母子保健活動の評価の実際 厚生労働科学研究・分担研究 「健やか親子21」推進の効果に関する研究班 二種類の評価 • 事前評価 assessment = 地域診断 → 地域全体の評価 • 事後評価 evaluation = 事業評価 → (主に)事業参加者の評価 評価の方法 • 数量的評価 = 客観的評価、定量的評価 → 数字による評価 • 質的評価 = 主観的評価、定性的評価 → (主に)言葉による評価 質的な情報収集の方法 • インタビュー(聞き取り調査) → 日常業務の中で聞いた話の活用は重要 • フォーカスグループ・ディスカッション(座談 会) • 自由回答式の調査 • 観察 → 実は、一番大切かも • 資料調査(訪問記録の再分析など) • ブレーンストーミング → 新しい企画、改善方法などのアイディアを出すのに有用 ブレーンストーミングの4原則 • 批判厳禁 – 出された意見に対し、良い悪いの批判をしない。(批判する と発言しづらくなる) • 自由奔放 – 自由奔放な発言を歓迎し、どんな突飛な意見でも必ずとり あげる。 • 質より量 – 発言は多ければ多いほどよい。多い量の中には質の高い 意見が出る可能性が大きい。 • 便乗歓迎 – 他人の出した意見に便乗し、その意見から連想されることを 拡大した考えをおおいに歓迎する。 数量的な情報収集の方法 • 新規の調査 実態調査を毎年やっている暇や予算はない 教室参加者へのアンケートなどは可能 • 日常業務の中でのモニタリング 健康診査の問診などの活用 市町村合併に伴う電算システムの統一の際に、 健診の問診項目の見直しを • 人口動態統計などの既存統計の活用 • 感染症サーベイランス、その他医療機関からの情報 評価の対象、目的 効果の評価 = 結果評価 • どの程度変化が起こったか • 事業を継続すべきか、廃止すべきか → 数量的評価が有用 方法・体制の評価=プロセス評価 • なぜ、良かったか、悪かったか • どう改善すればよいか →質的評価が有用 • 効能 効果の種類 – 理想的な状況、やり方での効果 – 研究者による研究、先行事例等を参考 • 効果 – 自分たちの現場での効果 – 自分たちで検証するしかない • 効率 – 費用対効果 – これから重要 地域全体の評価 (地域診断) 地域診断の原則 • 地域比較 – 自分の市町村と、保健所管内、県、国と の比較など • 時間比較 – 年次による比較など • 人の属性比較 – 性、年齢による比較など 物を言うためには必ず何かを比較する 評価指標のレベル • 健康状態(究極の目的)に関する指標 – 死亡、罹患、有病、QOL、快適、幸福、安心 • リスク低下に関する指標 – 生活習慣、軽度異常、不適切な状態 • 対策に関する指標 – 事業実績、基盤体制(マンパワー、施設設備、 予算) 保健活動の評価指標の構造 Quality of Lifeの指標 生活満足度や生きがい,エンパワメント 健康指標 周産期死亡率,乳児死亡率,罹患率等 生活習慣や行動の指標 知識や態度 学習の指標 健康づくりの技術 健康的な生活習慣,予防接種等 組織・資源 家族や周囲のサポート 住民組織等の活動状況 環境の指標 社会資源へのアクセス 保健活動の質と量 普及啓発事業の回数,参加者数 関係機関との連携,住民参画 基盤整備の指標 マンパワーや施設の整備 協議会等の設置,制度づくり 完璧な指標は無いが、 ほどほどの指標を バランス良く選定 Quality of Lifeの評価 • QOL指標は保健活動の「めざすもの」 • 乳幼児期は親のQOLの評価が中心になる – 妊娠・出産満足度 – 子育て満足度 – 「ゆったりした気分で子どもと過ごせる時間が ある母親の割合」 健康状態の評価 • 人口動態統計から得られる指標 周産期死亡率 偶然の変動が大きく, 人口規模が大きくな いと評価が困難 妊産婦死亡率 新生児死亡率 乳児死亡率 幼児の不慮の事故による死亡率 出生率,合計特殊出生率 低出生体重児の割合 最近,増えていることが問題になっ ており,成長後の生活習慣病への リスクも指摘されている 乳幼児健診等で得られる健康状態 • 