スライド 1

新型インフルエンザ
感染状況・対策について
在タイ日本大使館
医務官 三宅喜代子
2009年10月16日
本日の内容




インフルエンザウイルスについて
新型インフルエンザとは
・新型インフルエンザの感染状況
・症状、検査、治療、対策
新型インフルエンザワクチンについて
今後は?
インフルエンザウイルス
内部タンパクの違いにより3種類に分類
RNA遺伝子、自己増殖できず、他の動物の細胞(宿主)に寄生して増殖
Credit: Linda Stannard, 1995
A型インフルエンザウイルス
80-120nm (1933年発見)
7
ウイルスごとに宿主特異
性と臓器特異性がある。
• A型インフルエンザ
144種の亜型
自然宿主が多い
• B型インフルエンザ
亜型なし
自然宿主はヒトのみ
• C型インフルエンザ
かぜのウイルスの1種
ヒトのみ
A型インフルエンザウイルスの構造
赤血球凝集素
(Hemagglutinin) : H1~H16
ノイラミニダーゼ (Neuraminidase) : N1~N9
◎RNA遺伝子の複製に突然変異が起こりやすい。→流行を繰り返す。
A型インフルエンザウイルスの
呼吸器細胞への侵入・増殖
(ヘマグルチニン)
(ノイラミニダーゼ)
★ 1個の細胞→8時間後10個のウイルス増殖→16時間後1万個→24時間後100万個
A型インフルエンザの自然宿主
(人畜共通感染症)
カモ
H 1 -1 6
N 1 -9
14
新型インフルエンザとは?


鳥や豚由来のインフルエンザウイルスが、
→ヒトの世界に侵入し、ヒトーヒト間の効率よい伝
播力を獲得する。
人類は新しい型のウイルスに免疫力を持たないので、
→全世界を巻き込む大流行(パンデミック)となる。
→免疫がないので重症化(死亡)する可能性あり。
大きな健康被害が発生し、
2次的に社会活動・社会機能の停滞、低下
20世紀の新型インフルエンザ流行
1918 - 1919
“Spanish Flu”
全世界で6億人罹患、
4-5000万人死亡
H1N1
日本では2300万
人
1957 - 1963
“Asian Flu”
全世界で
1-200万人死亡
1968 – 1970
“Hong Kong Flu”
全世界で
100万人死亡
H2N2
H3N2
日本では100万人
罹患、7700人死
日本では14万人
罹患、2000人死亡
季節性インフルエンザ




1968年以来H2N2アジア型は消え、H3N2香港
型および1977年以来H1N1ソ連型が季節性イン
フルエンザとして世界各地で流行している。
08-09年シーズンに日本で流行した型
H1N1 ソ連型 49%
H3N2 香港型 37%
B型
14%
毎年世界で25~50万人死亡
米国 3~3万6千人/年 死亡
日本 1万人/年 死亡(直接死因では数百)
致死率 0.1% (スペイン風邪 2%)
豚インフルエンザの状況




豚では現在H1N1、H1N2、H3N2が流行し、北米では
30%の豚がH1N1に感染している。
豚では発熱、鼻水、咳などの上気道感染症状を呈する
が、インフルエンザにかかってもほとんど死なない。
豚では古典的豚系統、鳥型豚系統、人系統の2つ又は
3つの遺伝的起源を持つ遺伝子再集合(reassortant)
ウイルスが流行を繰り返している。
米国では2005-09年4月まで12人の豚インフルエン
ザの人への感染例が報告され、タイでも2005年に1例
報告されたが、いずれも豚と直接の接触歴があった。
新型インフルエンザ発生の発端





メキシコで3月中旬よりインフルエンザ感染が増加、若
いに強く感染、中年に死亡者多いなど季節性インフル
エンザと相違点あり、カナダに検体を送って検査。
3月30日米国カリフォルニア州で10才男児がA型イン
フルエンザに感染、偶然モニターで季節性インフルエ
ンザが否定され、4月14日CDCで豚型H1N1と診断。
4月23日メキシコで豚型インフルエンザの流行と発表。
4月24日WHOは国際公衆保健上の緊急事態を宣言。
4月27日WHOはフェーズ4を宣言。
新型(豚)インフルエンザウイルス
Novel (Swine-origin) Influenza Virus
Influenza A (H1N1) 2009
4種類の再集合遺伝子(Reassortant)
1.北米型豚由来インフルエンザ遺伝子
2.ユーラシア型豚由来インフルエンザ遺伝子
3.北米型鳥インフルエンザ遺伝子
4.人インフルエンザ遺伝子
 米国で新たに確定されたウイルスとメキシコで
流行しているウイルスは同じものと確認された。

