V. 量子エレクトロニクス入門 1 本章ではレーザについての入門的な事柄を述べる。 光子 減衰板 超高感度 光検出 検出信号 これまで光を波動として取り扱ってきた。 直観的には波動のエネルギーは連続量。 ところが、光のエネルギーを詳細にみると離散量となっている。 不連続 時間 この光エネルギーの最小単位を 光子 と呼ぶ。 波動的性質と粒子的性質は次のように両立している。 (波動) A B (光子) 光子検出 A B 減衰板 2 光と原子の相互作用 レーザ発振の源は光と原子系の相互作用現象。 原子は、重い1個の原子核とそれを取り巻く複数の軽い電子から成っている。 ごく単純には、太陽の周りを惑星が回っているようなイメージ。 ここで、 ・電子の軌道は離散的に定まっている。 ・高軌道ほど高い位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー) 一般に、物質は多数の原子で構成されており、各原子が複数のエネルギー準位に分布している。 これを模式的に下図のように表す。 エネルギー E2 エネルギー=E1の原子が3個 エネルギー=E2の原子が1個 E1 このような原子系に光が入射されると、光と原子系が相互作用し、エネルギーのやり取りが起こる。 このとき、エネルギー保存則のため、 (i) 光が失うエネルギー=原子が得るエネルギー ⇒ 光の吸収 または、 (ii) 光が得るエネルギー=原子が失うエネルギー ⇒ 光の放射 放射 吸収 f ∆E = hf E2 E1 半導体では、このエネルギー準位があるエネルギー帯に稠密に並んでいて、あたかも連続的 であるかのようになっている(バンド構造)。 3 伝導体 荷電子帯 半導体に2つの準位間に相当するエネルギーの光を照射すると、吸収が起き、電子が高いエネル ギー帯の遷移する。 この電子を電流として外部に取り出すと、出力電流値は照射された光の強度(光子の数)に比例。 この現象が、CCDカメラ、光受信器など、光の検出に利用される。 V 半導体 伝導体 荷電子帯 励起と自然放出 通常、原子は低いエネルギー状態にある。 そこへ光照射や放電などでエネルギーを供給すると、高いエネルギー状態へ遷移する。 これを「励起」という。 では、高エネルギー状態へ励起された原子はその後どうなるか。 一般に、物理系はエネルギーの低い方に落ち着こうとする性質がある。原子系の場合も同じ。 励起された原子は高エネルギー状態から低エネルギー状態へ自発的に遷移する。 そして、これに伴い光を放射する。 これを 自然放出 という。蛍光灯が光るのはこの原理。 4 自然放出 励起 E2 E2 (光) f E1 E1 (熱、放電など) 誘導放出 レーザ発振が起こるためには、さらに別の遷移過程が必要。まず、その必然性について。 原子の集団があったとき、単位時間当たりに自然放出が起こる割合(上から下へ遷移する原子 数) W2→1 は、上準位にある原子数に比例するであろう。 W2→1 = A21N 2 N2:上準位数 A21:比例定数 N2 一方、原子系に光が照射されたときに、単位時間当たりに吸収が起こる割合(下から上へ遷移す る原子数) W1→2 は、光強度(光子数)及び下準位数に比例するであろう。 W1→ 2 = B12 N1I N1:下準位数 I:光強度 B12:比例定数 N1 定常状態では、上→下の遷移の割合と下→上の遷移の割合は釣り合っているだろう。 W2→1 = W1→ 2 A21N 2 = B12 N1I A N I = 21 2 B12 N1 ところで、ボルツマンの熱力学法則により、熱平衡にある2準位の原子数はボルツマン分布に従う。 hf E − E1 N2 = exp − = exp − 2 N1 k BT k BT (光周波数はエネルギー差に一致:E2 - E1 = hf) E1:下準位エネルギー E2:上準位エネルギー kB:ボルツマン定数 これを代入すると、 5 hf A N A A N I = 21 2 = 21 ⋅ 2 = 21 exp − B12 N1 B12 N1 B12 k BT 実験(一番下の図)に合わない なんかおかしい 上の考察では、2つの過程(自然放出、吸収)を考えて、うまくいかなかった。 では、別の過程も付け加えたらどうか。但し、エネルギー保存が前提。とすると、候補は、 これは、単に一部吸収、残りは透過、というだけ。 ありそうなのは、左の過程。 では、これを考慮してみる。 