児の健康状態 カウプ指数 最近は肥満より,15未満の痩せが問題 う歯数,咬合の状態 う歯数など,口腔の状態は虐待のサイン アトピー性皮膚炎など,皮膚の状況 • 児の精神運動発達 一定の基準で評価できることが重要 生活習慣や保健行動の評価 • 児の生活習慣 起床時間,食事・間食の時間と内容,就寝時間 テレビやビデオの視聴時間,屋外遊び • 母親の生活習慣と行動 喫煙・飲酒の状況(妊娠中,子育て中) 母乳保育の状況,歯の仕上げ磨き 児を寝かせるときの体位,本の読み聞かせ 健診受診や予防接種の状況,事故対策の実施状況 育児サークルや子育て教室などへの参加状況 • 父親の生活習慣と行動 子育てへの参画状況(母親による評価) 生活習慣や保健行動に影響を及ぼす 周囲のサポートや社会資源・環境の評価 • 安全・安心の子育ての実践のために家族や周囲から のサポートが得られているか 住民組織(育児サークル,母子保健推進員,愛育 班等)の活動による子育てに対するサポート • 育児のことで相談できる人がいるか • 事故防止など子育てに必要な情報について学ぶ機会 救急蘇生法について学ぶ機会 • 休日,夜間も安心して受診できる小児科医療機関 • 慢性疾患児等の在宅医療の支援体制 事業参加者の評価 (事業評価) 評価デザイン • ケース・スタディ・デザイン – 事業の後に1回だけ調査 • 前後比較デザイン – 事業の前と後の2回調査 • 準実験デザイン – 希望等による事業参加者と不参加者を比較 • 実験デザイン – 事業参加者と不参加者をくじ引きで割り付け • 時間的に実施方法を変える方法 ケース・スタディ・デザイン • あるケースについて研究する • または、事業の後に1回だけ調査を行 う • 事業の数量的評価には役立たない • 質的評価としては有用 前後比較デザイン • 事業の前後で、どのように改善し たかを見る。 • 現場での事業の評価において、ま ず試みるべき 小児肥満教室評価の分析例 (仮想データ) 氏名 A B C D E F 肥満度 事業前 事業後 125 119 115 110 134 132 122 124 123 122 131 128 平均→ 標準偏差→ 差 -6 -5 -2 2 -1 -3 -2.50 2.88 毎日、運動や外遊びをする状況 教室前 教室後 運動あり 20 運動あり 21 運動なし 45 運動なし 1 運動あり 28 運動なし 17 評価分析方法 • その1 改善者割合 – 事業前 運動なし 45 → 事業後 運動あり 28 – 改善者割合 = 28/45 = 62% • その2 該当割合の変化 – 事業前 運動あり割合 = 21/66 = 32% – 事業後 運動あり割合 = 48/66 = 72% 準実験デザイン • 事業実施群と、対照群とを比較 • 比較対照の設定方法 – 参加希望者と希望しなかった人 • 参加希望者は健康への関心が高い – モデル学校と対照学校の比較 – 事業で一回おきにやり方を変える • 無作為に選ぶと、偏りが少ない (準実験デザイン) 参加希望者と希望しなかった人 例 – フッ素塗布を受けた子どもと、受けなかった 子どもとについて、その後の虫歯の発生状 況を比較した。 問題点 – 事業に参加する人は、放っておいても健康 に気をつける人である可能性が高い。 – 歯磨きや、おやつの状況なども考慮して、2 群を比較する必要がある。 実験デザイン • 事業実施群と対照群を無作為に割 り付ける • 科学的に最も正しい結果が得られ る • 倫理上の問題、サービス提供の公 平性から、現場で行うことは難しい 場合が多い 時間的に実施方法を変える方法 N=1研究(エヌ・オブ・ワン・スタディ) • 親子教室の例 – ある回はケーキ作りを、別の回は親子遊びをやった。 – 毎回のアンケートで、「とても良かった」という割合が、 ケーキ作りの時は60%、親子遊びの時は80%だった。 – 来年は、親子遊びはやることにして、ケーキづくりは再検 討しよう • 臨床の例 – ある患者さんに、薬Aを1か月飲んでもらったが調子は余 り良くなく、次の月に薬Bを飲んでもらったら、調子が良 かった。 