近代の地震・火山災害に関する 新聞記事データベースの作成と分析

近代の地震・火山災害に関する
新聞記事データベースの作成と分析
とくに明治時代後期について
小山研究室4年
小野田 雄二
研究目的

近代以降の日本では、災害情報の発信・伝達の失敗によ
り社会不安を引き起こす事件がくり返されてきた。
近代に社会不安を起こした「大森・今村論争」事件 萩原(1982)
本格的研究はなされていないし、そもそも資料収集すら系統的に
なされていない。
本研究では…
第1の目的:全体像を把握するためにデータベースをつくること
第2の目的:情報伝達の問題をさぐること
「新聞記事切抜き集」について
東京大学地震研究所に保管されている新聞記事のスクラッ
プ集で、明治24年から昭和16年初頭までの自然災害に関
する新聞記事を集めたもの。地元の図書館ですら入手困難
な地方紙も含む大変貴重な史料である。
明治期87冊
大正期68冊
昭和期44冊
全199冊
収録記事
新聞社
●地震
●火山
●風水害
●気象情報
●日食 等
●都市部の新聞社
●官報
●地方新聞社
先行研究
高梨(2000、教育学部卒業論文)
『新聞記事からみた明治・大正時代の日本の
地震防災』
明治期 11冊
福山(2003、教育学研究科修士論文)
『明治~昭和初期の自然災害報道と情報伝達』
大正・昭和期 計112冊
明治期全87冊 - 11冊(済) - 6冊(気象台) = 70冊
未分析の史料
研究手順

新聞記事のスクラップ集を読む
↓
表計算ソフトにデータベース化
↓
統計処理能力を活かし、全体の特性を把握する
↓
災害情報の伝達問題にからむ記事を抽出し、
その内容を分析する
データベース
収録記事の電子データベース化は、表計算ソフト
Microsoft Excel を用いて行う。
記入する7項目
1.収録冊子番号
2.冊子の項番号
3.年月日
4.掲載紙名
5.災害地名
6.内容の分類
7.概要

『16○○○』と記載されている5 桁の番号
冊子に項番号が記されているものは一部でしか
見られないが、カウントしすべての冊子で入力
記事上に判子又は手書きで記入してある。
火山災害は火山名、その他の災害や
自然現象は県名もしくは国名を入力
地震、火山、水害、台風、風害、雪害、干害の自
然災害と無被害の気象、自然現象に分類
記事の内容からごく大まかな概容を入力
Excelの入力例
収録冊子番号
冊子の項番号
年
月
日
掲載紙名
災害地名
内容の分類
概要
新聞記事のサンプル
災
害
地
名
概
要
年
掲
載
紙
名
月
日
結果及び史料の特性分析①
未分析史料全体のおおよそ14%にあたる10冊を
年別の記事数
データベース化(総記事数3349件)
800
700
記事件数
600
500
M29.8.31
陸羽地震
M34.8.9
青森県東方沖地震
毎年噴火を繰り返す
M44.5.8 浅間山
爆発音が最大で240km
400
300
200
100
0
24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44
年号(明治)
史料の特性分析②
12.6%
掲載紙名
5.9%
52.4%
1.6%
2.0%
2.5%
2.6%
3.5%
3.8%
3.9%
5.3%
2.6%
5.4%
1.1%
5.7%
0.9%
4.3%
4.0%
3.9%
3.0%
2.9%
2.7%
9.3%
時事新報
東京朝日新聞
東京日日新聞
新聞社所在地
日本
(地方別)
国民新聞
報知新聞
都新聞
中外商業新報
萬朝報
讀賣新聞
その他
58.1%
東京
東北地方
近畿地方
甲信越地方
九州地方
関東地方
東海地方
四国地方
北海道地方
中国地方
台湾・中国
北陸地方
不明
史料の特性分析③
9.3%
災害地名
5.5%
4.2%
62.2%
明治元年
2年 ○
3年
4年
5年
6年
7年
8年 ○
9年
10年
11年
浅間山の噴火記録
3.5%
12年 ○
3.2%
13年
14年
2.7%
15年
2.6%
16年 2.6%
17年
18年 2.2%
2.1%
19年
20年
21年
22年 ○
○噴火
東京
浅間山
気象庁HP 浅間山
秋田
北海道鳴動
23年
34年 ○
霧島山
24年
35年 ○
25年
36年 ○
山梨
26年
37年 ○
大阪
27年
38年 鳴動
福岡 ○
28年
39年 ○
青森
29年
40年 ○
岩手
30年
41年 ○
その他
31年
32年 ○
33年 ○
42年 ○
43年 ○
44年 ○
気象庁HP 日本活火山総覧参照
史料の特性分析④
0.2% 0.2%
1.9%
1.9%
2.1%
噴火 161
8.9%
5.9%
内容の分類
鳴動 138
噴煙 64
地震記録 957
調査報告 20
降灰9.8%
19
雑報 74
被害状況 54
雑報18
震災詳報 19
亀裂17
調査報告 18
断層線 12
20.1%
耐震建築 11
49.2%
地震
火山
気象
水害
自然現象
風害
風水害
干害
雪害
その他
大正・昭和期(福山、2003)との比較①
14
掲載紙(上位15社)の記事数の割合
12.6
12
■明治期では「時事新報」の記事が圧倒的多い
全体に占める割合
10
8
8.3
■大正・昭和期では大阪の新聞社の記事が増加した
6.7
6
5.9
5.7 5.7
5.9
5.5
4.3
4
4 4.3 3.9
2
3
3.5
2.9 2.7 2.7 2.6 3 2.6 2.6
2.3
2
0
5.7
2.4
1.7
1.6
1.8
0
大阪朝日新聞
やまと新聞
大阪毎日新聞
毎日新聞
中央新聞
読売新聞
萬朝報
掲載紙
中外商業新報
都新聞
報知新聞
国民新聞
日本
東京日日新聞
時事新報
東京朝日新聞
0
(%)
明治期
大正・昭和期
■掲載数の多い新聞社はほぼ変わらない
大正・昭和期(福山、2003)との比較②
災害別割合
60
50
49.2
全体に占める割合
42.4
40
30
20
10
災害地(上位6位)
明治
明治期 (%)
大正・昭和期 (%)
大正・昭和
東京
9.4
東京
11.6
浅間山
5.6
関東
7.7
■地震記事は全期間を通して半分近くを占める
黄砂4.6
秋田
4.3
桜島
赤潮 4
北海道
3.6
浅間山
■大正・昭和期で自然現象の割合が高まってる
隕石
霧島山
3.2
神奈川
2.5
日食
山梨
2.7
長野
2.5
彗星
20.1
大阪
2.6
大阪
2.4
17.6
地殻変動
地盤沈下
9.8 8.3
8.9
6.2
6.9
全期間を通じて最も多い災害地は東京で、全体に占める割
2.1
1.9 3.2
合も10%程度と変わりはない。
全新聞社の58.1%が東京
0
に集中していることから、必然的に多くなったと推測できる。
地震
火山
気象
水害
自然現象
風害
(%)
災害種
災害情報伝達にまつわる事件

