メディアというブラックボックス

メディアというブラックボックス
われわれにとってメディアとは何か
1.メディア・サイボーグ
・サイボーグ(cyborg)とは、cybernetic organism
の略で、「異常な環境への順応などのため、特
に人間の生体機能の重要な部分を電子機器な
どに代行させたもの。」(「広辞苑」)
・サイボーグ009、ロボコップ、ターミネーターな
ど。
・現代の環境は、われわれの五感によっては十
分にとらえることはできないものとなっている。メ
ディアが人間に代わって環境をとらえ、適応する。
2.われわれはたくさんの機器の
助けを借りて生きている。
・まず、メガネ(コンタクトレンズ)や補聴器など
が考えられる。
・また、ペース・メーカーや電動いすばかりでな
く、自動車、エレべーターなど、数え上げたらきり
がないほどある。
・そして、アルコールをはじめ、さまざまな薬物
は、われわれに通常では味わえない感覚世界を
経験させる。
・こうした機器(薬物)によって、われわれは生
体的な限界を克服する。
3.メディアがわれわれの
環境を作る
・われわれはメディアなしでは、環境(人間的環
境)の全体像を実感することはできない。
・自分の五感で実感できる領域は、われわれが
生きている世界のごく小部分にしか過ぎない。
・いま、自分が世界の中で生きていると実感で
きるためには、メディアを媒介にしなければなら
ない。→われわれはメディアに依存して生きてい
る。
・メディアの世界が行動環境である。
4.イメージの共有性
・行動環境はイメージである。
・メディアは、われわれの外的環境だけでなく、
内的環境をも決定するようになっている。→われ
われは環境イメージで生きているからである。
・会ったことのない人物や、行ったことのない場
所、体験したことのない出来事などについての
メージイがぶれないのは、メディアで日常的に
知っているからである。→共通のイメージの内在
化
・こうして互いにイメージを共有するようになった。
→それは文化や価値観の共有、均質化を進める。
5.われわれがメディア・サイボーグで
あると考えると・・・
・サイボーグは人間と機械の共生だが、メ
ディア・サイボーグは人間とメディアの共生と
考えることができる。
・われわれはメディアを利用して環境を確か
めているのだが、メディアに依存してしまうと、
メディアの世界をリアルなものと思ってしまい
がちである。
・メディア・リテラシーが必要な理由はここに
ある。
6.メディアはわれわれの
神経組織である
・われわれはメディアを媒介にして環境を
キャッチする。→外部環境のキャッチ。
・われわれはメディアを使って感じ、考え、行
動している。→われわれの心理、生理、思考
を決定する。
7.メディアが作り出す「現実」
-メディア的現実
・われわれは圧倒的に、メディア的現実の中に
生きている。それはメディアがとらえ、われわれ
に提供する「現実」である。
・われわれが五感でとらえた現実は、ほんのわ
ずかにすぎない。
・メディアは現実の断片を合成して「メディア的
現実」を作る。→実況中継におけるさまざまなカ
メラテクニックと編集テクニック。
・ときにはメディア的現実は製造される。→200
8年の北京オリンピックにおける口パク少女や花
火の合成場面など。
8.メディアの肉体化
・メディアはわれわれの皮膚となり、肉体化
している。
・また、メディアによって、外部環境を知るば
かりでなく、内部環境も作られるようになった。
・われわれはメディアがなければ、知ること、
そして感じることがなかった出来事の中に生
きている。
・それはメディアの世界がわれわれの血液
の中を流れているようなものだ。
9.情報の即時的な流通は
人間関係を変える
・われわれは対面的に会話をする相手よりも、
はるかに多くの見知らぬ他人と、メディアを媒介
にして親密になれる。
・メディアを媒介にした仲間の誕生。→地球村の
誕生である。
・われわれはコミュニケーションの自由を基礎に
して、新しいつながりを求めることができる。
・メディアの発達は、自分の感情や気持ちを他
人に伝える機会を飛躍的に拡大させた。
10.ネットでつながっている
という感覚
・ネットは孤独な人々にとって、友だちを見つけ
ることのできる場所である。
・ネットは即座につながることから、返信を待つ
という“時間的な落差”の感覚が社会から失われ
た。→それはメディアが作り出した孤独感と関係
している。
・メールは直ちに打ち返すことが、メル友では儀
礼となった。
・その半面、メールや携帯電話のブログでの発
信が無視されたとき、深い孤立感を味わう。
11.ネットが拓いた新しい世界
・インターネットはコミュニケーションの世界
に新しい局面を加えた。
・ネットは社会的な障壁を超えて情報を交換
できる。→1989年6月4日に発生した天安門
事件
・ネットは社会を民主化する。