評価の対象、目的 効果の評価 = 結果評価 • どの程度変化が起こったか • 事業を継続すべきか、廃止すべきか → 数量的評価が有用 方法・体制の評価=プロセス評価 • なぜ、良かったか、悪かったか • どう改善すればよいか →質的評価が有用 誰が評価をするのか? • 評価をするのは専門職だけで良いのか? 担当の事務職員や係長,課長も関わることが重要 課長や係長にも,事業の現場で住民の「生の声」による評 価を実感してもらおう • 住民や住民組織にも評価ができるはず 自分たちが評価を行うことで,取り組みの見直しに 食生活改善推進員による食生活のチェック 母子保健推進員による子育ての実態調査 その他、健やか親子推進の関係機関自身による評価 目標値の設定方法 目標値の設定方法 • 回帰分析 • 地域較差の利用 • 改善率の設定 回帰分析 • 回帰分析とは、分布に合う直線を引くこと – 骨密度の年齢別基準値などに利用 骨密度の年齢別基準値 骨密度 年齢 骨密度の年齢別基準値 骨密度 年齢 60歳 回帰分析を利用した目標値設定 • 将来の推計値、目標値を、 科学的根拠により求めることができる 限界 年次推移のデータがある指標にしか使え ない 改善している指標にしか使えない 地域較差の利用 • 地域較差を利用して、目標値を決める • 最大値、最小値 – 最も良い地域の値を目標値とする • 平均、標準偏差 – 平均±2×標準偏差 などを目標値とする – 最大値、最小値よりも安定している 標準偏差の何倍にするか +標準偏差 16% +2×標準偏差 2.3% 平均 地域較差の利用の限界 • 各地域のデータがある指標にしか使え ない。 • その目標値が、いつの目標値として妥 当なのか、根拠がない 改善率の設定 • 上記方法が使えない場合、 エイヤアと、10%改善、20%改善など決める • デルファイ法の利用 – 大勢の専門家に、どのくらいの数字が妥当かを アンケート調査する その他の方法 • 改善希望者の調査 • 生活習慣改善率と、 死亡等改善率の整合性 改善希望者の調査 • 喫煙者の中での禁煙希望者割合 を調査 → その分を、喫煙率減少目標とす る 生活習慣改善率と、 死亡等改善率の整合性 • 健康日本21「循環器病」の項参照 • 種々の喫煙率の低下を仮定し、それぞ れの場合の各種生活習慣病死亡率減 少を推計 ○生活習慣等による循環器病の減少推計値 健康日本21報告書より抜粋 喫煙率 脳卒中の減少 虚血性心疾患の減少総循環器疾患の減少 男性 女性 男性 女性 全体 男性 女性 全体 男性 女性 全体 55% 15% 16% 6% 11% 11% 7% 9% 17% 4% 10% 45 10 29 15 22 24 17 20 26 10 18 35 10 42 15 28 37 17 26 35 10 22 25 5 55 24 39 50 26 38 44 17 30 15 5 68 24 46 63 26 44 53 17 35 0 0 87 33 60 82 36 59 66 23 45 注) それぞれの疾患の減少は、死亡率、罹患率及び疾患による新たなADL低下の 減少割合を示す。 上記の生活習慣改善による循環器疾患予防への効果予測は、現在の研究結果等に よってみられる危険因子の寄与を用いて推計したものである。また、上記の効果 は、生活習慣改善対策の進行状況等に影響を受け誤差を生じることがある。 指標の特徴 指標の特徴 その1 【前提条件】 (1) 容易性(データの入手のしやすさ) 自分の地域のデータ、 比較対照のデータ(全国、都道府県など) (2) 価値観(数字が高いのは良いことか 悪いことか) (3) 重要性(公衆衛生的に重要な項目か) 指標の特徴 その2 【科学的正しさ】 (4) 精度 偶然誤差の少なさ (5) 情報バイアス 一人一人のデータが正確か、 判断基準か一定か (6) 選択バイアス 調査対象が住民全体を代表しているか 完璧な指標は無いが、 ほどほどの指標を バランス良く選定
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