この過程は、入射光に誘発されて起こるので、起こる割合 W’2→1 は光強度 I と上準位数 N2 に比 例するとする。 W '2→1 = B21N 2 I B21:比例定数 これを取り入れた定常状態の釣り合いの式は、 W2→1 + W '2→1 = W1→ 2 (自然放出) (追加分) (吸収) それぞれに代入 A21N 2 + B21N 2 I = B12 N1I I= A21 ( N 2 / N1 ) B12 − B21 ( N 2 / N1 ) I= A21e − hf / k BT A21 = B12 − B21e − hf / kBT B12 e hf / kBT − B21 → 光強度 さらにボルツマンの式を代入 さらに、 B12 = B21 とすると、実際の実験結果と一致 → 波長 6 2準位系とそれに一致する周波数光との相互作用には、3つの過程あり。 (1)自発的に上準位から下準位に遷移して光を放射する過程 (2)光を吸収して下準位から上準位へ遷移する過程 自然放出 吸収 (3)光に誘発されて上準位から下準位へ遷移するとともに光を放射する過程 誘導放出 ここで、吸収と誘導放出の比例定数は同じ。 誘導放出は入射光に誘発されて起こる。そのため、放射される光は入射光と足並みの揃っ た光、すなわち位相の揃った光となる。⇒ 光の増幅 ⇒ レーザ発振 一方、自然放出過程により放出される光は入射光とは無関係なので、位相はばらばら。 光増幅 原子の集団を励起して、多くが高エネルギー状態であるようにする。 N2 個 E2 N2 > N1 反転分布 E1 N1 個 そこへ、外部からエネルギー差に一致した周波数の光を入力する。 E2 E1 すると、媒質内では先の3つの過程が起こる。このうち、入力光に関係するのは吸収と誘導放出。 その確率を考えると、 吸収: W1→ 2 = BN1 I 誘導放出: W ' 2 →1 = BN 2 I (誘導放出)>(吸収) (N2 > N1) 反転分布された媒質では、光が増幅される。 (入力光)<(出力光) 増幅 エネルギー なお、反転分布は、光照射、アーク放電、などで形成する。 半導体媒質の場合、PN接合部に電流注入すると、実効的な反転分布状態となる。 - + + + + + - - - + n型半導体 p型半導体 - - 7 伝導帯 荷電子帯 レーザ発振 一般に、増幅回路にフィードバックをかけると発振する。光でも同じ。 光増幅素子としては、反転分布状態とした2準位系媒質を用いる。 フィードバック作用を得る構成は各種あるが、典型的なのはファブリペロー共振器。 L ハーフミラー 反転分布媒質 ハーフミラー 反転分布媒質で発生した自然放出光は、対向するハーフミラーで反射を繰り返しながら増幅され、 レーザ発振にいたる。 但し、レーザ発振にいたるには、共振器内を往復する光が互いに強め合うことが必要。 ファブリペロー共振器の場合の共振条件は ・・・ ・・・ 光周波数 c 2nL 二準位系のエネルギー差に合致し(増幅作用がおこる条件)、共振器の共振条件を満たす(位相 が揃う条件)、周波数の光がレーザ光として出力される。 増幅率 利得スペクトル 光周波数 発振光パワー 8 反転分布量を増やして媒質の増幅率を大きくしていくと、光増幅と共振器の損失(ミラーから逃げ ていく分)が釣り合ってレーザ発振にいたる。 では、さらに反転分布量を増やそうとするとどうなるか。 このときの系の振る舞いは、光子数についての微分方程式と反転分布についての微分 方程式の連立方程式により記述することができる。 共振器損失 誘導放出 光子数: dn = ηB( N 2 − N1 )n − αn = ηB∆Nn − αn dt 反転分布: d∆N = −2ηB∆Nn + P dt 誘導放出 (∆N ≡ N 2 − N1 ) 励起項 定常状態では、時間微分=0 ηB∆Nn − αn = 0 − 2ηB∆Nn + P = 0 (ηB∆N − α )n = 0 n= P 2ηB∆N ηB∆N − α = 0 n= ∆N = P 2ηB(α / ηB) n= P 2α ◆光子数(=光パワー)は励起に比例して増加 ◆反転分布は、レーザ発振条件で一定 励起エネルギーは、レーザ発振前は反転分布形成に使われ、 レーザ発振後は発振光パワーに使われる。 α ηB
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