世界の新型インフルエンザ
感染状況 WHO2009年10月4日
地域
アフリカ大陸
アメリカ大陸
東地中海地域
ヨーロッパ
東南アジア
西太平洋地域
確定例✶
12382
146016
12861
59000以上
38038
109926
378223以上
死亡例
70
3292
80
193以上
480
410
4525以上
✶ 全例報告の義務なく、実際の感染者数はこれを大幅に上回る。
各国の新型インフルエンザ感染状況
2009年10月13日 感染症広域情報より
165ヵ国2地域で感染確認
国
1
ブラジル
2
米国
3
確定例✶
死亡例
9,249
899
47,918
755
アルゼンチン
9,049
539
4
インド
7,925
240
5
メキシコ
34,903
242
6
オーストラリア
36,271
182
7
タイ
23,867
165
8
ペルー
8,305
143
9
チリ
12,252
134
10
英国
14,498
90
27
日本
5,022
23
✶ 実際の感染者数はこれを大幅に上回る。
世界の新型・季節性
インフルエンザの状況 CDC
2009/10/7
2009/9/30
2009/9/23
4
33
107
185
174
174
233
224
88101
156
131
86 114
81
76
71
100
108 136
112 144
106
146
138
178
178
140
124
103 136
155
179 202
217
152
216
215
252
283
286
319
308
316
305
290
375
365
353
376
356
355 378
385
383
332345
327
334
330
453
448
433
427
491 518
495
501
488
500
2009/9/16
184
169 189
192
188
157
133
140 169
215
215
155 174
117 138
127
159
155
227 250
207
212 237
220
249
215 242
223
309
298
398411
595
589 617
555 584
541
583
558
主要でない
社会経済活動
の停止
2009/9/9
2009/9/2
2009/8/26
2009/8/19
2009/8/12
2009/8/5
2009/7/29
2009/7/22
2009/7/15
2009/7/8
256
231243
225
219 239
199214
164
125
148
138150
159 186
201 222
208
197
193
117
318
義務教育
学校再開
2009/7/1
2009/6/24
2009/6/17
2009/6/10
2009/6/3
2009/5/27
2009/5/20
100
99
7482
8798
71
72
77
67
68
68
65 85
5564
73
70 94
200
280 304
280
300
2009/5/13
226
感染症の警告
227
186 209
211
236
230
233
176
165
165
139
140
138 162
154
637
学校の閉鎖
(メキシコ市、
メキシコ州)
2009/5/6
107
114
400
2009/4/29
2009/4/22
2009/4/15
2009/4/8
2009/4/1
600
2009/3/25
2009/3/18
1
00
02
13
12
33
44
57
3
1
25
4710
11
4 12
411
57
44
411
1726
1220
2633
44
0
2009/3/11
659
発症日別の感染者数(10月13日現在)
感染者数:39,489名(うち死者数255名)
700
出典:連邦厚生省
米国のインフルエンザ感染状況
日本の新型インフルエンザ流行状況
2009年第40週(9月28日~10月4日)
インフルエンザ流行レベルマップ
感染症情報センター
タイの新型インフルエンザ確定例
タイ保健省 2009年8月19日発表
タイの新型インフルエンザ感染状況
タイ保健省



