平成26年11月7日 山本(宗一)の不等式 † について 山本宗一氏の訃報に接し,彼を偲んで本不等式を紹介しておく。(2014 年 11 月 8 日) 山本の不等式 . n ≧ p ≧ 0, aij ≧ 0 について,次の不等式が成立する。 p m ∏ n n ∑ m ∏ ∑ aij apij ≧ i=1 j=1 j=1 i=1 証明. (当時の山本宗一氏による証明) m ∑ aij まず,Aij = Anij = 1 である。 1/n とおけば, m j=1 ∑ anij j=1 n 次の相加相乗平均の不等式から,An1j + An2j + · · · + Annj ≧ nA1j A2j · · · Anj . ここで,両辺の m ∑ を j=1 とって m ∑ An1j + j=1 m ∑ An2j + · · · + j=1 m ∑ Annj ≧ n j=1 m ∑ A1j A2j · · · Anj j=1 よって 1≧ m ∑ A1j A2j · · · Anj j=1 n m ∑ ≧ A1j A2j · · · Anj . j=1 すなわち n m ∑ a2j anj a1j 1≧ 1/n × 1/n × · · · × 1/n m m m j=1 ∑ ∑ ∑ an1j an2j annj j=1 j=1 j=1 n m ∑ a1j a2j · · · anj = 1/n 1/n 1/n m m m j=1 ∑ ∑ ∑ an1j an2j ··· annj j=1 j=1 . j=1 これは以下のように同値変形されてゆく。 n m ∏ n ∑ n aij n ∑ m m ∏ n ∏ ∑ j=1 i=1 1≧ ⇐⇒ anij ≧ aij n ∑ m ∏ i=1 j=1 j=1 i=1 anij (*) i=1 j=1 ここで,次の補題を用意しておく。 † 山本宗一(1953.11.21−2014.8.10,名古屋大数学科 −→ 野村総研)氏が 1975 年(土佐高校 2 年)のときに示した。当時,月刊 誌「大学への数学」でも,特別なケースについて山本宗一氏の投稿が紹介されていたと思う。 1 ≧ r > 0, <補題> . xj ≧ 0 について,次の不等式が成立する。 m ∑ 1/r xrj j=1 ≧ ∑ xj j=1 補題の証明. m により帰納法を用いる。m = 1 のときは,明らかに成立しており, m − 1 までは OK とする。 r−1 r m m m ∑ ∑ ∑ xj であり, f (x) = xr + xrj − x + xj とおけば,f ′ (x) = r xr−1 − x + j=2 j=2 j=2 1 ≧ r > 0 より,f ′ (x) > 0 である。 よって,f (x) は単調増加であり,帰納法の仮定(m − 1 まで OK)から f (0) = m ∑ xrj − j=2 m ∑ r xj ≧ 0 j=2 であるので,x ≧ 0 で f (x) ≧ 0 が成り立つ。ここで,x = x1 とおけば,余不等式が成立する。 p/n ここで,(∗) の右側の不等式において,aij を aij n ∑ m ∏ apij ≧ i=1 j=1 m ∏ n ∑ ■ で置き換えれば, n/p p m n ∑ ∏ p/n p/n aij = aij n j=1 i=1 j=1 i=1 この右辺は,1 ≧ p/n ≧ 0 であることから,先ほどの補題を,( )p の中に適用して n/p p p m n m ∏ n ∑ ∏ ∑ p/n aij ≧ aij j=1 i=1 j=1 i=1 以上のことから,与不等式は示された。 ■ 山下のコメント. − 一般のベクトル空間において,→ xi = (xi1 , xi2 , ..., xim ) の間に, − →·− → − → x 1 x2 · · · xn = m ∏ n ∑ xij j=1 i=1 と定義されるような内積 のようなもの が意味を持つようなものであれば,この不等式が有用になるのでは と夢想する。
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