宇宙科学最前線 第1回

鹿児島大学/愛媛大学
宇宙電波天文学特論
第5回
Einstein係数とHI輝線
半田利弘
鹿児島大学 大学院理工学研究科 物理・宇宙専攻
Mellinger
エネルギー準位
▶ 電子の波動方程式:Schrödinger equation
▶ 定常状態=エネルギー固有値
■
変数分離型
▶ 定常状態でのSchrödinger equation
Mellinger
束縛状態とエネルギー固有値
▶ 境界条件によって答は変わる
■
■
E>0だとEは連続値をとることが可能
E<0(束縛状態)だととびとびの値に限定
▶ 量子力学でも常に離散的とは限らない!
▶ 多くの場合、束縛状態を考える
■
固有値・固有関数が離散的になる
Mellinger
原子中の電子、分子中の電子
▶ 原子・分子中の電子
■
束縛状態→とびとびのエネルギー固有値
▶ エネルギー準位
Mellinger
エネルギー遷移と物質
▶ エネルギー準位間で電子が遷移
■
■
電磁波の放射・吸収
電磁波の周波数は DE=hn
▶ エネルギー準位の構造=物質の種類
■
■
放射・吸収する電磁波の波長=物質の種類
スペクトル線による物質の同定
Mellinger
アインシュタイン係数(1)
▶ 放射と吸収:2準位モデル
■
放射の遷移確率 A
 入射光強度とは独立
■
吸収の遷移確率 B
 入射光強度に比例
dI = n2 A-n1 B I
Mellinger
アインシュタイン係数(2)
▶ 定常状態 dI=0
dI = n2 A-n1 B I  n2 A = n1 B I  I
𝑛2 𝐴
=
𝑛1 𝐵
▶ 物質と輻射での熱平衡を考える
■
熱平衡→粒子のエネルギーはBoltzmann分布
𝑛2
𝑛1
■
= 𝑒 −Δ𝐸/𝑘𝑇 =𝑒 −ℎ𝜈/𝑘𝑇
熱平衡→Iは黒体放射
I = Bn (T) =
■
2ℎ𝜈 3
1
𝑐 2 𝑒𝑥𝑝ℎ𝜈/𝑘𝑇 −1
黒体放射になり得ない!?
Mellinger
誘導放射(1)
▶ もう1つの過程を加える
■
気づかれない形で含まれる必要
▶ 誘導放射の導入
■
■
自発放射の遷移確率 A21、吸収の遷移確率 B12
誘導放射の遷移確率 B21
 入射光強度に比例して放射が出る!
dI = n2 A21-n1 B12 I+n2 B21 I
= n2 A21-(n1B12-n2B21) I
 吸収が目減りするだけなので気づかない
Mellinger
誘導放射(2)
▶ 定常状態 dI=0
n2 A21=(n1B12-n2B21) I  I = 𝑛1
𝐴21
𝐵 −𝐵21
𝑛2 12
■
熱平衡→粒子のエネルギーはBoltzmann分布
𝑛2
𝑛1
■
■
=
𝑒 −Δ𝐸/𝑘𝑇 =𝑒 −ℎ𝜈/𝑘𝑇 ,右辺
=
𝐴21
1
𝐵21 𝐵12 𝑒𝑥𝑝ℎ𝜈/𝑘𝑇 −1
𝐵21
熱平衡→Iは黒体放射 I = Bn (T) =
比べると、
𝐵12
𝐵21
=1,
𝐴21
𝐵21
=
2ℎ𝜈 3
𝑐2
Mellinger
2ℎ𝜈 3
1
𝑐 2 𝑒𝑥𝑝ℎ𝜈/𝑘𝑇 −1
アインシュタイン係数の関係
𝐵12
𝐵21
=1,
𝐴21
𝐵21
=
2ℎ𝜈 3
𝑐2
▶ 統計重率g1, g2がある場合
■
Boltzmann分布
𝑛2
𝑛1
=
𝑔2
𝑔1
𝑒 −ℎ𝜈/𝑘𝑇
g1B12=g2B21, A21=
2ℎ𝜈 3
𝑐2
B21
▶ A21、B12 、B21は物質固有量
■
■
係数間の関係式は非平衡でも成立
A21、B12 、B21:アインシュタイン係数
Mellinger
メーザー(1)
▶ 誘導放射が実在するなら…
dI = n2 A21-(n1B12-n2B21) I
 吸収が目減りするだけなので気づかない。はずだが…
▶ n2> (B12/B21) n1とできたらどうなる?
■
𝑛2
𝑛1
■
負の温度、inverse population
=
𝑔2
𝑔1
𝑒 −Δ𝐸/𝑘𝑇 だから、T<0
▶ 誘導遷移がもろに見える!
