対立→普仏・第1次・第2次大戦 • 1952年 欧州石炭鉄鋼共同体,1958年 欧州経 済共同体 EEC誕生 大陸6カ国 • 1970年 ウェルナー報告 加盟国間の為替変動 をなくす • 1971年 ニクソン金ドル交換停止,そしてスミソニ アン合意 為替変動幅を上下2.25%に拡大 (→ 域内通貨間4.5%) • 1972年 欧州共同フロート体制(トンネルの中の ヘビ) 相互間上下1.125%(合計2.25%) •2013-15 1973年 変動相場移行&石油ショック→ スネーク離脱 2 MohriR 16-1-2 EMS(欧州通貨制度)と 金融政策協調 • 1979年 欧州通貨制度 EMS (European Monetary System)が 創設←スネーク離脱 ①欧州通貨単位 ECU (European Currency Unit)導入 バスケット通貨で基準相場の計算や介入後の決済手段に 利用 ②ERM為替相場メカニズム (Exchange Rate Mechanism) による為替相場の固定 ③信用供与メカニズム ・EMSの20年間 ①不安定期(1979/03~),②収斂 期(1983/03~),③安定期(1988/06~),④混乱期 (1992/09~),⑤再収斂期(1993/08~98末) 2013-15 MohriR 3 16.1.3資本移動自由化と欧州通貨危機 • EC(欧州共同体)1988年「4th資本移動自由化指令」 →1992年欧州市場統合(財,サービス,労働, 資本の移動の自由化) • 国際金融のトリレンマ(①自由な資本移動,②固 定為替相場制,③金融政策の独立性,の3つが同時成 立することはない.独は例外.欧①②を選択し,③を 放棄)(図16-1) • 独マルクの欧州通貨化の進行 貿易や資本取引 • 欧州通貨統合に向けたマーストリヒト条約批准投 票 1992年デンマーク国民投票で拒否,ポンドとリラが ERMを離脱.しかし93年以降,再収斂. 2013-15 MohriR 4 16-2 「市場統合+EMS」からEMUへ 16.2.1 EMUのコストと便益 • 欧州主要国が自国通貨主権を放棄why? ①欧州諸国との取引の際の為替手数料やリスクからの 解放,②最後で最大の「通貨の相違」の除去,「価格の透 明性」の実現→欧州寡占企業間競争,③ドルを凌ぐ経済 規模を背後に持つ通貨の登場 • 独自の金融政策や為替相場変動を通じた 調整メカニズムの喪失 労働移動,賃金・価格の 柔軟性,財政による調整が可能か,最適通貨圏OCA (Optimum Currency Area:内部における資本と労働の可 動性がある地域では固定相場制が望ましい)の要件を備 えているか.そうでなければ特定国が不況や失業になる. • 図16-2非対称的ショックに対する調整メカニズム 2013-15 MohriR 5 16.2-1 EMU計画策定からユーロ導入まで • ドロール・プラン1989.4 通貨統合(通貨の交換 制,資本移動の自由化や為替変動幅縮小)促進派 vs 経済ファンダメンタルズ(単一市場,EC競争政策やマ クロ政策協調)派が収斂 経済通貨同盟 EMU ( Economic and Monetary Union)への3段階アプローチ. • 欧州連合条約(通称マーストリヒト条約)調印1992.2 93.11発効 第1段階:資本移動の完全自由化,第2:欧 州中銀ECBの前身の創設,第3:ECBがユーロを発行し て単一金融政策を開始. 2013-15 MohriR 6 16.2.2-2 ユーロ導入 • EMU参加条件:①インフレ率,②長期金利,③ 財政赤字:フローGDP比3%以内,政府債務残高 60%以内,④為替相場. • ユーロ第1陣参加国99.1:独,仏,ベネル3国墺の コア6か国,伊,西,葡の南欧3ヵ国,フィン,アイルの合 計11ヵ国.+ギリシャ01 • 最初ユーロは預金や国債の建値に利用,02年1月, ユーロ圏12か国で紙幣と硬貨が強制通用力を持つ 法貨となった. • イギリス:歴史・文化的に米国との結びつき.北欧には 福祉後退の危惧があり,参加を見送った. 2013-15 MohriR 7 16.2.3 ユーロシステムと単一金融政策 • ユーロ圏の通貨の管理と単一金融政策 ユーロシステム:ECB欧州中銀とNCBs各国中銀か らなる.ユーロのベースマネーは,ECBが定める方針に 従ってNCBsが各国国債などの適格資産を見合いに供 給,回収される.