・その半面、ネット上で匿名的な発信者が社
会的に大きな力をふるうようになった。
12.ネットコミュニケーションの
素晴らしさと危険性
・ネットは社会への窓となり、われわれは社会に向かって
自由に発信できるようになった。
・しかもネットコミュニケーションは、匿名での書き込みを
許すため、社会に向って自由に発信できる。→われわれ
は意見と感情を、社会的平面で自由に交換できる。
・その反面、自分勝手な主張や感情的反発、そして特定
の発信者に対する集中的な攻撃が行われるようにもなっ
た。→「学校裏サイト」、韓国では2008年春の米国産牛
肉輸入問題に関する不安の声の爆発がソウルの目抜き
通りを埋め尽くす「ろうそく集会」へと発展、また10月2日
朝の崔真実(チェジンシル)さんの自殺など。
13.メディアは監視システム
・メディアによる外部環境の監視。→これが
ジャーナリズムの役割である。それは専門的
な機関(新聞社、放送局など)が行ってきた。
•
しかし現代では監視カメラをはじめ各種セン
サーの個人化が可能となった。さらにカーナ
ビなどの位置測定システムなどによって、そ
れは個人化されている。それは老人や子ども
の保護という点では福祉に役立つ。しかしそ
れだけ、老人や子供は監視されているわけで
ある。
14.メディアによる
外部環境の監視
・インターネットを使って、自分で監視網を作
ることもできるようになった。
・ネットにアクセスすることで、即座に自分の
調べたいことを検索できる。それは辞書機能
に始まり、さまざまな環境情報(ニュース)の
検索、さらには情報交換へと発展する。
・ブログでの情報交換。
15.メディアは
われわれの感情を刺激する
・例えば、韓国の若者は「ユー・チューブ」に
映された警官の暴行に関する映像を見て、抗
議に立ち上がる。
・携帯電話でどこに警官によってバリケード
が張られているかを知らせることで、デモ隊
の進行方向が変わる。
・アイ・ポッドに自分の好きな曲を入れ、編集
してマイ音楽環境を作る。
16.メディアによる
内部環境の監視
・メディアによる内部(体内)環境の監視。→
レントゲン、血液検査、アイソトープカメラなど。
・メディアは環境を調べ、環境に関する情報
を提供するだけではない。われわれがどのよ
うに感じ、考え、行動するかをも決定する。
•
これがネットの世界で始まっている。ケータ
イやアイ・ポッドに収録されている音楽は、そ
の人のムードに合わせて選択される。感情環
境の自己演出。
17.環境情報の個人的編集
・インターネット
・アイ・ポッド
・ビデオカメラとパソコンによる画像の編集と
ネットへの送信→ユー・チューブ
・メディアはインテリアとなり、個人環境を作
る。音楽環境、画像環境。
18.監視社会の意味
・監視しつつ、監視される仕組みができあ
がった。
・監視することは、それがまた監視されるこ
とにつながる点に注意しなければならない。
見ることは見られることであり、それは見せる
ことを考えることでもある。
19・秘密の公開が当たり前になった
・見ること、知ることを求める大衆感情が渦巻く
社会になった。
・私的な事情(秘密)の公開は当たり前になった。
・私的な事柄を公開する(自分を社会的イベント
にする)ことで、有名人になる仕組みが出来あ
がった。
・慎み深さ、規律、抑制などの価値が凋落した。
・カジュアルな社会になった。
20.価値の民主化は
社会のエンタテインメント化を促す
・メディアの発達は社会のエンタテインメント
化を促進する。
・われわれはすべてを見ているという錯覚を
もつようになる。
・政治もエンタテインメント化する。
・大衆の時代は、首相も国民に語りかけ、支
持されなければならない。首相は庶民的であ
ることを印象づけようとするし、国民もそれを
求める。その落とし穴。
21.大衆感情が支配する時代
・大衆感情はメディアを媒介にして、瞬時に
社会に拡散する仕組みが生まれた。
・それは社会的権威を崩壊させた。
・価値の多元化の時代になった。
・政治も感情が支配するようになった。
22.“いま”の支配
・メディアが伝えていることを、“いま”体験し
ているから、その“いま”がわれわれにとって
価値のあるものとなる。
・歴史や伝統も、メディアが“いま”伝えてい
るから価値がある。→メディアを頼りにして生
きていると、歴史や伝統など過去からの積み
重ねを軽視しがちになる。
・メディアが伝えるものが、われわれにとって
リアルになる。
23.メディアとどう向き合うか
・メディア・リテラシーの必要性→メディアが
表現し、伝える仕組みを考える。
・メディア社会では、とかく“現在”が重視され
がちである。過去からの流れを調べることを
忘れてはならない。
・知的な情報の蓄積を怠らない。情報には
歴史や伝統があることを忘れない。
・慎み、抑制の価値を大切にする。他人に見
せない部分に価値を見出す。
おわり