「環境ホルモン」と 生態リスク評価 • • • • • 松田裕之(東京大学海洋研究所) 生物多様性の維持と自然の恵み 絶滅をもたらす4つの人為的要因 健康リスク 生態リスク 「環境ホルモン」の特徴 リスク評価 1 生物多様性の維持と自然の恵み (1) 問われる持続可能性 • 辺境の喪失(深海底を除く) • 地球環境と生態系への負荷増大 • CO2濃度の上昇(Kieling曲線) • 生物の大量絶滅 • 世代間不公正=子孫に自然を残せ (Christensen et al. 1996) リスク評価 2 生物多様性の維持と自然の恵み (2) 生態系の恵み • 財goods(魚や森林、農作物) • 生態系の機能を通じたサービス – 新鮮な水や空気、無主物 • 精神生活を豊かにする快適さ – amenity 美しい花、小鳥の囀り… ←自然が失われると経済価値をもつ (Ehrlich & Ehrlich 1981, コーエン 1998) リスク評価 3 生物多様性の維持と自然の恵み (3)乱獲をもたらす2つの誘因 • 成長経済 – 毎年少しずつ獲るよりも、根こそぎ とって他の部門に投資する • 共有地の悲劇(the tragedy of the commons) – せっかく末永く大切にしても、他人 に獲られてしまう + 高齢化と後継者難 (クラーク 1983, 松田 1995) リスク評価 4 生物多様性の維持と自然の恵み (4)生物多様性条約(1992年採択) • • • • • 生物多様性の保全と持続的利用 遺伝資源利益の公正で公平な分配 保全のための国家戦略、 重要な地域や種の選定と監視、 環境影響評価(アセスメント)など リスク評価 5 絶滅をもたらす4つの人為 • • • • 生息地破壊(面的開発) 乱獲 環境汚染、劣化(環境化学物質) 侵入生物(アライグマ、ブラック バス) リスク評価 6 危険性riskの考え方 • リスクは確率である – 絶対安全なものはない=「杞憂」 • リスク評価の前提は未実証 – シナリオ、悔いのない政策、予防原 理、説明責任accountability リスク評価 7 科学者の「良識」:今と昔 • 昔:肯定も否定もされないことは 信じない。 • 今:実証されなくても、手遅れに なりそうなことは見過ごせない。 • 「政治的に注目された問題ほど、 科学的には怪しい。」 リスク評価 8 Extrapolation外挿 リスク評価 9 リスク回避のコスト リスク評価 10 危険性の評価、管理、周知 • Risk assessment=異論の少ない 前提で未来を予測。予防原理 • Risk management=不確実性と説 明責任を考慮する • Risk communication=相対的な 安全を市民自身に選んで貰う リスク評価 11 人間の健康リスク • • • • 生命保険の統計情報 動物実験(食品添加物) 環境化学物質 発ガン率 リスク評価 12 損失余命によるリスク評価 • 日常的に食べて、10万人に1人がそ のために死ぬ=平均余命にして約1 時間(10年÷10万=0.9時間)の損失 • 発ガンリスクも非ガンリスクも同 じ尺度で評価する • Quality of Lifeで評価する • 右利きと左利きでも寿命が違う? リスク評価 13 生態リスクを考える理由 • 自然の恵みの損失は、究極的には 人間の福利で評価できる • しかし、今の世代の健康リスクで は評価できない • 生物多様性の喪失を直接評価する リスク評価 14 生物の絶滅リスク • 大量絶滅の時代(生物は1日3-10種 の割で絶滅しているらしい) • 人口増加、一人当たり消費の拡大 – 生息地破壊、乱獲(乱伐)、環境劣化 • 環境影響評価(assessment) • 生物多様性条約 リスク評価 15 生態リスクの評価方法 • 絶滅リスク評価(中西1996) • 環境負荷の加重集計Life Cycle Assessment (スイス、オランダ) • 支払意思額評価 – PrimackのCaliforniaコンドル • アンケートによる優先順位付け リスク評価 16 植物Redlist (環境庁1997) • • • • 日本の野生維管束植物7000種 2000種の分布、個体数、減少率 絶滅確率と平均余命を外挿評価 1400種を絶滅危惧種に指定 リスク評価 17 絶滅リスクによる影響評価 • あるランの最小自生地を潰す – ○○年の平均余命が○○年短縮 • シデコブシの最大自生地を潰す – ○○年の平均余命が○○年短縮 リスク評価 18 内分泌攪乱化学物質 Endocrine Disruptive Chemicals • • • • • • ホルモン作用をかく乱する ごく微量(ppt)で害をもたらす 天然に存在しない多数の化学物質 海・大気に遍在する 食物連鎖で濃縮される 母乳で母子感染する リスク評価 19 健康・繁殖・生態リスク • レイチェル・カーソン『沈黙の 春』 – ケネディ大統領の諮問委員会で認知 • シーア・コルボーンら『奪われし 未来』(翔泳社) – 海獣の大量死、精子の減少、『メス 化する自然』(集英社) リスク評価 20 EDCによる人間の健康リスク • 環境中の濃度予測 • 食品中の濃度の予測 – 生物濃縮、脂肪 • 動物実験の致死量からの外挿 – 慢性毒性をどう推定するか • 繁殖毒性をどう評価するか リスク評価 21 海と大気のPCB汚染 リスク評価 22 海と大気のDDT汚染 リスク評価 23 海の汚染=2000年の負債 (高橋正征氏) • 海洋大循環、南氷洋での検出 • 人工有機化合物が世界の海を覆う リスク評価 24 食物連鎖と生物濃縮(宮崎信之 氏) • 海水、浮遊生物、魚、海獣 リスク評価 25 母乳で母子感染する(宮崎信之 氏) • 母親と父親の濃度 リスク評価 26 脂肪に蓄積する(田辺信介氏) • 分解酵素を欠く海獣、長寿、皮下 脂肪、魚食 リスク評価 27 バイ貝と有機スズ(堀口敏宏氏) • 雄化(imposex) • 減少と復活 リスク評価 28 結論 • • • • 危険性は相対的に評価すべき 未確立の評価法である 新たな知見を考慮(accountability) 危険性と社会的便益を比べて総合 的に判断すべき(戦略評価) リスク評価 29
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