線形代数学 第2章 行列 平成16年06月10日 発表者:藤村元彦 行列の演算 行列間には次の3種類の演算が考えられる。 1.スカラー乗法 任意の(m,n)行列A=(aij)と、任意のスカ ラーλに対し、 λA=(λaij) と定義される。 2.和 同じ型の(m,n)行列、 A=(aij) 、 B=(bij)に対し、 A +B= (aij+bij) と定義される。 3.積 (l,m)行列A=(aij)と、(m,n)行列B=(bjk)の間にC=A・ Bとして、 m cik a ij b jk と定義される。 j 1 行列の演算2 全ての成分が0の行列を零行列といい、以下の クロネッカーのデルタ 1 0 ij i j i j i, j 1,, n で表される、行列I=(δij)を単位行列という。 AB=BA=Iをみたす正方行列BがあればBをAの逆行列と いい、A-1で表し、Aは正則であるという。 (m,n)行列A=(aij)と、(n,m)行列B=(bji)の間に、aij=bjiのよ うに行列の行と列を転置させた関係をもつ行列Bを、Aの転 置行列といいATで表す。 写像としての行列 (m,n)行列Aが与えられた時、(n,1)行列xをn次元の列ベク トルと同一視して、Aの右からかけると、その結果として (m,1)行列yが、すなわちm次元列ベクトルを得る。これはKn からKmへの写像を表わすと考えられる。 y=A・x この写像は、基本的な演算+と・(スカラー倍)とを移った先 の集合でもそのまま保存する、という性質を持っている。写 像がこの性質をもつとき、線形であるという。 写像としての行列2 KnからKmへの線形写像φ1、φ2があるとき、その和φ1+φ2 を次のように定める。 Knの任意のベクトルxに対し、 (φ1+φ2) (x) = φ1(x) +φ2(x) また、線形写像φのスカラー倍λφは、 (λφ) (x) = λ(φ(x) ) と定める。 KnからKmへの線形写像φとそれに対応する行列Aとは別 の概念であるが、数ベクトルの空間を考える限り区別するこ とはあまり意味がないので、写像Aというような言い方をす ることもある。 線形写像の簡単な性質 φをKnからKmへの線形写像するとき、その和 φ(Kn)={φ(x):x∈Kn}をφの値域、Kerφ={x:φ(x)=0}をφの核 という。 また、φの値域がKm全体であるとき、φを上への写 像という。 Knの異なる元がφで写されても必ず異なるとき、 φは1対1であるという。 例題 R2上でベクトル 1を 2 へ、 2 を 1 3 1 Aを求めよ。 解 1 へに移す行列 2 1 2 2 1 A 、 A をひとまとめにかくと、 1 3 1 2 1 A 1 2 2 1 3 1 右から 1 2 1 1 となる。 2 1 1 1 3 1 2 1 3 をかけると、A 3 5 1 3 4 行列の階数 1 1 1 1 A 2 2 2 2 上のような行列Aを考えると、これはK4からK2への線形写 像を定めるが実際にK4のベクトルを写してみると、 1 y Ax x1 x2 x3 x4 2 となっており、写した先のベクトルは全て1つのベクトルのス カラー倍に過ぎない。この場合Aの値域は1次元であり4次 元から1次元へと潰れている。 行列の階数2 行列Aの値域の次元を、Aの階数(rank)といい、rankAで 表す。 A a1 a2 an 上のAを適当に順序を入れ替えてa1、・・・、akまでは1次独 立だが、それらにak+1、・・・、anのどれを加えても1次従属 になったとすると、実質的にはAの値域はa1、・・・、akに よって張られていることになり、k次元であることがわ かる。 つまりその場合は、rankA=k となる。 行列の変形 以下3種類の正則な行列をかける事で階数を調べること が可能である。これらの行列を基本行列といい、これらをか けることを基本変形という。 P ∨ i 1 c 1 P i:c c 0 P-1 1 ∨ j i> R 1 c 1 R i, j :c c 0 R-1 1 c 1 1 c 1 ∨ 行列の変形2 j ∨ i 1 Q 1 0 1 1 1 1 0 1 Q i, j Q1 Q 1 行列Pを左からかけると第i行がc倍され、行列Qをかける と第i行と第j行が入れ替わり、行列Rをかけると第j行をc倍し て第i行に加える。右からかける場合は行ではなく列が変化 する。 この操作によって0と1の対角行列を作るように行列を変 化させていけば階数を求めることができる。 逆行列の計算 行列Aが正則であれば、基本変形により単位行列Iに変形 することができる。 A A-1= A-1A=I からわかるように、基本変形を左もしくは右からのみかける 事で行えば、逆行列を求めることができる。 例えば左からの変形で求めるならA I とおき行のみで 基本変形を行えばよい。 宿題A 問1 次の行列は正則か否か。また正則のときは逆行列を 求めよ。 i 1 2 3 2 0 2 3 2 1 ii 1 1 1 0 0 1 1 1 1 0 1 1 0 1 1 0 iii 2 1 3 0 1 2 2 1 4 3 1 2 1 3 3 3 問2 2次正方行列Aが、任意の2次正方行列Xと可換、す なわちAX=XAをみたすならば、A=aIの形でなければ ならない。このことを示せ。 宿題B 0 0 0 0 0 1 1 0 1 0, 0 1, 0 0, 0 0 問3 任意の2次正方行列が の1次結合であることを示せ。 問4 行列Aが以下の時に、AP=PAをみたす全ての行列P を求めよ。 1 1 A 0 1 問5 行列AとPが以下の時に、AをPで表す式を示せ。 a1 a 2 a3 a 4 a a a a A 4 1 2 3 a3 a 4 a1 a 2 a a a a 2 3 4 1 0 0 P 0 1 1 0 0 0 1 0 0 0 1 0 0 0
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