単一の金利体系が成立. • ECBの金融政策の目標:主ー物価の安定 年2 %以下;NCBsの政府からの独立.従ーEUレベルの経済 政策の支援. • 単一通貨と単一金利の出現 ①債券市場の規 模は米・日に次ぎ第3位,②ドイツ国債と各国国債の利回 り格差0.3%ポイント内だった.③株式市場時価総額. 2013-15 MohriR 8 16-3 ユーロ域内の政策運営とEU 16.3.1ユーロの金融政策運営と為替相場 • ユーロ圏:通貨としてのユーロの供給と金融政 策は一元的,財政政策は参加国別 • ユーロ導入後の金融政策運営 ①1999.1101.5 主要オペ金利引き上げ,②01-05末 金融 緩和と緩和維持,③05末-08央 引き締め局面, ④08.9-リーマン危機後の金融緩和 • ユーロの対ドル相場 ①99-00末 下落,②02-08 上昇,③08央-乱高下.ドル不足と欧州政府債務 危機. 2013-15 MohriR 9 16.3.2 世界金融経済危機とEU 金融規制監督体制の強化 ・1992年市場統合→欧州メガバンクの群生と投資 銀行業務→サブプライム・ローン危機で打撃 ・2008年危機の新規性:「影の銀行制度」による高 レバレッジで増幅した「流動性ファンディング危 機」 ,ドル建て投資→ドル調達危機,ソルベン シー(支払い不能)危機は市場リスクを抱える資 産の評価損など. ・EU構成諸国政府による資本注入や保証,EU金 融規制や監督の強化など. 2013-15 MohriR 10 16.3.3 ユーロ圏政府債務危機と EU財政制度構築の課題 • 金融政策の単一化→財政の資金移転が重 要.しかし各国の財政発動任せ.財政赤字に縛りをか けGDP比3%超には罰金.01-03年の不況時に独仏が上 限を突破したとき,EU理事会は制裁を発動せず. • 08年9月リーマン・ショック→各国は巨額の財政出動 • 09年10月ギリシャの財政赤字粉飾暴露→国債価格 暴落(利回り上昇)→国債購入金融機関経営危機 →PIIGSなど南欧諸国へ債務危機の伝染→緊急支援策 • 経済ガバナンス強化策:①財政規律,②域内マク ロ不均衡,③競争力格差是正 2013-15 MohriR 11 16.4 ユーロ圏の拡大と国際通貨としてのユーロ 16.4.1 EUの拡大とユーロの求心力 • EU第5次拡大2004年5月.中東欧・バルト海8か国, 地中海2か国加盟. 第6次07年1月+2か国,第7次 13年7月+1→28か国,人口5億600万人 • 旧「社会主義」国は市場経済への体制移行を 完了.1990年代のマイナス成長から01年以降はプラス成 長.インフラを整備した低賃金の中東欧むけFDI(直接投 資)急増. • ユーロ導入.スロヴェニア,キプロス,マルタ,スロ ヴァキア,世界金融危機でマイナス成長に陥ったバルト3 国のうちエストニア. 2013-15 MohriR 12 16.4.2 為替標準通貨・公的準 備通貨としてのユーロ • 「ユーロ圏」:ユーロを自国の「法貨」として利用する 地域では,為替相場変動がなく,90年代の通貨危機の構 造から恒久的に解放 • 「ユーロ通貨圏」:ユーロを国際通貨として利用.① ERMIIに参加するEU諸国.為替相場変動幅の固定(上 下2.25%または15%)が義務付けられる.②EU加盟候補 国.③西欧域外諸国で,ユーロ圏との貿易・投資などの 結びつき.中央・西アフリカ14か国はユーロ・ペッグ. • 公的準備としての保有:基準通貨として利用国は 70%前後.99年以降世界全体で20%台後半で推移.米ド ルは60%台前半. 2013-15 MohriR 13 16.4.3 国際取引通貨としてのユーロ • 貿易契約・決済通貨:①EUの経済主体が関与 する貿易では主要な契約・決済通貨,②EUから EU域外への輸出ではユーロ建て比率は4割から8 割,③欧以外の第3国通貨としての利用は限定的. • 投資通貨:貿易と同じパターン. • 為替媒介通貨:①欧州諸国の通貨にとって媒 介通貨の役割,②円,英ポンド,スイス・フランなどの 主要通貨は,ドルとだけでなく,ユーロとの間にも太いパ イプ,③ユーロとドルとの取引規模は大きい(28%). • グローバルなレベルでは,ドルが基軸通貨. 2013-15 MohriR 14
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