10月10日まで感染確定者 27,639例
感染率 10万人に40.70
死亡例 170例
主な都市の感染率
バンコク
チョンブリ
ノンタブリ
パトゥムタニ
チェンマイ
コンケン
ウドンタニ
プーケット
70.83
35.74
72.96
59.94
123.81
59.79
56.23
86.85
年代別感染者割合(8月20日)
1才から 5才: 9.5%
6才から10才:17.6%
11才から20才:42.0%
21才から30才:13.4%
31才から40才: 6.7%
41才から50才: 4.8%
51才から60才: 3.1%
61才以上
: 1.6%
タイの各県別
新型インフルエンザ感染
第39週
タイ保健省
第40週
タイの新型インフルエンザ及びILI
(インフルエンザ様疾患)増加傾向
タイ保健省
23県でデータなし
13県で不完全
32県で変化なし
4県で減少
4県で増加(サコンナコン、
スパンブリ、ナコンナヨック、
チャチュンサオ)
タイの季節性インフルエンザ数
タイ保健省
Fig 3
Reported Cases of Influenza by Month, 2007 - 2008 and Median 2003 - 2007, Thailand
2007
Median 2003 - 2007
2008
3000
Number of Cases
2500
2000
1500
1000
500
0
Jan
Feb
Mar
Apr
May
Jun
Jul
Aug
Sep
Oct
Nov
Dec
新型インフルエンザ対策のタイと日本の比較
死亡事例数
(10月15日現在)
感染者数
感染動向把握
能力
Thailand
Japan
170名
26名
(保健省発表)
(報道より。疑い例も含む)
定点調査へ移行
(全数調査中止)
定点調査へ移行
(全数調査中止)
1030チーム
517箇所
(保健所数)
(Surveillance and Rapid Response Team)
987,019名
ボランティア(個別訪問10~15世帯/人)
検査能力
タミフル備蓄
(対人口比)
ワクチン開発
国立衛生研究所(1箇所)
地方衛生研究所(14箇所)
約1%
国立感染症研究所(1箇所)
地方衛生研究所(47箇所)
約45%
国営製薬公社にて別途原料保管
インフルエンザ生ワクチン
(日本では使用されていない)
国内4つのメーカー
不活化ワクチン
新型インフルエンザの症状





発熱
咳
咽頭痛
鼻汁・鼻閉
下痢・嘔吐
94%
92%
66%
60%
25%





4才以下
5-9才
10-18才
19-50才
51才以上
8%
12%
40%
35%
5%
典型的な場合は突然の38℃以上の発熱に咳・鼻水など
の呼吸器症状を伴って発症するが、軽症の例も多い。
下痢・嘔吐を伴うこともある。
急速に重症化することもあるので注意を要する。
新型インフルエンザの特徴




若年者に感染者が多い。
重症化しやすく死亡者が多いのは中年。
妊婦および慢性基礎疾患をもっている感染者は
合併症を引き起こしやすく重症化しやすい。
・気管支喘息・慢性呼吸器疾患
・心疾患(高血圧症は除く)・糖尿病、(肥満)
・免疫の低下している人(HIV・AIDSなど)
季節性インフルエンザに比べ青壮年に重症肺
炎になる割合が高い。
重症化のサイン


CDCより
小児:頻呼吸や呼吸困難、チアノーゼ、水
分を取れない、ぐったりして目を覚まさない、
抱かれても不穏、一時改善後再び咳を伴
う発熱、発疹を伴う発熱
成人:呼吸困難や息切れ、胸痛や腹痛、
突然のめまい、意識障害、持続する嘔吐
上記を認めたらすぐに病院を受診すること!
インフルエンザの感染経路
★ウイルスは発症1日前から発症後1週間、又は症状
が消えるまで排出される。
インフルエンザウイルス量と症状の経過
■ 感染後のインフルエンザウイルス量と症状の変化(模式図)
症状の重症度
ウイルス量
ウ
イ
ル
ス
量
と
臨
床
症
状
0
1
インフルエンザ鼻腔内接種
2
3
4
5
鼻腔内接種後日数
Oxford JS et al : Drug Discovery today 3(10)448,1998
6
7
8 (日)
新型インフルエンザの診断
A型・B型インフルエンザ迅速診断キット検査
(綿棒で鼻腔粘液や咽頭粘液を拭って取る簡単
な検査で結果は1時間以内で出る。)
新型インフルエンザはA型陽性
特異性:90% 感受性:10~70%
 新型インフルエンザの確定診断には遺伝子検査
(PCR)などのもっと詳しい検査が必要となる。
PCR検査で人型H1N1、H3N2、H5N1、新型
H1N1の確定診断がなされる。