Mellinger
メーザー(2)
▶ 3準位系なら実現可能
pomping
inverse population
種光子
maser
Mellinger
メーザー(3)
▶ MASER
初の3個以上の原子からなる星間分子
Microwave Amplification by Stimulated Emission of Radiation
■
■
輻射の誘導放射によるマイクロ波増幅
タウンズによって開発された(1954年)
 星間アンモニアを発見した人でもある
▶ LASER
■
マイクロ波→光Light
▶ 誘導放射の光子の特徴
■
種光子と周波数、位相、偏波方向が同じ
Mellinger
励起温度
▶ 一般の放射時には I=
▶ 熱非平衡:
■
𝑛1
はBoltzmann分布にならない
𝑛2
でも温度で表せると便利
▶ 励起温度Tex
■
■
2ℎ𝜈 3 𝑛1
−1
2
𝑐
𝑛2
𝑔2
𝑔1
𝑒 −Δ𝐸/𝑘𝑇𝑒𝑥
Tex= -
=
Δ𝐸
𝑔 𝑛
𝑘 𝑙𝑛 𝑔1 𝑛2
2 1
𝑛2
𝑛1
で定義
Mellinger
放射係数
▶ 放射係数(emissivity) e をEinstein係数で表す
■
■
放射が等方なら…
体積dV, 時間dt, 方向dWへの放射エネルギーdEn
dEn =hn j(n) n2 A21 dV dt
=
■
ℎ𝜈
4𝜋
j(n) n2 A21 dS dx dt dW
放射のみの場合
Mellinger
dIn =
■
すなわち en =
𝑑Ω
4𝜋
ℎ𝜈
4𝜋
𝑑𝐸𝜈
𝑑𝑡 𝑑𝑆 𝑑Ω
j(n) n2 A21
=en dx
吸収係数(1)
▶ 吸収係数 k をEinstein係数で表す
■
■
吸収が等方なら…
体積dV, 時間dt, 方向dWからの放射エネルギー
dEn = -hn j(n) (n1 B12 -n2 B21) In dV dt
=■
ℎ𝜈
4𝜋
j(n) (n1 B12 -n2 B21) In dS dx dt dW
吸収のみの場合
Mellinger
dIn =■
𝑑Ω
4𝜋
すなわち kn =
ℎ𝜈
4𝜋
𝑑𝐸𝜈
𝑑𝑡 𝑑𝑆 𝑑Ω
=-kn In dx
j(n) (n1 B12-n2 B21)
吸収係数(2)
■
(承前)
ℎ𝜈
kn = 4𝜋 j(n) (n1 B12-n2 B21)
ℎ𝜈
𝑔1 𝑛2
= j(n) n1 B12 1−
4𝜋
𝑔2 𝑛1
=
=
=
ℎ𝜈
4𝜋
𝑐2
8𝜋𝜈 2
𝑐2
8𝜋𝜈 2
j(n)
𝐵12
n1 B21
𝐵21
j(n)
𝑔2
n1A21
𝑔1
j(n)
𝑔2
n1A21
𝑔1
−
𝑛2
𝑛1
𝑔1 𝑛2
1−
𝑔2 𝑛1
[1-𝑒 −ℎ𝜈/𝑘𝑇𝑒𝑥 ]
Mellinger
源泉関数
▶ 源泉関数Sn=
Sn =
𝜀𝜈
𝜅𝜈
𝑛2 𝐴21
𝑛1 𝐵12 −𝑛2 𝐵21
=
2ℎ𝜈 3
1
𝑔2 𝑛1
𝑐2
−1
𝑔1 𝑛2
=
2ℎ𝜈 3
1
𝑐 2 𝑒 ℎ𝜈/𝑘𝑇𝑒𝑥 −1
▶ 熱平衡なら、Tex=T (熱平衡の相手の温度)
▶ 局所熱平衡LTE
■
すべての準位で励起温度が等しい
Mellinger
中性水素原子
▶ 陽子+電子
■
■
陽子proton スピン1/2の素粒子 2値をとる
電子electron スピン1/2の素粒子 2値をとる
 素粒子のスピン=磁場と関係する
 スピン同士で相互作用する
A10=2.86888×10-15 [s-1], n =1.420405751786[GHz]
Mellinger
HI輝線(1)
▶ A10=2.86888×10-15 [s-1]
 遷移が遅いので星間ガスの密度で十分に励起
 励起すればメーザーになる→水素メーザー時計
▶ 吸収係数
kn =
■
𝑐2
8𝜋𝜈 2
j(n)
𝑔1
n0A10
𝑔0
1− 𝑒 −ℎ𝜈/𝑘𝑇𝑒𝑥
g0=1←縮退なし, g1=3←F=+1,0,-1が縮退
𝑔1 −ℎ𝜈/𝑘𝑇
𝑠
𝑒
𝑔0
■
nH=n0+n1= n0 1+
■
HIでは、Tex=Ts(スピン温度)と書く
Mellinger
HI輝線(2)
▶
ℎ𝜈
≪
𝑘𝑇𝑠

■
■
1で近似してよい
ℎ𝜈
𝑘
=0.07 [K]≪Ts~100 [K]
1次近似
 1-𝑒 −ℎ𝜈/𝑘𝑇𝑠
≅
 nH= n0
𝑔1
𝑔0
kn =
𝑐2
1+
3
8𝜋𝜈 2 4
ℎ𝜈
𝑘𝑇𝑠
𝑒 −ℎ𝜈/𝑘𝑇𝑠 =4n0
ℎ𝜈
nH A10
𝑘𝑇𝑠
Mellinger
j(n)
𝑛𝐻
-15
=2.6×10
𝑇𝑠
j(n) [cgs]
HI輝線(3)
▶ 柱密度は定義により
■
NH=∫nH dx =
1
2.6×10−15
∫ Tstn dn [cgs]
▶ 光学的に薄ければTB= Ts(1-e-t)= Tstn
■
NH=
1
2.6×10−15
∫ TB dn [cgs]
𝜈
𝑐
▶ ドップラー効果換算のdn = dvを使うと
NH[cm-2]=1.8224×1018 ∫ TB dv [K km s-1]
▶ 注意:上式の成立条件
■
光学的に薄い
Mellinger
自然幅j(n)の1つの解釈
▶ 量子遷移が起こる時間 Dt
■
■
0ではない ∵波である電磁波が出ている
∞ではない ∵有限時間で遷移が完了する
▶ 徐々に強まり、徐々に弱くなるはず
▶ フーリエ変換すると幅ができる
波
粒子
波束wave packet
Mellinger
レポート
▶ 電子メール添付。締切11/13
■
[email protected]まで
▶ 課題
1. Einstein係数の関係式を導け
2. 中性水素原子1個が遷移する平均時間は?
Mellinger