近代の地震災害情報伝達を学ぶ
上で、必ず出てくるのが「大森・今
村論争」事件である。
共に東京帝大の教授・助教授をしていた2人は
紙上で論争を繰り広げることが多々あった。
1905年(明治38年) 雑誌『太陽』 9月号
「市街地における地震の損害を軽減する簡法」
という今村の論説が発表された。
今村 明恒
(1870-1948 )
大森 房吉
(1868-1923)
その論説は、
江戸に大被害をもたらした1649(慶安2)年の地震の54年後に1703(元禄16)年の元禄
地震が発生した例があること。安政江戸地震から50年を経たこと
約4ヶ月後、『東京二六新聞』のセンセーショナルな記事が大きな騒ぎに。
大地震襲来説

こ
の
記
事
に
扇
動
さ
れ
た
大
衆
は
大
騒
ぎ
に
。
明治38年1月16日、東京二六新聞が掲載した「大地震襲来説」が引き
金となって、多数の関連記事が掲載された。
「大地震襲来説」は、今後50年以内に東京が大地震に見舞われるという
今村明恒(東京帝大助教授)の主張である。
今
村
が
大
地
震
の
襲
来
を
予
言
し
た
。
れ年
ての
い丙
る午
よ、
う凶
丙か
午吉
・・・ の か
年、
にあ
はる
火い
災は
言
がい
多伝
いえ
。ら
大地震襲来説による騒動
■仕事を中断し日比谷公園に避難する者
(東京朝日新聞)
■終夜戸を開け放しで寝る者(東京二六新聞)
(件)
25
日別掲載記事数
20
15
10
5
0
1月16日
2月25日
大地震襲来説
流言による大騒ぎ
1月18.19日
流言による、
住民の混乱状況
1月25日
大地震襲来 浮説
大地震襲来説
大森氏 地震談
訂正
大森は今村に訂正の寄稿 紙上で今村を批判
を命じる
1月21日
1/
2/
16 18 20 22 24 26 28 30 1
地震発生 千葉
2月23日
流言「午後3~5時の間
に大地震襲来あるべし」
地震発生
東京
3
5
7
9
2月26日
沈静化のため大森は
雑誌『太陽』3月号への寄稿
や講演などで今村説を
「東京大地震の浮説」とした。
11 13 15 17 19 21 23 25 27
日付
3/
1
3
5
7
9
11 13
「大地震襲来説」に関する日別記事数
「大地震襲来説」は当時きわめてセンセーショナル記事であり、群発
地震も併発したことにより、不安を抱くようになった。その後、地震の
デマが重なり、住民の不安がさらに掻き立てられた。
まとめ




処理した総記事数は3349件で未分析史料全体のおおよそ
14%である。
史料の特性分析より
当時の災害種や災害地などの内訳が読み取れた。
明治期と大正・昭和期の比較より
全期間を通して災害記事の変容が明らかになった。
大森・今村論争より
大森・今村論争に関係する新聞記事の推移分析により、災
害情報伝達の失敗による影響・損害が浮き彫りになった。