抗インフルエンザウイルス薬
(ノイラミニダーゼ阻害薬)
ウイルスの増殖を抑える薬


タミフル(Oseltamivir)
1回1錠(75mg) 1日2回 5日間内服
副作用:消化器症状、頭痛、めまいなど
発症後48時間以内に開始すると有効
但し症状の重い患者には遅くとも使う。
予防には1回1錠(75mg)、1日1回、10日間
服用中のみ予防効果あり。
リレンザ(Zanamivir)
1回2吸入、1日2回、5日間(但し5才以上)
◎軽症の場合は服用する必要はないが、症状が著明な場合は服用すると早く
改善し、重症化を予防できる可能性がある。
抗インフルエンザ薬耐性ウイルス
CDC
ウイルス
例数
A(H1N1)
季節性
A(H3N2)
季節性
B型
1,151
A(H1N1)
2009
タミフル リレンザ アマンタジン
0
245
1,146
99.6%
0
650
0
0
853
4
0.5%
0
0
6
0.5%
245
100%
_
431
100%
インフルエンザワクチンの種類
不活化ワクチン(Inactivated vaccine)
subunit(ウイルスの表面成分のみ)
split(ウイルスの表面と内部の成分)
whole(ウイルス全体)
✶免疫補助剤(アジュバント)・添加物の有無
 弱毒生ワクチン(Attenuated live-vaccine)
鼻に噴霧、1種類のウイルスのみ、大量
生産が容易、妊婦や免疫不全者には禁忌

季節性インフルエンザワクチン
(毎年流行する株が違うため、WHOは翌年の流行を推測して
北半球用及び南半球用ワクチン株を推奨し製造されている。)
○2007/2008冬シーズン推奨
A/Solomon Islands(ソロモン諸島)/3/2006(H1N1)
A/Hiroshima(広島)/52/2005(H3N2)
B/Malaysia(マレーシア)/2506/2004
○2008/2009冬シーズン推奨
A/Brisbane(ブリスベン)/59/2007(H1N1)
A/Uruguay(ウルグアイ)/716/2007(H3N2)
B/Florida(フロリダ)/4/2006
○2009/2010冬シーズン推奨
A/Brisbane(ブリスベン)/59/2007 (H1N1)
A/Brisbane(ブリスベン)/10/2007 (H3N2)
B/Brisbane(ブリスベン)/60/2008
★季節性インフルエンザのH1N1は抗原性が違うため新型インフルエンザ
H1N1の予防にはならない。
★毎年流行するウイルス株が違うため季節性インフルエンザワクチン接種を
していてインフルエンザにかかることがある。
ワクチン接種の基本方針
厚生労働省 2009年10月1日
厚生労働省 2009年10月1日
任意接種・有料である。
稀ではあるが重篤な副作用が起こりうる。
厚生労働省 2009年10月1日
厚生労働省 2009年10月1日
今後どうなるか?







冬に再び第2波の流行が起こる?
重症者・死亡者が増える?
第2波の流行の方が大きい可能性あり?
ウイルスの変異が起こる?
タミフル耐性ウイルスが増える?
鳥インフルエンザH5N1(高病原性)の人感染
例が増えて大流行する脅威が今後まだあるの
で注意が必要である。
大事なのはパニックにならず冷静に判断・対
処すること!
新型インフルエンザの
感染予防対策

手洗いとうがいの習慣化
咳エチケットの習得、必要に応じてマスク
 体調管理に留意する(バランスのよい食事・
十分な休養・睡眠など)→免疫力を高める
 最新情報の入手に努める
 食料、水(2週間分)およびマスクなどの備蓄
 季節性インフルエンザワクチンの接種
(なおタイでは当面新型インフルエンザワクチ
ン接種は難しい。)

今後企業に必要な対応・留意点
事業継続計画の見直し

感染症の毒性および発生場所(タイ、隣
国、遠くの国)などから退避可能時間や
退避の是非とタイミングを考える。

タイ保健省ガイドラインに基づくタミフル
備蓄のお勧め(日本大使館HP参照のこと)
◎新型インフルエンザワクチン接種は滞在国の
当局の方針に従って受けることになる。